第94話 激突!VS魔人
信太郎の周りにメルバドアルが次々と姿を現した。理由は明白、怪人である信太郎が動き出したからだ。
「いケ!」
合図を出すとアル達が突撃。次々と戦士たちに襲いかかる。だが所詮、怪人には及ばない雑兵。一般人を襲うことが出来ても、戦士にはただ切られるだけだ。
「って数多くない?」
アルは次々に現れる。信太郎の戦士たちを倒したいという意志が彼らを発生させている。だが強い意志なら彼らも負けてはいない!
「アクトナイト!俺を中心に全員とリンクさせろ!アサルトマテリアルの演算で最短距離を導く!」
ガクンと、脳に負荷が掛かったアクトガーディアンの身体が揺れた。剛に集まったそれぞれの現状はマテリアル内部に送られ、信太郎に一撃を喰らわせられるルートを算出。結果は瞬時に仲間たちの元に行き渡り、各々の行動パターンが変わり出した。
「なんダ?」
「続けろアクトナイト。常に最善の策を演算し続ける」
データの処理に集中してガーディアンは動けない。彼を狙ってアル達が包囲、攻撃したが全てフレイスが迎撃した。
「いいタイミングで来た。お前は俺を死守しろ」
「はいはい。そっちこそぶっ倒れんなよ!」
フラつく仲間を支えながら、フレイスは次々来るアルを燃やし尽くしていった。
昇士とアーキュリーが滑るように雑兵たちの間を抜けていく。目指すは信太郎ただ1人。昇士の一撃に任せて、アーキュリーが邪魔なアルだけを狙い撃った。
「力は溜まってる!飛ばして当てるよりも直接殴った方がダ」「メージ出るんでしょ!私が守るからチャンスを逃さないで!」
怪人を挟むようにその向こう側では、砂と瓦礫が舞っている。
「攻守兼備!このまま殺っちゃいましょう!」
「殺しちゃダメだからね!?」
攻撃特化のサートゥーン、防御特化のビヴィナスはアルを引き寄せながら前進し、確実に信太郎の元に近付いていた。しかしサートゥーンの変身者である美保は信太郎を殺すつもりでいた。
「殺させるなよ千夏!」
「私じゃなくて本人に言いなよ!」
信太郎の逃げ場を絶つように、彼の背後では那岐と芽愛がスタンバイしている。ペガスターは一撃必殺のキャノンモードへ変形し、既に攻撃準備が完了していた。
魔人の足元から影の礫が連続で飛び出している。那岐は光軍の刃でそれら全てを消すように防いでいた。
「失敗したらガンモードに切り離して」「分かってる。那岐ちゃんも気を付けて」
アル達は切っても切っても現れる。だが戦士たちは確実に信太郎を追い詰めるように距離を近付けていた。攻撃の合図は遠方から戦いを見守るシャオが出す。心の繋がっていない信太郎には、絶対に悟られない。
「鬱陶しいんだヨ!」
「今だ!」
終わらない抵抗に嫌気がさして感情が荒ぶる。その瞬間にシャオが合図を出し、攻撃のペースが一気に上がった。
「来るナ!」
しかし、タイミングに合わせた攻撃だけで崩れる程、魔人は容易い敵ではない。怒号と一緒に撃ち放った衝撃波で、戦士たちを蹴散らす。
芽愛が狙っていたペガスターキャノンも、発射されたエナジーは夜空に向かって線を描いていった。
そこに透かさず、2人のナイトが必殺を狙う。
ウィングアクトナイトジュピテルとメルバナイトシャイン。彼らの刃が魔人を貫いたことで攻撃に成功。その痛みに苦しみ、激しく頭を揺らしていた。
「アアアアア!ウアアアアアアア!」
そして魔人は、まるで敵に合わせるように10体に分身した。
「いきなり過ぎるでしょ!」
「演算が狂った!うわっ!」
魔人たちは1対1で邪魔が入らない戦いをしようと、戦士たちを分散させるように誘導。魔人たちに翻弄される戦士たちは孤立し、敵の思い通りになった。
「お前は強イ!完璧デ!だから憎イ!」
「信太郎!いい加減洒落になんねえぞ!」
火の海の中でフレイスと魔人は刃と拳をぶつけている。
「みんな強くなってル!弱いのは俺だけカ!弱いから俺はアクトナイトじゃダメなのカ!」
「そうじゃないよ!そうじゃないけど…今の大月君にアクトナイトになる資格はない!そう思うよ!」
水の鞭で四肢を掴まれても、アーキュリーを潰そうと動きは止まらない。
「俺のことを誰も分かってくれなイ…この悲しミ、憎しミ…分かるはずもなイ。幸せなお前たちなんかニ!」
「相談されてもないのに分かるわけないじゃん!それに…私たちだって君を心配してて…分かってないのはどっちだよ!」
ビヴィナスが次々と防御壁を組み立てるが、それもすぐに壊されて徐々に距離が縮まって来ていた。
「お前は後から現れて来タ!それなのにチヤホヤチヤホヤ!さぞ気分が良いだろうナ!」
「言っとくけど、私の方が先に怪人たちと戦ってたから。それにあんたみたいに名声のために戦ってるわけじゃないし」
そう強気に語る那岐も、攻撃を防ぐ度に少しずつ後ろに下がっていた。
「お前は俺に殺されても文句言えないよナ!なんで一丁前に将矢たちと共闘してんノ?意味分かんないんだけド」
「利害の一致でこうしているだけだ」
アクトガーディアンはウェポンを向ける。しかし背を建物に向けて人質を取るような戦い方をされては、迂闊に攻撃も出来なかった。
「なんでここにいル!変身出来やしないお前みたいなやつガ!なに自分も戦士の1人ですって顔してるんだヨ!弱い癖によォ!」
「それ以上何も言わないで!大月君のこと、助けたくなくなるから!」
ペガスターから切り離した拳銃で芽愛は攻撃する。しかし魔人は何の反応も見せず、弾を受けながら前進を続けた。
「母親を取られると思ったカ!人の父親を奪ったくせにそんなことに怯えていたのカ!身勝手だが反抗期の子どもらしくも思えるナ!」
「あんたのこと元から嫌いだったけどもっと嫌いになった。どういう意味か分かる?殺すってことよ!」
サートゥーンの殺意が砂の刃となり放たれる。魔人は止まらず、少女の首に手を伸ばした。
「幸せだナ!恋人からだけじゃなく振った女からも愛を向けられるなんテ!」
「俺はちゃんと陽川さんを振った!…お前との関係が拗れたのはお前の責任だ!あの子は悪くない!」
「黙レ!大体なんでお前はそんな力を持っているんダ!ヒーローにでもなったつもりカ!」
「なったつもりだったしお前もそうだったろ!」
「変身出来ないのにヒーローなんて笑わせるナ!」
「人を傷付ける今のお前に!そんなこと言われる筋合いはない!」
昇士の回転が加わった踵落としが炸裂。隕石のように地面に叩き付けられた魔人は、平然と立ち上がると浮かび上がり、再度昇士に戦いを挑んだ。
「どうして生き返って来タ!死人に口なしって言うだロ!」
「僕達が守れなかった人たちが翼をくれた!この世界に戻って、守れる人たちを守る力を!」
「生き返った理由を聞いてんダ!」
「守って助けてとにかく頑張るって理由がある!だからまず!君を助ける!」
「余計なお世話ダ!そんなことよりもう一回死ねヨ!俺が殺してやるからサ!」
「信太郎のくせに…スマホ越しでもないのに口が達者じゃんか!」
「お前が死ぬのを金石に見てもらウ?それとも金石が死ぬところをお前に見せるべきカ?どっちにしろいいリアクションしてくれるだろうなァ!」
「負けない…僕たちは!気持ちだってそうだけど何より!パワーアップ出来てない君なんかに!」
「!!!お前ェェエエエエエエエ!!!」
啓太は挑発を全てスルー。それどころか言われたくなかったところを突かれて信太郎が激情。出来上がった隙に、ジュピテルは全力を込めた一撃を放った。
そしてシャインと向かい合う魔人はただ見つめたまま、ずっと黙ったままで動くことすらなかった。
「私には何も言わないんだね…」
「…」
「そんなに…そんなに何もなかったかな。私にだってぶつけたい不満の1つや2つ、ないの?」
「…」
「やっぱり…そうなんだね。私だけは正真正銘、メルバド星人っていう君の敵だから…交わす言葉はないんだね」
「…」
動かない。だが確実に攻撃は始まっていた。アーマーが破損して剣にヒビが走る。そして真華は首が絞められるような感覚に襲われていた。
超越したパワーを身にした今、負けはないと勝利を確信していた信太郎。だが分身した10人の信太郎全員が、押され始めていることに焦りを感じていた。
(何がダ…何がこいつらを強くすル!?)
追い詰めていたはずの真華たちも持ち直して反撃を始める。
「この力はなんダ!どんなチートを使っタ!?」
「知っているはずだ!だってこの力で誰よりも最初に戦ったのは君じゃないか!」
ジュピテルの猛攻は止まらない。防御の崩された魔人は一方的に切られ、反撃出来ずにいた。
気持ちで押されている。信太郎にはどうしようもない問題だった。
「気持ちの力…それがお前たちをパワーアップさせてるのカ!?」
「心の力!初めて怪人と戦った時!僕たちの力で君は!立ち上がったじゃないかぁぁああああ!」
「ウワアアアアアア!」
強い心の力を持つ者たち。それこそが、魔人が相手にしている戦士たちなのである。今の弱い心を持つ信太郎では勝てるわけがないのだ。
魔人たちはパワーダウンし、ほぼ同じタイミングで9体が撃破され、残ったのは真中と向かい合っている1体だけになった。それもすぐに変身が解けて、信太郎は膝を付いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「僕たちの勝ちだ。信太郎、もうここ終わりにしよう」
「まだだ!心で負けるってなんだ!そんなの戦いじゃない!くそ…!」
信太郎の前に、イーヴィルソードが現れる。戦いは次のラウンドへと突入する。
「アクトベイト!ウアアアア!」
心が弱いという理由による敗北。それを信太郎が認められるわけもなく、彼はイーヴィルアクトナイトダークネスに変身した。
ここからが正真正銘、戦士たちのぶつかり合いだ。