解術師は次期公爵に恋われる⑤
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「いやいやいや、そんな、ーーはぁ?!」
今、ノアレイアスは自分との婚約をしたと言ったのだろうか、とルディアナは耳を疑った。
「ーー、今回の件で、子爵家のルディの身の安全は危ういのだと、つくづく痛感した。皇宮の報告にルディの名前すら出てこない程、ルディの命は軽いものか、と」
「へ…? だからって、そんな、思いきったことを…」
皇女の誘拐未遂事件現場に、ルディアナがいたとして、子爵令嬢ならば死んでも生きていても、皇帝が気にすることはないのは当然だ。
まさか、自分の屋敷に留め置いた幼馴染みの安否を知るために、婚約届を提出するとは誰も考えつかないだろう。
「い、い、今からでも、間に合うよ! 取り下げ、そう! 皇宮に行って、急いで、婚約届を、取り下げてこよう!!」
ルディアナはノアレイアスの胸ぐらを掴んで、正気に戻るように慌てて説得したが、簡単に手を払われてしまう。
「また、お前、勘違しているだろう? 俺は前からルディとの婚姻をアルム子爵家に打診してきた。今日起きたことは、そのきっかけになったに過ぎない…」
「いやいや、幼馴染みとして、身の保証をしてくれるのは、とても嬉しいのよ? でもさ…」
「ーー、これからは、婚約者として、身の保証を確保する。よって、今時点から、お前の身分は、コーエン公爵家の次期公爵夫人見習いになる。婚約の間は、見習い期間としてこの屋敷に留まるように」
「だから、あのね! そんな安全のために、大層な身分はいらないの! そんなことしたら、ノア、将来結婚出来なくなるよ!!」
いくら、コーエン公爵家の嗣子と言っても、婚約破談となれば、変な噂はたつものだ。アルム子爵家も当然、婚約破談となれば社交界から遠ざけられるだろう。
ルディアナの決死の説得にもノアレイアスは無反応で、覚めた目でルディアナを見ていた。
「婚約は決して破棄しないし、そのまま、お前と結婚する。」
「っんな!!」
何を言ってるんだと、ルディアナが説得しても、ノアレイアスは呆れた目で見てくるばかりだ。しまいには、ルディアナとそのまま結婚すると言い出して、ルディアナは絶句した。
「お前が、幼馴染み以上に俺の事を思っていないことも分かっている。コーエンの家に据え置いたのも、お前と少しでも距離を詰めようとしたまで。それも、カレンディアのこの騒ぎせいで台無しだ」
「ちょっ、ちょっ、まさか…、ノア…」
続くノアレイアスの言葉に、ルディアナはいよいよ1つの可能性を導きだして、1人で真っ赤になり、焦り出した。
(ノアって、まさか、私のこと、本当に、身の保証云々関係なく、す、すきなの?)
「俺は、ルディアナが好きだ。お前が子爵家の出だとしても、関係ない。これからは、幼馴染みではなく、ただ1人の愛する婚約者として扱う。覚えておくように」
「へっ?! あ、あ、ちょっ、ちょっ…!!」
意味の分からない言葉を発しながら、あたふたするルディアナにノアレイアスはようやく満足したのか、心からの笑みを浮かべた。
(今、その王子様スマイルは凶器!!)
「少しは意識を変えたか?ーー明日の朝、俺と皇宮に同行し、婚約を高職管理課に報告してこい」
「あっ、あっ、明日っ?! すぐに?!」
一体どんな顔をして、高職管理課にノアレイアスとの婚約を伝えれば良いのだろうと、ルディアナは頭が真っ白になった。
「上司に報告は早い方がいいだろう。皇帝陛下には婚約を直ぐに公表するよう、頼んでいる。他の人間からの伝達より、本人からの婚約報告の方が印象が良いしな」
「いや、じゃぁ、なんで、陛下に公表を急かしたの?!」
慌てるルディアナをノアレイアスは楽しそうに眺めていたが、ふと何かを思い出したのか勝手に客間のクローゼットを開けだした。
「ノア! ちょっ、聞いてるの?!」
「明日、着ていくドレスはこれにしろ。俺は色を揃える」
ルディアナの前に出されたのは、金の刺繍の入った淡い青色のドレスだ。それはまるで、ノアレイアスを連想させるような色味で、ルディアナには用意した覚えがない。
「こ、これ、誰のドレスなの?!」
「お前が着るために、俺が用意させたに決まってる。とりあえずは明日これを着て報告に行こう。他のドレスや、必要品はこれから買い揃えるから」
唖然とするルディアナを置いてけぼりにして、ノアレイアスは呼び鈴を鳴らした。そして、侍女に明日のルディアナの装いの指示を出していく。
「あの、ノアさん? その、宝石は、でか過ぎやしない?」
ノアレイアスの指示によって、ルディアナの客間に持ち込まれたペンダントの碧い宝石はルディアナが今まで見たこともないくらい綺麗で、大きなものだった。
(これ、おいくら、するの…?)
ノアレイアスとの婚約の件をごっそり忘れてしまうくらい、ルディアナは大きな宝石に目が点になった。
「そうか? 婚約の挨拶にはこれくらい必要だろう? これは、ルディに合うように前から準備していた品だ」
ノアレイアスは呆然とするルディアナの背後に廻ると、ルディアナにそのペンダントをつけて見せた。
「あ、あの、ノア…、!」
「あぁ、やっぱり、良く似合う」
慌てるルディアナにノアレイアスは満足したように笑った。屈託のない笑顔に、その場にいた侍女達も顔を赤らめて、キラキラした目でノアレイアスを見つめている。
(うぅ、そんなに嬉しそうにされちゃ、着けないわけにいかないよ…)
ノアレイアス色のドレスにノアレイアス色のペンダントを勧められ、ルディアナは精神的にごりごり削がれているような気がしてならなかったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
(もともと、幼馴染みだし、見も知らずの人間と婚約するよりは、よっぽど贅沢、なのよね)
嬉しそうにルディアナの準備を進めるノアレイアスにルディアナも、ふっと笑いが出てきた。
「あぁ、そうだ。明日から、ルディの部屋も移動する。これからはこの上の階の南東の部屋で過ごすように」
「えっ?」
(ーー南東の部屋?)
ルディアナは小さい頃よりコーエン公爵家に出入りしていたからか、屋敷の配置を汲まなく把握していた。
ルディアナの記憶に有る限り、上階の南東に位置するのは、ノアレイアスの部屋ではなかったか。
「な、な、南東?! ど、ど、ど、どうして?!」
まさか、同室ではないかと、焦るルディアナをノアレイアスは楽しそうに笑った後、少しだけ困った顔を作り出した。
「とーても残念だが、ルディの想像する俺との同室ではない。俺の隣の部屋がルディの部屋になる」
「なっ! 同室なんて、思ってなんか!!」
頭の中を覗き見られたようでルディアナは真っ赤になり、側にいた侍女達はきゃぁきゃぁと騒ぎ立てた。
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