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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
69/150

第69話 決別

「なんだ…今のエナジー…怪人か?」


 シャオが身震いしたのを見て、千夏が暖房の前から退いた。


「宇宙人も寒いの苦手なんですか?」

「そりゃな…凄い寒がりなやつは恒星の近くに家を建てたりするし」


 宇宙船にはアクトナイトの少年たちと那岐、昇士、芽愛の三人が集まっていた。



「信太郎と連絡取れないな…誰か最近、あいつにあった人」


 将矢の問いに誰も反応をしない。猛吹雪の日を最後に音信不通だ。


「…いないか。だったら探しに行こう。何かあったのかもしれないし」


「探して見つけてどうなるの?どうせ嫌な思いするだけだよ」

「千夏にまだ謝ってないんでしょ大月君ってば…最近変だし、もう関わらない方がいいと思うんだけど」

「戦力にならないわ」

「ちょっと会うの…気まずいかも」


 女子たちに提案を全否定される昇士。


(ここまで嫌われるなんてお前は何をしでかしたんだ)


 流石の将矢も呆れていた。


「どうしようアクトナイト…」

「どうしようって言われてもな…」



 シャオが最後に会った時、信太郎はイズムを倒した直後で取り乱していた。随分前、信太郎を闇から救い出したあの日以降、あまり関係がいいとは言えない。


 それに信太郎は危険だ。アクトナイトの少年たちの中で誰よりも不安定だった。


「…探してくる」

「じゃあ俺たちも!」

「いや、今回は俺一人で話がしたい。お前たちはいざって時に備えて休んどけ」


 シャオは人の姿で地上に出ると、将矢から譲って貰った自転車に乗って信太郎を探しに出掛けた。



 しかし宛もなく探し始めたもので、三時間経過した後でも信太郎を見つけることは出来なかった。


「いねえ…この街そんな広くねえだろ。どんだけ運ねえんだ俺」


 少し休憩してから再び捜索を続けようとしたが、それどころではなくなった。


「…!このエナジー…タニングか!」


 シャオは強敵のエナジーを感知するとすぐさま少年たちに連絡する。そして彼も回復役としてタニングの元へ向かうのだった。




「逃げろ!またあの怪人が暴れてるぞ!」


 街の人々はスムーズな避難を行いタニングから離れていた。これまでの経験から、彼らは効率よく逃げることを学んだのだ。


「来たぞ!アクトナイトだ!」

「がんばれー!」


 頭上を三人のアクトナイトが飛び越えてタニングに接近する。


「昇士君と那岐ちゃんもよろしく頼むよー!」


 もう顔を知られている那岐は仮面を付けてはいなかった。


「那岐ちゃあああん!」

「おおおおお!」


「うっさい!早く逃げなさい!」


 今は関係ないことが、刀で戦う美少女ということで那岐は一部の層から人気を得ていた。



「どうする?昇士の攻撃でも倒れなかったよなこいつ!」

「封印するとか地球から追放するとか…アクトナイトさん!なにかありませんか?」


「なにもない!とりあえずそこら一帯から人が避難するまで時間稼いどけ!」


 自分たちではタニングに勝てないということは誰もが理解していた。それでも、街の人たちを守るために、死ぬかもしれないとしても構わずに戦いに挑んだ。


 正面、死角から剣を振っての攻撃、能力を使った特殊な攻撃も全てタニングには防御されてしまう。しかし自分たちに注目させるという点では役に立っていた。


「昇士は打撃を!奏芽は水で呼吸能力を奪いなさい!」


 那岐が攻撃している間に、昇士は背後から強力なパンチを。アーキュリーは下水をタニングの鼻と口から浸入させた。


 それぞれ違う分類の攻撃方法でタニングへ攻撃したが、それでも通用しない。タニングは体内で雨粒程まで凝縮した下水をアーキュリーに発射し、昇士にはちょうど目の前にいた那岐を投げて反撃した。


「お願いみんなを援護して!」


 芽愛の指揮するアニマテリアル達が多彩な技を見せるが、どれもアクトナイト達ほどの攻撃ではない。そんな物を気にすることもなく、タニングは視界に入った彼女を狙い突進した。


「陽川さん!」「芽愛!」


 昇士はキャッチした那岐を回転して勢いを付けてから投げ飛ばした。滑空する那岐は芽愛を抱くと、イーグルの翼を生やして一気に上昇した。


「あいつ…」

「あ、ありがとう…助かった」



 もう避難に必要な時間は稼げただろう。那岐が撤退という言葉を口にする直前、その少年は現れた。



「もう俺はお前に負けない…」


「お前は…信太郎なのか!?」


 将矢が驚くのも無理はない。頼もしいセリフを口にして現れた信太郎だが、そんな彼には以前までの面影は一切なかった。

 病気のように痩せ細った身体に虚ろな瞳はまるで別人のようである。


 だが彼にはタニングに勝つ自信があった。


「待て信太郎、俺たちじゃあいつには」

「まあお前たちじゃ勝てないだろうな。見とけよ。今の俺、多分この中で一番強いから」


 そして信太郎が手にしたのはアクトソードと、セルナではなく今までに見たことのないマテリアルだった。


「アクトベイト…綺羅星を砕く破壊の力!アクトナイトデストロイ!」



 信太郎が変身したアクトナイトデストロイ。一見その姿は他のアクトナイト達と似ているようだが、味方だと思わせないプレッシャーを放っていた。


 周りの瓦礫が音を立てて崩れていき、デストロイはタニングに向かってゆっくりと歩き出した。


「こいよ。いつもみたいに俺に恥をかかせてみろ」


 挑発が伝わったのか定かではないが、地面を蹴ってタニングが攻撃を仕掛けた。だがパンチをしようと伸ばした腕が、デストロイに触れる直前にバラバラになって足元に散らばった。


「はい残念」


 パンチとはこうやるのだ。まるで教えるかのように、デストロイは拳をタニングの顔面にめり込ませた。


「たまらんこの殴る感触!最近やられてばっかだったからなぁ…」


 壁に叩きつけたタニングの頭部を引っ張り起こすと、今度は横腹への蹴り。もうヒーローよりチンピラと言うような戦い方になっていた。


 タニングは反撃をしていないわけではないが、どんな攻撃もデストロイに触れられず砕けてしまうのだ。その異常な再生能力がなければもう身体は残っていないだろう。



 信太郎はタニングに勝つ。その結果に変わりはないが…しかしこの戦い方はあまりにも酷かった。


「久しぶりに勝ち星だ!雪崩の如き崩壊の鉄槌!デストロイスラッシュ!」


 デストロイはタニングを突き刺すとそのまま空高くへ飛び上がった。


「俺の勝ちだ!」


 ビルの屋上へタニングを叩きつけてそのまま地上まで急降下。爆破解体されたかのようにビルは崩壊を起こし、砂埃が巻き上がった。





 それは本当に街を守っていたヒーローなのか。瓦礫の中から這い上がる信太郎。彼の剣にはタニングの頭部が突き刺さっていた。


「俺の勝ちだあああ!」


 剣を掲げると共にその頭部も塵となる。勝利を誇る信太郎は巻き込んだ建物の瓦礫に立っていた。



 戦いの終わりを知った街の人々が戻ってきた。顔の知られた那岐と昇士が説明のために街に残り、他のメンバーは記念公園へと戻った。


 そしてこの場にいるべきでない信太郎もその場に残っていた。


「あああ…マンションが…」

「ごめんなさい…俺たちの力がなかったせいで…」


「怪人は倒せたの?」

「まあ…倒したには倒したけど…」


「那岐ちゃあああん!」「那岐!那岐!那岐!那岐!」「ショウナギ!ショウナギ!」



 ついにあの怪人が倒されたのかと街の人々は胸を撫で下ろした。


「もっと早くに倒せてればこうならなかったんじゃないの~?」


 化粧の濃い婦人が崩れた建物を指差して苦言を呈した。クレームが好きそうな人だなと、二人は冷静だった。


「気にしないでいいわよ昇士…ごめんなさい。今回のことを踏まえて次はもっと効率よく戦います」

「ちゃんと反省会はするのでよろしくお願いいします………そういう那岐こそ、カッとならないでね」


「まず倒してやったんだから礼しろよな」


 そして場を冷めさせたのが信太郎だった。


「…なんて言いました?」

「いや、戦わないし戦っても負ける皆さまの代わりに俺は戦ったの。分かる?」


「…君っていつも負けてた子だよね。今日の怪人はみんなで協力してやっつけたんでしょ?なのにそういう態度はちょっとどうなのかなって…」

「いやいやいやいや誤解しないでくれる?あいつは俺一人で倒したんだけど。証拠誰か撮ってる?撮ってないかー!だってみんな逃げちゃってたもんな。ざ~んねん。じゃあそういうことにしといていいよ」


 久しぶりの勝利で信太郎はご機嫌だ。いやテンションが壊れているというのが正しいか、とことん街の人たちを馬鹿にしていた。



 その後聞こえてきたのは批判の声だ。誰も信太郎に感謝したり褒めたりしなかったが当然である。こんなガキに救われるくらいなら、死んだ方がマシだろう。



「………」



 ボキャブラリー豊かな罵声に信太郎は言い返すことが出来ない。だがやり返すにはなにも言葉でなくてもいい。

 その結論に至ると、信太郎は剣を掲げて周りの人々に制裁を下すことを決めた。


「なんで人助けやってこんなチクチク言葉でつつかれなきゃならんのか。はぁ、俺は悲しいよ」



「懐古的なやり方だけど人の痛みを知るには自分たちが傷付くのが一番手っ取り早いと思うんだよね」



「だからさ、あんた達も体験してみろよ。腕が切れたり耳が千切れたり、つらい思いしてみろよ」



 足元の瓦礫が次々に粉塵になっていることに気が付き、那岐は昇士を抱き上げて空へと逃げた。


「あんた達も逃げなさい!どうなるか分からないわよ!」


 その那岐の言葉を聞いて、やっと自分たちの身に危険が迫っているというのを知った人たちが慌てて逃げ出した。


 情けない後ろ姿だ。さっきまでの威勢はどこに行ったのかと信太郎は呆れ返った。


「殺しはしない…生きて苦しめ!」



 憎しみの剣が振り下ろされるすんでのところ、自転車に乗ったシャオが信太郎へ疾走して来ていた。


「お前えええ!」


 そのまま信太郎を跳ねて攻撃を阻止。倒れた信太郎に馬乗りになると、怒りの鉄拳を一発入れた。


「今なにしようとしたあああ!?」


 さらに入ろうとした左の拳を信太郎が掴む。シャオからエナジーを貰わずとも変身出来るようになった信太郎は、今ではシャオと近いパワーを出せるようになっていた。


「いってえな…どけよ」

「お前人を傷付けようとしたろ!自分がなにやろうとしたのか分かってんのか!馬鹿野郎!」

「…言われてみれば馬鹿だよな俺たちって。なんでわざわざ命懸けて人を守ってんだろ…本当、馬鹿だな…」


 シャオが剣を奪い取ろうとすると、信太郎は蹴りでそれを拒否し立ち上がった。


「もうそれはお前が持っていい物じゃない!返せ!」



 信太郎を見極めたアクトソードは、遂に彼の元から離れようと決心する。シャオの元へと引き寄せられるように動き出すが、信太郎は剣を離さなかった。


「やめろ…これは俺のだ!」


 信太郎は剣を支配した。逃げようとしなくなったアクトソードを見ると信太郎から笑みが溢れる。


「よっしゃ!…これ、俺のな」


 シャオは剣を取り戻そうと挑んだが、戦闘を得意としない彼が信太郎に勝てるわけなどなかった。


 離れた場所から戻って来た那岐と昇士がシャオを守りに入る。那岐に至っては波絶を抜いていた。


「信太郎…どうしてこんなこと」

「分かってたでしょ昇士。これがこいつの本性なんだって…本当、どうして剣は昇士を選ばなかったのかしら」


「灯刀さん…今の俺じゃあんたには勝てないや。今回は見逃してもらうよ」


 信太郎の前に景色を遮るほどのオーロラが出現する。それが止んだ後、信太郎の姿はなくなっていた。


「那岐、信太郎は」

「身内を自分の意思で傷付けた。そんなやつ、もう仲間なんて考えなくていい。昇士、もし戦うことになったら殺すつもりでやりなさい」

「えぇ…無理だよ」


 二人はこれ以上騒ぎが大きくなる前にシャオを連れて撤退した。

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