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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
85/150

第85話 囁き

 どれだけ前へ進んでも気は休まらない。既に何から逃げ、どこへ向かっていたのかさえ忘れていた信太郎。


 彼の目の前には全ての元凶とも言っていいメノルが立っていた。


「調子はどウ?」


 見れば分かるだろうと鋭い視線を飛ばし、その場を去ろうとする。そんな彼にメノルはある提案を持ちかける。


「僕たちの仲間にならなイ?」


 武器があったらすぐに殴りに出ただろう。嫌なことが連続したぐらいで悪に加担する。そんな人間に見られているとは屈辱的だ。


「シーノ…愛澤真華も待ってるヨ」

「あいつは敵だ!お前の仲間なんだからな!」


「彼女だけじゃなイ。君の友だちモ」



「信太郎…信太郎…」


「イズム…」


「まってるよ…きみをまってる。まなかといっしょに」



 イズムが手を差し出した。自分に殺されたというのになんて優しい子どもだろうか。

 だが違う。前はもっと憎んでいたはずだ。


「許されない…俺が許されるわけないだろ!今まで何をやったと思ってるんだ!」


 殴るとイズムの幻は簡単に消えてしまった。


「あ…あああああ!メノルゥゥウウウウウ!お前は!俺をこんな惨めにしたお前を絶対に許さない!」


 どうにもならない怒りをぶつけた瞬間、いつの間にか出現していたメルバドアル達が一斉にメノルへ攻撃した。


「その時が来るのを待ってるヨ」


 オリジンズのアクトソードによる一薙ぎでアル達は撃破。メノルはその場から消えた。一方的にやられるのはこれで何度目だろうか。




 信太郎は静かに夜道を進んだ。世須賀の中なのは間違いないが調べる手段はない。

 空を見上げるといつもより明るかった。最近だと宇宙船が飛んでいる光景も珍しい物ではない。


 日常がすっかり変わってしまった。自分も、初めてアクトナイトになった時から随分穢れてしまった。他の仲間たちが変わらないのを見るに、きっとこうなる運命だったのだろう。



 歩き続けて、怒って、それから冷静になったらお腹が空いてきた。空腹感は久しぶりで信太郎は財布を取り出す。

 デートの日に使うはずだった大金はちゃんとのこしてある。これで今夜は何か食べられそうだ。




「そろそろ…年明けか」


 ふと思い出す。クリスマス・イヴから何日か経っている。街に並ぶ店には紅白幕が吊るされていたり、門松が置いてあった。


 街の時計は日を跨いでいる。時間も遅く開いている店がなかったので、コンビニでおにぎりを買った。レジに立っている店主は小汚ない物を見るような目をしていたが気にしなかった。



 場所を移して夜中の公園へ。ベンチに座り、一休みしてから食べようと目を閉じるが、そのまま眠りに落ちていった。





 仲間たちと一緒に遠方まで旅行に来た。旅館の部屋に荷物を置いてみんなで観光地巡り。歴史のある建物を見て、山の上から絶景を見下ろした。

 夜になると花火が上がり夜空を彩った。思い出を語り将来に夢を見る。


 信太郎は今、幸せの中を生きていた。




「なんだよ…夢だったのかよ…」


 夢の内容がそれほど不快だったのか、それとも別の理由があるのか。頬には涙が流れていた。

 既に日は登っていた。昨晩食べ損なったおにぎりはビニールごと遠くの方で、カラスに食い荒らされていた。


「はぁ…いいよ。くれてやる」


 怒る気力がない。立ち上がった信太郎は公園を出た。やることがないので世須賀を徘徊する。それだけで時間の流れは早く、たまにゆっくりに感じられる。


 アクトナイトにならなければ。そもそも戦いが始まらなければこんなことにはならず、夢で見たように仲間たちと楽しく過ごせていただろうか。

 冷静に今の自分を見て、虚しく思えてきた。


(未練があるんだな…)




 大晦日。今年最後の日というだけあって街は賑わっていた。

 年や日。時間に関する単語を聞いていると気分が悪くなる。タイムスリップ出来るマテリアルがあればと考えるほどに。




「時間は戻らないよ。君は前に進むしかないんだ」


「…だから。お前は誰なんだ」


 信太郎のそばには誰もいない。なのに誰かに話し掛けるという幻聴が少し前からあった。幻聴なので今までは気にしなかったが、今日は気まぐれで会話をすることにした。


「進んだ先にきっと誰かが待ってる。そう信じて、もう一度やり直してみようよ」


「やり直す?無理に決まってるじゃん。全部なくなったんだから」


「まだ大切な物が残ってる。それは君が一番よく知ってる物のはずだよ。身近にある、とても大切な…」


 幻聴の癖に知った風な口を聞く。周りから見れば1人でブツブツ喋っているよう不気味な少年でしかなかった。

 かつて街を守っていたヒーローの面影は消え、今の信太郎は家出少年だ。


「もう喋んな。お前と喋ってると苛立って仕方がない」


「ごめん…けど君はきっと立ち上がれる」




 幻聴は黙った。過去の戦いで頭を打っておかしくなってしまったんだ。そう決めつけた。






 準備は整った。空から世須賀市を見下ろしメノルはそう確信する。

 隣には悲しげな表情の真華が立っている。これからのことを想像すると無理もない。


「…ごめんメノル。侵略作戦、私降りる」


「いいヨ。今までご苦労様」


 メノルは自分を引き留めない。きっとこれも予想通りだったり、計画の内だったりするのだろう。

 でも行こうと決めた。信太郎に今度こそ、この想いを伝えるために。

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