第95話 激突!VSイーヴィルアクトナイトダークネス
イーヴィルは剣を地面から抜いた。一度は敗けたが戦いを続けるつもりらしく、自分を打ち負かした戦士たちを睨み付ける。
「今の俺には…純粋な力でしか勝てないぞ!」
刹那の攻撃が放たれる。イーヴィルは戦士たちの向こう側へと一瞬の内に走り抜ける間に、何度も剣を振った。
彼の背後では認知不可能な斬撃を受けたジュピテル達がボロボロになりながらも、なんとか立っていた。
「そうだこれが普通なんだよ。めっちゃ強い俺が勝ってお前たちは負ける。なのにさっきは本当にもう…なんで負けたかな~?」
圧倒しているのに先程の敗北が屈辱的過ぎるあまり、信太郎の苛立ちは治まらない。
手っ取り早くストレスを回収するには他の何かに怒りをぶつけることだ。そこで信太郎は一番近くに倒れていたビヴィナスを拾い上げると、全員から見える位置に移動した。
「お前さぁ、ムカつくんだよ。俺と大して変わらない陰キャのクセに生意気言っちゃって」
「大して変わらない…?全然違うよ。あんたと私が似てるとか冗談はやめてよ!気持ち悪い!」
その一言を聞いた途端、イーヴィルは腕を潰そうと力強く右足でプレスした。
「やめろ信太郎!」
啓太の声など届いておらず、信太郎はさらに力を加えた。じっくり痛め付けながら、確実に潰すようにと。
「そうだな。全然違うわ。だってお前、弱いもん」
「その弱いやつにこれから倒されるんだけど…それ聞いてどう?怖い?それとも悔しくてたまらない?
「なんだその気取った台詞?今度はどこの漫画から引っ張って来た?」
「たった今生まれた名言だけど?これから倒す相手に向けての勝利宣言ってやつ」
「口が減らないな。オタク特有の早口ってやつか」
今度は左脚にソードを刺す。左脚を狙ったのはただ剣が近かったという理由だけだ。
「うぅ…!」
「千夏!信太郎!いい加減にしろ!」
「止めてみろよ!パワーアップしたからその姿なんだろ?」
刺さった剣を右に左にかき混ぜるように動かす。足元のビヴィナスは悲鳴をあげることなく、イーヴィルを見ていた。
「ほらほら!可愛い可愛い金石ちゃんのぉ!足が千切れるぞ!」
足元を見て再度倒れているジュピテルに顔を向けた時。眼前にソードが迫っていた。
「んっ!」
ジュピテルの投げた剣を喰らいイーヴィルが怯む。高速で動くジュピテルは落ちる剣をキャッチし、さらに目の前にいたイーヴィルに怒涛の連続斬りを繰り出した。
「うああああああ!」
「千夏!立てる!?」
「うん、大丈夫!」
最後の一撃を受けたイーヴィルが吹っ飛ばされる。手を借りて立ち上がるビヴィナスだが、左脚を見るに戦闘は無理だ。
「アクトナイトが近くで待機してるから治療を」「いやだ!私も啓太と一緒に戦う!」
見たところダメージを受けたイーヴィルも、まだまだ戦える状態にある。しかし彼のパワーを前に、2人だけでは…
また死ぬのかと、冷たい汗が流れる。そんな丸まった背中を、千夏が叩いた。
「大丈夫!私もいるよ!」
「千夏…そうだったね」
だがあの時とは違う。2人だけだが1人じゃない。一緒に立ち向かう仲間がそばにいる。
ジュピテルは姿勢をシャキッと正し、勇気を胸に灯した。
啓太と千夏は前を向く。お互い、また一緒に戦えるとは思っていなかった。だが再び出会った2人はこうして今、肩を並べて強敵に立ち向かおうとしている。
そして今、二度と通うはずのなかった心が奇跡を起こす。
「「行くよ!」」
声を合わせると突然、2人でヒロイックなポーズを取った。それにどんな意味があるのかはよく分からない。
後ろの仲間たちは何をやってるんだと呆れ、イーヴィルは挑発をされたのだと苛立っていた。
「ナメやがって!」
「いや…何か変だ!」
将矢の言う通りだ。剣を交差させた2人の身体は光となり、1つになろうとしていた。
「融合している!アクトナイト!あの能力はなんだ!」
「分からない…あの人はこんな技、使わなかった!」
啓太と千夏の心が混ざり、戦士の力は今一つとなる。新しいパワーアップ。新たなる戦士の誕生である。
「啓太なの?千夏なの?」
「二刀流…アクトソードを2本握ってる!」
「アクトナイト…だ」
「私はアクトナイトソウルデュオ。啓太と千夏、2人が合わさって出来た融合戦士」
アクトナイトソウルデュオ。そう名乗った剣士は2人のマテリアルが付いている剣を握っている。
将矢たちはソウルデュオから、啓太と千夏の心を感じていた。
「信太郎。これが心の力だ。孤独の心では僕には勝てない」
「まっっっっっっったパワーアップかよ!」
イーヴィルが走り出し、一気に相手に詰め寄る。
ソウルデュオは片方の剣でイーヴィルソードを弾き飛ばし、胸に一撃を放った。
「うっ!」
「続けるよ」
さらに腕を大きく振り剣を投擲。2本の剣は高速で回転し、イーヴィルの身体を切り裂いた。
「くそおおおおお!」
「ふんっ!」
苦し紛れの反撃が飛んで来ると、回転する剣は持ち主の前で停滞して盾となり、攻撃から守ると手に収まった。
攻撃を喰らったイーヴィルに異変が起きていた。黒い衣の一部は力強い植物が芽生えたことにより破壊され、また一部は削られたように消滅してアンダースーツが露出していた。
「僕が奪うのは命じゃない…自分を殺すその悪意だ!」
「私が砕くのは心じゃない…闇を逃がさないその鎧だ!」
ソウルデュオは滑空し加速。交差させた剣でイーヴィルを捕らえると更に速度を上げた。
「ぐうう!離せえええ!」
「「心剣!交差斬り!」」
そして刃でXを描き、ソウルデュオは突き抜けた。
アーマーが砕け、白目を向いた信太郎が立っていた。意識はなくとも剣は握ったままなのが、恐ろしい執念を感じさせる。
「やった…!あう!」
エナジーを使い果たしたソウルデュオは分離。2人はゴロゴロと転がって壁に身体を打ち付けた。
「いったー!…千夏、大丈夫?」
「うん…それより大月君は!?」
「俺は…負けてない…」
信太郎が目を覚ました。立っているのもやっとの彼は、変身もせずフラフラと剣を振っていた。
「負けてばかり…だから…逆転勝利…するんだ」
「じゃなきゃ…報われない…ここまでの戦い…これまでの人生…続けてきた意味がない」
「啓太!」
「無理だ!心の中に入るには…信太郎を完全にダウンさせなきゃいけない!…何が君をそこまで…!」
街灯を、ポストを、自販機を。目に入った物を枯れたような腕で切り倒していく。何が敵かも判別できていない。
「大月君!もうこれ以上啓太を悲しませないでよ!」
「褒めてよ…頑張ったねって…俺、もっと頑張るからさ…酷いこと、言わないでよ…もう、調子に乗らないからさ…身の程弁えて、らしく生きるから…」
壊して、壊して、壊し続けて…また何かを切った。
「…え?」
さっきまでとは違う。柔らかくて温かみのある…命あるものを切った。
「愛澤さん…どうして!?」
信太郎の振り回していた剣は、いつの間にか立っていた真華を切っていた。左肩から地面に落ちて、刃は胸に近い所まで入っている。
「…あ…あああ!治療を!シャオ!どうせいるんだろ!」
走って現れたシャオは真華を治療しようと近付く。だが、光の壁が行く手を阻んだ。
「シーノ!お前だな!一体どういうつもりだ!この壁どけろ!」
「君は偉いよ…ここまで戦って来て…怪人になっても悪の力に染まっても、誰も殺さなかった…」
「早くこの壁を消せ!おい誰か!壁を壊してシャオを中に!」
「確かに信太郎君は弱い…だけど強くなれる。絶対に」
「なんで切られに来たんだよ!馬鹿じゃねえの!?」
「…言われるがままの私を、君が変えてくれた。誇ってよ。君は1人の少女を救ったんだって…」
「ありがとう…」
倒される怪人が爆発して散るように、信太郎に抱かれた真華の身体は光となり、夜の闇に弾けて消えた。
「まただ…また…俺は…取り返しのつかないことをしてしまったあああああああああああああああああああ!」