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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役女王様の言いなりの僕の人生って誰か助けてくれるのかなぁ☆☆☆

悪役女王様の言いなりの僕の人生って誰か助けてくれるのかなぁ☆☆☆



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene.01



それはそれは、突然のことだった・・・・

だって僕はずっとまじめにこうやってここで皆と仲良く学校に通っていただけなんだから――――



そうさ、誰もこんなお話は信じてはくれないだろう。

それはそれは、恐ろしい話なのだから。



君だって、それは背筋がゾッとしちゃうに決まってるんだもん。

だ・け・どぅ~ 試しに君だけにはお話を聞かせちゃうっ!

で・も・ねぇ~ それは誰にも内緒だよっ!ププッ!





~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



その日は突然やってきたのさ。

そう、その前に僕の名前はシンゴ。

細マッチョだと自分では思っているのだけれど、皆はただのガリガリなもやしっ子だって皆でけなすんだぜ・・・・

この前の運動会のかけっこだって、足が絡まって転んじゃうんだから、無理も無いかな。



えいっ、そんなことなんてもうどうでも良い事さ。

それは君達の勝手な解釈だし・・・・・

だけどね、確かに僕の目指しているのは、プロレスラーのあの筋肉マン的な、誰をも寄せ付けぬほどのその貫禄、そして正義の味方のようなあのマスクの下のフェイスなのさ!



ん?今笑った?

まさか、こんなもやしっ子がプロレスラーみたいな筋肉隆々の体にはなれないって?

そ・れ・わ~、そのうち君にも解ってもらえるよっ!

まぁこれから起こる出来事は、くれぐれもクラスのみんなには内緒だよ!





~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



そろそろ話を戻そうか・・・・



その日は突然やってきた。

おっと、このセリフ、さっきも言ったかな。

まぁ良い。だって突然すぎるんだから。

だいたい、人生の大半なんて突然の出来事にみまわれるものなのさ。

え?10歳の僕に人生を語る資格は無いって?

はいはい、そうかも知れないね―――



だけどね、その日、ある手紙がポストの中に入っているのを見つけたことから、その不思議な国のストーリーが始まった。

じゃ、少しずつ説明するね―――――





~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



事の次第はこうだ。

僕が学校の帰り道、いつもの家路に帰りついたとき、たまたま家の前に郵便屋さんが来たんだよ。



「ええと、君がシンゴ君?丁度良かった、はいこれ、君への手紙だよ。」



郵便屋さんは僕に手紙を手渡すと、慌てたようにその場を立ち去った・・・


不思議に思いながらもその手紙の裏書を確認する。

しかし送り先は書かれていなかった。

しょうがないので封筒をちぎると、中から便箋が現れた。

内容はこうだ。



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


「こんにちは、私はアクシュミーと名乗るものです。

突然ですがあなたにステキなプレゼントがあります。

今日の夜10:00になったらこっそり家を出て裏山に向かって下さい。

貴方がいつも遊んでいる、裏山の公園まで来てください。

くれぐれもご両親には内緒で・・・

それでは今夜そこでお会いしましょう。

貴方に幸運が訪れますように~~~アーメン」



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~



ん?アーメンだって・・・変なの。

それにしてもプレゼントって?

一体なんだろう。


そして親には内緒で夜な夜な抜け出せって?

さっきの郵便屋さんも気になるし・・・

ま、今日もうちの親は残業で遅くになるはずだから大丈夫かな。



そして僕はその手紙の言うとおりに今夜裏山の公園へと向かうことになったのだ。




~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~



約束の午後10:00、シンゴは裏山へと向かった。

もちろん両親はまだ帰ってきていない。

ま、いつものことだもんね。


それにしても、今日は天気が良かったから夜の星たちも一杯輝いているなぁ。

一人トボトボと薄暗い山道を登ってゆく。

辺りは人影は何も無い。

時折フクロウが「ホゥホゥ」と鳴きだすのでギョットしながらも、懐中電灯を先へと照らしながら一歩ずつ登ってゆく。

やがて公園に到着した。


公園のベンチの場所は水銀灯で明るかった。

さきほどの便箋を読み返してみる。

しかし一人ぼっち公園に居ると何だか心細いものだ。

キツネやタヌキが来て僕を化かしやしないかと妙な空想をしてしまう。

一体これから何が起こるのだろうか・・・・



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~



暫くして公園の入り口から何やら一点の光がこちらに向かってくる。

徐々に徐々に近づいてきた。

やがて水銀灯に照らされた人影は、杖を突いたおばあさん。

夜な夜な俳諧でもしているのだろうかと気になる。



「おお坊や、シンゴ君かい?」


「は、はい。そうですが・・・あなたがアクシュミーさん?」


「いいえ、私はウメナと申します。遅くにゴメンね。その手紙を貴方に送るようにと言付けられて郵便屋さんにお願いしました。」


「そうですか・・・」



ウメナおばあさんはベンチに腰掛けるシンゴの隣に杖を支えに座った。



「今日は良く晴れていたから申し分ない星空だねぇ。

さて、本題に入りましょう、突然お呼び立てしたのはね、何と申しましょう、君のご両親のことなんだがね。」


「は?多分残業でまだ帰ってきていません。」


「そうかい・・・でもね、今日はちと違うんじゃ。何から説明をしたら良いのか・・・シンゴ君があまりにショックを受けてしまっては困るからねぇ・・・

ええと、その手紙の差出人はアクシュミーというとっても悪いお方でね。というのも、その方の身勝手なせいであなたのご両親は本日さらわれてしまったんだよ。」


「えっ?ど、どゆこと?」


「理由は私にも判りません。何しろ貴方のご両親は良い人過ぎるので、多分アクシュミーが嫉妬したのね。」


「はぁ・・・で、何処に?」


「そうねぇ、何と申したら良いのでしょう。あちらの世界に連れて行かれました。」


「あ、あちらって?」


「うん、死後の世界よ。」


「死後?ってことは、どゆこと。」


「アクシュミーによって葬り去られました。それは残酷な方法で。」



もともと弱弱なシンゴはちびりそうになりながら聞いている。



「あのね、何と申しましょう、ギロチンで。」


「な、なんと!」



シンゴは少しちびったような気がして慌てる。

そんな様子はお構い無しにウメナ婆さんは話を続ける。



「それで貴方をあちらの世界に償還するためにあの手紙を送ったのです。

うん、そろそろ時間ね・・・」



すると夜空の星たちがいっせいに輝きを増し始める。

公園の水銀灯よりもずっとずっと・・・

そしてその星達は一点に集まるやこちら目掛けて流星のように急激に近づいてくる。



「あっ、危ない!」



シンゴがそう発するや否や、ウメナは杖を使って星の一点目掛けてグルグルとかき混ぜ始める。急速に接近する星たちにシンゴは眼をくらまされ、光の強さでもう何も見えない――――――



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene.02



シンゴが目覚めると、いつのまにかベンチに横たわっている。

どうやら気を失ったようだ。


先ほどの眩いばかりの星は何事も無く消えており、水銀灯の光だけがシンゴを照らしている。

そして先ほどまで居た老婆ウメナの姿は見当たらない。



すると、公園の入り口のほうから一点の光がこちらに向かってくる。

あれ?さっきと同じような光景。もしかしてデジャヴ?

その光は先ほど同様にグングンこちらに近づいた。

やがて水銀灯の光に照らされた人影は、かわいらしい少女の姿。

年のころはシンゴと同い年の10歳くらいだろうか・・・・



「あなた、シンゴ君ね。」


「ああ。君は?」


「ワタシ、ウメナ。」


「え、ウメナっておばあさんじゃなかったかな?」


「よくわかんないけど、アクシュミーからの言付けでここにシンゴ君ってマッチョな少年が居るから連れて来るようにって・・・」


「へっ?オレはもやしっ子でマッチョじゃないけど。」


「何言ってんのよ、その筋肉、逞しいじゃないのよ!ププッ!」



シンゴは鳩が豆鉄砲でも食らったようにキョトンとする。

次の瞬間、両腕も眺めると先ほどまでの自分とはあまりに異なっていることに気付く。

だって、まるでプロレスラーのように太い腕になっていたのだったから。



「お、オレって・・・・・」


「何よ、変な子ね。いいから早く行きましょ。アクシュミーに怒られちゃうからっ!」



シンゴは先ほどまで杖を突いたおばあさんだったウメナに連れられて公園の出口へと向かう。どうにも納得が行かないままにただ着いていった。



~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



先ほど来た山道を下ってゆく。

ウメナは懐中電灯で照らしながらスタスタと先を急ぐ。

ようやく山道の登り口まで到着したシンゴは再びキョトンとする。

だって~見慣れた住宅地が忽然と消えているではないか!

これは一体・・・・



「あのぅ~コレって一体?」


「え?何よ。」


「だから・・・家とかなんにも無いけど。」


「あるわけないよ、ここは街からだいぶ離れているから。それよりシンゴ君は何でベンチに居たの?」


「良くわかんないけど、アクシュミーからの手紙を受け取って、今夜10:00に公園のベンチに行けって書いてあったから待っていたらウメナ婆さんが現れて・・・」


「何よ!ワタシ婆さんなんかじゃないわよ。失礼しちゃう・・・」


「ご、ゴメンよ。さっきは別のウメナ婆さんがいて、そしたら星達が突進してきておばあさんがそれをかき混ぜて、そいで気を失って・・・」


「へぇ~、シンゴって変な子ね。マッチョだけど。」


「うん、そうかもしれないね・・・しかしぃ~、いつのまに何故マッチョ?」



~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



「それにしてもシンゴ、ワタシ気になるんだけどあの悪役女王のアクシュミーに呼ばれたのは一体どんな用事なのかしら。あの人ったら気まぐれでいつも悪いことするのよ。呼ばれたらあなた終身雇用で奴隷のように働かされちゃうかもしれないし・・・心配ね。」


「アクシュミーって悪役女王なの?

実はね、さっきのウメナ婆さんの話では、僕のパパとママがギロチンにかけられちゃったらしいんだ。僕にはまだちっとも信じられなくて・・・」


「ギロチン?やっぱりあの人って怖い人ね・・・じゃパパとママは何か気に入らないことでもしたの?」


「そんなことないよ、うちのパパとママに限って。いつも残業で遅くまで働いているから働き者さ。でもね、時々寂しくなるのさ。

いつも僕はカギっ子で、晩御飯を一人で食べて寝床に就く日々。二人とも忙しいから、ろくに口も聞かないんだぜ。休みの日も疲れているから何年もお出かけにもつれてってくれないし、行くのはいつものスーパーくらい。


だから時々夜空を見上げて思うのさ。

もしかしたら僕は拾われた子で、本当のパパとママじゃないのかもしれないとね。」


「も、もしかしてシンゴ、星に変なお願いをしたりしてないよね?」


「変なお願いって?」


「そうねぇ、例えば星空を見上げながら他の世界に生きたいとか、本当のパパとママがほしいとか・・・」


それを聞いたシンゴが何故かギクッとする。


「そ、そんことないよ!だけど・・・」


「だけど何よ。もしかしてお星様に願い事しちゃったの?それよ、それそれ!だからアクシュミーの罠にかかっちゃったのかもしれないわよ。そうよシンゴのせいね。」


「ち、違うよぅ!ただね、もっと優しいパパとママが欲しいって言ったんだ。アッ!」


「ほらっ!それよそれ、あのアクシュミーって黒魔術で何でも見通せる力を持っているのよ。常にセンサーを働かせて監視しているんだから。きっとあなたの願いを利用して悪さを働いたのよ。」


「そ、そんなぁ~」


「だったら・・・・そうね、アクシュミーの城に行く前に、森のあの人に相談よ!さぁ、先を急ぎましょう。」



そう言うや、ウメナはいきなり真っ暗闇の小道を駆け出してゆく。

おいてけぼりを食わぬよう必死で着いてゆくシンゴ、の筈だったが、なぜかしっかりとした足取りで思わずウメナを追い越しそうになったほどであった。

いつの間にか付いた筋肉のおかげかな、ヘヘッ!



暗闇の中を一点のライトの光を頼りに突き進んでゆくと、やがて「あの人」の居ると言う森に到着する。

鬱蒼と霧が辺りを包みこむ中で、尚も森の奥へ続く道を尚も駆け出して行く。

どうやら大きな池のあるほとりに到着すると、その脇に一軒の家があるのに気付く。

入り口に到着した二人。

ウメナが木の扉をノックする。


「ごめん下さい!ヨゼフさんっ!」


ヨゼフ?どこかで聞いたような名前だが多分気のせいだろう。

シンゴは事の成り行きを見つめている。


「ギギギッ!」という軋みとともに木戸が開かれた。

そこには小柄なトンガリ帽子の、まるでドアーフのような吊りヒゲのお爺さんが立っていた。



「何事だね、こんなに夜遅くに!子供は早く家に帰って寝なさい。」


「違うのよ、ヨゼフさん・・・実はね、この子のご両親がアクシュミーにさらわれてギロチンにかけられてしまったのよ。それで・・・・」


「おお、その話か。ワシも小耳に挟んだが酷いことをするもんだ、あの女は。ま、今夜は遅いから中にお入り。」



ヨゼフに言われるがまま部屋の中へと入る二人。

今夜はここにお泊りとなった――――





~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



「ドスン、ドン!」

明くる朝早く、シンゴはものすごい外からの音で目覚める。

それは昨夜のトンガリ帽子に吊りヒゲのヨゼフが斧で薪割りする音だった。

寝ぼけ眼をこすりながらウメナも起きてきた。

様子を伺いに戸外へ出る。


霧に煙っていたのはいつのまにか澄み切っている。

木漏れ日が池の水面を照り輝かしてゆく。



「おう、お目覚めかね。もうすぐ朝飯の支度をするから池の水で顔を洗いなさい。」


ヨゼフが二人にそう告げると、準備された石組みの中に薪をくべ始める。

枯葉を載せて火を着けると煙が白く棚引く。

やがて火が大きくなると鍋に池の水を注ぐ。

二人は池の周りを暫く散策することにした。



「この辺りにはね、モンスターが居るらしいの。それはねつがいの大きなカエルの化け物で、謎かけをするそうなの。そのクエストにちゃんと正直に答えないと、モンスターに食べられちゃうのよ。」


ウメナは緊張した面持ちでシンゴにそう告げると、池の水面を凝視する。

やがて池の対岸に差し掛かった頃、ヨゼフがこちらに手を振る。

朝食が出来たようだ。




~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



朝食は美味しいカレーだった。

シンゴの大好物!

ヨゼフが一息ついたところでパイプに火をつける。


「どうだった?カレーの味は。」


「はい、とっても美味しかったです。特にチキンなんかホロホロに煮込んであって!」


「ほう、それはそれは。じゃがな、ちとそれは違うぞ。」


「何が?」


「オマエさん達は鶏肉と勘違いしているようじゃが、あれは新鮮なカエル肉じゃ。」


それを聞いたシンゴが思わず喉を詰まらせる。

ウメナも微妙な表情へとかわる。


「ま、美味しかったなら大成功じゃ!ところで昨日の話、本当に君のご両親が?」


「はい、聞いた話なので信じられないですが。」


「そうかね・・・よし。それならば「木の精」に相談してみよう。」


そう言うとヨゼフは立ち上がると家の中へ入っていった。

間もなくリュックサックを担いで再び現れる。


「では、いざ出陣じゃ!」


ヨゼフは二人を連れて、アクシュミー女王の住む城の方角へ続く小道を進む。



~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



森は尚一層茂っていった。

木々の高さが徐々に高くなってゆく。

先はまだ長いのだろうか。

二人が歩きつかれた頃、ヨゼフが足を止める。

そこには他の木々と比較にならないほどの大きな大木が鎮座していた。

ヨゼフが話し始める。


「この大木は今から2千年前から生きている杉の木じゃ。この木は何でも知っている。長く生きたからね。ここで多くの人々の人生も見てきたのだろう。そしてついにこの木は神となったのじゃよ。その証拠に、この木に額をくっつけると、何処からとも無く話し声が聞こえてくるのじゃ。それはな、死んだ人の声じゃ!」


シンゴとウメナは思わず顔を見合わせる。

死人の声?一体それって?


「シンゴ、ほらこっちにおいで。」


ヨゼフは木のそばにシンゴを近づけると額をつけるように言う。

シンゴが思わず動揺すると、


「シンゴ、オマエは今誰に会いたい?ご両親だろ?もしご両親がご存命ならばこの木からは声はしないはずじゃ。さぁ、試すがいい。」


シンゴの鼓動が高鳴ってゆく。

ウメナも半泣きの表情に変わる。


「はい、わかりましたヨゼフさん。」


意を決して恐る恐る額を木の幹にくっつけた次の瞬間、シンゴが涙ぐんだ。

それを見たヨゼフが俯く。

暫くしてシンゴが額を幹から遠ざける。


「シンゴ、どうじゃった?大丈夫か。」


「はい・・・大丈夫です。」


「で、何が聞こえた?」


「いいえ、何も。」


「そうか、ならばまだ希望は持てるな!よし、ワシは此処までの道案内としよう。あとはウメナ、わかるかな?」


「はい、大丈夫です!」


「ならば急いで救出に向かえ、じゃあまたな!」


安心したヨゼフが二人にニッと微笑んで来た道を戻る。

シンゴの表情はいくらか和んだ様子。

二人は悪役女王の城を目指し駆け出していった――――



~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~



どのくらい走っていただろう、ようやく森を抜け出すことが出来た。

そこは広々とした丘陵地帯がかなたまで続いている。

疲れも知らずにシンゴは筋力を生かしてズンズン突き進む。

途中から疲れきったウメナをおびりながら、尚も駆けて行った。

ようやく未知の先に異様な光景が現れた。

それは石組みの巨大な山のような物体で、その頂には何とも下品な色彩の城郭が誇らしげに建っている。


「シンゴ、あれよ。悪女の城、「パープル城」。」


近づくとそれはとても巨大なキノコ型の城であり、しかもパープルカラーベースに大小の蛍光ピンクの水玉が不規則にちりばめられた壁面の、なるほどセンスのかけらも無いお下劣な色であり、まるで毒キノコのようであった。まさにアクシュミーらしく・・・



やがて石組みの近くに洞穴のような城へと続く入り口にたどり着く。

洞穴の内部は湿っており、カビの臭いが鼻を突く。

ライトの光を頼りに奥へと続く道を進む。

入り口が見えなくなっていた。

暫くすると少し広いスペースが現れる。



「ガラガラッ、ズドーン!」



あまりの大きな音に二人がおののく。

一体何が起こったのだろう・・・・ウメナが辺りを照らすと入り口からの道が石の壁で塞がれていた。

二人に恐怖が走る。もう、後戻りは出来ないことに気づく。


すると置くから巨大な化け物が現れたではないか!

そ奴はそのスペースに設置されたランプに灯をともす。

異様なまでに膨らんだその化け物は2頭いた。

皮膚はイボに覆われていて飛び出た目玉でこちらを睨んでいる。

口は左右に大きく張り出しており、がま口状にタラコ唇。

一口で僕らを飲み込むことさえ可能だろう。

それはつがいのイボガエルのモンスターだった―――



「オイ、お前ら何しに此処に来た?」


「ええと、アクシュミー女王からの招待で。」


「ん?ワシャ聞いてないぞ。」


すると傍らのもう一頭が一歩前に出てこちらを凝視する。


「アンタ、昨日言ったでしょ、もう忘れちゃったの?ほら、あのギロチンの夫婦のせがれよ。」


「ナニィ?そうだったかい、それはそれは可哀想なこって。で、どうする?」


「アタイ、腹減ってるから丁度いいオヤツにしちゃいましょうか?」


それを聞くとウメナが泣きべそをかき始める。

シンゴはたまらずに叫ぶ。


「女王様の呼び出しで参上したんだぞ!いいから俺たちを通せよ。」


「ヘン、そんなこと知るかっ!だいたい俺たちにろくなもの食わせないからこうなっちまうんだ。いいからお前らは俺たちのエサになれ!」


「ちょ、ちょっとアンタ!わたしゃ女王様に歯向かう訳には行かないよ!だってあの人容赦しないんだからね!下手すると私たちもギロチンよ。そして女王の食事のカレーの具にでもなっちまうよ。」


「な、なんとっ!か、カレーでござるか?そいつは困るな・・・ならば使用が無い。」


「ちょ、ちょっと、そんなに簡単に通したら、私たち役立たずだと思われるでしょ?そうねぇ~ならば、アンタ、例のあれ何かどう?」


「おお、あれっ、てぇと、あれでござるか?」


「そうよ、あれよアレアレッ!やっちまいなさいよ。」


「フフフッ!オマエも悪よのう~ほいじゃあオイラからやっちまうよ。」


「ウンウン、やっちまいなっ!」


二人の話に緊張感の高まる二人。

シンゴは恐怖をやっとのことで押さえ込みながら二頭を交互に睨みつける。

一体どんな罠を仕掛けてくるのだろう・・・・



「ハイッ!それでは~~ワッシからの質問コーナー!第一問、君達は今朝一体何を食べてきましたかぁっ?」


あまりにもそのダンナガエルの豹変振りにシンゴが眼を丸くする。

ウメナもようやく泣き止んだ。


シンゴはこの質問の答えをためらっていた・・・

果たして本当のことを言うべきであろうか、と。

なんたって、寄りにもよって本当の話、そう、「新鮮カエル肉カレー」を食べてきたって言ってごらんよ、それによって気分を害した二頭は俺たちに何をするかわかったものじゃない!とりあえず・・・



「ええと・・・鶏肉カレー、だったと思う。」



ダンナガエルの眼光が一瞬、鋭くなった気がした。



「ナニィ、思うだと?オマエ正直に答えているんだろうな?まぁ良い。後で答え合わせするとして・・・それではぁ、第二問!ウメナの名前の由来は?」



急に振られたウメナが慌てて眼を真ん丸くする。

な、なんで自己紹介していないのに名前知ってるの?

しかも、私の名前の由来まで知ってるってどゆこと~~~

でもね、ワタシ恥ずかしい・・・

だてぇ~~~まさかワタシのママが梅干と菜っ葉の漬物が大好物だから、ふたつあわせてウメナなんてぇ~~~シンゴの前で言えっこないわよぅ・・・・



「えっと~~、多分~~~、パパがウメの華のように真っ白で美しい子になるようにって、言ってたような気がする・・・・」



またもやダンナガエルの眼光が一瞬、鋭くなったような・・・・



「ナニィ、多分だと?オマエ、オレ様に隠し事してんじゃないだろうな?ん~まぁ良い。後で解るさ・・・それではぁ、最後のしつもん~!これから僕達は何をするでしょうか?」



この質問にポカンとする二人。そんなこと解る筈ないし・・・

二人は顔を見合わせて頷くと、同時に大声で叫ぶ。



「私たちを食べます~!」



そして、まるで空気が凍りついたように暫く洞窟に沈黙が訪れる。

ポタポタと天井から水滴が落ちる音が聞こえるほどの不気味な静寂。

そしてイボガエルモンスターの奥さんのほうが呟き始める。



「あんた達って、正直者ね。あ~あ、なんだかアタシ食欲無くなっちゃった。ねぇ、アンタ、この期に及んで此処は引き分けって事で赦してあげましょ!」



「うん、そうだね・・・ってオレ様が言うとでも思ったのか?とんでもない。オレには全て承知の上だね。俺を見くびってもらっては困るよ、お二人さん。今までの答えは全て俺たちのご機嫌取りに過ぎないんだ。うまいこと言えば誤魔化せると思っているのさ。こいつらウソツキだ。」



「ええ、ワタシだってこの仕事何年もやっているから解っちゃいたけどね。だけどね、この子達まだ死ぬには早いよ。幼いんだからまだ人生のことなんかわかっちゃいないのさ。だから赦してあげて。」



「じゃクエストについては許そう。しかしだ、此処を通るためにはオレ様との力勝負で勝たなければならないぞ。いいな。ヨシッ、コレでも食らえっ!」



いよいよバトルの火蓋が切られた!



ダンナガエルがその巨体に似合わずすばしっこくシンゴに向かって駆け寄りラリアットをかます。なんとも古い技をかもしだすもんだ。


「アーッ!」


シンゴはたまらす洞窟の壁に叩きつけられるが、ヨロヨロ起き上がると助走をつけてジャンピングニーパッド。


「ガゥオゥッ!」


ダンナガエルがひるむと今度は頭突きを数発。


「ギャーッ」


あまりにゴツゴツのイボによってシンゴが流血。

突っ伏したシンゴにここぞとばかりに引き釣りあげると、壁へと投げ飛ばす。


「ドスッ、グフゥッ・・・」


そこへ同じくすばしっこく駆け寄った巨体の嫁ガエルがジャンピングニーでシンゴの上に襲い掛かるや否や、虚ろなシンゴが寸ででかわした事で石畳の床へ叩きつけられた!


「ダーンッ、ゲロロ・・・」


思わず脳震盪でぐったりの嫁ガエルを見逃さなかったウメナが閉め技をかける、が、あまりに首周りが太すぎて腕がかからない。すると目覚めた嫁ガエルが身をひるがえすとウメナに乗っかる!


「ギャーッ!オモウィ~~~ッ!」


ウメナの悲鳴で我に帰ったシンゴが嫁ガエルに張り手を2~3発!


「ベシッ、バシッ!!」


嫁をほっとけないダンナガエルが再びシンゴを引きずりあげようとした瞬間、シンゴはダンナの逆手をとって巴投げで壁面へぶっ飛ばす!


「ダーンッ!ゲロログフフッ・・・・」


突っ伏したダンナガエルに飛び乗るとウメナにカウントを取らせる。



「ワン、ツー、スリーッ!」



そして勝敗がついたのだった。


シンゴはウメナの手を取って、再び洞窟の奥の通路へと駆け出していった――――




~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene.03



洞窟を抜けると、二人はようやく戸外へと到着する。

そこは広場となっており、頭上にあの下品な「パープル城」がそびえていた。

城の入り口の木戸を蹴破ると、長い螺旋階段がうず高くまるで竜のような格好で階上へと続く。

息を切らせながら二人は上り詰めると、レッドカーペットが敷かれた通路を奥へと進む。

やがて突き当たりの蛍光ピンクの扉が開かれていった☆☆☆



内部はアクシュミーの割にはセンス良くまとめられた黒曜石のホール。

その中央にはガラス張りのエレベーター。

乗り込むと最上階のボタンを押す。

音も無く静かに階上へと滑り出してゆく。

そして間もなく到着した。



扉が静かに左右にスライドしてゆく。

すると眩いばかりの金色の通路に二人は眼が眩む。

ああ、さぞかし悪い事をして伸し上がったに違いなかろうと思わずにはいられない。

その突き当りの部屋に辿りつく。



「ウメナ、覚悟は出来ているかい?」


「うん、シンゴこそ大丈夫?」


「ああ、じゃ行くよ!」



覚悟を決めた二人にはもう思い残すことなどなかった。

ただただ重い重厚な鉄扉を開け放つ。



「こ、これは・・・・」



そこらじゅう真っ白けな大理石で出来たその部屋が眩しかった。

リビングには同じく真っ白なテーブルとソファー。

その先に扉が一つ開かれていた。

二人は恐る恐る近づく。

覗き込むとそこは寝室だった。

部屋の窓越しに天蓋つきのベット。

そこには老婆が横たわっている。

他に人影は無い。

そういえばあのモンスターガエル夫妻以外には誰とも会わなかったのが不思議だ。

ベットの主がこちらに手招きする。

二人は慎重に近づいてゆく。



「さ、こちらにおかけなさい。」



老婆がベットの傍らのチェアを指差す。

二人は初めて出会う老婆の顔を眺める。

しわは多いが昔は綺麗だったであろう端正な顔つき。



「良く来たね、大変だったね。始めまして、私がアクシュミーよ。」



二人は想像だにしなかったアクシュミーのその弱々しい姿に動揺を隠せないで居る。

どうやら彼女は病気のようだった。



二人は自己紹介する。

アクシュミ―女王はそろりと起き上がると二人の手をそっと掴んだ。



「ごめんね、こんなに遠くまでお呼びしちゃって。良く此処まで来てくれたね。

貴方方が言いたい事は凡そ見当がつきますよ。

そう、この私が万人が脅威に思っているアクシュミーなのです。

それでは此処にお呼びした訳をご説明しましょう・・・


実は、ワタシはもう長くは御座いません。

しかし、どうしても叶えなければならないことがありましてね。

それというのも、シンゴさん、あなたにとっての将来を危惧してのことです。」



シンゴは要点がつかめぬまま聞いている。

ウメナは疲れも手伝ってウトウトし始める。



「あなたのご両親がギロチンにかけられたという話はご存知ですね。実はね、あれはあなたをこちらの世界に呼び寄せるための術だったのですよ。

驚いたでしょう。あなたのご両親はご健在ですよ。というか、先ほどプロレスごっこをやってたでしょう。そう、あのカエル夫婦はあなたのご両親です。」



シンゴはキツネにつままれたように茫然自失になりかける。

一体この人は何を言っているのだろう。もしかしてこんな演技で俺たちを騙そうとしているのではないだろうか。まぁ結論を出すのは早いかも・・・少し話を聞いてみよう。



「あのようなカエルの姿はワタシが魔法をかけたのです。それもご両親からのたっての希望でしてね。ご両親は貴方のことをとっても心配していました。大きくなっても弱くて中々成長してくれないことに。このままでは自信のない人間になってしまうのではないかと。そこで一芝居打とうということになりました。貴方が大好きなプロレスラーの体にして数々の試練を乗り越えるようにと。そうすれば心も体も鍛えられて健全な人生を歩めるのではないかとね。

そして貴方はそのミッションを無事通過して此処までやって来れましたね。

あなたの誠実な気持ちはカエルへの思いやりから嘘までついてしまったのでしょう。しかしね、それは必要悪なのですから、気にする事ではありません。そしてウメナさんのために一生懸命にへこたれることなく悪と対峙して戦い抜いた。非常に立派なことですよ。」



すると戸外から二人の人物が現れた。

それはシンゴの両親であった。



「パパ、ママ・・・」


「オマエ、中々やるなぁ、ジャンピングニー、効いたぞ!」


「シンゴ、強くなったね。いつもお母さん達はシンゴを一人にしちゃって心配だったけど、これで自信がついたわね。よかった。」



アクシュミーが再び呟く。



「ワタシもね、あなたの気持ちはよーく判るの。そしてこの歳になるまで自信がなかったせいで、嘘までついて人々の脅威として君臨してきたの。それは全てこの世界を争いの無い平穏なものにするための私なりの考えだったのよ。でもね、結局そのせいでワタシは世継ぎを作ることができなかったの。だから貴方のご両親の申し出に快く同意することが出来たのよ。私のような人間を二度と輩出することの無いようにと、ね。さ、私も歳だからそろそろ帰んなさい。貴方達を無事に現世に戻してあげますよ。」



アクシュミーは傍らに置いてある杖を振り上げると天井に向かって回転し始める。

アレッ、何処かで見たような・・・・



「では皆さんいいですか?ワン、ツー、スリーッ、ダーッ!」





~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene.04



「シンゴ、大丈夫か?」



シンゴはこともあろうに裏山の公園のベンチで目覚めた。

そしてどうしたことか両親がそこにいる。



「もう、心配したわよ、こんな夜遅くに徘徊しちゃって。残業から帰ってきたら留守電にメッセージが入っていて・・・ウメナさんっていうご老人からでシンゴのスマホから自宅へメッセージを入れてくれたの。それにしてもどうして此処へ?」


「で、ウメナさんは?」


「それがね、私たちが此処に来たら既に居なかったのよ。不思議ね。」



シンゴは長い長い夢を見ていたのであろうか・・・それにしてもリアルだ。

でも何だか両親には正直あちらの世界の出来事のことを言い出せないで居る。

だってモンスターガエル夫妻だったんだから・・・



そして両親に連れられて無事に帰宅した。




その夜は眼が冴えてしまったせいで誰もがなかなか寝付けないでいた。

するとママが何やら思い出したように、押入れから古いアルバムを引っ張り出してきた。


懐かしむように一枚一枚ぱらぱらと捲り始める。

シンゴが生まれた赤ちゃんの頃、1歳の誕生日の写真、しかしここ数年は写真なんて撮ってもらっていなかったな。


すると・・・ある写真にシンゴの眼が釘付けになる。それは2歳のシンゴが老婆に抱きかかえられている写真。



「ママ、この御婆さんっていったい・・・・誰?」


「あらやだ、これは貴方のお婆ちゃんじゃない。あ、そうね・・・あなたが物心つく前になくなっちゃったから憶えているわけ無いか。」




・・・間違いない。


なんとシンゴを抱きかかえているその御婆さん・・・・それはさっきのアクシュミー女王に違いなかったのだから―――――  誰にもいえないけどねっ!






////////// Fin ☆☆☆☆☆











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