解術師は次期公爵に恋われる④
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「ねぇ、アノンってば! ーーあれ? アノン??」
ルディアナが同意を求めるように空中を見れば、さっきまでそこに浮遊していたはずのアノンが消えていた。
(あれ? 滅多に黙っていなくならないのに…)
もしかしたら悪態が酷過ぎたのかと、ルディアナはちょっぴり反省をした。
ルディアナが黙り込んだ部屋の中は、シーンと静まり返り、階下のコーエン屋敷の慌ただしさを含んだ喧騒が聞こえてくる。
(誰か屋敷に来たのかしら?)
既に夕食の時間と言っても良い時間だ。皇族とも血縁がある公爵家への来客があるとすれば、余程の急用なのだろう。
(ノアが帰ってくるには、いつもよりも少しだけ早いし。キャロラインとカトリーヌ様のご友人かしら?)
ルディアナがそんな事をぼんやり考えていると、階下の喧騒が徐々にこちらに近づいてきた。
「ーーへ?? ま、まさか、私に、なんて、ね」
もしかすると悪戯にコーエン公爵家での居候を長引かせている妹を嘆いて、兄のスダナが迎えに来たのかもしれない。
スダナのお説教がくどくどうるさく、長いことを思い出したルディアナは慌てて、腰をかけていたベッドから降りて衣服を整えた。
(ヤバい、さっきうたた寝してたから、髪がボサボサ…)
「っ! お待ちくださいませ! お、お坊っちゃま!! ルディアナお嬢様のお部屋に、その様にいきなり突撃されては!」
廊下からは一際大きな声で必死になって、誰かを止める執事の声が聞こえてきた。どうやら、ルディアナの予想した兄のスダナではないらしい。
(ん?ん? 坊っちゃん?)
コーエン公爵家の中で執事に坊っちゃんと呼ばれるのは、ノアレイアスだけ。どうやら、ルディアナにノアレイアスが急ぎの用事かあるようだなと、ルディアナは能天気に考えた。
(ノアで良かったわ。スダナ兄様のお説教、長いから……)
「ルディ!!」
バーン!とものすごい勢いで扉を開けて入ってきたのは、ルディアナの予想通り、ノアレイアスだった。予想していたノアレイアスの登場とはいえ、その勢いにルディアナはちょっぴりビクッと肩を揺らす。
ノアレイアスの後ろでは、申し訳なさそうな執事と侍女達が必死になって、ルディアナにペコペコと頭を下げていた。
「あぁ、ノア、お疲れ様でした。今日はなんだかんだ、お互い大変だったね」
ルディアナが戸惑いながらも、ノアレイアスの当然の訪問に怒っていない態度を見て、執事ら一同、ホッとした表情になった。ヒラヒラと手を振るルディアナに、皆が安心した様子で頭を再び下げると各自の業務へ戻って行った。
それを微笑みながら見ていたルディアナは、ふと視界が暗くなったような気がして上を見上げた。そして、目前に迫るノアレイアスに再び、びっくりして後退りした。
「ど、どうしたの? ノア?」
「皇宮の皇太子の執務室に連絡があった。コーエン家が襲撃を受けたと…。怪我はないんだ、な?」
ノアレイアスの言葉にルディアナは衝撃を受けた。カレンディア皇女は誘拐されそうになったのであり、襲撃を受けたのではない。
「ノア、落ち着いて。あの…、心配してくれてありがとうーーそれに襲撃じゃなくて、誘拐未遂がーー」
少しだけ冷静になろうよと、ルディアナはノアレイアスをなだめた。すると、ノアレイアスはきらきらの王子様スマイル(完璧な作り笑い)を見せながらも、さらにルディアナに詰め寄った。
「同じことだ。ゾイドの間者が屋敷に侵入し、ルディに危険が迫ったーーそれに、ルディは何故、カレンディア皇女のティータイムに参加した?」
完璧な王子様スマイルなのに、目が笑っていないノアレイアスは怖くて直視できない。俯くルディアナの肩を掴み、ノアレイアスは質問を続ける。
(誘ってきたのがキャロラインって口にしたら、キャロラインがノアに責められるんじゃ…)
「ノア、笑いながら、詰問するの、やめようよ……」
ルディアナが恐る恐るノアレイアスに抵抗を見せると、面白くなかったのか、ノアレイアスの目がさらに鋭くなった。
「落ち着けと言ったのは、ルディじゃなかったか? まぁ、良い。で? 何故、カレンディアと一緒にいた? そして、何故、愚かにも、カレンディアの前に待ち塞がった?!」
(皇女を呼び捨てに!)
一気に機嫌が悪くなったノアレイアスに、ルディアナは冷や汗が伝うのを感じた。
「コーエン公爵家にいるんだから、折角だから…、この際だから…、あの、ティータイムに、参加して、みよう、かな? なーんて思ったり。それに、皇女殿下を身を挺してお守りするのは、き、貴族の義務かと……」
ルディアナは、とてもじゃないがキャロラインに誘われて参加したとは言えなかった。言ったら最後、キャロラインの自室へ突撃し、兄妹喧嘩になることは目に見えて明らかだ。それに、皇女殿下を守らなかったら、貴族として失格だろう。
適当に、ははは…と乾いた笑いを洩らすルディアナに、全く反省が見えないと、ノアレイアスは米神を押さえながら、怒りを押し殺すように深い溜め息をついた。
「ーーわかった。今後、ルディの身に何かあれば、俺は全ての力を持って、お前を傷付けた人間を始末する。そして、俺も……」
「そ、そんな大事にはならない!! と、思うよ…」
何やら重い空気に耐えきれず、ルディアナがノアレイアスの言葉を遮るとノアレイアスは、何で伝わらないんだ、と小さく呟いた。
そして、ノアレイアスは苛立ちを誤魔化すように手で頭をくしゃくしゃにすると、ルディアナのキョトンとした顔を憎たらしそうに見つめた。
「ーーはぁ、、、で、ルディは、カレンディア宛の書簡に異変を感じたんだな?」
なんとか落ち着いてきたノアレイアスに、ルディアナもホッとし、偽物の書簡をオーラで見抜いたことなどをかいつまんで説明した。
「ーーーーだから、私も、皆も怪我をしていないわ。それに、カレンディア様の側つきの件、アノンから聞いたんだけど。私には、恐れ多いというか、荷が重いというか。そもそも、カレンディア様の側つきなら、アマリア1人で充分よ。ノアからも、私は側つきに不向きだって、陛下に口添えして貰えないかしら? 私にはとても勤まらないもの」
ノアレイアスは皇帝陛下のお気に入りだ。そのノアレイアスから、口添えして貰えれば、カレンディア皇女の側付きは免除されるに違いない。
「ーー、そうすれば、お前は、屋敷から出ていくつもりだろう? とてもじゃないが、容認出来ない」
「んな! もう体調だって、問題ないのよ?」
いつまでも皇帝の覚えが目出度い公爵家に居候するわけにはいかないとルディアナが続けても、ノアレイアスはむすっと腕を組んだままソファ寄りかかって説得に応じない。
「カレンディア様の件だって、皇室がきちんと説明をすればバラン国も了承するんじゃない? 安全のために、皇族のコーエン公爵家で皇女を過ごさせるって。最悪、侍女にアマリアも私もならなくても…」
ルディアナが黙り込むノアレイアスに畳み掛けても、ノアレイアスはじっと床を見たまま反応しない。無視でも決め込んでいるのかと、ルディアナもだんだん苛っとしてきた。
「毎日、コーエン公爵家にも通うわよ? そんなにカレンディア様が大切ならね!! でも、コーエン公爵家のお屋敷からは帰るわ! アルム子爵家にも体裁って言うものがあるのよ!!」
一気に捲し立てたルディアナは、はあはあと肩で息をしながらも、黙り込むノアレイアスを睨み付けた。
(絶対に折れてなんかやらない!!)
未婚の貴族令嬢が格上の貴族の屋敷に理由もなく居座るなんて、とてつもない悪評が立つのだ。体調不良の面倒をかけたせいで下手に出ていたが、これ以上、ルディアナは我慢がならなかった。
けれど、怒れるルディアナを目にしても、ノアレイアスはピクリとも表情を変えない。とうとう、ルディアナが我慢できずに部屋から出ていこうとすると、ノアレイアスが止めるようにルディアナの腕を掴んだ。
「ちょっと! 離しなさいよ!!」
「ーー、ルディは、皇宮には戻らない、アルム子爵家にも戻らない。今日、陛下に婚約届を提出してきて、直ぐに承認頂いた。もちろん、アルム子爵家のモルド殿の了承も得ている」
「ーー、は…?」
突拍子もない事を言い出したノアレイアスにルディアナは何を言われたのか理解が追い付かなかった。
「お父様が、承認って、何の……?」
ノアレイアスはさっき、婚約届と言っていた。けれども、何故ノアレイアスの婚約に、アルム子爵家当主、モルドの承認が必要なのかルディアナには理解が出来ない。
「ルディと俺との婚約についての了承だ。既に陛下も受理、承認がなされている」
(ーーなっ!?)
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