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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
アクトナイト編
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第7話 弱み握られ信太郎

「あぁ~あいつら最近付き合い悪いな…」



 信太郎は自分の席に座って弁当を食べていた。将矢と奏芽、啓太と千夏はそれぞれ教室ではないどこか静かな場所で弁当を食べているのだろう。


 教室での信太郎は孤立しているわけではないが、わざわざ集まって弁当を一緒に食べる程の友人はいなかった。



「信太郎、お前から孤独を感じる。食べる友達はいないのか?孤食はよくないぞ」

「それよりもメルバド星人は大丈夫なのか?」

「今のところエナジーは感じない。それよりもだな」


 アクトナイトと話していると、クラスメイトの一人が信太郎を呼んだ。


「大月、お客さんだぞ」



 信太郎が廊下に出ると二年の男子生徒がニヤニヤしながら待っていた。信太郎は他学年の生徒とは関わる事がなく、彼とは初対面だった。


「…どちら様です?」

「少しいいかな~?」


 知らない上級生の後ろを付いて行きやって来たのは授業でしか使われない空き教室だった。そこにいたのは柄の悪い三人の生徒で、信太郎が関わるのを苦手とする人種だ。


「あ、君信太郎君?どう、お菓子食べる?」

「あ、あの何の御用でしょうか」


 怯えきった信太郎を見た不良達は大声で笑った。とてもその姿がおかしく見えたのだ。


「そんな怖がる?いっつも俺たちなんかより怖い怪人と戦ってるのに。てか何なのあれ?」



 自分がアクトナイトだということが知られている。冷汗をかいて一瞬の内に過去の事を振り返った。


(そうだよな。俺は誰にも正体を…明かしてない)


「あぁこれこれ。これ観てよ」


 女子生徒がスマホを取り出して動画を流した。それは先日、街でセルナとキルスが戦闘した時の映像だった。


 カメラは怪人から信太郎へと向けられ、彼がアクトソードにマテリアルをセットして変身している姿がしっかりと映っていた。


「怪人撮ってたらさぁ、うちの制服着た子が変身してビックリしちゃった」


 信太郎は当時少し興奮気味だった。一応周りに市民がいないことを確認してから変身したはずなのだが、彼を撮影している人間はいた。


 それがよりによって同じ学校の質の悪い生徒だった。


「これは俺じゃない…」

「いや無理あるって。だってこんなに顔くっきり映ってんだよ?なんならネットに流してみようか?」



 いつか正体が知られたらと考えたことはあった。知られるのなら心を許せる人や大切な人、とにかく仲間と呼べる人間にバレた時のことを考えていた。


「ヒーローの正体はまさかの高校生!いや~この動画どうしよっかな~」


 しかしよりにもよってこんな最低な人間に、信太郎の正体が掴まれてしまったのだ。


「あの、言わないでくださいほんとにそれ消してください!」

「じゃあさ~…とりあえず購買行ってお菓子買って来てよ。なくなっちゃったから」


 信太郎は反論することなく教室を飛び出して、食堂の購買部へと全力疾走した。




「好きだよ将矢…好き好き好き好き!」

「俺も同じだ」



「二人ともマテリアルでイチゃつくな…………信太郎どうした!?心がグチャグチャになっているぞ!」

「どうしようアクトナイト、俺が戦ってるってバレちゃった!」


 トロワマテリアルに触れるとまず将矢と奏芽の声が聞こえたが、それに構わず信太郎は事情を伝えた。


「不良にバレた!今脅されて購買部に走ってる!俺今財布に千円札しかないんだけど!」


「それは大変だ!………」

「………え!?何か解決策とかないの?記憶消す装置とかさ」

「すまない。自分で何とかしてくれ」



 適当な菓子を買い漁ると信太郎は空き教室に戻った。


「はええ流石!怪人と戦ってるだけある!ウサイン・ボルトより速いんじゃねえの!?」

「お願いします!もう動画を消してください!」

「いや消すとか約束してないから。まあ最初はこれぐらいでいっか。とりあえず連絡先ちょうだい。後で連絡入れるから。無視したら晒すから」



 そのあと、信太郎は午後の授業を受けたが全く内容が入って来なかった。これからの事を考えると絶望しかなく、人に見られないように涙を制服の袖で拭いていた。




「おい信太郎…信太郎」



「はっ!」


 いつの間にか眠っていたところを将矢に起こされた。一時間半近く眠り続けており、既に放課後だった。


「大丈夫…みんなはバレてないから」

「そうじゃない…お前大丈夫か?…泣いてたのか?」


 信太郎はその手にトロワマテリアルを握っていた。眠っている間にも心は繋がっており、将矢たちは授業中にアクトナイトと連絡を取り合おうとする度に、とても辛そうな信太郎の心を感じていた。



「信太郎、大丈夫か?酷く…つらそうだ」

「アクトナイト……だったら何とかしてくれよ!」


 黒板の方向へと投げたマテリアルは、跳ね返って信太郎の顔でバウンドしてリュックの中に納まった。


「あっちゃ~痛そ」


 信太郎はリュックを一度強く蹴り飛ばしてから背負い教室を出た。



 校門を抜けようとした時だった。昼間の不良から電話がかかって来た。


「うわぁ………はい、もしもし」


「あのさあ金貸してくれない?一万…二万かな」

「で、でも財布にお金が…」

「じゃあ銀行から降ろせよ」


 信太郎の口座にはこれまでのバイトで稼いだ給料がまだ残っていた。

 学校から走って10分のところにある駅のATMから金を引き出した信太郎は、また10分間走って校門前まで戻ってきた。そこでは金を待ちわびてる不良たちが立っていた。



「…あれ、もう一枚は?」

「いやこれは買い物とかするためので」

「三万って言わなかった?」


 気晴らしに使おうと思っていた一万円まで不良に取られたのにはたまらず、その憎たらしい笑顔を睨みつけた。


(俺の一万円!…こいつら…)


「何その顔?…まあいいや。行こうぜー」




「………なんなの?」


 その弱々しい一言には怒りが詰まっていた。それだけ呟いた信太郎は、寄り道もせず真っすぐ家に帰ることにした。



 自宅に戻った信太郎は部屋でしばらく荒れていた。リュックを蹴飛ばして壁を蹴り、スマホを床に叩きつけようと思ったが冷静になって枕の方に叩きつけた。


「信太郎、心の中が真っ黒だぞ。無理はしないでくれ」


「聞いたよ大月君。大丈夫?私たちに出来ること、何かある?」

「どうにかして証拠の映像を消さないと…先輩の名前とかって分かる?将矢が何とかするって」




「放っといてくれえええええええええええ!ああああああああああ!」


 近くにあったダンベルで何度もトロワマテリアルを叩きつけたがそんな物で壊れるわけがなく、逆にダンベルの方が割れてしまった。



「……………あっははー!」


 今までの自分の行動を振り返り、異常過ぎるだろと思い変な笑いが出た。


「はぁ…どうしようこれから…」




 次の日、信太郎は朝の六時に学校へ来ていた。こんな時間に来るのは朝練のある部活の生徒か教員ぐらいだ。


「こんな朝早くから…一体何の用だよ」


 ぶつくさ言いながらテニスボールを壁に投げて遊んでいると不良たちがやって来た。


「おぉ~来てる来てる。おはよ~………あれ返事は?」


「おはようございます」


 一刻も早くこいつらから離れようと決めている信太郎は要件を聞いた。


「いやあの変な格好に変身してよ」

「アクトナイトに!?」

「あれってアクトナイトって言うんだ。なんか小学校の頃そんなの習ったな…てかさっきニュースで見たんだ」


 不良はカメラを向けて撮影を開始した。既に弱みを握っているというのにまだ握ろうとしていたのだ。



「そ、それはダメです!あの力は怪人と戦う為の物であって!」

「変身するぐらいいいじゃん。ほら早くさ」


 ソードとマテリアルを手にした信太郎は、嫌々アクトナイトセルナへと変身した。


「おぉーすげえ本当に変身してんじゃん…ちょっと校庭走って来いよ」

「いやでも…」


 拒否した信太郎は映像を流すと脅されて、校庭を物凄い速さで一周して戻って来た。


「あー撮れた撮れた…もういいわ」


 アクトナイトから興味が薄れ始めた不良たちは信太郎の走る姿など見ていなかった。。


 彼らが去った後、信太郎は人目に付かない場所で変身を解除すると教室へ歩いた。


 その日一日、信太郎はトロワマテリアルには手を触れず、啓太たちが近寄って来ると逃げるように教室から離れて過ごした。


(どうしたらいいんだろう…)



 放課後、信太郎が家に向かって歩いていると電話がかかってきた。


「チッ…て金石かよ。もしもし?」


「大月君今どこ!?ベルニー公園の方にメルバド星人!奏芽がやられちゃってヤバいかも!すぐ来て!」


 それを聞いた信太郎はボードモードのトロワマテリアルに飛び乗って怪人の元へと飛んだ。



 高い位置まで上昇し直線距離で進んでいると、今度は不良たちから電話がかかってきた。


「もしもし!?」

「助けてくれ!みんなが怪人に…うわあああ!」


 悲鳴が聞こえ、すぐに通話が切れてしまった。


「信太郎大変だ!今回の怪人、物体を吸収して強くなっている!このままだと手に負えなくなる」


「まさかあの人たちは…!アクトベイト!」


 信太郎はアクトナイトセルナに変身して急行した。



 ベルニー公園は海沿いにある綺麗な公園だ。目の前には米軍の基地があり戦艦を見ることが出来る。


 だが街にいる怪人に向かって戦艦は攻撃出来ない。今この街を守れるのはアクトナイトたちだ。


「危ない金石!」


 ジュピテルが液体のような怪人トンベの魔の手からビヴィナスを逃がした。

 しかしトンベはビヴィナスの代わりにとジュピテルをその身体に取り込んだ。


「啓太!」

「行っちゃだめ将矢!取り込まれちゃうよ!」


 ビヴィナスに止められてフレイスは怪人へ近付かなかった。二人はジュピテルが取り込まれていくのを眺めることしか出来なかった。




「おいお前ら!あぶねえだろ!あっち行け!」


 フレイスが叫んだのは近くで戦いを見ている人間がいたからだ。カメラを構えて僅かな人間が迫力のある戦いを撮影しようと頑張っていた。


 怪人トンベは手強いアクトナイトではなく彼らに狙いを定めた。

 強くなってからこいつらを倒せばいい。まずは強くなるんだと言わんばかりの勢いで人々にその身体を伸ばした。



「プレートバリア!」


 人々が飲み込まれるかと思った瞬間、トンベの伸ばした腕が目の前で止まった。まるで何かにぶつかったかのように弾かれていた。


「これは…透明な壁だ!壁があるぞ!」

「早く逃げて!ここは危ないですから!」


 上空のセルナが作ったバリアの壁が彼らを守った。

 だがバリアが透明で邪魔にならないということもあり、カメラを持った人間は逃げ出すことなく撮影を続けていた。


「どうなっても知らないからな!うわっ!」


 エアボードに乗っていたセルナが突然落っこちた。植物が彼の乗っていたエアボードに巻き付いていた。


「そんな!?いつの間に絡まったんだ!」


「違う信太郎!植物が成長した!今のはジュピテルの能力だ!」


 トンベは取り込んだジュピテルの能力を駆使し、街路樹の枝をエアボードに巻き付けたのだ。


 セルナは二人の元へと落下したが綺麗な着地を決めると戦闘態勢に入った。


「奏芽は逃がしたけど啓太が吸収された!」


「やつは変幻自在な身体の中にコアを隠している。それを破壊できれば俺たちの勝ちだ」


 既に分析を終えていたアクトナイトが弱点を知らせた。しかし正確な位置を知るにはセルナの力が必要だった。


「「ウィークポイントチェッカー!」」


 セルナの勇ましい両眼が赤色に代わりトンベをじっくりと睨み付けた。


「コアみたいなのはあれか…常時移動させて厄介かも」


 トンベは液状の体内で常にコアを移動させて、弱点に触れられないようにしていた。


「そうだ信太郎、俺にコアの場所を教えてくれ。千夏はコアを破壊するんだ」


「そっか…その作戦ならやれるかも!」



 作戦が決まった。まずフレイスがマテリアルを叩くと同時にトンベへと走って攻撃を開始した。。


「右だ!」

「真っ二つだあ!」


 信太郎の指示を受けたフレイスは激しく燃え上がる刃を振って怪人を二等分に切り裂いた。


「上の方!」

「ってことは横に斬る!」


 再びフレイスは炎の刃で上下半分に分断した。コアは攻撃から逃れようと自身の肉体の中を逃げ回っていた。


「もっと上の左の方!」

「あよいしょ!」


 フレイスはどんどんコアを追い詰めていき、遂にコアの表面が現れるところまで追い詰めた。


「いけ!千夏!」



「万物砕く刃金の一振り!ビヴィナススラッシュ!」

「これで終わり!」


 ビヴィナスは高く飛び上がると逃げ場のなくなったトンベのコアを地面へと叩き落とした。


 コアにヒビが走ると液体の部分が蒸発していき、これまで吸収していた物たちが中から現れた。


「更に…もう一撃!」


 ビヴィナスが再びコアを殴ると今度こそトンベは消滅した。



 パシャパシャとシャッター音が鳴り続ける。アクトナイトによって助けられた人たちを撮影していた。




「お願いです…もう映像を消してください」


 セルナはトンベの中から出てきた不良たちの元に駆け寄った。心配はしていなかった。


「もう分かったでしょ?こんなにパシャパシャ写真撮られて…気分悪いでしょ?…だからお願いだ。映像を消してください!別に俺、悪いことしてないじゃないですか!何で写真撮られて脅されて嫌な思いしなきゃいけないんですか!お金は返さなくていいですから…もうやめて…」


 信太郎は泣きそうになりながらそれだけを言うと、仲間と共にその場を後にした。



 その後日、信太郎は不良に絡まれなくなった。彼の映像がどうなったのかは定かではない。映像が流出したということは確認されていないので、きっと説得が意味あったのだろうと思った。


 今後三万と千円が返ってくることはないだろう。警察に相談できることでもないので慰謝料も払われることはないだろう。



 人の為に戦っているはずなのにどうしてあんなことになってしまったのかと、信太郎は傷付いた。

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