解術師は公爵家で倒れる②
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(あぁ、ひんやりしていて、気持ちが良い…!)
程よく心地の好い風がとめどなく吹き、優しく髪の毛をすかれていると、ずっとこのまま目を覚ましたくなくなる。
ルディアナはいつも寝ているベッドよりも、上質で最高級の感触を遠い昔の、どこかで知っているような気がした。
(小さい時、コーエン公爵家にお泊まりした時以来の心地好さ…。ん…? コーエン、公爵家…??)
先ほどまでの暑くて死にそうな、最悪の気分にいたルディアナは、遠くで自分を呼び掛ける心配そうな声に徐々に意識が浮上してきた。
(…ノア…?)
『ーー! ルディ?! 大丈夫?!』
「なっ! ルディ!! 気分は?! っ! 直ぐに、医者を!!」
(あぁ、アノンとノア…)
心配する2人の顔にルディアナの意識が段々とはっきりしてくる。
目をうっすら開いたルディアナを確認するや否や、ノアレイアスの指示で、コーエン公爵家の侍女が物凄い速さで、医者を呼びに向かった。
ルディアナの枕元には心配そうなノアレイアスとアノンがルディアナの顔を覗き込んでいた。
(窓からの風邪が涼しかったのかしら…、髪を撫でてくれたのは…、ノア…?)
「こ、こ…?」
「屋敷の客間だ…。ルディは暑さで、倒れたんだ」
喉が乾いてカラカラのルディアナに、ノアレイアスはグラスに水を注いで渡してくれた。ふるふると震えて手に力が入らないルディアナを、そっとノアレイアスの手が支えてくれる。
ルディアナが何とか、グラス1杯の水を飲みきると、顔を真っ赤にしたアノンが怒り出した。
『もう!! だから、ノアレイアスを迎えに寄越せばよかったのよ! こんな炎天下を歩くなんて!! 心配したのよ! バカ!!』
「…ごめん、ね…」
そう良いながらも、どこか寂しそうなアノンの表情にルディアナは返す言葉が見つからない。
アノンは幽霊であるため、快晴ということは理解しながらも、ルディアナが暑さで倒れるとは思わなかったのだ。アノンは死んでからというもの、雪が降って寒くても、真夏の炎天下でも何も感じることができない。
(アノンに寂しい思いをさせちゃった…)
「アノンの言うことは、尤もだが…、ルディはいまだ、気分が良くない。少し落ちついてくれないか」
いまだに具合が悪そうなルディアナに、やり取りを見ていたノアレイアスはアノンを優しくなだめた。
『ーー、分かったわよ! でも、次はないからね!!』
「ーん。ありがとう、アノン。ノアも、ね」
「あぁ…」
機嫌を少し直してくれたアノンに、ルディアナがほっとすると、もう一度眠気が襲ってくる。
(このところ、休みが少なかったから、なぁ…)
再び、うとうとし出したルディアナの髪の毛をノアレイアスがゆっくり触ると、心地好さから目蓋が重くなってきた。
(…、あぁ、カトリーヌ様と、キャロラインに、挨拶しなきゃ……)
「ノア…」
「大丈夫、母上とキャロラインには伝えている」
「ん……」
ルディアナの頭の中を直ぐに正確に読み取り、ノアレイアスは心配いらないと声をかけた。そして、ルディアナがゆっくり休めるように、皇宮へ連絡するように侍女へてきぱきと指示を出した。
(『それって、ルディを屋敷に留めたいだけなんじゃ…』)
ノアレイアスの指示を耳にしたアノンは、ピクピクと顔を引きつかせた。
今回、ルディアナが倒れた原因は、暑さと過労という診断だった。1、2日ゆっくりすれば、なんとか体調も回復するだろうから、問題ないというもの。
しかし、ノアレイアスは、ルディアナをしばらくコーエン公爵家で療養させること、仕事も休むことを皇宮へ要請したのだ。
(『ノアレイアスが申請すれば、皇妃も皇太子も喜んで許可をするわねーールディが意地を張って歩くから、ノアレイアスに囲われる切欠になったのよ…』)
ルディアナが暑さで倒れなければ、ノアレイアスも、コーエンの屋敷にルディアナを無理やり留めなかったかもしれない。
『ねぇ、皇宮は許可を出しても、アルム家にはどう連絡するのよ?』
「ーー」
『忘れてたって、言わないでよね?』
アノンの問いかけにノアレイアスはしかめっ面のまま無言を貫いた。皇太子の敏腕補佐と名高いノアレイアスだったが、ルディアナが倒れたことで、かなりの動転をしているようだ。
『しょうがないわね…、アルム家には私から連絡をいれるわ……。最近のルディは気合いばかり空回りで、疲れも溜まっているだろうから…』
ノアレイアスからアルム家に連絡を入れては反発されるだろう。アルム家の人間は、解術師の能力が覚醒しなければ、真面目人間が多いと言われる皇宮の財務局に勤めている。アルム家はノアレイアスとの婚約に積極的でもなければ否定的でもない。ただ、ルディアナを思って慎重に事を進めたいだけだ。
けれど、ノアレイアスには不幸にも、皇宮にはノアレイアスの不名誉な噂が溢れている。今、ノアレイアスが頼んでも、ルディアナのコーエン公爵家への外泊許可など降りるはずもない。
(『でも、ノアレイアスとルディとの親密さアピールならば、外泊は効果抜群よね…。あとは、どう、アルム家を納得させるか…』)
アルム家は皇族の幽霊であるアノンに甘いところがある。何とか最終的には許可は降りるだろうが、ルディアナの母親であるアナの動向がアノンには不安だった。
(『アナは、ドリアス侯爵家の娘。カイルアンとの潜入捜査を指示をしたのもドリアス侯爵当主……。でも、アナもノアレイアスとルディとの婚約に反対ではなかったわよね…?』)
アノンは、とりあえず許可だけはアルム家からもぎ取ってくると、ノアレイアスに約束し壁の中に姿を消した。
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