第83話 新たなる剣士
倒れたクリスマスツリーのそばには信太郎たち以外にはもう誰もいない。
メノルがメルバドアルを引き連れて、人々の聖夜を襲いに現れた。
「…メノル!?」
言葉よりも先に声へと意識が向かい、信太郎は辺りを見渡す。
メルバドの王子は離れた場所から歩いて来ていた。
信太郎はもうアクトナイトにはなれない。ここは真華を連れて逃げるべきだが…
彼女の方を見て、やっとメノルの言葉を思い出していた。
「どういうことなの?」
真華は仲間であるはずのメノルを睨み付けている。温かったはずの身体と心も凍え、何も喋れない。
どうしてこのタイミングでメノルが?今までこちらから連絡を絶っていたというのに。
「ねえ、愛澤さん…?」
「違う!違うの!いや、確かに私はメルバド星人だ!」
「今まで御苦労だったネ。本来は敵の戦略を探るために送り込んだスパイだったんだけど、まさか裏切った様に見せかけてここまで取り入るなんテ」
信太郎の足が1歩、また1歩と後ろへ下がる。
クリスマス・イヴを飾っていた地面の雪も、既に逃亡を妨げる障害でしかない。
「だけど私は君が好きで!好きになってもうこんな事はやめようって!それを伝えようと今日はデートに来たんだ!」
「こんなになって…信じられるわけないだろ!そんなそんな言葉ァ!」
街の状況は最悪だ。メルバドアルとそれを引き連れた
3体の怪人が侵攻を始め、周りを見渡せば倒れている人も目に入る。
「そうか…そうだったんだ!孤立した俺を騙して!殺すつもりだったんだな!」
「違う!」
「違うわけないだろ!………はは、でも残念だったな。俺はもうアクトナイトじゃない。俺を殺したところで何の意味もない………だから…だから!殺さないでくれえええ!」
突然の命乞いに困惑した真華は、ハッとなって自分の姿を見た。
理由は分からない。メルバドアル達のエナジーが影響しているのか、それとも荒ぶる心が引き出したのか、彼女は怪人に変身していた。
「違ウ!待って信太郎君!」
信太郎は一度転ぶがすぐに起き上がり、振り返ることもなく逃亡した。
「どうして…どうしてあのタイミングで出て来たノ!話せば」
「話したところで何も変わらなイ。僕たちは歩むべき道を外れる事は出来ないんダ」
膝から崩れ涙を流す。もう何を言っても信太郎は聞き入れてくれないんだと、真華は悲観に暮れた。
頭上を戦士たちが飛び越える。それに気付きもせず、信太郎は走っていた。
「うわあああああ!」
奇声を発しながら走る少年の姿は、嫌でも人々の目を引いてしまう。
カメラが向けられ、その醜態は拡散されていく。アクトナイトに変身出来なくなった事情も知らない、世界の人々へと。
一番最初に到着したのはなんと、アクトナイトではなくアクトガーディアン。
あの二地剛であった。
「なんて敵の数だ…」
当然、クリスマス・イヴなので彼も恋人である美保とのデートを抜け出してここへ来た。
シャオから連絡を受けた時は早く倒して再開するつもりだったが、それは難しそうだ。
「手間が掛かりそうだ」
怪人を3体とアルの軍隊を相手に彼1人で勝てるわけがない。
しかし、ここで他の戦士たちが来るまで防戦に徹するという考えなどは絶対にしないのが、剛という男である。
「はぁっ!」
勇猛果敢に敵のど真ん中へと飛び込む。間近の敵はバヨネットで切り裂き、遠くの敵にはライフルのエナジー弾を撃ち込んだ。
やはり行けるか?と思うも束の間、アルとは比べ物にならない程強い怪人がタックルを仕掛けて来た。
「ぐっ!アーマーのエナジーが3割も削られたか!」
弾かれて宙に浮かんでいる間に、ライフルとバヨネットを連結。アクトウェポンを槍の様に持つと、そのまま怪人へと反撃を開始した。
「セイッ!ハッ!」
まるで踊っている様だ。ガーディアンは華麗な動きで怪人に攻撃する。先端の銃剣で牽制し、銃口と敵が向き合う度に引き金を引く。
バン!バン!至近距離からの射撃で、皮膚か防具か分からない質感の胸に穴が開いている。
だがとどめを刺そうとするガーディアンに、周囲のアル達が一斉に飛び掛かった。
「なにっ!」
アル達の身体が少しずつ光を放ち始める。アサルトマテリアルの演算システムは彼らの自爆を予測していた。
そして予測通り、アルは一斉に爆発した。
「うあああああああああ!」
身を守るアーマーは砕け散り、全身が焼かれる。剛は悲鳴をあげずにはいられなかった。
「くっ…」
意識が残っているのはツイていると言えるのか。全身の痛みで撤退も不可能だ。
そんな彼に怪人が迫る。
「先輩!大丈夫ですか!?」
背後から飛んできた炎と水、瓦礫が怪人を後ろへ下がらせる。
それだけでなく、避難をしろと言ったはずの美程が宇宙人と一緒に走って来た
「先輩が死んじゃう!お願いアクトナイトさん!」
「あぁ!大丈夫だ!…けどお前、本当にやれるのか?」
「せっかく枠が1つ出来たんですよ!私以外に誰がやるって言うんですか!」
「美保…まさか…」
「先輩の傷が治るまでにはやっつけちゃうんで!」
彼女の手には剣とマテリアルが、他の少年たちが変身する時と同じように握られている。
「いっっっきますよー!アクト~ベイト!」
「刹那を駆ける土砂の力!アクトナイトサートゥーン!」
そして剛は制止も出来ず、美保をサートゥーンへと変身させてしまった。
「………土砂の力ってダサくないすか?」
「うっせー!前見ろ前!」
剛が相手した怪人がサートゥーンを殴る。だが殴られた彼女はサラサラと砕けて砂の山になってしまった。
「それは残像だ」キリッ
「いや分身だろ…そいつはスピードが取り柄だ!反撃される前に終わらせろ!」
「おいっす!」
サートゥーンが走ると竜巻が起こり、地上の砂粒が浮き上がった。
彼女の加速に合わせて竜巻の回転も勢いを増して、風と砂粒が怪人を切り裂き、頑丈な身体を見事に削っていった。
このままではやられると思った怪人は竜巻から逃げ出そうとする。
「させるか」
しかし回復してある程度動けるようになった剛の射撃に牽制され、ダメージを受け続けた。
「細くなって来ましたよ!これもうとどめ狙っちゃえますよね!?」
「あぁ!やり方は」
「知ってます!ポンって叩けば良いんでしょ!」
これまでの少年たちよりも若く元気のある美保のペースにシャオはもう付いていけない。
彼女にエナジーを送ると、剛の治療を再開した。
「疾風怒濤の殺陣!サートゥーンスラッシュ!」
竜巻が大きくなり、その中でサートゥーンの攻撃が繰り広げられた。
怪人を中心に動き回り、すれ違いざまに攻撃を行う。防御を許さず、逃走を許さない必殺技だ。
「はぁーっ!」
そして最後の一撃で上半身と下半身を綺麗に分かれさせると、サートゥーンは背中を向けた。
必殺技をまともに喰らった怪人は、いつものように爆発した。
鞘へ納刀するように、剣をトロワマテリアルへと戻す。
それから身体を起こしている先輩へ近付いた。
「凄いでしょ~?」
「良くやったな」
残りの怪人2体は仲間がやられた姿を見ていた。
するとアルを時間稼ぎに突撃させ、自分たちは逃げ出した。
「まずい!逃がすな!」
しかしその後、アル達を倒すのに手一杯だった戦士たちは怪人を見逃してしまうのだった。