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解術師は戦争に召集される①

いつもありがとうございます!

話はまだまだ続きます!



「俺は賛成出来ない。 ルディがなぜ戦地に行かなければならない?! ーーロイドは、己の身も、自分で守れないのか?」


 かなりの怒りを圧し殺して、それでもイラつきを隠せないノアレイアスが言い放った。


 ルディアナとノアレイアスが皇城に婚約の報告をしに行った数日後、正式にコーエン公爵家の屋敷に、皇室の使者としてユーリナスがやって来たのだ。


 内容は、ルディアナがロイドレアンから聞いていた通り、ゾイド国との開戦通知であり、ルディアナの国軍への召集である。

 コーエン公爵家の屋敷の応接室は直ぐに、コーエン公爵一家、皇女カレンディアが集まり緊迫した空気になっていた。


 コーエン公爵には予め別ルートで報告があったのかピクリとも動揺をしていないが、公爵夫人やキャロラインは顔を青くしている。


(まぁ、戦地といっても、皇太子に貼り付いているだけなんだけれど)


 戦時下における解術師の役割は、皇族の暗殺回避である。過去には、地形から、戦術を予想して、参謀として活躍した解術師もいたらしいが、ロイドレアンはルディアナにそこまでを求めてはいないと思われた。


「ーー、バラン国は我が国の同盟国、見てみぬ振りは出来ない。ルディアナには、大変迷惑をかける、本当にすまない」


「ーー!!」


 張り詰めた空気を破るようにカレンディアがルディアナとノアレイアス、コーエン公爵に頭を下げた。皇女が臣下に頭を下げるなんて、あってはならないことだ。ルディアナは、慌てて立ち上がり、自分も頭を深く下げたが、コーエン公爵一家は微動だにしない。


「ーールディがバラン国の戦に参加するならば、俺がロイドの代わりに戦いに参加しよう。それが無理なら、ルディはこの屋敷から出さない。ロイドにそう、伝えよ」


 ユーリナスを睨みながら、ノアレイアスが親書をパサッと床に捨てた。ユーリナスはそれにも動揺せず、ゆっくりとカレンディアとルディアナ両人の頭を上げさせた。


「ノアレイアスの怒りは最もだ。僕もアマリアだけが戦地に召集されたら、親書を破り捨てるくらいしただろうーー、でも、どうだろう? 国民にしてみれば、皇太子が戦いに乗り込む方が指揮はあがるよ? ノアレイアスが今後、皇帝の位を狙うのであれば、戦火に飛び込むのも納得だけれど。ーーでも、違うよね? そんな子供でも分かる話、ここでする?」


 ユーリナスのおっとりとした、でも、有無を言わさない言葉にノアレイアスはぐっと拳を握り締めた。ユーリナスは冷静沈着そのもので、言葉を続けた。


「確かにノアレイアスは国中でも、とても強い最高峰の騎士の一人だよ? でも、ノアレイアスはルクサリア帝国のためじゃなく、ルディアナのために動く。そんな人間の命令、戦地の兵士に出したくない」


 ユーリナスは1度言葉を止めると、ルディアナに向き合った。何かを察したキャロラインが、ユーリナスとルディアナの間に、ルディアナを守るように立ちふさがった。


「ユーリナス様の言ってることは最もだわ! でもね、解術師も1国民なのよ? 運動がまるでダメ、護衛術も苦手で、剣なんか重たくて持てないルディアナお姉さまを、戦地の誰が護衛してくださると言うの?」


(ーーなんでだろう…、キャロラインは間違ってはいないけれど…、ものすごく、傷付いた…)


 キャロラインから発せられた、自分のあんまりな低評価に、ルディアナは居たたまれない気持ちになった。

 そんなルディアナの落ち込みを無視して、ユーリナスは、さらに、とんでもない言葉を言い放つ。


「ルディアナの護衛には、アマリアがつく。僕は、剣術の方面から皇太子の護衛につく」


「ちょっ、ちょっ、ちょっと、待って!!」


 ルディアナはユーリナスの信じられない言葉に、その場に皇女がいることも忘れて驚いてしまった。


「ド、ドリアス侯爵家の子供は貴方だけなのよ?! 貴方に何かあれば、ドリアス侯爵家は終わりなのっ!! 今からでも遅くないわ! ロイドに頼んで、他の人間に…!!」


 高職管理課をまとめるドリアス侯爵家には、元々分家が少ない。そして、後を継げる若者もいないのだ。いるとすれば、ドリアス侯爵の妹の子供、ルディアナの兄、スダナ=アルムだが、生憎暗殺業は愚か、剣術も苦手である。


 ルディアナは思わず、ユーリナスの両腕にしがみつき、考えを改めるよう詰め寄った。


「アマリアの方は、一緒に戦地に行くことも、護衛のことも良いのね…、」


 キャロラインの何とも言えない突っ込みに、ルディアナははっとなったが、構う暇はない。

 高職管理課はドリアス侯爵家の剣術力で回っていると言っても過言ではないのだ。


「ならば、結局、俺がユーリナスの代わりに皇太子とルディの護衛につけば良いのでは? アマリアも国に残れば良い」


 ノアレイアスの振り出しに戻る言葉に、とうとうコーエン公爵は深い溜め息をついて、口を開いた。


「馬鹿を言うな。お前とロイドレアン殿下が2人同時に戦地に立つなど! 2人に何かあればルクサリア皇帝の血筋が途切れてしまうではないか!! ーーこの戦い、ロイドレアン殿下は、が陣頭指揮をとる事で、次期皇帝の足掛かりを付けるのであろう ーーそうならば、ここは、ノアレイアス、お前が我慢するところだ」


 そう言うとコーエン公爵は床に落ちていた親書を拾い上げ、ユーリナスに全て承諾した、と伝えた。そして、うつむくノアレイアスの肩をとんと叩いて静かに部屋を出ていった。


「では、僕はもうそろそろ、皇宮へ戻るよ? ルディアナには、明日以降、皇太子付の特命が出されると思う。打ち合わせもあるから、登城するようにね?」


 ユーリナスそう伝えると、忙しいからとそそくさと皇宮へ戻った行った。


 応接室には、カレンディア皇女も未だ残っていたが、退出せずにずっと下を向いたまま、重たい空気に包まれていた。


『ーーはぁ、、みんな、理解している? 召集の件は、ルディの実の親、アルム家当主モルドがオーケーしてるのよ? 他人がいくら騒いでも、皇帝の采配に意見なんか通らないわよ』


 静まり返った室内に、ぽーんと壁から出てきたアノンの声が響いた。ノアレイアスはチラリとアノンを睨み、公爵夫人とキャロラインは悲しそうに頷いた。


(お父様は、きっと、解術師としての使命を全うするように言うわね…)


 ルディアナは戦地に向かうのは怖いが、アマリアとユーリナスが守ってくれるなら、安心だと思うことにした。何せ、解術師は戦闘に立つことは過去にもなかったのだから。


「きっと、大丈夫だと思うの。今までだって、高職管理課でも上手くやって来たのよ? 戦地のバラン国は、遠いし、怖いけれど…きっと、上手くいくわ!」


「怖いなら、行かなければいい」


 ルディアナの前向きな姿勢に水を差すようにノアレイアスが冷たく言い放つと、アノンが心底呆れた顔をした。そして、ノアレイアスの頭を霊力を使って、力の限りすっこーんとぶった。

 カレンディア皇女は、アノンの暴挙にも目もくれず、悲しそうな顔で、ルディアナを見つめている。


(私が戦地に行けば、ロイドの暗殺される恐れはなくなるわ。バラン国とルクサリア帝国の連合軍は負けることはないから、暗殺さえ回避できればーー)


 カレンディア皇女からみれば、ルディアナが戦地に行けば、兄である皇太子ロイドレアンの帰還が確実になる。

 だが、自分と年の近くまだ若い、コーエン公爵家の婚約者を戦地に送り出すのは気が引けるのだ。


「行かなくて済むなら、そうするけど。うちの親ーーアルム家は了承してるのよ? 歴史を見てもアルム家から解術師として、必ず戦地に向かってる。今後、この国でアルム家を存続させるためにも、私は行くわ」


 ルディアナをじっと怖い顔で、見つめ続けるノアレイアスに、ルディアナは淡々と答えた。


『もう、皆、安心してちょうだい!! 私はルディの側を離れないから! 思念はバラン国からじゃ遠くて、こっちに伝えられないけど…。何かあれば、ロイドでも使って、ルディを守るわ!』


「ロイドを守るのが、私のお役目なのよ?」


 落ち込むカレンディア皇女やコーエン公爵夫人、キャロラインを励ますようにアノンが明るく宣言すると、応接室の雰囲気がいくらか軽くなった。

 ルディアナもつられて明るく、アノンに突っ込めば、応接室に小さな笑いが起こった。

 ノアレイアスもとうとう折れたのか、頭を手でくしゃくしゃにかき混ぜた後、深い溜め息をついた。


「開戦まで、日にちがない。戦地に向かうルディに必要な物は全て、俺が目を通す。ロイドの言いなりにならない」


 妥協案を示したノアレイアスにカレンディア皇女も表情を柔らかくして、了承を示した。

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