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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
71/150

第71話 自己顕示欲

 信太郎は孤立した。最近は家にも帰らず、悪事を働く者人間を探しては正義を気取り制裁を与えていた。


「許してくれえ…もうしないから!」


 今回は下着泥棒の男が餌食になっていた。男は街のど真ん中で盗んだ下着に囲まれている。その場を離れようにも丈夫な鎖が彼を逃がさなかった。


「盗まれた人はもっと嫌な思いしてるんだからさ。通報で済むといいね」


 心は痛まない。一方的なやり方が正しいと思い込んでいた。


 他の人間と違ってアクトナイトに変身出来るがそれだけだ。もう彼はヒーローではない。主観の正義で動くただの人間だ。


「…あ、怪人だ」



 信太郎は暴れてる怪人を見つけるとすぐに変身して戦いに行った。デストロイマテリアルを使って変身するアクトナイトデストロイはどのスペックと比較してもセルナより強く気に入っていた。


「はい終わり!…手応えないなあ」


 メルバド星人の送って来た怪人なのか、それとも宇宙人なのかも区別出来ていない。下手したらいつか、彼は何の罪もないイズムのような宇宙人を殺してしまうだろう。




 だが満たされなかった。誰かのために何かをして、それでは足りない。称賛の嵐に飲み込まれたかった。


「なにか…なにか起きてないのか…」


 自己顕示欲の塊と化した信太郎はフラフラとゾンビのように街を徘徊し、活躍の場を探していた。


 何か起きていないかと探し回る信太郎だが、彼が気付いていないだけで、街では異常な現象が多発していた。






「学校が燃えたり目の前で人が死んだり…っていう幻覚を見る人が沢山いるみたいなんです」

「なんじゃそりゃ…」


 街の人間が幻覚によって狂わされるということが相次いで起きていた。


 例の怪人ヴィジョンの仕業だろう。しかし神出鬼没なので倒すのは困難な上、今はもう一つの厄介事をどうにかする必要があった。



 シャオが開いている新聞には信太郎の姿が。親切を押し付けようとする迷惑者として記事にされていた。


「信太郎のやつ、本当どうしちまったんだろうな」

「知りませんよ…それよりもその幻覚。怖いのが見た人たちが全員満足してるって所なんです」


 話によると幻覚だがリアリティがあったらしい。大嫌いな学校が燃えたり。嫌な人間が目の前で死んだ。とにかく幻覚を見た者は満足出来たそうだ。


「何がやりたいんだ一体…信太郎もメノルの野郎も」



 信太郎を止めるか幻覚を見せる怪人を倒すか。とりあえず、手の打ちようがないので遭遇したら何とかするというあまりにも雑な作戦が決まった。


「俺の感知能力も曖昧になって来てるからなぁ…レーダーとしてはもう期待しないでくれよ」

「いやいや、それでなくとも回復してもらって助かってます」


 一礼すると千夏は宇宙船から出て行った。最近は千夏が情報係を担い、積極的に情報を集めては伝えていた。



(芽愛も頑張ってるんだから…私も負けてられないぞ)


 芽愛はアニマテリアル達と共にヴィジョンの足取りを追っている。行動パターンが既に掴めていて、現在は次に狙われる人物の尾行中だ。




「助けてえええ!」


 近い場所から悲鳴が響いた。千夏が駆けつけると、そこには怯えた学生たちと剣を振り回すデストロイがいた。


「何やってんの!?」


 変身して止めに入る千夏。学生たちを逃がすと信太郎が怒鳴り散らした。


「邪魔すんなよ!あいつらいじめやってたんだぞ!一人に四人で!最低だろ!」

「!…だからってこんなやり方!」

「こうでもしないとまたやるだろうが!離せよ!」


 デストロイは自分を押さえるビヴィナスを振り払いその首に剣を突き付けた。


「邪魔すんなよ…」

「なに?闇堕ちクールキャラにでもなったつもり?」


 オタクの千夏は当然そういうクールキャラが好きだ。だが今の信太郎とそれらとは違う。


「…キモい」

「…なに?」

「なにがあったか知らないけど回りに当たってさ。キモいんだけど!」


 信太郎からはクールという属性を全く感じられなかった。キモい。それが今の信太郎を表せる唯一の言葉だった。


 デストロイの腕を蹴り上げた。そしてがら空きになった胸を切り裂く。容赦のない一撃だった。


「うああ!?」

「私は君のこと倒せるから。啓太を侮辱したこと、謝るまで許さない!」


 更に一撃。ビヴィナスは腕を止めずに何度も胸を斬り付けた。迷いがないのはアクトソードを握っているからか、もしくはそこまで啓太への侮辱が許せなかったのかもしれない。


「いだあああ!痛あああああい!」

「謝れ!啓太に!」


 そしてビヴィナスの剣がデストロイを貫いた。こうなった以上、助かるにはシャオに治してもらうしかない。

 治してもらうのと引き換えに剣を取り戻そうというのが、千夏の考えていた作戦でもあった。


「そこまで怒ることかよ!」


 その言葉が千夏の怒りを頂点にまで押し上げた。信太郎が啓太の死をそれだけのこととした認識してないのを彼女は知ってしまい、そしてこの技を繰り出すことを決めた。


「ビヴィナススラッシュ!」


 マジかよ。そんなリアクションも許さない一撃がデストロイに直撃した。


(あっ…カッとなって…私!)






「あー、あぶね~…」


 デストロイは確かに攻撃を受けた。その証拠に正面の装甲は削られて血も出ていた。

 しかしその身体は消滅することなくこの場に残っていた。


「どうして生きてるの!?」

「…金石の必殺技は簡単に言えば破壊。同じ破壊の能力を持つ俺のデストロイで相殺…パワーダウンさせたんだ。それでも…痛いけどな!」


 デストロイの刃が触れる直前、殺意に怯えたビヴィナスは腰が抜けてしまい地面に座り込んだ。偶然攻撃を避けることに成功したが、もう逃げ場はない。



「やめて…」

「…冗談じゃん。邪魔したからちょっとビビらせただけだって。泣くなよ」


 変身が解けてしまい千夏の泣き顔が晒される。運良く周りに人はいないので、ビヴィナスの正体であると知られることはなかった。



 剣から転がり落ちたビヴィナスマテリアル。それを見て信太郎はあることを思い付いた。


「…お前らがいるから俺が注目されないんだな」


 信太郎はそれを拾うと、自分のトロワマテリアルの中へと収納してしまう。そう、没収だ。


「返してよ!」

「俺みたいなのに負けるんじゃもうこの先やってけないよ…オタクはオタクらしくアニメ観て漫画読んでればいいんだ」

「なんだよそれ!意味分かんないよ!」


「ビヴィナスはフェードアウト。分かるだろ?出番はもうないんだ。はっはっはっはっ!」


 久しぶりの大笑いは最低な物だった。


 これから自分以外の戦士から活躍を奪おうと決めた信太郎は、次に誰に何をするかを考えながらどこかへ行ってしまった。

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