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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
78/150

第78話 幻を振り切れ!

「ったく!どうなってんだ!」


 街の光景が滅茶苦茶になっていた。ファンタジー世界の動物が走り回り、建物や乗り物がSFチックな物へと様変わりしていた。


 どれもこれも、信太郎が目指している怪人、ヴィジョンの仕業である。

 幻を創る能力を持つ怪人ヴィジョン。その恐ろしさを、信太郎はまだ知らない。



「待てよ信太郎!待てって!」


 摩天楼の空を駆けるデストロイ。その後方で将矢が走りながら叫んでいた。

 背後には他のメンバーが次々に合流し、信太郎を追跡していた。


「妙な能力を持った怪人がいるのか…まあいいや。今なら多分負けないし」



 成り行きで集まった戦士たちが、街を走っていたヴィジョンを取り囲んだ。もう敵に逃げ場はない。


「邪魔するなよ。ここは俺一人で…うわっ!」


 突然、近くに立っていたビヴィナスがデストロイを襲った。襲われる理由は考えなくても分かることだが、このタイミングでかと信太郎は戸惑っていた。


 しかしそれだけではない。デストロイにアーキュリー、昇士、芽愛たちが次々と迫り来る。


「何のつもりだ!」


 だが、攻撃してくる戦士たちの中にはまだ到着するはずのないフレイス、いるはずもないジュピテルの姿もあり、これがどういうことなのか何となく理解できた。


「街を混乱させていたのと同じ幻か!」


 ならば斬ることに容赦はしない。デストロイは剣を大きく振り、一振りで全ての幻を破壊した。


「友達なら斬らないって思ったか?ああ!そいつらが友達だったらな!」


 ヴィジョンの幻は確かに完璧な物であったが、効果がなければ何の意味もない。本体に大した戦闘能力はなく、八つ当たりも兼ねてデストロイは何度も斬りつけた。



 いつもならいるはずの見物客も、今日は幻に踊らされて誰もいない。こうなったら、勝負を長引かせることに意味はない。


 ボロボロになったヴィジョンを見て、どう倒そうか少し迷う。

 そこでヴィジョンはすかさず手をかざし、デストロイに光を放った。


「目眩ましにもなんねえよ」


「ポンポンポンポン…ポンポンポンポン…」


 今度は妙な音が聴こえ、ヤバいと思ったデストロイは耳を塞いだ。

 怪人は目眩ましではなく、また幻を創るために光った手を見せたのだ。


(今度は何だ…?幻でも攻撃は痛いからな…)


 過去に戦った怪人が出てきても今の自分は負けない。仲間たちの生身が創られたら、少し戸惑いはするがそれでも切ることは出来る。


 バーサーカーのそれに近い信太郎を止められる存在など…






「お前…信太郎なのか?」


 誰の声かと信太郎は振り向いた。そこには大人の男女二人が立っていて、心配そうに彼を見ていた。


 知らない顔だった。面識のない人たちが現れたことに信太郎は困惑していた。


「誰だお前たちは!」


「信太郎、あなたが街を守ってたの?アクトナイトの…ヒーローの正体は…信太郎だったの?」


 馴れ馴れしく自分の名前を呼ぶな。そう叫ぼうとした瞬間、信太郎の内側から何かが溢れ出した。



「…お父さん…お母さん?」


 涙が零れ、先ほどまでの怒りがあっという間に冷めていく。


「やっぱり…その声、信太郎なんだな?」

「二人とも危ない!」


 両親たちを狙ったヴィジョンを背後から掴み、後方へと投げ飛ばす。信太郎と両親の距離が一気に近くなった。


「大丈夫?」

「あなたこそ大丈夫なの?」


「俺は平気だよ。下がってて、あいつを倒すから!」



 もう幻には惑わされない。飛んでくる攻撃は全て防き、怪人との距離を一気に詰めた。

 幻だと分かっていれば、立ちはだかる障害物にも気を取られる必要はない。


「悪事を崩す破壊の一撃!デストロイスラッシュ!」


 振り下ろした刃がヴィジョンを分断する。真っ二つにされたことで能力を維持できず、街を混乱させていた幻は次々に消滅していった。


「ふんっ」


 最後に背を向けると、怪人は爆発を起こし消滅した。




「た、倒したのか…」

「そうだよ。俺がやっつけたんだ」


 変身を解除すると、信太郎は二人とは反対の方向へと歩き出した。



「どこに行くの!?」

「俺、こんなんだからさ…これからも戦い続けるし、二人を巻き込みたくないんだ…俺には使命があるんだ」


 両親のそばにいたいという気持ちはある。しかしアクトナイトである信太郎は、それよりも戦うことを優先するべきだと自分を制していた。


「…私たちは大丈夫!」


 そんな去り行く信太郎の背中に両親が叫んだ。


「それよりも、そんな思い詰めた顔をしたお前が心配だ!使命でも何でも相談してくれ!」


「お父さん…」


「行かないで信太郎!あなたがどれだけ変わっても、家族であることに変わりはないの!」


「お母さん…!」


 次の足を前に出そうとしたが、二人の言葉で思いとどまった。信太郎は二人の元へと駆けて行き、転びそうになるくらいの勢いで抱きついた。


「信太郎、お前少し大きくなったな」

「当然じゃない。今日までずっと戦って来たんだから…立派になったわね信太郎」


「へへへ…そうかな?」


 冬の寒さを忘れる程の温もりに包まれ、信太郎がまた涙を流した。


「おいおい泣くなよ…そうだ、これから何か食べにいかないか?これまで頑張ってきた労いも兼ねてさ」

「いいじゃない!信太郎、何食べたい?」


「そうだな~、じゃあハンバーガー!」

「ええ?別に気を使わないでもっと高い物でも…いや、おまえが食べたいって言ったもんな。いいぞ、二個でも三個でも買ってやる!」


 両親が歩き始め、信太郎もその後をついて行こうとした。だがふと気付いてその場から動かなかった。


「雪だ…」


 柔らかい雪が降り始めた。空を見上げると雲の隙間から満月が覗いていた。



 雪に見とれて少し両親たちと離れてしまった。信太郎は駆け足で歩き出した。


 だが、歩いても歩いても両親に近付けない。それどころか距離が離れているのか、二人の姿が少しずつ消え始めていた。


「待って…置いてかないで…」


「お~い信太郎!何してるんだ?」

「早くおいで~」


「今いくよ!」




 どれもこれも全てが幻。街を混乱させていたの物も全て人が望んだ幻だ。

 アクトナイトとの戦いにエンタメ性を見出だした人々が望んだ非日常だ。




「待って……て」


 そして信太郎も幻に囚われ、そこから抜け出せなかった人間の一人となった。


 自分を愛してくれる父と母。心の底に潜んでいた理想的なヒーローの自分。感動を見つけられるかけがえのない日常。

 どれもこれも信太郎が望んだ幸せだ




 両親を追うのに必死な信太郎は、背中に出来た大きな傷に気が付かなかった。

 走って走って走って、二人のそばに立ったそこで意識が途切れた。

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