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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
89/150

第89話 信太郎、動く

「それはそうだよね…」


 信太郎の闇に打たれて気を失っていた真華。目を覚ました時には知らない場所。それに頑丈なワイヤーで拘束されていた。


「お前のエナジーはよく覚えてる…メルバナイトシャイン。王子直属の三銃士!」


 シャオが真華に治療を施した際、彼女のエナジーに触れたことで正体に気が付いた。


 だが彼女のクラスメイトは半信半疑だ。


「ちょっと待ってよ!彼女っ私たちの同級生だよ!?」


「そうだ!大体敵なら俺たち無事じゃないだろ!」


「学生に成り済ましてお前たちに近付いたんだよ!スパイだったんだこいつは!…まさか信太郎がおかしくなったのも…!」


 シャオがワイヤーを締め付けを強めるが、真華は表情を変えることなく本心を語った。


「今は違う…もう地球侵略なんてしない」

「騙されるかよ!」

「聞いてよ!私のことはどうでもいいから!…信太郎君だって好きであんな風になったんじゃない…彼を助けたいんだ!」

「助けたいってな!お前たちのせいでこの星の、いや過去に襲われた人たちがどんだけ苦しんでたのか分かってもいねえのに!助けたいなんて口にすんじゃねえよ!」


 このままだとシャオが真華を否定し続けて話が進まない。

 美保と剛は他校の同級生同士で解決することを願うと、シャオを掴んで宇宙船に引きずり込んだ。


「ちょっ!なにすんだ!」


「ちょっと落ち着いてください!」

「アクトナイト、お前はこいつを敵視し過ぎている。席を外すぞ」




「愛澤さん…本当にメルバド星人なの?」


「うん。これを見てくれれば信じてもらえる」


 メルバソードが召喚され、真華を縛っていたワイヤーを切断した。


「マジだったのかよ…!」


「待って!本当に私はもう…悪いことはしない。ただ今は信太郎君を助けたい。それだけだから」


 印象としては同級生と味方の間にいる。信じたいが疑わなければならない。


「灯刀の意見は…てあいつは?」


「陽川さんと朝日君でちょっと大事な話中…」


 公園内の離れたところで3人が集まっていた。信太郎の言葉が芽愛にかなり効いていたらしい。


「ダメだな…とりあえず明日にするか。色々あって時間も必要だろうし。じゃあ明日学校で………ってそうだった。大晦日だった」


「残念だけどもう年越してるよ。今、元旦だから」


 スマホの日付は1月1日。とんだ年越しになってしまった。






 今年初めての太陽が日本に昇る。絶景が見えるポイントには初日の出を拝もうとたくさんの人が集まり、カメラを向けていた。



 気持ちのいい元旦の朝を迎えたいというのは魔人も同じだ。しかしどういう神経をしているのか、彼がいる場所は怪獣により壊滅させられた地域。通称、怪獣災害跡地だった。



「明るくなって来たな」



 あの日から時間は経ったが未だに手が付けられてない。復興支援を行うと聞いたのもかなり前だ。募金だってしたはずだ。


 それでもこの傷跡は変わらず残っていた。


「何人死んだとか公表されたっけか?」


 誰に話しかけているのか、信太郎は疑問を口にする。しかし自分以外いないこの場で返事が来ることはない。



 これからやることは決まっている。やろうとしなくても、剣がその存在の居場所を正確に伝えてくる。


 あの記者の若い男にやり返せと叫んでくるのだ。言われなくても信太郎はやるつもりだが。



 この場に差す太陽の光が信太郎だけを照らす。目を閉じて向かい風と共に浴びる光がやる気を沸き上がらせる。今の気分は最高。それに尽きる。


「年明けたぁぁああああああああ!」


 港から出るフェリーが汽笛を鳴らすように、信太郎は大きく声を出して変身した。




 イーヴィルアクトナイトダークネスが動き出したことは、探知能力を持たないはずの少年少女たちに伝わっていた。それほど、彼の放つエナジーが異質なのである。



 ダークネスは場所を移し、高い位置からとある建物を見渡していた。


 そこは昨晩、信太郎を追い詰めた若手の記者が勤める会社だった。建物の中を見ずとも、そいつがいるというのは剣から伝わってくる。


 復讐は徹底的にだ。苦しめてから殺さないといけない。そうでもしなければ怒りのあまり無関係な人に手を出してしまうだろう。

 だが信太郎はこれから巻き込む無関係な人に関しては何も考えていない。必要な犠牲とも思っている。


「まずは…そうだな…」




「やめろ信太郎!」


 しかし作戦すら今から企てようとしていた時にまさかの妨害が入った。


「どうして俺の場所が!?」


「嫌って程に伝わってくるんだ!お前のエナジーが!」


 炎の鞭が四肢を掴む。後ろを向かされたイーヴィルの前でフレイスが剣を振ろうと構えていた。


「お前を倒すって多数決で決まった!…けど!俺はお前を殺したくない!信太郎!その剣を捨てろ!」

「多数決…殺したくない…随分余裕ぶっこいてんじゃねえか!」


 騒音を撒き散らす口を塞ぐように、大きな水の玉が頭を飲み込む。死角からアーキュリーが攻撃しているようだ。


「やめろ奏芽!そんなことしたら信太郎が死んじまう!」

「溺れさせて気絶させれば剣は奪える!」


「邪魔をするなあああ!」


 魔人の怒号が時空を歪まされる。そして止まらない悪に連鎖してメルバドアル達が出現した。


「なんでこいつらが出て来るんだよ!」



「決まってるだろ!大月信太郎が怪人に堕ちたという証拠だ!」

「2人はそのままで!頑張って!」

  

 地上からアクトガーディアンと昇士が跳んで現れては、湧き出るアルを相手に無双した。


「チッ!やはり殺した方が早い!将矢!そのまま焼却しろ!」

「出来るかよそんなこと!言っとくけど今は腐ってるけど俺たちの大切な友だちでなぁ!」




「離せぇぇえええエ!」


 信太郎の身体に異変が起こる。筋肉が肥大化し角が生え、鎧を砕き魔人が現れた。

 魔人は身を縛る攻撃を全て無効化し、新聞社に向かって放物線を描き突入を試みた。


「任せたぞ!」


 突然、異常な隆起が起こり行動が阻まれた。地上には墜落した魔人を挟み、ビヴィナスとサートゥーンが待ち構えていた。


「殺す!」


 特にサートゥーンは容赦がない。魔人の口が開くのを見た途端、周囲の砂埃を巻き上げては一気に体内へと流し込んだ。

 これぐらいで死なないのは分かっている。空中からは男子たちが各々必殺技を準備しながら降下して来ていた。


「せーので行くぞ!せーの!」

「せーのってのを言い終わってすぐか?それとも一呼吸空けるのか?」

「多少ずれていても倒せる結果に変わりはない!いくぞ!」


 フレイス、昇士、ガーディアンの必殺技が同時に叩き込まれる。魔人の肉体はドロドロに溶けていき、中から傷だらけの信太郎が現れた。


「いってえ…へへ」


 追い詰められたはずの信太郎。しかし彼は不気味な笑みを浮かべていた。




 街の中で戦いが終わったことで必然的に野次馬も集まっていた。

 平和を守った戦士に向けられる視線は、これまでと違いどこか冷めていた。


 ガーディアンはハンドサインを送り、顔の知られている昇士の周りに並んだ。


「ったく…なんだよあの目。おっかねえ」




「伝わってくる…伝わってくる!どうしてアクトナイト同士が戦っているんだという疑問を始めに、内輪揉めを街に持ってくるなって不満、自分たちの平和が脅かされることへの不安、そして見応えのある戦いだったという興奮!分かるだろみんなも!これが人間なんだって!」


 これ以上喋らせないように撃った弾が膝に埋まる。剛は銃身をそのままに、仮面の内側で口を開いた。


「どんな人間であれ人を守るのが俺たちのやるべきことだ。それにお前もその人間を守っていただろ。何が不満で道を外れた。答えろ」


 信太郎は答えられなかった。自覚がないのか、それとも日常の不満をぶつけるために悪に堕ちたという情けない自分を認めたくないからか。



 警官が現場を包囲し、信太郎は勿論。そしてアクトナイト達にもメガホンを向けた。


「暴力団体アクトナイトの諸君!君たちには逮捕状が出ている!大人しく投降しろ!」

「え!?ちょっと待ったどういうことだ!俺たち何も悪いことしてねえぞ!」


 ガーディアンが信太郎の剣を叩き割ろうとウェポンを振り上げた。それを抵抗と見なした警官がピストルを向けた時、剛はあることに気が付いた。


(あれは…地球外の技術が使われている!)


 アサルトマテリアルが演算して見せた予測。それは発射された弾がアーマーを貫通し、自分を貫くというなんとも恐ろしい結果だった。


 剛の思考は一瞬で全員に伝わり、弾を避けようと高く跳び上がった。


「信太郎が!」


 しかし信太郎には伝わっていない。引き金が引かれ、彼はここまでかと将矢が諦めた。



 途端に足元の影が壁となり、信太郎に向かっていた銃弾を優しく受け止め、地面に転がり落ちた。



「おい!お前たちの評判に泥が掛からないように俺が警察に尻尾巻いて逃げたってことにしてやるよ!」


 そう告げると剣を拾った信太郎は影の中へ吸い込まれていき、その場から姿を消した。



 戦いは終わり、それから様々な真実がネットに拡散される。1人が悪に染まった。アクトナイト達は仲間割れをしている。彼らはマッチポンプのヒーローだ。

 情報が行き渡ったところで信じる真実は人それぞれで違う。そもそも、この情報に有用性はない。


 だが悲しいのは、こうなることをあの大月信太郎に見透かされていたということだ。

 内心で人を超えた存在を気取っている彼はこの情報社会にアクトナイトという劇薬が投じられることで人々が好き勝手言いたい放題になるのは読めていた。




「やっぱ単純だこいつら!」




 彼は上位の存在を気取っている半分で、自分は誰よりも劣っているという劣等感を抱えている。そんな自分ですら動きを予測出来てしまう人間はなんて単純なんだと、支離滅裂な思考で頑張って見下していた。


 そうした人々の発言を糧に矛盾を抱えた魔人はさらに力を増していく。

 自分を惨めにした全ての存在に復讐のため…

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