第72話 二人の息子
「信太郎!どういうつもりだ!?」
「アクトナイトは俺以外必いらない!そういうことだ!」
信太郎は登校中の将矢に襲い掛かっていた。狙いは彼の持つフレイスマテリアル。素直に渡せばそれで良かったのだが、拒否されたので変身して戦いに挑んでいた。
「意味わかんねえよ!なにがあったんだ一体!」
デストロイは正面の障害物を次々と破壊していきフレイスへと走る。仲間とは戦えないフレイスは、炎を推進力にしてずっと後退を続けていた。
「なんで俺たちが戦わないといけないんだよ!」
「逆にどうして俺と戦えないんだ!言ってみろよ?」
「友達だからだろ!」
「友達…啓太は親友みたいだったけど俺は友達か。そうだよな。金石も親友で清水は恋人。クラスで一番上のお前は俺みたいなやつ、友達って言い方の知り合いとしか認識してないんだもんな!」
将矢はクラスでもカースト上位の人間だった。本人はそんなことも気にせず、誰にでも優しく接した。勉強が出来てスポーツが出来て、クラスの中心となり文化祭でもリーダーをやっていた。
だから将矢が憎かった。いや、最近憎く思えるようになった。同じアクトナイトでどうしてこうも境遇が違うのか。理由が分からない信太郎は将矢を妬むようになった。
「お前ばっかり恵まれやがって!友だち気取りやがって!俺の人生歩んでみろよ!スポットライトの当たらない人間になってみたらどうなんだよ!」
「やめてくれ信太郎!」
将矢は仲間相手に剣を振れない。これは奏芽たちとやっている特訓とは違う。相手は自分を倒して物を奪うつもりだ。
「やってることが怪人と一緒だぞ!いいのかそれで!」
「知るかボケ!」
デストロイの攻撃がフレイスに命中する。姿勢を崩したフレイスはそのまま地面を転がり壁に激突した。
変身が解除された。将矢は意識を失い目を閉じている。念のために息があるか確認して、信太郎はマテリアルを剣から外した。
「フレイス…炎…赤色…」
赤色。リーダーをイメージさせるカラーだ。確かに将矢に合っている。
そしてかつて変身していたセルナは白色だった。何の個性もない地味な自分にはお似合いだったなと信太郎は自嘲した。
「後は清水と…灯刀さんと昇士は手強そうだな」
しかしあの二人は特に邪魔だ。自分と違って顔が晒されてもその扱いは真逆。ヒーローとして取り上げられて街の人からも褒められている。
後から出た癖に目立っていることが何より許せない。
「それでもやらないとなぁ…」
信太郎は止まらない。将矢を見下ろして勝利の喜びに浸ってから、信太郎は次の敵に勝つために作戦を考え始めた。
怪人が数キロ離れた場所で出現しそれに気が付いているが、そんなことは既にどうでもいいことだった。
「うおおおお!」
信太郎が無視した怪人はアクトガーディアンが撃破していた。怪人は大して強くなかったのだが、ガーディアンはボロボロだった。
「…腹が減った…お前の整備もしてやれずにすまないな」
剛は拠点である戦艦ガイアスに戻ることが出来ず、最近では拾い食いをし、茂みにの中で寒さを凌ぐようになっていた。
前に将矢たちと共闘した時と違ってその姿はみすぼらしく、恋人である美保を幻滅させるだろう。
そんな剛は食料を探して街のゴミ箱を漁っている所を美保に目撃されてしまった。
「…先輩…ですか?」
「………美保…」
「どーしたんですか!?連絡の一つもくれないと思ったら何やってんですかあんた!都会のホームレスですか!」
だが美保は幻滅などしなかった。近くのコンビニで肉類の弁当を沢山買って来ると、彼に次々と食べさせ始めた。
「はぁぐ!はぁむ!ムシャムシャムシャ!」
テーブルマナーを熟知している剛が野性的な食べ方をしている。そんな姿に美保は驚きながらも逞しさを感じていた。
「借金取りにでも追われてるんですか?」
「家…から追い出された。行く宛もなく街をしばらくさまよってた。すまないが次は服を頼めるか。あと風呂を貸して欲しい」
「えぇ~?ちょっと遠慮なさすぎやしませんか?」
酷い姿だが久しぶりに剛に会えて美保は心の中で喜んでいた。
剛を連れて美保は自宅へ。両親は彼氏の姿に驚き、特に雄大は初対面なので警戒はしたものの、話をしていて悪い人間でないというのは伝わってきた。
「誰と付き合うのも美保ちゃんの自由だ。俺は父親になったばかりだけど、これからも彼女をよろしく頼むよ」
(……!?……本当にこの男は大月信太郎の父親なのか?あまりにも似てない…まともだ)
「は、はい。これからも一緒に頑張っていきます」
「珍しいっすね先輩。動揺するところなんて久しく見てなかったですよ」
雄大は信太郎の衣服を貸した。どれも剛には小さいサイズだったが、どれもブランド物のお洒落な服ばかりだった。
夫婦水入らずの時間を邪魔しないために二人は再び外へ。美保の門限までには、剛はこれからどうするかを決めておきたかった。
「ところで先輩これからどうするんですか。家追い出されちゃったんでしょ?」
「…泊めてくれ」
「いや流石に無理でしょ。お父さんはともかくお母さんぶちギレっすよ絶対。不健全だって」
「参ったな…」
歩いていると地響きが起きた。怪人が暴れていると推測し、剛はすぐさま変身して現場へ走った。
「あっ!先輩待って!」
だが着いた時には既に戦いは終わっていた。アクトナイトデストロイはバラバラにした怪人の上に立ち、ポーズを決めていた。
「…誰も見てないんじゃやる意味もないか」
変身を解こうとしたデストロイだが、現れたガーディアンを見るとその手を止めて剣を持ち直した。
「そうだ…お前がいたのを忘れてた」
デストロイから剣を向けられても剛は動じることはない。初めて見るアクトナイトだが、誰であれ武器を向けるのなら剛の敵であることに変わりはないのだ。
「その声…信太郎だな。俺と戦うつもりか」
「顔を殴られて変な戦艦に連れ去られて…嫌な思いばっかさせられたなぁ」
飛んでくる弾は命中する前に粉々になる。デストロイはゆっくり歩いてジワジワと距離を詰めた。
「まあ水に流してやるよ。だからお前のマテリアル…寄越せえええ!」
「欲しければ取ってみろ!」
ガーディアンは接近戦に切り替えてバヨネットとライフルを合体。アクトウェポンを槍の様に持ち直し、迫るデストロイの首に定める。
そして発射された弾は突如粉々に砕け、粉末がデストロイに触れるだけだった。
「雑魚がよ!」
今まで剛から散々嫌な思いをさせられて来た信太郎は、無防備な頭を柄で力強く殴った時の爽快感が堪らなく叫んだ。
「ひゃあああ!?」
剛は抵抗せず、強い衝撃を何度も受けて意識が朦朧としていた。それでもデストロイは、何度も何度もガーディアンの頭部を踏みつけた。
「やめてよ信太郎!」
「うるせえチビ!お前も後でぶっ飛ばしてやるからそこで待ってろ!」
アクトナイトではないが不快感を与えてきた美保も彼の標的の一つである。
「さ~、顔の方はどんだけ不細工に…」
ガーディアンの変身が解けた途端、信太郎は黙った。鎧に隠れているがその愉快な表情も凍り付いている。
「…なんで…俺の服着てんだよ………それいくらしたと思ってんだよ?わざわざ東京まで買いに行ったんだぞ!そのスニーカーも!なんでお前が身に付けてる!………そうかあいつだな。血が繋がってない俺、あのチビと付き合ってるお前、どっちも養子みたいなもんだからな。だったら俺よりマシなお前を選んだってわけか…」
残念だ。信太郎はそう思う。結局自分の父親とはそういう人間なのだと分かってしまったのだから。
「………でもお前を殺すことに変わりはない!死ね!」
咄嗟に走り出した美保が落ちていたライフルをデストロイに突き付ける。それから間髪入れずに引き金を引いた。
「逃げますよ先輩!」
流石に接射された弾はデストロイの能力でも破壊することは不可能だった。高威力の弾は鎧を砕き、信太郎の内部に破片と共に到達した。
「あああああ!?ちくしょおおおお!」
もがき苦しむ信太郎を背に二人は離れていく。
「どうしましょう先輩…」
「一つ宛がある。受け入れてくれるかは…分からないが」
デストロイの力に囚われた信太郎。セルナの力を使えばここから立ち上がり剛たちに引導を渡せたが、冷静じゃない今の彼にそんなことが出来るはずもなく、獲物を見逃すこととなった。
「逃げるなああああ!」
寂しげな町の中を一人の怒号が響き渡った。