第96話 箱庭に広がる夢
「三銃士の1人が…死んだ…」
地球侵略を目論むメルバド星人の1人にしてメノル直属の三銃士の1人、シーノ・ウォウこと愛澤真華はたった今、信太郎により倒された。
さっきまで温かい身体を抱いていたはずの信太郎は、今は何もないその腕の中を受け入れられずにいた。
「愛澤さん…」
そして信太郎は血で濡れたイーヴィルソードを取るとグサリ。自分の胸に突き刺した。
「何やってんだ信太郎!」
「愛澤さん…イズム…1人にしないで…俺も…いく…か…ら」
バタリと倒れる身体には大きな傷が開いていた。しかし、そこから血が溢れることはなく、代わりに黒い煙が噴出した。
「闇だ…!信太郎の闇が暴走してる!このままだと芽愛の時みたいに全て飲み込むぞ!」
「アクトナイトは信太郎の身体を治し続けて。僕は心の中に入る!」
まだ戦いは終わっていない。信太郎を助けなければ、啓太にとっての勝利とならないのだ。
「…その前に…」
静けさを取り戻した現場に逃げていた人々が戻り、警察や消防、テレビ局の車もやって来た。
ジュピテルのアーマーが外れる。なんと周りに人が大勢いるにも関わらず、啓太は変身を解いたのだ。
カメラが向けられシャッター音が鳴り出し、フラッシュに身体を照らされる。
「なにやってんの啓太!?」
「そうか…確かに嫌な気分だな。信太郎はこんな思いをしてたんだ…」
「子どもだぞ!あの大月信太郎ってやつと同じで、あのアクトナイトも子どもだ!」
信太郎は傷付いている。啓太はその痛みを知っておきたかったのだ。今感じている屈辱。それよりも遥かな物を信太郎は味わっていたと思うと、涙が溢れてきた。
「そうだよね…こんなこと、みんなに相談しづらいよね………でも大丈夫。僕も一緒だ」
そして啓太を見ていた千夏から始まり、他の戦士たちも次々と変身を解除。少年たちの真実が露になった。
「啓太だけじゃない。私たちにだって相談して欲しいから」
「あ~あやっちまった!ま、いっか」
「私化粧崩れてないよね?」
「みんな…!ありがとう!」
「那岐はともかく俺は最初から顔出しだったしな」
「ファンクラブが出来てたのはビックリしたわね…芽愛。特にあんた、めんどくさいのに絡まれないように気を付けなさいよ」
「そっか!これで私も有名人なんだ!」
「いいのか。もう後戻りは出来ないぞ」
「まあみんな脱いじゃったし…良いんじゃないんですか?」
「頼むぞ!みんな!」
突入の準備が完了した。溢れる闇は渦となり、心へ繋がるゲートとなった。
少年たちは一斉にゲートに飛び込んだ。そこに残ったのはシャオと動かない信太郎の身体だけだった。
「真っ暗だぞ!」
「闇に染まった心の中だからね…」
色んな景色を映したシャボン玉が浮いていた。それを真っ先に割ろうとするのが美保だが、突いても殴ってもシャボンは割れなかった。
「簡単に壊れる物じゃないのかもね。人の思い出って」
芽愛はそんな風に、懐かしい海の景色を見ていた。夏休みに行ったあの海岸からの景色だ。
それからは苦い思い出ばかりだ。怪人の芽愛に襲われ、失恋し、立ち直れない状況で世間が変化していく。
そして最近の物では、孤立してしまいさらに友達と敵になってしまったことへの後悔があった。
「………何かある」
闇の中を進んだ先。そこにはジオラマの街が広がっていた。
街では人形たちが生活をしており、一見平和に見えた。しかしその人形たちを、どこからともなく現れた怪人が襲った。
ドタドタドタ。大きな足音を立てて、その場に沢山の人形を抱えた信太郎が走って来た。
「ゲッ…なんかヤバくないすか…?」
「とりあえず様子見だ。全員、迂闊に干渉するな」
「したくても出来ないよ…怖すぎるよ!」
デフォルメされた戦士たちの人形を右手に。怪人の人形を左手に持つと、それを何度もぶつけた。
「あれは…戦ってるのか?」
「ブンドドだ…」
戦いの結果、戦士が負けたのか右手から人形が落とされた。そして、次に持ったのはアクトナイトセルナのフィギュア。他の戦士たちとは違って見事に作り込まれていた。
「なにあれ!?自分だけ滅茶苦茶美化してるじゃん!」
フィギュアは怪人の人形を何度も殴り付ける。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…
「手から血が出てる!もうやめなって!」
「待って奏芽!」
奏芽を制止させ、啓太は信太郎の観察を続ける。綿が出てきた怪人の人形は、浮いていたゴミ箱に投げ入れられた。
「あ、り、が、と、う」「か、ん、し、ゃ、し、て、ま、す」
平和を守ったヒーローを称える声がする。しかしそれは、音声を繋げたような、どこか無機質な物だった。
「ヒヒヒ…ヒヒ」
それを聞いて信太郎は喜んでいた。
突然、景色が切り替わった。さっきの街のジオラマから一転。学校へと変化した。
「シルバニアファミリーの家みたいだな…」
信太郎は体育座りをして教室を眺めていた。
「あれは…僕たちだ!」
「アクリルスタンドになってるじゃん!」
信太郎を仲間たちが囲んでいる。談笑しているのだろうか。アクリルスタンド達はカタカタと震えている。
「クヒヒヒ…ヒヒヒ…」
「これもう…どうしようもないんじゃないですか?」
顔が真っ青になった美保は、この光景を見て諦めていた。剛がそばにいなければ、既に逃げ出していた。
「俺も正直…ゾッとしてる」
「なんて声掛けようか…誰か案ある人!」
「………調子どう?とか」
「見るからに悪いに決まってるでしょ」
正直、誰も今の信太郎とは会話したくなかった。
「チェスットオオオオオオオオオオオオオ!」
そして啓太は会話を選ばなかった。拳を握り、不気味に笑っていた信太郎の顔面にストレートを打ち込んだ。
「「「「えええええええええええ!?」」」」
一同、声を出さずに驚けなかった。クールを気取っている剛ですら、拳で語り合うことを選んだ啓太の姿を見て目を疑った。