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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
98/150

第98話 非常に困難、日常への帰還

 信太郎はこれまでの罪とその特異性により逮捕された。裁判の結果は有罪。少年院ではなく刑務所で懲役2ヶ月となった。当然、これでは足りないと世間から批判の声が挙がったが、一週間もしない内に止んだ。




 信太郎には薬物の投与、カウンセリングなどによる更正プログラムが実施された。



 つい先程、薬の副作用で嘔吐したばかりの信太郎は格子の隙間から空を見ていた。

 牢屋には彼1人。最初は他の囚人たちと一緒だったが、信太郎が虐められた末に右目を失明したことで、部屋を移された。




 薬のおかげで気分がいい。綺麗な月を見るだけで幸せになれた。


「あと何日だっけ…」


 気が付けば1日が終わっていた。




 過去に、シャオは夢で千夏たちが倒した三銃士の1人、バッドに出会ったと言った。

 自分が殺した2人の友人、真華とイズムにいつか夢で会えるんじゃないのかと期待していたが、今日まで会うことなく過ごして来た。


「起きろ囚人番号1224。朝食だ」


 看守に起こされ、また1日がスタートした


 食事の乗ったプレートが運ばれて来た。食欲はないのだが、信太郎はスプーンを持つ手を動かし、機械のように完食していた。


 その後の刑務作業はトラブルを避けるため、他の囚人から離れた席でやらされる。作業自体は簡単な物だが、途中で目眩がしてはミスを繰り返していた。


 昼食の後、更正プログラムが始まる。医師と話してカウンセリングを受けた後からが地獄だ。

 ベッドに寝かせられた後、身体中に装置が取り付けられる。血液が抜かれ、それを補うように全く別の液体が入れられる。驚くべきことに、こんなことを繰り返していて今まで嘔吐だけで済んでいるのだ。


 何かのデータを取っているようだが、信太郎はこんなことをしても大した物は獲られないのにと鼻で笑っていた。



 プログラムの後は雑に牢屋へと戻される。それから今夜もまた、月を見るのだ。


「あっ…流れ星…」


 星空を眺めている内に気が付けば眠っていて、起きた時にはまた1日が始まるのだ。








「それでは君たちは、この街を守るために戦っていたということだね。クラスメイトの大月君は気の迷いから騒ぎを起こしてしまったが…」

「まあ…大体そんな感じですね」


 正体を明かした啓太たちは年が明けて初めての登校日だった。視線を感じながらも何食わぬ顔で登校したが、さっそく生徒指導室に呼び出され話をしていた。


「行方不明だった君が無事だったのは良かったが…しかし、大月君のしたことは許されることではない。学校にもマスコミが殺到して迷惑してるんだ」

「許されないことだけど彼は反省してるはずです。それに今は刑務所で罰を受けています。それを忘れないでください」

「留年は確定しているんだ。退学して宇宙人との戦いに専念してもらった方が、校長として、住人の一人として助かるがね」

「…」

「それに君たちもだ。こんな厄介者たちが我が校に大勢いるのは困る。来年度には別々の高校に転入してもらうよ」

「ふざけんな!自分たちの都合ばっか押し付けやがって!」


 殴りに行こうとした将矢を奏芽たちが止めた。啓太も同じ気持ちだが、冷静に話を続けた。


「…そろそろ1時限目が終わる。2時限目から授業に参加したいので、話は放課後にしても良いですか?」

「馬鹿にしてるのか?今はそんなことより大切な話をしているんだぞ!」

「あの、分かってますか?これまで私たちがどれだけ頑張って来たか?死にそうになっても街守って来たんですよ!」

「やめて千夏」

「でも」「恩を売るようなことをすれば余計信用を失う。それに恩を返せる人間じゃないみたいだし」


 話はそこまでだった。那岐がこれ以上は何も進展しないと指摘し、教師たちから追い出されるように部屋を出た。


「…あ、僕ちょっと教室行ってくるね」


 まだギリギリ休み時間だ。啓太は仲間たちと一旦別れて教室へ向かった。



 教室の中は暖房が稼働しているというのに寒かった。


「鈴木だ!」

「おおおおおおおおおおお!本物じゃん!生きてたのかよ!てかお前ってばあれじゃん!アクトナイトだったの!?」

「みんなも来てるのか!?」


「へへへ…すぐ帰っちゃうけど、顔見せに来ました」 


 さっきまで話していた教師たちとは反対に、同級生たちは歓喜の声を挙げた。


「てかお前…休みまくってたけど進級出来んの?」

「来月辺りにめっちゃムズい試験やって、それに合格出来たら進級っていうチャンス貰った。これから千夏と猛勉強だよ」

「そうそう金石さん、鈴木君がいなくなってからめっちゃ暗かったけど会ったの?会ってるか、あの人もアクトナイトだし」

「金石とどこまで行った?」

「えええええ!?」

「いやそこまで驚く質問じゃないでしょ…どうなの?何もなかったわけじゃなさそうだけど」

「それはまあ…まあね…うん…っ」

「?」


「手を繋いだ…」

「いやそれだけ!?」

「だって千夏は…そういうえっちなこと…興味ないだろうし」

「そんなことないよ!だってスマホで堂々と漫画読んでたし!BLだったけど!」

「え」


 とんでもないカミングアウトをされたところでチャイムが鳴った。


「僕、帰るね。みんな待たせてるし」

「早退かよ~…アクトナイト頑張れよ~」

「金石さんともね~」


「うん…最後に一つだけ!僕たちのことを信じて欲しい。何があっても…それじゃっまたね!」


 教師と入れ替わるように教室を出て、啓太は外で待っていた千夏と合流した。


「え、みんなは?」

「先に帰ったよ…気を使わせちゃったみたい」


 千夏から啓太の手を繋いで歩き出す。まだ再会して数日しか経っていないが、啓太の方から何かするということは一切ない。


「このまま映画観に行こうよ」

「良いけど何か観たい物でもあるの?」

「うん。めっっっっっちゃ評判悪いやつ」

「もしかしてクソ映画?前みたいに配信されたら千夏んちで観れば良いじゃん」


「…デート、したいんだけど。嫌?」

「嫌じゃないです。むしろ光栄です。はい」



 まだまだ課題は山積みだ。きっとこれから大変になる。それでも啓太は千夏と共に、日常への道を歩み出すのであった。

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