第99話 涙の謝罪
信太郎が捕まってから2ヶ月はあっという間だった。
「…」
両親は迎えに来ない。そもそも、捕まってから一度もコンタクトを取っていない。寂しくはあるが、今はこれで良いのだと言い聞かせる。
「信太郎!」
施設を出てすぐのところに啓太が立っていた。出所の日時などは知らせていないので、恐らくアニマテリアル達を使って探ったのだろう。
「…啓つぁっ!?」
とりあえず近付いた瞬間、啓太のパンチが腹に決まった。
「これは…千夏がやられた分」
「うっ…そうか」
やられたことへの不満、やり返す気は全く起こらない。これからのことは既に決めていた。
「案内してくれ。きっと俺だけじゃあの公園に辿り着けない」
「うん。みんなも待ってるから…行こう」
目的の場所まで移動している間、2人は特に何も話さなかった。信太郎はまず皆の前で話したい。そこに啓太が気を使っていたというのもあると思う。
アクトナイト記念公園の前まで来ると足がすくんだ。中心の銅像の周りには、仲間たちがこちらを見て待っている。
啓太は信太郎を置いていき、千夏のそばから信太郎を見守った。
「…っ!」
そして信太郎は逃げずに進むことを選んだ。少年たちの前まで来ると、口をモゴモゴとさせて言葉を選び始めた。
「っ………っ………っ」
言葉を急かしたり催促されたりはしない。啓太たちは静かに待っていた。
「ごめん…なさい」
「本当に…ごめんなさい…」
「暴れて人を傷付けて…迷惑かけてごめんなさい…!」
三度目に謝った時には涙で視界が滲んでいた。
「…まあもう悪いことはしなさそうだし、良いんじゃね?」
「次こんなことしたら今度こそ絶交だからね」
「啓太が許すからじゃなくて…私の意思でちゃんと許すよ」
「鼻水すげえよ。ほらティッシュ」
「足、引っ張らないでよね」
「やっと仲直り、だね」
「許す許さないを決めるのは俺たちではなく一般人だ。正直、お前が戻って来たところでどうでもいい…」
「戻って来たなら戻って来たで、お母さん達が誇れるぐらいには頑張ってよね?」
「だってさ。良かったね、信太郎」
信太郎は涙を拭うと、シャオの元に寄った。再びアクトナイトとして戦うために。しかしシャオは装備一式を渡さなかった。
「無理に戦いに戻る必要はねえ。このまま学生として生きる道もある」
「それこそ無理な話だよ。犯罪者になってもう人生詰んでるし、戦って償うことでしか生きられない…」
「…けど、すぐに剣とマテリアルを渡すわけにもいかねえ。明日から特訓するぞ」
「まあとりあえず…よく戻って来た。おかえり」
「うん…ただいま!」
信太郎は2ヶ月収容されていた間、社会で何が起きたのかを聞いた。
「デスタームが本格的に日本の政治に参加…」
「メルバド星人から地球を守る。お前たち子どもの行動よりも、巨大な組織を持つ男の言葉を政治家たちは信用したらしい」
「米軍基地みたいに宇宙人の基地が造られるかもって噂されてるけど…どうなんだろうね」
「それだけじゃないヨ」
声がした途端、剛は銃を抜いてすぐさま発砲する。
弾丸が発射された先に立っていたメノルは剣で防御していた。
「お前…どうやってここに来た!」
「この剣がここまで来たがってたから連れて来てあげたんダ」
「何意味の分かんねえこと言ってやがる!」
公園にはシャオが選んだ者以外は辿り着けないように強力な結界が張られている。これのおかげで、信太郎は今日まで公園に来ることが出来なかったのだ。
しかしメノルはここまで来た。結界に破られた形跡もなく、ワープした痕跡も感じられなかった。
「僕たちはもっと強くなるよって脅しに来たんダ。バッドを倒した後のことは覚えるよネ」
「私たちが倒した後…メルバドアル達が出るようになった!もしかしてまた何か起こるの!?」
「シーノからのプレゼントだヨ。何が変わったかは次の戦いまでお楽しみニ」
「1つ聞かせてくれ…あの人は地球侵略をしたがってなかった…お前がやらせたのか?」
「僕っていうか運命がネ。次はエルビス、その次は僕だヨ」
「…未来を知ってるような口振りだな。それにしては自分が負けることまで認めてるのは不思議だけど」
「僕が見てるのは未来じゃなイ…」
メノルは何もない手をじっくり見ると、右足を軸に反転し歩き出した。
「逃がすか!」
背中を見せた所、剛と那岐が真っ先に飛び出した。
「無駄だヨ」
しかしバリアによって2人の身体は跳ね返された。
「君たちが強くなると僕たちも強くなル…行き着く先は何だろうネ」
「待ちやがれ!」
シャオが追いかけるもメノルは姿を眩ませ逃走。次の戦いからまた何かが変わるということが気掛かりで、せっかくの感動ムードがぶち壊しだった。
「…おい啓太、どうすんだよ」
「いや考えてないよ。こんなことになるなんて思ってなかったし…」
グウゥゥ…誰かの腹が鳴った。昼ご飯にはちょうどいい時間だった。
「うっし、じゃあ飯行くぞ。信太郎の出所記念だ」
「いいっすね!焼き肉食べたいです!」
「俺たちも行くのか?」
置いてけぼりはなし。シャオを先頭に少年たちは焼き肉屋を目指し出発した。