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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
65/150

第65話 ラーメン星人

 12月直前。世須賀市でフライング過ぎる初雪が観測された。


 地球温暖化による気候変動、宇宙人来訪による環境への異変、様々な説が騒がれているが、初雪はとても柔らかく綺麗だった。



(寒っ…!)



 信太郎はいつものように学校へ行かず市内を放浪していた。

 車の数がいつもより少ない。電車も本数を減らしているので今日は一度も見ていない。


 街がいつもより静かに感じられた。


「これも怪人の仕業なのか…?」


 例年までの防寒着でもまだ足りない。信太郎は身体の温まる物を食べようと偶然見つけたラーメン屋に入っていった。




(いっ!?)


 扉を開けて信太郎は立ち止まった。店の中を見渡して、自分の頭が狂ってしまったのではないかと疑った。


(宇宙人たちが…どうして!?)


 そのラーメン屋に地球人の姿はない。宇宙人たちが音を立ててラーメンを啜っていた。


「へいらっしゃい!」


 信太郎は恐る恐る席に着いた。彼はアクトナイトとして世間に知られているはずだが、周りの客は気にすることなく食事を続けていた。


(なんだここ…!?)


 もう地球侵略は始まっているのか?そう驚きが隠せなかった。

 場末にある宇宙人が経営しているラーメン屋、()()()()()()()()()に信太郎は入店してしまった。





 信太郎はメニューを見て5分程黙ったままだった。


「あの、この店って日本の通過…円って使えますか?」

「そりゃ当然だろ。日本でやってる店に日本円が使えない店があるってのか?兄ちゃん」


 ナマズのような顔をした店主の顔はシワシワだ。きっと年寄りなのだろう。だからなのか、店主というポジションがしっくりきていた。


「じゃあ…このトボネ肉絡ませラーメンの並みで」


 トボネ肉とは何だ?間違いなく地球の物ではないのだろう。実際、他の客は見たこともない具を平然と口にしている。


「はいよ。それにしても勇気あるな兄ちゃん。地球人の客はお前で初めてだよ」

「あ…どうも」

「それに見たことある顔だと思ったらアレだろ兄ちゃん」


 店主が菜箸を向けた先には小さなテレビが。そこには信太郎の変身するアクトナイトセルナの姿が映っていた。


「え、俺のこと知ってるんですか?」

「そりゃな。昔あんたに助けて貰ったことがあるから。覚えてるか?ミヤナ星雲が消滅しそうになった時のこと」


 それから店主は楽しそうに語り始めるが信太郎にはよく分からない話だった。しばらくして、この店主は以前のアクトナイトについて話していると気が付いた。


「星雲外へと居住衛生を残らず救出!それからあんたはあの白い感じの姿になって星雲の消滅を止めたんだ!綺麗だったな~あの時の宇宙に待った粒子は!」


「ちょっと待った!…俺は違う。その時のアクトナイトじゃないんだ」

「そりゃあ…どういうことだ?」


 覚えのないことで感謝される罪悪感が嫌になり、信太郎は正直に自分の正体を話した。アクトナイトの死を店主は悲しんでいたが、今のアクトナイトである信太郎を否定することはしなかった。


「そっかぁ…兄ちゃんも大変だな。若いのに」

「慣れないといけないんでしょうけど…ね」


 そしてトボネ肉絡ませラーメンが姿を見せた。ナルトやメンマのように、よく分からない食材がトッピングがされているがそれよりも、二つ編みの麺が特徴的だった。


「これがトボネ肉?」

「そうだ。まあ見慣れないだろうけど食ってみろ?」



 食器を手に取り麺を掴む。見たこともない形の食器だが、挟んで使うという点については箸と同じだった。



「ずずず…あんまり美味しくないです」

「だろうな。誰も頼まねえもん」


 美味しくないが食べれなくはない。コショウで誤魔化しながら、信太郎は見事に完食してみせた。



 このままこの店を去るわけにはいかない。信太郎は気になっていたことを店主に尋ねた。


「この店っていつから?なんで宇宙人の人が店主やってるんですか?」

「そりゃあ…そりゃあ………内緒に出来るか?」


 違法な事なんだろうなとは察している。だが信太郎は通報などはするつもりなく、単純に興味があって質問していた。



「…偉いやつらが視察に来たっていうのは知ってるだろ」


 それはもう嫌というほど、信太郎は視察に来た宇宙人の行いを目の当たりにしていた。


「俺たちはな、無理矢理連れて来られてここの住民にされたんだ。地球の侵略が終わった後、外から来たやつらが馴染みやすいための地元住民にな。まあ地球侵略に送り込まれた兵士みたいなもんだ。戦わないけどな」

「私たちの住んでいた星は植民地や他の星の元に従う眷属惑星でした」

「住む場所を奪ったんだよあいつらは。それで邪魔な俺たちをこの星に送り込んだってわけ」


 店主の話に続いて次々と客が語り始めた。一方的に世須賀で好き勝手している宇宙人たちだが、どうやら負の面が存在しているようだ。


「苦労してるんですね…」

「まあ住めば都よ。ここで地球人に擬態して、働いて暮らして。住民の人たちはみんな優しいからな」


 そう言った客の一人は見せつけるように僅かの間、地球人の姿に変身した。


「やっぱ惑星規模でも宇宙規模でも政治家はクソだ!学があるだけで思考レベルは俺たち同等もしくはそれ未満!クソ政治は俺たちにもできらあ!」

「法律なんてあいつらが遊ぶためのレギュレーションみたいなもんだしな。なんだよ、合意した上でなら戦争が認められるって。戦争そのものを犯罪にしろよな」


 かなり溜まっているようだ。教師への不満を友達に吐き出している学生を連想させた。


(機嫌悪い時の清水みたいだなぁ)


「ところでなんでラーメン屋?宇宙人って俺たちなんかより頭よかったりするんでしょ?給料のいい会社に入ったりとか」

「バカ言うんじゃねえ!…俺はな…店が開きたかったんだ!ここに追いやられて苦しい思いをしてるやつらが飯時ぐらい笑顔でいられるようにってな!故郷の味!それを思い出させる………のは無理だろうがとにかく!俺はやりたくてラーメン屋やってんだ!アクトナイトが街の人を救うのなら!ラーメンプラネットは街の宇宙人たちを救うんだ!」


「ラーメンプラネットの…ラーメン星人」


 信太郎が呟くと、その言葉が気に入ったのか店主は明るい笑顔を見せた。


「ラーメン星人か!いいねえ!兄ちゃん、サービスしてやるよ!好きなもの選びな!」

「え、ええ…」


 その後、宇宙人たちの愚痴を聞かされながら二杯目に突入したのだった。




 店を出た時には先程よりも雪が激しくなっていた。帰った頃には足が凍りついてしまっていそうだ。


「…普通じゃないな」


 信太郎はアクトベイト。鎧で身を守り神秘の力で防寒機能を得て、この異常な雪の真相を探りに進み出した。

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