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解術師は戦争に召集される②

(なぜ、こんな、ことに、なった…)


 戦争に召集された数日後も、ルディアナはコーエン公爵邸でカレンディア皇女のお付きをしながら、出征までの毎日をゆったりと過ごしていた。

 今日はそんな毎日の中、皇女が王宮で久しぶりに夕食を摂る事になった。

 ルディアナは、小さな頃からコーエン公爵邸を母親と訪問していたので、コーエン公爵一家とは気が置けない仲である。皇女が外出した今日は、緊張感から解放され、コーエン公爵一家と和気あいあいとディナーを共にすることができた。

 そしてその後、いつものように入浴を済ませ、後は就寝するだけの時間になった。

 そんな穏やかな時間に、ルディアナは公爵邸の南東の自身の部屋で、軽いパニックに陥っていた。


(えっ? ここ、私に宛がってくれた部屋よね? 何で、部屋着で寛ぐ、ノアレイアスがいるの?!)


『ーーまぁ! あら、あら? ノアレイアスってば、先に部屋に戻ったと思えば…。ルディと二人っきりになりたかったのね?』


 驚き固まるルディアナの頭上には、アノンがふわふわ浮いていて、ノアレイアスがルディアナの部屋にいるのを訝しく思う訳でもなく、楽しそうにからかった。


「なっ! そ、そんな、訳ないじゃない! ノ、ア、何か用ーー、そう! 急ぎの用があったのよね!?」


(お願い!! 大事な用があったと言って!!)


 アノンの冷やかしの言葉にルディアナは顔を真っ赤にして否定した。

 リラックスした部屋着でルディアナの部屋のソファに寛ぐノアレイアスは、お風呂上がりなのか、髪も濡れていて、やたらと艶っぽくてルディアナはどうしたら良いのか、わからない。


(何で、女の私よりも色っぽいのよ?!)


 ルディアナが百面相をしていると、コロコロと表情を変えるルディアナを楽しそうに見ていたノアレイアスがようやく口を開いた。


「ーーそうやって、焦ってくれるのは、俺を意識してるから、だよな?」


 少しはにかみつつも、ノアレイアスがルディアナを見つめながら微笑むと、何故かアノンまで真っ赤になった。


『ノ、ノアレイアス! 無駄に、色気を巻き散らかすんじゃない!! ふん!! 馬に蹴られるなんて堪ったもんじゃないわ!! ーールディ、明日は王宮よ。夜更かし厳禁!!』


 ◆ボン!!◆


 アノンは真っ赤な顔で、アワアワしながら言うだけ言って、物凄い音を出してルディアナの部屋から逃げてしまった。


(っ! えー!! アノンに私、見捨てられたー!!)


 急にアノンが大きな音を立てて消えてしまい、ルディアナは物凄く心細くなった。それでも、何とか状況把握をしなくてはと、ルディアナはノアレイアスへ視線を戻した。

 すると、ノアレイアスも少し頬を赤らめながらも『何で、そんなに薄着なんだ…』とルディアナから視線をずらしてブツブツ呟いている。


(お風呂上がりなんだから、薄着に決まってるじゃない。嫌なら、部屋に上がり込んで来ないでよ)


 ルディアナはノアレイアスの態度に少しムッとしたが、そもそも今いる屋敷がコーエン公爵邸であったため、ぐっと不満を飲み込んだ。


 少しだけ冷静に戻れたルディアナはノアレイアスの正面のソファに腰をかけると、冷たい飲み物を貰うため、呼び鈴を鳴らした。


「ーー?! ルディ、なっ、何を?!」

「だって、お風呂上がりなのよ? 喉がカラカラなの!」


 呼び鈴を鳴らしたルディアナにノアレイアスは目を丸くして、あたふたと挙動不審になったが、ノアレイアスが慌てれば慌てるほどルディアナは落ち着きが戻ってきた。


(何でそんなに慌てるの?)


 ◆コンコン◆


「失礼します、ルディアナお嬢様お呼びでしょうか?」

「ーー入れ」

「…??」


 すぐに呼び鈴を聞き付けたメイドの1人がルディアナの部屋にやってきた。

 ノアレイアスはノックの音に、ギクリと顔を強張らせたが、直ぐに咳払いをすると入室を許可した。

 メイドは、ルディアナの部屋から男性の声が聞こえ、不思議に思いながらも扉を開けた。すると、呆れ顔のルディアナと顔を赤くしたノアレイアスが対峙していた。


「(これは、どういう、状況かしら…?) あ、あの、ご用件は…」

「あぁ、ごめんなさい。喉が乾いたから、冷たい飲み物を頂きたくて」


 メイドから見れば、お風呂上がりの、なおかつ婚約者同士の会瀬である。しかし、両者の顔は色事とは無縁の、それとは相反するものだった。


「ーー、レモンティーでよろしければ、直ぐにお持ちいたします」

「えぇ、ありがとう。お願いね」


 そう言って、すごすごとメイドが去った室内では、ノアレイアスが深いため息をついた。

 ルディアナは何がそんなに不満なのか検討もつかなくて、困った顔を見せる。


「ねぇ、ノアレイアス、こんな時間に何か、、って、まさか、、王宮から急な連絡でも?!」


 ルディアナは滅多にないノアレイアスとの夜更けの面会に、嫌な予感がよぎった。

 今日はカレンディア皇女が王宮に出掛けていたのだ。ルディアナは嫌な想像に囚われて、慌てて、ソファから立ち上がりノアレイアスへ詰め寄った。すると、何故かノアレイアスがあたふたと慌て出した。


「ルディ!! 近いっ!! 何でこんなに無防備なんだ!!」

「ねぇ! 何か王宮で?! カレンディア皇女様は、無事なの?!」


 詰め寄るルディアナを何とかノアレイアスは自分から引き剥がすと、自分の横にルディアナを座らせて、深いため息をついた。


「ーー、先ずは、ルディの心配している事は何もない。カレンディアも無事だ ーーというか、特に問題が発生した訳じゃないんだ…」

「へ?! じゃぁ、何で、ノア、部屋に来たの?」


 ノアレイアスの返答に、ルディアナはほっとしながらも、突然の訪問が分からず首をひねった。


 ◆コンコン◆

 再びドアがノックされ、メイドがレモンティーを持ってきてくれた。メイドは、先程とは違い、ルディアナとノアレイアスがぴったりソファに横に並んで座っているのを見て微笑ましく思いながらも、お茶をセットしていく。


「ーー、他に、何かご用命はーー、」

「ない、大丈夫だ」


 メイドがレモンティーとフルーツをセットし終えて、口を開くと、ノアレイアスが被り気味に返答を返してきた。


「(若様は、私に直ぐにでも退出してほしいのね) …かしこまりました。これにて失礼いたします」


 ノアレイアスが愛おしそうにルディアナを見つめているのに対して、ルディアナは不思議そうな表情をしている。それを見て、苦笑しながらもメイドは部屋を出ていった。


「(これは、他のメイドにも知らせなくっちゃ!!)」


 ノアレイアスがメイドに特に口止めをしなかったこともあり、そのメイドによって、翌日には、夜遅くルディアナの部屋にノアレイアスがいたことが屋敷中に知れ渡ってしまう。そして、その話を聞いたキャロラインに、ノアレイアスが怒られるのは、また翌日の事である。




「ーー、ふう…、で、ノアは、どうしてここに?」


 冷たいレモンティーを口にして、ルディアナは一息つくと、ノアレイアスに問いかけた。

 ノアレイアスも、冷たいレモンティーで、さっきよりも落ち着いたのか、ルディアナを優しく微笑んでいる。


「婚約者が、もうすぐ戦地に向かうというのに、離れて過ごしているのは可笑しいと思ってな。少しでも、愛おしい婚約者の側で過ごしたいと思うのは、当たり前だろう?」

「なっ!ーーに言って、、、ぐっ! ごぼっごほっ…!!」


 自分で用件を聞いておきながらも、突然始まったノアレイアスの甘いセリフのせいで、ルディアナはレモンティーで蒸せてしまった。

 余りに盛大に蒸せたせいで、ルディアナの鼻の奥がキーンとする。


「ーっ! も、もう、ノアのせいで、鼻がー!!」

「ごめん、大丈夫か?」


 ルディアナが恨めしそうに隣に座るノアレイアスを仰ぎ見れば、直ぐ側に顔を寄せてきたノアレイアスが視界にいっぱいに入った。


(ー!! っ!!)


 余りの近さにルディアナが仰け反れば、それを追いかけるようにノアレイアスも迫ってくる。もはや、ソファに押し倒されている状況になり、ルディアナは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせた。

 そんな、慌てふためくルディアナの髪をノアレイアスは楽しそうに眺めていたが、優しく掬い上げると、指に絡めて遊び出した。


(こっ、これは、どういう状況な訳?!)


 ソファに押し倒されているルディアナと、押し倒している側のノアレイアス、しかも何故かノアレイアスはルディアナの頭の横に手を付き、片手でルディアナの髪をくるくる巻き付け遊んでいるのだ。


「あの、ノアレイアスさーん…? どう、した、の…?」

「ーールディ、キス、していいか?」

「なっ!!」


(ー!! こ、この人!! 今、き、き、きす、って、言った!!)


 ルディアナが茹でたこみたいになりながらも、意を決してノアレイアスに問えば、彼からは想像もしていなかった一言が返ってきた。

 慌てたルディアナは瞬時に頭を横に向けようとしたが、ノアレイアスの手が髪から離れてルディアナの顎をつかむ。ルディアナが恐る恐る目を開くと、視界いっぱいにノアレイアスの碧瞳が迫っていた。


(ー!! う、うわー!!)


 思わず、眼をぎゅっと閉じたルディアナにふっとノアレイアスが笑ったのを感じた後、唇に柔らかい感触があった。ノアレイアスは無抵抗のルディアナを良いことに、優しく体に触れてくる。ルディアナはくすぐったいのか、恥ずかしいのか訳が分からずパニックに陥っていた。


 ノアレイアスは顔を真っ赤にしたルディアナが愛おしくてたまらず、何度も角度を変えルディアナと唇を交わす。ディアナはそれをただ沸騰する頭で遣り過ごた。


(もう、恥ずかしくて、死にそう…)

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