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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
91/150

第91話 再会の友

「誰だお前はアアアアア!」


 白い翼のアクトナイトは魔人を無視してそばにあった影の檻を破壊。彼のアクトソードは鞘に収まるように、翼のような刃が特徴的な物体と合体していた。



「…」


 ここは自分が時間を稼ぐ。頼もしい背中からメッセージを受け取った千夏たちは、倒れた仲間を抱えてシャオの元に向かった。



「お前は…誰なんダ?」


 信太郎が初めて感じるエナジーだった。だが感覚としては他の戦士たちと同じ。平和のために戦う正義が混じっていた。


「まあなんだっていイ!どの道全員ぶっ殺すんダ!お前から先に殺してやるヨ!」



 切れた腕が再生する。接近戦に向けて今度はスピードの出やすいフォルムに変身した。


 変身を見届けたアクトナイトは、今度は自分の番だと言うように緑色のマテリアルを取り出した。


「まさカ!?どうしてそれを持ってル!お前ハ…」


 そのマテリアルに信太郎は見覚えがあった。それはかつて戦死した少年、鈴木(すずき)啓太(けいた)が変身に使っていたジュピテルマテリアルだった。


「話し合う余地がないなら…今は逃げ切るまでの時間を稼ぐ!アクトベイト!」


 そしてこの時初めて、何も付いていなかったソードの窪みにマテリアルがセットされた。


 真っ白なアーマーがグリーンをメインに優しい色で染まっていく。天空を支配する翼と命を司る緑の力。その2つが合わさり誕生した戦士の名は…



「ウィングアクトナイトジュピテル」


「その声…啓太アアアアア!」


 様々な感情が混ざり合っている信太郎は本能的にジュピテルに攻撃。鋭い針のような腕を伸ばすが、全て回避されて反撃を喰らった。


 地面に墜落しそうになる魔人は道路に触れるギリギリでブレーキを掛ける。それから空へと急上昇し、今度は大きな爪を振り回した。


「どうしタ!避けることで精一杯カ!」


 先程よりも速い動きで攻撃が繰り出される。一見、ジュピテルは避けることに精一杯のようにも思えるがそれは違う。


「オラ!オラ!避けんナ!」


「…はぁ」


 溜め息と共に振られた一太刀によって、信太郎の身体が今度は空高く打ち上げられた。

 そこで気付いた。ジュピテルと自分、2人の力の差に。


 勝てないと知ると信太郎の機嫌はさらに悪くなり、癇癪の勢いで周りを破壊しそうになっていた。


「なんでだよオオオオオ!なんで負けル!」


「僕が一番知りたいよ。どうしてあんなに強かった君がそんな姿になっちゃったのか」



 時間はもう充分稼げた。ジュピテルはどこかに向かおうとしたが、魔人は鞭で捕らえて逃がそうとしなかった。


「勇ましく死んだ英雄がよオオオオオ!どうして蘇って来たアアアアア!」


 ジュピテルは鞭を力強く掴むと、ギュッと魔人を引き寄せた。そして剣を初めの一振で鞭を切断。さらに攻撃を重ねて、魔人の四肢を切り離した。



「理由は沢山ある。まずは君を助けるためだよ」


「ふざけるなアアアアア!」


 魔人は地面へ落ちていき、今度こそ身体を打ち付けた。かなりのダメージを負わせてはいるが、それでもしばらくすれば回復してしまうだろう。それにまだ、何か力を秘めている気がした。



「みんなのところに帰ろう。愛澤さん」


「その声…君は…」


 ジュピテルは戦いをただ眺めていたシャインを抱えると、アクトナイト記念公園の方に飛んでいった。






「はぁ~疲れた!頼むから部位の欠損は勘弁してくれ。治すの大変だから!」


 今は冬だというのに、仲間たちの治療を終えたシャオは汗だくになってベンチに転がっていた。


「にしても凄い能力ですよね。いつも助かってます」


「これぐらいしかしてやれることがねえからなぁ」


 意識せず空を見上げていたシャオは公園に近付く人影を見つけた。



「あれは…」


「そういえば私たちを助けてくれたあのアクトナイト…誰が変身してたんだろうね」



 銅像のそばにアクトナイトと真華が降り立った。


「さっきと色違う…!てかこの色って…!」


 誰よりも早く反応した千夏がアクトナイトに駆け寄る。千夏が聴きたいこと。それを答えるかのように、その戦士はマテリアルを外し、剣と翼の刃の合体を解除した。


 アーマーは羽根が散るように離れていく。アクトナイトの正体は中性的な顔をした可愛らしい少年だった。


「啓太…」


 鈴木啓太だ。死んだはずの鈴木啓太がそこに立っていた。それも少しばかり頼もしい雰囲気と共に。


「啓太ぁムグッ!」


 涙を流して今にも飛び付きそうだった将矢を奏芽たちが止める。まず、彼と話すのは千夏からだ。


「なんで…だって怪獣と戦って!その時に…」


「ただいま」


「どうして…」


「生き延びたのか生き返ったのか自分でもよく分からない。けど、やらないといけないことがあるからここにいるって自覚はある」


 いまいち話が噛み合ってない気がする。「あ~あ」と何か言いたげな様子なシャオは能力を発動。啓太と千夏の心を繋げた。


「あれ…気を使わせちゃったみたいだね」


「会いたかった…もう一生会えないって…」


「僕も同じ気持ち。久しぶりに千夏と話せて幸せだよ」


 このまま2人きりで再会の奇跡を分かち合っていたい。だが今はやるべきことがある。それは千夏も分かっていた。




「信太郎は助けを求めてる。けど僕だけじゃ無理だ。勝てたとしても助けることは出来ない」


 啓太はパワーアップした。その成り行きは重要なことではないので省略するが、それを持ってしても信太郎を助けるには力が不足している。助けるというのは、倒すことよりも難しいのだ。


「助けを求めてるって…じゃあなんで暴れたり人を傷付けようとするんすか?」


「不器用なんだよ。それで変にプライドも高いから素直に助けてって言えない。あれが信太郎なりのSOSサインなんだ」


「それって身勝手過ぎですよね。誰かを傷付けといて自分を助けて欲しいって…あんなやつ倒すべきじゃないんですか!性格地雷にも程がありますよ!」


「美保ちゃんって言ったかな。助ける人を選ぶなんてそれこそ身勝手過ぎるよ。力の限り戦って、守って、助けて。それが僕たちのやるべきことなんだ」


 やりづらい。それが美保の啓太に対する印象だった。全肯定の先輩や簡単に怒らせることが出来る信太郎たちとは違う。新しいタイプの人間だ。


「でも…どうやって助けるの?私たちなりに頑張って説得してみたけど全く聞いてくれなかった…」

「確かに…今のあいつに話が通じるとは考えらんないな」


「今の信太郎は怪人だ。まず僕たちはアクトナイトとして怪人と戦い、彼を倒さなければならない」


「矛盾してるじゃないですか!助けるだったり倒すだったり!どっちなんすか!」


「まあまずは聞いてよ。僕たちが倒すのは怪人としての信太郎だ。怪人に変身する能力も、倒せば一時的に使えなくさせられる。そしたら、信太郎の心に飛び込むんだ」


 飛び込む。つまりは心に入るということは以前に一度、シャオが信太郎の中に入ったことがある。

 しかしそれはあまりにもリスクのある作戦だった。


「啓太…心に入るっていうのがどういうことか分かってるよな」


「アニメとかラノベで噛った程度には…」


「心に入るっていうのはそんな単純なことじゃねえ。信太郎の内側を見るんじゃない。感じるってことなんだぞ。今のあいつがどんな心情かは分からないが…簡単じゃねえぞ。闇の中から救い出すのは」

「僕1人だけじゃダメだ。みんなで一緒に行くんだ」


 シャオは1人で飛び込んだが、今度は全員で行くという。


「啓太がそう言うなら…」


「待って千夏。僕が行くからじゃくて、君の意思で行くって決めないと」


「啓太さぁ…なんかキャラ違くない?」


「そう?…まあ一度は死んだ身だから悟った所もあるのかな」


「今もラノベとかそういうオタクなの…好き?」

「そりゃ勿論。かなり時間経ってるから漫画の新巻出てるよね。そうだ家に帰ったら溜まった録画を消化していかないと…ってそうだ。僕ってば今どういう扱いなの?」


「まだ死体が見つかってないから行方不明だけど…」


「そっか~良かった~!…早く母さん達にも会いたいなぁ」



 話が脱線し始めたところでシャオが咳払い。信太郎の心に入る作戦は良いとして、問題は他の少年たちの決意だ。


「今のお前たちが入ってもきっと堪えられない。さっき言ってた通り大切なのは、信太郎を助けたいという強い意思だ」


「よく考えて欲しい。最悪僕1人で行くけど…信じてる。みんなの優しさが闇に立ち向かうことを」



 倒すとは別に助けるという活路。しかしそれは困難な物で、その道を選ぶのにすら強い意思を必要とする。


 啓太も参戦したところで、きっと次が最後の衝突となるだろう。それまでに少年たちが信太郎をどう想い、手を差し伸べるのか。



 全ては彼らの持つ優しさにかかっている。

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