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幽霊と少女

「これで、しばらくは安心よ。あなたのことも、皆忘れないわ」


『まぁ、防波堤を直すのは、ルディの功績じゃなくて、コーエン公爵のボンボンの尽力なんだけれどねー』


「…それはそうだけど! これからは、この地域の人間が、あなたの存在を忘れず、感謝しながら土地を守っていくわ。だから、安心してね」


【御二人とも、本当にありがとう…】


 大きな橋の欄干で、ふわふわと透けた浮遊物2体と対峙しているのは、まだ幼さが残る少女。少し地味にも見える顔立ちの少女は、皇宮で勤める女官達と良く似た制服に身を纏っていた。

 真剣な表情からは、どんどん空気に馴染むように消えていく、1つの浮遊物ーー女性の姿を忘れまいとしているのが伝わった。


「今度産まれた時は、素敵な人生を歩めるように。微力ながら、祈ってるわ」


【…ありがとう…】


 儚く微笑み、もう一度少女に御礼を伝えた後、女性の姿は完全に消えてしまった。別れを惜しむように、柔らかな風が少女の頬を掠めていく。


『ーー成仏、って言うの? あれ、見る度に、なんだか、ゾクゾクするわね…』


 消えなかった少女の形をしたもう1つの浮遊物が、消えていった女性の空間を見つめながら、ポツリと呟いた。


(ーーあなたも、同じ幽霊じゃないの?)



 少女の横でぷかぷか浮かんでいるのは、少し透けた少女の姿をした幽霊だ。少女がもっと幼い時、皇宮の庭園で出会った。それから、少女の事をひどく気に入り、ずっと側で浮いている。


『ねぇ、ルディ? 後の仕事はコーエン公爵のボンボン様々の表部隊に任せて、さっさと帝都に帰りましょうよ? ここは雪も降るし。ルディ、寒いでしょう?』


「あら? アノンはこの自然いっぱいのノードル地方は、気に入らなかったの?」


『当たり前じゃない! こう見えても、私は元皇女なのよ? 都会の空気じゃなきゃ、生きていけないわ!』


(いや、もう、だいぶ昔に死んでるし…)


 ぷかぷか浮かんでいる少女の幽霊に心の中で、突っ込みを入れた少女は、橋の側に新たに立てられた石碑に目を移した。

 その石碑には、数百年前に橋の建築の際、安全を祈願して生き埋めにされた、女性の名前が刻まれている。


『本当に、昔は野蛮な文化だったのね。人を生きたまま、埋めるなんて』


「本当にそうね。そして、その事も忘れ、石碑を壊すなんて。あの女性が怒り狂うのも、分かるような気がする」


『でも、一方間違えば、ひどい悪霊になるところだったのよ? 怒りに我を忘れたとはいえ。おー、怖っ!!』


(幽霊が、幽霊に怯えている…)


 少女は、横でがくがくと震えるジェスチャーをしている少女の幽霊を、冷めた目で見据えた。




 先ほど、消えていった女性の幽霊は、ずっと昔に、橋の建設のために人柱にされた人間だった。

 数百年の時を経て、新たな道路を整備するにあたり、女性の鎮魂の石碑を知らぬ内に壊していたらしい。

 ここ数ヵ月の川の氾濫は、女性の哀しみが怒りとなって、村や町を恐れさせていたのだ。


 雨季でもない冬の季節外れの川の氾濫は、人々を恐怖に陥れた。

 領主は抑えることの出来ない領民の切なる訴えに、絶対的君主、ルクサリア皇帝へ助けを求めた。

 大陸の大半を占めるルクサリア帝国の皇帝に。


 その皇帝直々に調査の命を受けて、帝都からはるばるやって来たのが、橋の上にいる少女と少女の幽霊だった。




「2度と、あの女性ように、人柱を捧げるなんていう馬鹿げた悲劇を起こさないように、国がしっかりしなくてはね」


『それを言われると、元皇族の身としては胸が痛いわ』


 少女の幽霊は、少し反省したように視線を下げた。国政が荒れ、地方まで目が届き難くなった時代の引き金になった自分を、悔やむんでいるのだ。


(少し、いじめちゃったかな?)


しょんぼりし始めた幽霊に、少女は少し己の態度を反省した。そして、元気付けるため、幽霊の友人に出来るだけ明るい声で元気に話しかけた。


「ーーさぁ、アノンの望み通り、ここからは表部隊に任せて、一足早く帝都に帰ろうか」


『うん、帰ったら、ロアンのホットパイ買ってね!』


「えぇ、分かったわ」


 少女の幽霊に、軽く了承した少女は少しだけ寂しい気分になった。幽霊の少女は、お菓子を買っても食べることなんて、もちろん出来ない。うっとり、眺めてニコニコと笑うだけだ。まるで墓前に御供えをしている気分にさせられる。


(アノンとのティータイムは落ち着くけれど、少し切なくもなるのよね…)




 橋の側の屋敷では、新たな堤防を設置すべく、打ち合わせをしている領主と国からの官僚達が会議をしていた。少女は国の官僚ーー幽霊曰く、コーエン公爵のボンボンーーに確認、了承を得た後、帝都への帰路についた。

読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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