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解術師はティーパーティに招かれる⑤

いつもありがとうございます!

話はまだまだ続きます!



 皇太子とノアレイアスがティーパーティーに飛び入り参加してきた訳は、先程の皇妃からの連絡にある。

 ノアレイアスは全く身に覚えのない、ノードル領主の娘との噂を、皇妃からの連絡で初めて聞いたのだ。そして、でたらめばかりの噂の内容にノアレイアスは怒り狂った。確かに、ノードル領では礼儀的に領主の娘と顔を合わせたが、個人的に面会をした覚えなどノアレイアスには微塵もない。


 これまで、ノアレイアスは何度もアルム家にルディアナとの婚約を打診してきた。けれども、ルディアナが解術師として独り立ちするまでと、アルム家に跳ね返されていたのだ。上手く進まない婚約の打診に、ノアレイアスは我慢に我慢を重ねていた。


 そんな時に噂の元になってしまった高位管理課のノードル地方の長期出張があった。皇太子から情報を得たノアレイアスは、ルディアナが参加するならばと、忙しい中で自らも出張名乗り出て、皇太子代行として参加したのだ。


 それなのに、皇太子と共に皇妃に呼び出された理由を聞いて、ノアレイアスの我慢がついに限界に達した。


 ノードル領主の娘との嘘で固めた謂れのない噂と、カイルアン=ナダリアとルディアナの接触を皇妃の筆頭侍女から聞いて、ノアレイアスは居ても経ってもいられなくなった。

 それで、多忙な執務を抱える皇太子に脅しに似た無理を言って、ノアレイアスはティーパーティーに飛び入り参加したのだ。


「ルディ、庭園西の噴水まで、歩けるか?」


「へ? あ、ぁ、もちろん、大丈夫よ…」


 しょぼんと、顔を下に向けたルディアナに、ノアレイアスは心配そうに声をかけた。


 幼馴染みであるルディアナが、たくさんの人の視線に晒されるのが苦手だとノアレイアスも分かっている。けれども、ノードル領主の娘が広めた嘘の噂のせいで、ルディアナが自分から離れてしまうのはノアレイアスにはとても耐えられない。


 ノアレイアスは噂が嘘であることを証明すべく、人前でルディアナを特別扱いしたのだ。





「ーー西の噴水、しばらくぶりだわ」


 西の噴水は皇子宮のすぐそばにある。皇宮の外部からの訪問客はなかなか足を踏み入れる事が出来ない、皇宮奥の静かな場所だった。


 小さな頃から皇太子と行動を共にしていたノアレイアスとルディアナにとっては、共に過ごした馴染み深い場所であり、ひっそりとしたこの場所がお気に入りだった。

 ノアレイアスは皇太子との剣術と勉強の合間に、ルディアナは解術の鍛練の息抜きに、皇太子も入れた3人でこの噴水広場で良く過ごしてきた。


「ーーあぁ、ここには、しばらく来ていなかったな…キャロラインにこの辺りを案内した時ぶりか…?」


「そうね。秘密基地みたいだって、喜んでたわね。折角の皇子宮なのに、あんまり興味を持たないで。この噴水がとても綺麗だって、ーーキャロラインは元気なの…?」


 噴水側のベンチに2人で腰かけると、噴水からの冷風が心地よい。


 以前、ノアレイアスの妹、キャロラインに皇宮を案内した時の喜んだ様子を思いだしたルディアナは、くすくすと笑った。


 アルム家はスダナとルディアナの2人兄弟で、スダナが何かと妹に口うるさい。この前も、ママル家の潜入捜査が兄のスダナにバレて、ルディアナは口うるさく小言を言われたばかりだ。


 一方、ノアレイアスの妹のキャロラインは、ルディアナを本当の姉みたいに素直に慕ってくれている。きれいな瞳をキラキラさせて「ルディアナお姉さま!」とキャロラインに呼ばれるのがルディアナはなんだか誇らしく、嬉しかった。


「久しぶりに、家に来ないか? キャロラインもルディに会いたがってる」


 顔色のすっかり戻ったルディアナにノアレイアスも安堵の笑みを浮かべた。ティーパーティー会場から離れているため、静かで落ち着いた時間が流れていく。


「コーエンのお屋敷に?ーーそうね、カトリーヌ様も、今日、体調が優れなかったみたいだし…。お見舞いも兼ねて、お邪魔させて貰おうかな…」


 ノアレイアスの誘いに、ルディアナは気軽に答えた。


 幼い時からノアレイアスと2人で過ごすと、何故だかふんわりとした落ち着いた空気が漂う。


 これがノアレイアスの独特なオーラなのか、自分に向けられるオーラが見えない解術師のルディアナには分からなかった。


 けれども、この不思議なゆったりした雰囲気を、昔からルディアナはとても好ましく思っていた。


(まさか、アノンの作り出したオーラだったりして…)


 ルディアナが自分自身の可笑しな発想に思わず、笑い出しそうになり、咳払いして誤魔化した。すると、ノアレイアスは噴水庭園の風が寒いのかと、ルディアナの体調を心配して声をかけてきた。


「ルディ、寒いか?」


「ううん、ちょうど良いよ。なんだか、いつもここに来ると静かで安心するね…」


 ルディアナが微笑みながらノアレイアスに顔を向ければ、愛おしそうにルディアナを見つめるノアレイアスと目が合った。


(ノアもリラックス出来たみたいね…)


 ノアの想いに気がつかないルディアナは、斜め向こうな自分の考えに一人納得して、ノアレイアスににこりと笑った。


 ベンチには、日陰ができる様に花のアーチがかけられている。天気が良く、日差しが眩しい今日の天気には格好の休息場所だ。


 皇宮の奥の森から訪れた鳥が木で休んでいるのを眺めていると、何故、皇太子とノアレイアスが急にティーパーティーに参加したのか理由を訪ねるのも面倒くさくなってきた。


(きっと、私には教えられない重大な案件があったのよ…)


 子爵令嬢のルディアナとは違って、公爵子息のノアレイアスには抱えている物が多い。ルディアナは適当に納得すると、そのままぼんやり噴水を眺めた。


 時折、風にのって近くの庭園から来客の楽しそうな声が聞こえてくる。庭園の小鳥達の鳴き声と混ざって、楽しそうな雰囲気が伝わり、ルディアナは温かい気持ちになった。


(ノアと過ごしていると、何だか落ち着くというか、和むのよね…)


 横をチラリと盗み見ると、相変わらずルディアナに微笑むノアレイアスがいる。ノアレイアスも普段のキリリとした貴族然とした様子はなく、リラックスした穏やかな表情をしていた。


 そして、ルディアナはノアレイアスと誰も来ない西の噴水で、静かに2人だけのゆっくりとした時間を過ごした。

読んで頂きありがとうございました!


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