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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
74/150

第74話 望まれたかった

 最近、世須賀市では謎の現象が頻繁に発生していた。




「あれ…ここに道なんか…ってかここどこ!」


 登校途中の芽愛は迷子になっていた。いつも通りの通学路を歩いていたはずが、気が付けば人の気配がない住宅街を歩いていたのだ。


 これは怪人の能力である。芽愛は日々足取りを探っていたヴィジョンの能力を受けてしまっていた。


「もしかして…私、ピンチ?」


 エンジン音がして振り替えると、大きなトラックが迫って来ていた。


「きゃー!」


 悲鳴をあげて芽愛は塀に囲まれた敷地へ逃げ込んだ。トラックが激突し塀は崩れた。芽愛はギリギリセーフで無傷でいた。


「あっぶなー…朝日君か灯刀さんに連絡を…って圏外じゃん!」


 助けが呼べないなら最後の手段だ。芽愛はリュックの中から次々にアニマテリアル達を発進させた。


「はいちゅうもーく!私たち!ヴィジョンの攻撃を受けています!というわけだから脱出するの手伝って!」



 無茶な注文に誰もが困惑したがやるしかない。アニマテリアル達は各自バラバラに分散してこの辺り一帯の探索を開始した。



 ヴィジョンの能力は幻だ。街一つに影響を及ぼす程の効果範囲を持ち、その幻は本物とほぼ同じ性質を持っている。なので、もしも今トラックに跳ねられていたら、芽愛の命はなかった。


(誰かに助けて…もらえないかなー)


 厄介な能力のために救助も期待できない。一刻も早く住宅街から脱出するために芽愛も行動を開始した。



 屋根の青い家を通過して真っ直ぐ走り抜ける。すると、それとそっくりな家をまた通り過ぎた。しかし屋根の色は赤色だ。


「つまり…何?」


 同じ場所をループさせられているということではないようだ。


 肝心の脱出方法は見つからないまま、時間だけが過ぎていく。何も掴めなかったアニマテリアル達も次々に戻って来て、芽愛は遂にその足を止めた。


「はぁ~………だ~れ~か~!助けてー!」


 仲間の誰かが来ることを願うと、本来は昼食後に食べるはずだったお菓子をパクパクと食べ始めた。






「誰かが助けを求めてる!」


 怪人を探していた信太郎が誰かのSOS信号を受信した。近場からだが、何かが起こっているという様子は見られなかった。


 信号は住宅街の方へ近付くほど強く感じられた。また目立てない場所にと信太郎は残念に思いながら、住宅街へと足を踏み入れた。



「この感覚…前と同じだ」


 信太郎も幻の中へ。初めてヴィジョンの能力を受けた時と同じ感覚があった。

 デストロイがその場で回転斬りをすると空間にヒビが走り、幻が崩壊を起こした。

 その場所の本来の姿は住宅街などではなく、雑草だらけの空き地だった。


「敵はどこだ…」


 どこにも怪人の姿はない。代わりに空き地の隅に芽愛が座っていた。


「あれ、ここどこ?…大月君?」


 見たことのないアクトナイトだったが、それが信太郎だと芽愛には分かった。


「ねえ大月君。どうしてみんなを襲ったの?」

「陽川さんには関係ないことだから」

「…ごめん、前に酷いことしちゃって」

「うん。そういうのいいから…それじゃ」

「待って!」


 流石に芽愛に呼び止められると信太郎の足も止まってしまう。彼女から何か言われたら、信太郎は唯一のヒーローになることを諦めてしまいそうだった。


「もう俺、行かなきゃなんだけど…」

「一緒に謝ってあげるから、みんなの所に戻ろう?…火野君も大月君が敵になったって凄い落ち込んでたし…」

「俺が街を守る。そのためにも他の奴らは邪魔なんだ」

「邪魔って…一緒に戦って来たんでしょ?どうしてそんなに邪険にするの?」


 信太郎の望む言葉は聞こえてこない。


「帰って来て」「みんな待ってるから」「君が必要なんだよ」


 そんな風に自分を求めて欲しかった。傲慢な信太郎は仕立てに回るということを知らない。望まれるのを待っていた。


「もういいや。俺行くね」

「ねえ!いつか朝日君や灯刀さんも襲うの!?お願いだからそれだけはやめて!」


 やはり朝日昇士。芽愛の中には昇士がいる。きっと今自分に戻るように言うのも、昇士をはじめとした仲間のためだと信太郎には分かってしまった。


 信太郎の次のターゲットが決まった。マテリアルよりも優先すべき、早く消しておくべき存在がいたことに気が付いた。




 芽愛に変身している信太郎が追えるわけもなく、彼女は今回の出来事を伝えに公園へやって来た。公園には昇士と那岐がいたが、シャオは日用品の買い出しに出て留守にしていた。


「信太郎と会ったんだ。どうだった?」

「凄く怖かった。前はもう少し…落ち着いてた感じだったから」


 二人は鍛練の最中だったようでスポーツ服を着ていた。鍛えられた昇士の身体がタイツ越しに見えてしまい、芽愛は目を反らす。だが今度は汗で色気の出ている那岐が視界に入ったしまい、芽愛は手で視界を覆った。


「ひゃ~…」


「やっぱり敵なんだ…」

「迷うことはないわよ昇士。悪人の化けの皮が剥がれただけなんだから」

「みんなに…那岐たちに手を出すのなら許さない。俺はあいつと戦うよ」




(筋肉が…細マッチョが…)


 昇士が決意をしている隣で、芽愛は彼の身体をジーっと眺めていた。


 突然芽愛が倒れそうになり、那岐は駆け寄って身体を支えた。


「ちょっと、大丈夫?」


 視覚の次に嗅覚が。那岐の香りに芽愛はクラクラとさせられる。好みの匂いにやられた芽愛は思考がぐちゃぐちゃになり意識を失おうとしていた。


「は、はひ~…」

「え?…ちょっと昇士!気絶したんだけど!?」

「は!?え、じゃあ、そうだ!アクトナイト!っていないじゃん!とりあえずベッドに運ぼう!」



 この日、芽愛は人生で初めて気絶という体験をした。

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