第76話 復讐という名の八つ当たり
信太郎は他の戦士たちには余裕のある素振りを見せて言葉をぶつけていた。
「チッ…なんなんだよなんなんだよなんなんだよ!」
だが実際には、マテリアルを取り戻されてしまったことへの屈辱で怒り狂っていた。デストロイという力があるのにも関わらず出し抜かれたことで、自己嫌悪も増していた。
「俺はなんでいつもこう!こうやって負けてばっかり!」
邪道を進む信太郎に救いはない。ただ心の闇に操られ、周りを傷付け自分を守るだけの人間を誰も救おうとしない。ただ悪と見なされるだけだ。
自分に非がある。それすらも認められなければ、信太郎は一生このままだろう。
何が自分をここまで狂わせたのか、信太郎は考え始めた。
芽愛が昇士を好きだと知ってからだ。ではどうして自分は芽愛に振り向かれる人間になりたかった?周りの人間が恋愛に恵まれていたからだ。
(飾りでも良かった…俺は恋人が欲しかった)
どうして恋愛出来ない人間なのか?性格が原因だとしたらその性格になるように育てたのは誰か。
(育てるのは親の役目だ…なのに…なのにあいつらは…)
「あいつらはあああ!」
こうして信太郎は、自分が歪んだ責任を親たちに押し付けたのだ。あまりにもくだらない。恋愛欲求だけでこんなに荒れるとは。
だがそれが信太郎というくだらない人間なのである。
そして復讐という名の八つ当たりをすることに決めた。徹底的に、今の自分が感じてるよりも倍の不幸を親たちに与えると。
「まずは…あいつからだ!」
当然、夫と別の男と子作りした産みの母親からである。しかしどうすれば自分のように人生を狂わせられるか…
(殺すか)
殺す事に迷いはない。元母の夫と息子。この二人の命を奪えばそれなりに元母を傷付けられるだろう。
復讐で大切なのは、何よりも心を傷付ける事なのだ。
そこで信太郎はまず、元母のいる病院へ向かった。
「いないな~い、ばあ!」
夫が赤ん坊と遊んでいる光景が信太郎の気に障る。今すぐにでも殺したかったが、元母の姿が見当たらなかった。
(目の前で…スパっ!て感じに首を跳ねてやろう)
しばらくすると病室に元母が戻ってきた。関係は良好そうで、壊しがいがあると信太郎は喜んだ。
「じゃあ早速!」
そして病室へと飛び込もうとした時、ドラゴンのような怪人が信太郎を襲った。
「なんつータイミングだ!アクトベイト!」
エアボードから叩き落とされた信太郎はデストロイへと変身。周囲の危険物を破壊しながら地面でバウンドした。
「いって~…なんだよあのドラゴン怪人」
怪人は信太郎を妨害しただけではあるが一つの家族を守った。信太郎よりもよっぽどヒーローらしいことをしたが、これは怪人。倒されなければならない。
「ガオオオ!」
口から噴き出す炎が渦となりデストロイを捕える。だが当然、そんな攻撃がデストロイに通用するはずがなく…
「バラバラに切り裂いてやる!」
怪人の炎が崩れ道が開かれると、デストロイは怪人へと歩いた。
「俺は今は機嫌が悪いんだ。戦いたきゃあの世でやれ。俺の友だちがいるからさ」
怪人の首から攻撃を始め、そこから足までを輪切りする。勝負に急いでケリを付けると、信太郎は病院の方まで戻った。
「…っていない!?」
どういうわけか病室には誰もいなかった。どこかへ行ったのかと病院の中を探し回ったが、元母たちは見つからなかった。
「退院したのか?…いいタイミングだな」
だがいなくなったところでセルナの能力で探せば問題はない。信太郎は変身を解除し、以前のように血のデータを使おうとした。
「あれ?」
だが、いくら外そうとしても、デストロイマテリアルがアクトソードから外れなくなっていた。