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解術師は公爵家で倒れる③

いつもありがとうございます!

話はまだまだ続きます!



 明らかに窓の外が紺色に染まり始めている。自分がコーエン公爵家を訪問したのは、午後の早くだったはずだと、ルディアナはぼんやりした頭で考えた。


「ルディ、眼が覚めたのか…?」


「…あれ…? ノア…?? じゃぁ、ここは、まだ、コーエンのお屋敷…?」


「あぁ、ルディはコーエンの屋敷に着いた後、暑さで倒れて、その後1度目を覚ました。 あれから、少し休めたようだな」


 確かに、ルディアナは1度目が覚めた。そのときは、まだ日が高かったような気がする。ノアレイアスは"少し"と言っていたが、かなりの時間が経っているようだ。


(ーーいけない! 皇宮の門が閉まってしまう!!)


 ルディアナが慌ててガバッと起き上がると、頭からすーっと血の気が引いたのが分かった。


(あっ! 倒れる…)


「っ! ルディ!!」


「ーー、あぁ、だ、大丈夫……」


 ルディアナが力なく、もう1度枕に沈み込むと、ノアレイアスは焦ってガンガンと呼び鈴を鳴らした。


「落ち着け! まだ、本調子ではないだろう!! もうしばらく、横になっていろ!!」


(…ノア、の方が、落ち着いた方が良いのでは…?)


 ノアレイアスの呼び鈴と、いつにない大声に、急いで高齢の男性医師と侍女達がわらわらと部屋に入ってきた。

 ノアレイアスはイライラとしながらも、じっと医師の診察準備の様子を見ている。侍女達はノアレイアスの怒りを買わないか、ビクビクとして側に控えた。


(ノアは、なんで部屋を出ていかないの?)


「あの…、ノア? 先生に、診て貰うから、部屋を出て…」


「っ! 診察が終わったら、直ぐに呼ぶように!!」


 いつまでも部屋を出ていかないノアレイアスにルディアナが声をかけると、ノアレイアスはハッとした。そして、顔を真っ赤にしてそそくさと部屋を出ていった。


(……? 何だったのかしら?)


「…いやぁ! ノア坊っちゃんのあのお顔!! とうとう、ご婚約ですかな?」


 ノアレイアスの落ち着きのない不審な行動を、古株のコーエン公爵家のお抱え医師は、楽しそうに、髭を擦りながらほっ、ほっ、ほっと笑った。

 周りで遠巻きに見ていた侍女達も堪らずにクスクスと笑い出す。


「ーー? ノア、婚約するの?」


 確かに皇宮のティーパーティー前に、そのような話をコーエン公爵夫人と皇妃が話していた覚えがある。もう、話に上がっていた子爵令嬢との婚約に話が進んだのかと、ルディアナは目を丸くした。

 すると、驚くルディアナに、侍女達が更に驚く発言を繰り出した。


「えぇ、ようやく、ですわね。私共も、ルディアナお嬢様をお世話出来て、とても嬉しいですわ!!」


「へ?! どうして、そこで私が話に出てくるわけ…?」


「ーー?? え…、だって、…??」


 ルディアナと何やら話が噛み合わないと察した侍女達は、顔を見合せ戸惑いの表情を浮かべた。

 そんな乙女達の会話を高齢の医師は、楽しそうにニコニコと聞いている。


「ルディアナお嬢様、これと言って病気は見当たらんかったぞ。ーーだが、少し疲れが出ておるようでな? そのせいで、今回、暑さで倒れたんだと診ておる。しばらくは、そうだな、儂が許可を出すまでコーエンのお屋敷で世話になると良い」


「「えぇ、ルディアナお嬢様が、しばらくお屋敷に滞在されると、既に若様からも伺っております!!」」


 のんびりした医師の診察結果に、侍女達もルディアナが拒否をためらう程、ぐいぐいと相槌を打った。


「でも、ノアが本当に婚約するなら、部外者が長く屋敷に居座っては……」


 よく分からない展開にルディアナが戸惑って周りをキョロキョロするが、いつもなら側にいるはずのアノンがいない。


(アノンはどこに行ったのかしら…?)


 ルディアナの言葉に、誰も応えようとせず、侍女達が、にこにこと軽食を用意しようか、はたまた、着替えさせようかと、忙しく世話を焼き始めてしまう。

 ルディアナは状況を飲み込めないままだったが、答えをくれる人間はこの場にいないようだと諦めた。




 ◇◇◇◇◇◇




「お兄様ったら、ルディアナお姉さまが倒れたって、大騒ぎだったんですよ! 『皇宮の医師も、直ぐにでも呼べ!!』っていう、暴走お兄様をお母様と私とで止めるの大変だったんですから!!」


「そ、そんな、大袈裟な……」


 ルディアナの体調に問題がないと医師がノアレイアスに報告するや否や、待ってましたとばかりにコーエン公爵家の令嬢キャロラインが訪ねてきた。

 早速、ルディアナの枕元に椅子を運ばせて、ルディアナ体調不良による事の顛末を語りだした。キャロラインの話は、いつも冷静沈着なノアレイアスからは想像がつかない。ルディアナは横で腕を組んでむすっと立っているノアレイアスを伺い見た。


(やっぱり…、キャロラインが話を盛っているのね…)


 もうそろそろキャロラインを止めなければ、ノアレイアスが怒り出すだろうとルディアナは心配した。


「あのね、キャロライン、あんまり、話を面白可笑しくするのは、良くないわ…」


 自己管理の甘さから体調不良になったルディアナの面倒を見ただけのノアレイアスを、これ以上不快な思いにしてはならない。ルディアナは何とか、柔らかくキャロラインを止めようとしたが、全く聞く耳を持たなかった。


「あら、ルディアナお姉さま、話を作っている訳じゃないのよ? 本当に、お兄様ったら大慌てなさって。ルディアナお姉さまに何かあってはと、もう医師が到着しても、おろおろと……」


 キャロラインがクスクスと思いだし笑いをすると、部屋の端で控えていた侍女達までもが、ふふふ…と忍び笑いをし出した。


(まずい、ノアが呆れて、怒り出すわ…)


 ルディアナは未だ体が怠かったため、出来ればもう少し頭が働くまで、公爵家のお世話になりたかった。けれど、キャロラインがノアレイアスをからかい続けているため、早々に諦めて帰宅する事になりそうだと悟った。


「…あの、ノア…? これ以上お邪魔をしては、迷惑をかけそうだから、そろそろ…、お暇をさせて貰いたいのだけど…?」


 ーーアルム家の馬車を呼んでもらえる?と、ルディアナは固い顔をしてずっと押し黙っているノアレイアスに声をかけた。

 ルディアナは、馬車が子爵家には1台しかないため出来れば歩いて帰りたかったが、もう一度倒れるような失態は出来ない。ここは、お父様の馬車をお借りしようとルディアナは諦めた。

 すっかり遅くなったが、体調不良を理由にすれば皇宮の寮の門限も配慮されるだろう。


(いつも門限を守っているから、1度くらいは赦してもらえるはず…!)


「ーーいや、迷惑ではない。そして、ルディが皇宮の寮に帰る必要もない。しばらく、うちで療養させること、既にアルム家には連絡している」


 ルディアナが門限の言い訳を適当に考えて1人納得していると、ノアレイアスが予想外な事を言い出した。

 キャロラインはノアレイアスの答えを既に知っていたのか、にやにや笑っている。


「あら、ルディアナお姉さまが心配で帰したくないのだと、素直に……」


「キャロライン、母上にルディの事を伝えてきてくれ」


「っぷ!! 分かったわよ、ルディアナお姉さま、ごゆっくり!」


 からかうキャロラインの言葉を遮って、ノアレイアスが恐ろしいくらいに良い笑顔で指示を出した。


(ノア、目が笑ってないわ…!)


 笑顔を作りながらも絶対に怒っているノアレイアスにルディアナはどぎまぎしたが、キャロラインは気にした様子もない。

 それどころかキャロラインは、『仲良くね!』と一言残し、侍女達と楽しそうに部屋を出ていった。

読んで頂きありがとうございました!

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