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解術師は舞踏会が嫌い②

いつもありがとうございます!


「やっぱり、人間の欲望の渦で、吐き気がするわ…どこもかしくも、どすグロいオーラがびゅんびゅんよ…」


「ーー頼むから、俺の服は汚さないでくれよーー挨拶も済んだし、この曲を踊り終わったら、計画通り控え室に引き上げるぞ」


「はぁーい」


 色とりどりのドレスが、ダンスフロアをくるくる動き回る。その中でルディアナとカイルアン=ナダリアは定番の曲に合わせてダンスをしていた。

 2人とも幼い頃から、皇宮で政治や社交の教育を受けていたため、ダンスの相性もぴったりだ。少し話をしていても寸分の狂いもなく、ターンも完璧だ。


「うぇっ! 見て! あの人、物凄い顔でこっち見睨んでる! かなり酷い真っ黒なオーラだわ!」


「酷い顔は分かるが、俺にはオーラは見えない。少しは、微笑んだらどうだ? ダンスしながらしかめっ面するなんて、みっともない」


(みっともなくて結構! この気持ち悪さは解術師しか分からないわ!!)


 踊りながら、ぶつぶつ文句を続けるルディアナを、カイルアンは少し考えた後、自分へ抱き寄せた。


「ちょっと、こんなに密着しなくてもーー」


「ーーパートナーといる時は、少し表情を柔らかくしてくれーー怪しまれるぞ」


「うっ!」


 侯爵家のカイルアンは、爵位も美しい顔立ちもあり、社交界では憧れている令嬢がとても多い。今も、傍目には仲良く踊る2人に、たくさんの羨望や妬みといった視線が向けられている。


(自分に関するオーラが見えないのは、本当に助かるわ。見えてしまっていたら、この場で失神してたかも)


 解術師は自分に向けられた他人の悪意や善意のオーラが、効果不幸か見る事が出来ない。


 ルディアナは自分達を注視しているたくさんの貴族に辟易しながらも、何とかカイルアンのリードに任せて踊り続けていた。


「ーー今日も、ルディアナには、アノン様が憑いているのか?」


『あんたの頭を殴りたい程よ! 憑いているなんて、化け物じゃあるまいし!!』


(化け物ーー言い方の違いだけで正真正銘の幽霊じゃん)


「アノンが怒ってる。言い方が気にくわないそうよ」


「幽霊らしくないからなーーふん!」


 カイルアンには、アノンの姿は見えない。そもそも、アルム家の解術師を除くと、皇族やその近親者の極一部にしか姿が見えないそうだ。

 時折、アノンの気紛れなのか、声だけ思念により伝えることも出来る。しかし、この舞踏会では、面白くなさそうに、カイルアンの背後でぷかぷか浮いていた。


 しばらくして、ようやく音楽が止まると、ルディアナは待っていましたとばかりに、カイルアンと共にテラスに出てきた。


「控え室に行くんでしょ?ーーアマリアとユーリナスは?」


「そう、急かすなよ。あいつ等なら、あっちでママル家の親族と歓談してるぞ」


 今回の潜入捜査には、ドリアス侯爵家の嗣子ユーリナスと、カイルアンの妹で、ユーリナスの婚約者のアマリアも参加していた。

 いつもなら、婚約者のいないカイルアンには、ココルというナダリア侯爵家の遠縁の者が相手役を担っていた。けれども、別件で失態を犯し、現在ココルは謹慎中らしい。


(わざわざ、雑務係の私を引っ張り出さなくても、他にも高職管理課には、歳も近い女の子はいるでしょうに…)


 ルディアナは、先程のダンスフロアの熱気と怨念染みたオーラを思いだし、再び顔をしかめた。


(もう、本当に2度とこんなお役目はごめんだわ!)


「ーー、ルディアナ、今日の、ドレス、その…、とても似合っているーー」


(デビュタントでも、吐きそうになりながら踊ったけれど、散々だったし)


「ーールディ、アナ? 聞いてるのか?」


「っ! へ? な、なに?」


「ーーはぁ…、いや。帰りにでも、また、話すよ」


 ルディアナがダンス中の周りのオーラを思い出し俯いていたところ、カイルアンがルディアナに話しかけていたようだ。

 全く話を聞いてないルディアナにカイルアンは少し傷ついたような、疲れたような表情をした。


『『大したことでは、ないわよ。カイルアンが、俺様が贈ったドレスはどうだ? って、言ってたの。ルディは、気にしないで』』


 脳に直接話しかける形で、アノンがカイルアンの代わりにルディアナに答えると、カイルアンも伝わったらしく眉間に皺を寄せた。


「そんな事は、言っていない! ただ、ルディアナが…、ドレスがとても似合っていて、その、綺麗だと、思ったんだ!」


「へ? それは、あの…、ドレスをくれたり、色々ありがと??」


 お酒をかなり飲んだように、急に顔を朱くして、照れ始めたカイルアンにルディアナは意味が分からず、きょとんとした。


 ルディアナの今日のドレスは、ナダリア侯爵家から手配されたものだ。デビュタントのドレスしかないルディアナにカイルアンがわざわざ準備したものである。ご丁寧に、ドレスに似合うアクセサリーもちゃんと用意されていた。

 けれど、少しだけ鈍いルディアナは、それらを今回の潜入の業務に携わるための支給品だと勘違いしていた。まさか、カイルアン自らルディアナのために準備したものとは、考えもしていない。

 ちなみにドレスの着付けは、ナダリア侯爵家から、メイドが派遣された。ルディアナの住む皇宮の職員寮に、わざわざドレスを持って着てくれたのだ。


(ドレスが綺麗なのは、当たり前よ! ナダリア侯爵家の御用達のお店のドレスなんだから。カイルアンってば、どうしたの?)


『『ーーダメだ…、ルディは全く分かってないわ…。さすがにカイルアンが気の毒に思えてきた。カイルアン、お疲れ…』』


 カイルアンの好意はルディアナに、かすりもしなかった。2人の仲をあまり歓迎していないアノンも、ちょっぴりカイルアンが気の毒に感じた。


『『これじゃぁ、カイルアンよりも奥手な、コーエン家のボンボンは苦労しそうね……』』


 思わず思念が洩れたアノンに、カイルアンは顔を強ばらせた。アノンは常々、コーエン公爵のノアレイアスを贔屓にしていた。それが、ルディアナに好意を寄せるカイルアンは面白くない。


「幽霊が、ノアばかり贔屓するなんてズルいぞ……」


 カイルアンがしかめっ面で、ボソッと文句を言えば、アノンは文句を聞き流しそっぽを向いた。


「アノン? カイルアン? コーエンのノアがどうしたって?」


(へ? この作戦、ノア、関係あったかしら?)


 それでも、未だに状況が理解出来ていないルディアナは、今回の作戦にノアがいないのに2人はどうしたものかと頭を傾げた。

読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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