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解術師は皇太子の執務室で休む①

いつもありがとうございます!

話はまだまだ続きます!



 翌日、ルディアナはコーエン公爵家の馬車でノアレイアスと皇宮へ向かっていた。


 昨晩の晩餐では嫌になるほど、コーエン公爵家の面々にノアレイアスとの婚約を喜ばれ、ルディアナは嬉しいやら恥ずかしいやらで、大変な思いをした。

 一方、婚約の片割れのノアレイアスは、晩餐中は始終ご機嫌に振る舞うので、コーエン公爵は息子の豹変に苦笑していた。

 結局、キャロラインがはしゃぎすぎてしまい、カトリーヌに怒られる始末になって、晩餐はようやくお開きとなった。そのため、ルディアナは疲れきっていたのだが、今朝の皇宮への挨拶準備にとうとう目が回ってきた。


「…、ルディ? 顔色が悪いようだが、馬車を止めるか?」


『でも、高職管理課の皆に話があるからって、集まってもらってるでしょう? 私1人で、伝えてこようか?』


 顔色がどんどん青ざめていくルディアナに、ノアレイアスもアノンも心配そうに声をかけた。

 数日前に、体調を崩していたルディアナに2人とも神経質になっている。アノンに至っては婚約した当事者でもないのに、自分が代わりに報告行こうと言い出さす始末だ。


「…、大丈夫、ちょっと目眩がしただけなの…」


 ルディアナは、自分と対になる衣装を身にまとったノアレイアスをぼんやりと眺めた。


(ノアレイアスが正装して、私が横に並ぶと、私がなんだか、オマケみたいだわね)


「しかし…、分かった。高職管理課には俺が独りで伝えに行こう。ルディは、ロイドの所で休んでろ。どのみち、皇族への挨拶はロイドの予定だから、一石二鳥だろ」


「ロイドレアンの所に?」


 ロイドレアンとは、皇太子の名前だ。幼い時から、ルディアナは解術の力のコントロールを学びに、王宮に出入りしていたからか、すっかり気の合う友人として扱われていた。


「カレンディアは既にコーエン公爵家へ出立しているし、休むならロイドレアンの執務室が落ち着くだろ?」


「皇太子の執務室は休憩室じゃないけれどね」


 ノアレイアスの言葉に突っ込みながらも、ルディアナは皇太子の執務室にお邪魔することに賛成だ。

 高職管理課の皆がノアレイアスとの急な婚約をどう思うのか、少し不安だったのだ。


『ノアレイアスは、ルディをカイルアンに会わせたくないんでしょ?』


「へ? なんでカイルアン?」


「……」


 アノンのからかいに、ルディアナは思い当たる所がなくキョトンとしていたが、反対にノアレイアスはムッとした顔で押し黙った。


『ルディはそのままで、気にしなくて良いのよ? 少し…、カイルアンは気の毒だけれど、ね』


「…? まぁ、じゃぁ、ノアに高職管理課の挨拶をお願いします。あと…、今後いつ出勤すれば良いかも、ノアに聞いてきて貰って良い?」


「…分かった」


 ムスッとしたまま、ノアレイアスはルディアナの願いに了承の返事をした。

 アノンは楽しそうにくつくつ笑って意地悪そうに切り出した。


『本当なら、このままルディに辞めて貰いたいんでしょ? そもそも、次期公爵夫人が皇宮勤務なんてあり得ないから』


「アノン、黙れ」


 アノンの突っ込みにノアレイアスは鋭く口を挟んだ。確かにコーエン公爵家に嫁ぐならば、ルディアナは外聞が悪いため、高職管理課を辞めなくてはいけない。

 ルディアナは急に不安になり、ノアレイアスの顔を伺い見れば、溜め息混じりにノアレイアスが口を開いた。


「はぁ…、高職管理課の勤務については…、追々陛下と詰めていく予定だ。そもそも、皇族であるコーエン公爵家に嫁ぐのだから、王族の参加する行事にはルディも参加するだろ? だから…、常勤ではなく、状況に応じて協力して貰う、非常勤に近い形になる」


「はぁ、そうなんだ……」


 折角、いよいよ解術師として独り立ちしたと思えば公爵家との婚約により、非常勤に変更とはタイミングが悪い。

 それでも、皇子に次ぐ身分の男性との婚約なのだ。文句を言えば贅沢だと、世の女性に叱られる。


 ルディアナは自分の婚姻はアルム家の分家当たりから、婚姻相手を見つけてくるのかと予想していた。だから、会ったこともない人間と婚姻する貴族女性も多い中、気心知れたノアレイアスと自分との婚姻は恵まれていると感謝することにした。


『ルディ? 本当に大丈夫? ノアレイアス、私はルディが心配たから、やっぱり側にくっついているわ』


 不意に黙り込んだルディアナを心配して、アノンがノアレイアスに提案すれば、ノアレイアスも快く賛成した。


「あぁ、アノンがルディの側にいれば安心だ…。何かあれば、アノンは直ぐにこちらに知らせるように」


『分かってるわよ』


(皇太子の執務室で何かあれば、国が揺らぐわよ)


 ルディアナを抜きにして、アノンとノアレイアス2人でどんどん話が進んでいくのを見て、ルディアナはちょっぴり呆れた気持ちになった。

 けれども、口に出さなかったのは、本当にルディアナを心配している2人に、何だか申し訳なさを感じたためだ。


(昨日、寝る前になってから、ノアレイアスとの結婚を意識しちゃって、なかなか眠れなかったなんて言えないわ…!)


 2人が心配してるのに、ただの寝不足だとは白状しにくい。しかもその理由がノアレイアスとの婚約による動揺だなんて、恥ずかしくて口に出せない。

 今までノアレイアスを、王子様みたいなイケメンの幼馴染みとしか見ていなかったのだ。それが一夜にして婚約に至り、将来の夫になるなんて頭が沸騰しそうだったのだ。


「…、お父様は、婚約については、直ぐに了承されたのかしら…?」


 ルディアナが頭に浮かんだ疑問をポツリと口にすると、ノアレイアスがギクリとした。

 アノンも何か事情を知っているようで、ルディアナと目を会わせず、ノアレイアスに視線を向けた。


「モルド殿へは、今回のカレンディアの件の前に婚約の話をコーエン公爵家から打診していたと言ったよな…? まぁ、決定打はやはり…。今回の事件でルディの身の安全を心配し、コーエン公爵家へ嫁がせようと、決めたんだろう」


 ルディアナは、幼い時から皇宮の寮に住み、解術師としての道をひたすらに進んできた。なので、最近は実家と言えども、あまり接点を持っていない。

 以前は、母とあちこちのティーパーティーに顔を出したものだが、解術師の修行が忙しくなるにつれて、実家への足が遠退いていた。

 だからか、ノアレイアスの言葉で、ルディアナは1度アルム子爵家に挨拶に帰らなければならないなと感じ、気が重くなった。


(お父様、お母様はまだしも、スダナお兄様は何かとケチをつけてきそう)


 小さい頃より皇宮に上がった妹を、スダナはとても心配していた。それは、財務局から遠く離れた高職管理課の職場へ、ルディアナの顔を見るだけのために何度も通うくらいに。


「…、お父様は、納得されたようだけれど、スダナお兄様はどうかしら……」


「……」

『……』


 ルディアナの呟きにノアレイアスもアノンも黙り込んだ。その様子に、ルディアナは兄が婚約に全く納得していないのだと悟る。


「……、皇宮に着いたようだ」


 馬車の中の空気が重くなった頃、馬車が静かに停止した。さすが、公爵家の馬車。ここまで停められることなく真っ直ぐ皇宮の奥にやって来れたことに、ルディアナは素直に驚いた。


「先ずは、ルディをロイドのところまで送ろう。…、君! 高職管理課に、遣いを頼めるか?」


 ノアレイアスは近くにいた女官に言付けを頼むと、ルディアナのエスコートを進み出た。

 ノアレイアスは、滅多に貴族の女性をエスコートしたことがなかったので、馬車止めにいた人間は驚いてヒソヒソと囁きあった。


「ねぇ? すごく目立ってるんだけど?!」


「気にするな。直ぐに慣れる」


 その場にいる全員がこちらの様子を伺う状況に、ルディアナは居心地が悪い。そのため、ルディアナは、ノアレイアスの腕を掴んでいた自身の手を離そうとしたが、ノアレイアスに反対にぎゅっと手を握られてしまった。


「「……!!!」」


 声にならない悲鳴を聞いたような気がして、ルディアナは恥ずかしくてどうしてら良いか分からなく下を向いた。顔を赤くしたルディアナの様子に、ノアレイアスは楽しそうにくつくつと笑ったため、そのご機嫌な様子に、また周囲の人間は驚いてヒソヒソと囁きあった。

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