解術師は舞踏会が嫌い①
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その昔、いざこざが絶えず、争いばかりだった大陸に1人の絶対的な権力者が現れた。その者は、次々に大陸の小さな国々を統一して、大きな帝国を築き、大陸を平和に導いた。
大陸の大半を占めるルクサリア帝国、その皇帝は初代から、近隣の国からの干渉を一切赦さない。今もなお、大陸1の繁栄と軍事力を誇る。
そして、皇帝一族は、古来からの魔法に守られいるとされており、建国以来、血筋が途切れることがなく続いてきた。
◇◇◇
「どうして、私もその作戦に参加する必要があるのです? そもそも、その作戦では、除霊や呪いの類いは見当たらないと聞きました。 それに今回の調査対象は伯爵家ではありませんか! 高職管理課の保護対象範囲である皇室や公爵家の皆様とも異なります!」
先日の川の氾濫の除霊の1件から程なくして、皇宮の高職管理課でいつも通り勤務していたルディアナの元に、次の業務が舞い込んできた。
業務内容は、疑わしい動きのある伯爵家があるため、その伯爵家で近々開かれる舞踏会に参加し、調査するというものだ。
怪しい貴族があれば、高職管理課の諜報部隊に託し、調査するのが通常だ。雑務係が出張る仕事ではない。
元よりルディアナのような解術師は、華やかな場面を好まない性質なため、高職管理課のトップ、ドリアス侯爵に抗議しているのだ。
「あぁ、確かに君の言う通り、ママル家は伯爵家で、本来の雑務係の範疇ではないな」
ルディアナの抗議を予測していたのか、うんざりした表情で、ドリアス侯爵はため息をつきながら答えた。
「だったら、どうしてです? 私も先日の除霊の1件から戻ってきたばかりです。その間、高齢のサルマ夫人に1人で皇宮の雑務係を担当して頂きました。サルマ夫人は最近、体調がおもわしくないので、職場から離れるのは避けたいのですがーー」
「ルディアナ=アルム、これは上司命令だ。これ以上、君の意見は受け付けないーーママル家への潜入についての詳細は、後でカイルアンにでも聞いてくれ」
「ドリアス閣下!!」
「以上だと、言ったはずだが? ルディアナ=アルム自分の仕事場へ戻りたまえ」
「っ!」
まるで、虫を追い払うようにルディアナを手で払い退けると、ドリアス侯爵は執務補佐官にルディアナを執務室から追い出させた。
『ほら、やっぱり。ドリアスは、1度出した指示は覆さないって言ったじゃん。抗議するだけ無駄なのよ?』
ドリアス侯爵の執務室の前にある廊下の何もない天井の角から、ポン!とアノンが出てきた。そして、敗北感漂うルディアナに呆れたように言った。
「でも、最近は本当にサルマ夫人に、皇宮の職務を任せてばかりなのよ?」
『ルディは真面目よねー? でも、ルディが皇宮を少しはなれても大丈夫なはずでしょ? そのために今の時代にはポーションもあるのだし』
「っ! ポーションはっ! 呪詛の進行を杭止めるために作られたその場凌ぎなのよ? それにサルマ夫人は、このところ休みもろくに取っていないわ!!」
ドリアス侯爵の時と同じように、アノンも味方になってくれないことに、ルディアナは苛立った。
確かに、アノンの言う通り、解術師が不在の時はポーションを飲んで、呪詛の進行を抑える事が出きる。ルディアナが皇宮の雑務係に、常時詰める必要はない。
『でもさぁ? サルマ夫人は仕事人間だから、居残り当番を喜んでそうだけれど?』
(確かに、サルマ夫人は、高職管理課の雑務係を生き甲斐にしてる方だけれど…)
アノンの指摘通り、サルマ夫人は雑務係が大好き過ぎる仕事人間だ。たとえ、高職管理課のソファで寝食をすることになっても、喜びだとルディアナは常々思っている。
『ルディが本当に嫌なのは、舞踏会に参加することでしょ? ルディったら、社交界デビューしたと思ったら、その後は全く参加してないじゃない』
「ーー! だって、ぶ、舞踏会って、色んな人間の欲望が渦巻いてるのよ? 解術師である以上、良くも悪くも人の欲が見えてしまうもの。あんな、欲まみれの中にいたら、人間酔いで具合が悪くなるわ!」
(色とりどりのドレスの笑顔の人間の背後には、どす黒い渦ばかり見えるのよ? 生き霊もちらほら飛んでるし。あんな気持ちの悪い場所ったらないわ)
『でも、もう指示は覆せないんでしょ? グダグダ言わないで、カイルアンに業務内容を聞きに行きましょうよ』
ルディアナはそれでも、ブツブツ1人で文句を言って歩き出した。アノンも、ルディアナの肩越しにぷかぷか浮きながら続く。
『(ドリアスの奴が、ルディにカイルアンと職務を任せるのは、まさか、ナダリアのためじゃないわよね)』
アノンは、ドリアス侯爵に対して何だか面白くないなと、腹が立った。
高職管理課は、所属するメンバーほとんどが、ドリアス侯爵家とナダリア侯爵家の人間が担っている。
そして、ナダリア侯爵家の公子カイルアンとアマリアの双子兄妹、ドリアス侯爵家のユーリナスも高職管理課で勤務している。3人とも年齢が近く、お互いに幼い頃から皇宮に出入りしており、ルディアナとも幼馴染みだ。
『(カイルアンは近頃ルディにやたら、構うのよね……。もし、ナダリア侯爵家とドリアス侯爵が、解術師のルディを高職管理課に縛るために、カイルアンとの縁談を進めているのだとしたら……! でも、ルディの意思を無視して、縁談を入れようものなら、この私が許さないんだから!!)』
1人プンスカ怒り始めたアノンに、ルディアナは全く気が付かない。そればかりか、急に立ち止まり、廊下に響き渡る大声で叫び出した。
「っ! どうしよう! アノン! ーー私、デビュタントで着たドレスしかないわ!!」
『ルディは、本当に真面目ね……』
色恋や縁談の可能性なんて、微塵にも全く考えてもいないルディアナに、この調子ではカイルアンも空振りしそうだなと、アノンは少し安心した。
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まだまだ話は続きます。
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