第70話 「ヒーローだよ」
タニング撃破後、アクトナイトの三人は宇宙船へと戻って来た。
「みんなお疲れ様。お茶用意するね」
船で待機させられていた芽愛も強敵の撃破を知り、機嫌が良かった。
「凄かったね~大月君。いつの間にあんな強くなっちゃったの?」
「さあ…でもあれは…」
「あんまりいい雰囲気じゃなかったよね」
将矢だけじゃない。他の仲間たちもあの異常な力に不安を抱いていた。
しばらくすると将矢と奏芽がイチャイチャし始める。鬱陶しそうにする千夏は部屋を移ると、そこには同じように逃げていた芽愛がいた。
「よっす…隣いい?」
普段はシャオが使う瞑想室だが、静かな部屋なので二人はたまにここに来ていた。
「…いいよね、ああいうの」
千夏は奏芽たちを羨ましく思っていた。自分もそうなるはずだったが、メルバド星人の野望に未来のパートナーは殺された。もう啓太とあの関係になることは出来ないのだ。
「だね…」
芽愛は昇士に選ばれなかった。闇の力に染まり彼に近付こうと努力したが、結局周りに迷惑を掛けただけだった。昇士には一度も振り向いてもらえずに終わった。
お互い恋愛で痛い思いをした。その共通点のせいか、最近は会話することが多くなっていた。
「そうだ。前勧めたアニメ観てくれた?」
「あ~あれ。難しくて切っちゃった」
「ねえ、駅前に出来たケーキ屋さん行った?」
「いってないや」
千夏がオタクカルチャーを勧めたり、芽愛が最近盛り上がっている界隈の話をする。お互い振られる話題に関心を持たないので話はそこまで続かないが、暇潰しにはなっていた。
「…それ前もやってたソシャゲ?よく続くね」
「息するみたいなもんだからね~」
「芽愛、香水変えた?」
「よく気づいたね~、最近出てきた新しいやつ!使う?」
シャオ達が帰って来るまで雑談は続く。しかし中々帰って来ないので、話題が尽きようとしていた。
「私もなれないかな~、アクトナイト」
芽愛はポケットからマテリアルを取り出した。かつて闇の力を宿していたそれは、今では何もない空っぽの状態だ。
「芽愛は怪人になったんだよね」
「うん。怪人になって…朝日君のためになりたいって。でもやったことはみんなの迷惑になることばかりだった」
芽愛は怪人となり那岐を襲った。不愉快な信太郎を闇で眠らして殺そうともした。
「大月君に謝れてないな…」
「謝らなくていいよあんなやつに…それよりもアクトナイトになりたいのって」
「うん。朝日君と一緒に戦えたらなって…まあ無理だったけどさ」
既に芽愛はアクトソードを握ろうと挑戦済みである。結果は昇士と同じように拒まれ、戦士には選ばれなかった。
それに昇士と違い芽愛には特別な力はない。ルール破りの変身も出来ない。
「でも…頑張ってると思うけどな。アニマテのリーダーやってるし。今日は相手が相手だから何も出来なかっただけでさ」
「そうかな…」
戦闘力のない芽愛はアニマテリアル達の指示を行っている。那岐と昇士が味方になった今、小さな戦士たちは芽愛を中心に支援を任されている。
地味な役割ではあるが、おかげで被害者は少なく済んでいる。
「芽愛も立派なヒーローだよ。きっとアクトナイトさんならそう言うよ」
「私も…うん、そうだよね。戦うだけじゃない。助けることも大事なんだ…朝日君やみんなが助けられなかった人を私が助けないと…」
自分にやれることがやるべきことだと考え方が改まる。
今の芽愛は失恋でメソメソすることや戦士になれずクヨクヨすることより、誰かを助けるという役割を果たさなければならないのだ。
それを聞いていたアニマテリアル達が次々に瞑想室へと流れ込んで入ってきた。リーダーの決意が気に入ったらしい。
「よーし。みんな、これからもよろしくね!」
それから間もなく、シャオ達が宇宙船へと戻って来た。それから告げられたのは、アクトナイトの一人である信太郎が敵になったということだった。