第61話 ヒーローの勇姿を
「嫌だ!行きたくない!」
「駄目だ!いい加減授業受けないとお前留年するぞ!」
「大月君、学校に行こう!」
ある朝、信太郎は将矢と奏芽に引っ張られて学校に連行されていた。
「俺顔バレしてんだぞ!行ったら何言われるか!」
「大丈夫だってみんな気にしないはずだよ!多分…」
「ニュースじゃ態度の悪い少年だって言われてたけど、お前がそんなやつじゃないってクラスのやつらは分かってるからさ。な?一時限目だけでも」
体育系の将矢にパワー負けした信太郎はそのまま学校へ。久しぶりに見る教室は相変わらず汚れていた。
「あ、信太郎じゃん久しぶり」
「これ千葉行ったお土産。チョコクランチ」
「いや千葉って言うか夢の国じゃん…」
誰もがいつもと変わらない様子だった。
(…いや、チヤホヤぐらいしてくれてもいいじゃん)
あまりにもいつも通りな対応に少し残念な信太郎。だが久しぶりの日常に、やっと落ち着く事が出来た。
「おはよう信太郎君」
「おはよう愛澤さん。イズム君どう?」
「元気にやってるよ。最近庭でお花を育て始めたんだけど、よく種を植えた地面に向かって話しかけてる。早く大きくなあれって」
子どもらしいイズムに和まされた信太郎はリュックの中身を机の中へ。
「…?」
いつも空にして帰っているはずの机の中に何か薄い物が入っていた。恐る恐る信太郎はそれを掴んで取り出した。
「これは…」
中から一枚の紙が入ったクリアファイルが。紙にはアニメ風にデフォルメされたアクトナイトが描かれていた。ファンアートのようだ。
「おぉ…誰だか分からないけど…ありがとう」
心温まるファンアートをリュックの中に入れる。顔が晒されて初めて、悪くないなと思うのであった。
それからは普段通り適当に授業を受けた。教師たちも久しぶりに見る信太郎の姿に驚きはしたがそれだけで、彼の事情に触れようとはしなかった。
それでも怪人は現れるのだ。昼休みが終わる頃、生徒の一人がショッピングセンターに怪人が現れたと呟いた。
(行かないと…)
「行くのか信太郎?」
「うん。早退ってことになるかも。先生によろしく」
「おっけー、頑張れよ~」
「ファイトだー!」
信太郎はクラスメイト達に見送られると、廊下の窓から跳び出てアクトベイト。怪人の元へ向かった。
応援を受けて、信太郎は久しぶりにまともな情緒で戦いが出来そうだった。
現場にいたのは以前逃がしたタニングとは別の怪人だった。尻尾をチェーンハンマーのように扱い、街の物に向かって何度も投げ込んでいるようだ。
(あれなら俺一人でも楽勝じゃん!)
勝負は一瞬の内に。怪人が反応すらしていなかったので勝負とは呼べないかもしれない。
セルナよりも早く、怪人の上空に那岐が到着した。那岐は怪人に狙いを定めると、連れていた昇士を怪人に向かって投げ飛ばしたのだ。
昇士は蹴りの姿勢を維持したまま怪人の脳天へと急降下。怪人はエナジーの集中した足に踏み潰されたことで爆発した。
「サンキュー那岐!」
昇士がピースサインを空へ向けるとギャラリー達も空を見上げる。そこでは素顔を隠すのをやめた那岐が微笑んで頷いていた。
「そりゃそうだよな。俺で楽勝なら俺より強いやつなんかもっと楽勝だよな」
信太郎は活躍することなく家に向かって歩いていた。応援を受け早退をしてまで怪人に挑もうとしたが無駄に終わった。
「…やめるか、アクトナイト」
ちょうど今は河川に架かった橋の上。信太郎は一式入ったトロワマテリアルを投げ捨てようとした。
「きゃあああ!怪人よおお!」
しかし遠くから悲鳴が聴こえた。誰かが助けを求めていると知ると、信太郎は再度変身した。
(この邪悪なエナジー…まさか!)
そして信太郎は強敵タニングと遭遇した。
タニングに襲われそうになっていた女性を間一髪で遠くにワープさせることには成功したが、ここからが問題だった。
タニングには絶対に勝てない。力の差が大きすぎるのである。
どういうわけか信太郎は剣を握っても他のメンバーと心が繋がらなくなってしまったので援軍は期待できない。
アクトブレイドもないのでパワーアップも不可能だが、したところで結果は同じだ。
「…逃げる!」
ワープして一気に敵から離れる。だがタニングはワープよりも先に動き出しており、セルナが移動した先で既に待ち構えていた。
大きな拳で殴られたセルナは地面へと頭を打ち付ける。意識を失いはしなかったが、ここまで痛いのならいっそ殺してくれればと信太郎は思っていた。
立ち上がれないセルナのそばに誰かが立った。タニングではない。
「どウ?この怪人は君のために作ったんだヨ。君にしか倒せない強敵。さあ立って、諦めないデ」
メノルだった。敵である彼に励まされても信太郎は立ち上がろうとする気になれなかった。
「おま…え…」
「周りを見てヨ。怪人に怯えた人たちが君の勝利を願ってル。期待に応えないト」
「うおおおお!…うっ」
ボロボロになっているセルナは立ち上がったがそれだけだった。
エナジーがなくなり変身が解ける。気を失った信太郎は白眼を向いて、膝をつき地面に倒れた。
メノルと共にタニングは撤退。信太郎は救急車で運ばれて緊急手術を受けて一命を取り留めた。
「…どうして俺ばっかこんな恥晒さないといけないんだ!」
病室のテレビには信太郎が倒れる場面が繰り返し流されていた。流す映像がこれしかないのかそれとも、何か意味があってここだけを再生しているのか。とにかく、屈辱でしかない。
そしてその後、昇士と那岐が怪人を倒したことに切り替わり更に情緒がおかしくなった。
「こいつら後から出てきたやつらじゃないか!なんで俺が珍獣扱いされてこいつらが称えられてんだよ!俺こそヒーローだ!何が勇気ある少年たちだ!」
振り替えれば戦って報われたことはあっただろうか。痛い思いをして街を守っても何も得られなかった。それどころか奪われている気がしてならなかった。
「もう決めたぞ…誰がお前たちの為に戦ってやるもんか!」
そう街の人間に向かって怒りを露にしたが、言葉は病室の中で響くだけだった。
信太郎は戦いを放棄することを決めた。もうこれからは悲鳴が聞こえても助けに行かない。何とかなる状況でも何もしないつもりだ。
しかしアクトナイトの力は手放さない。便利なのでこれからは有効に活用して生活を良くしようと考えていた。
昇士と那岐に注目のスポットライトが浴びせられてる一方で、信太郎はその中で着実に闇を成長させていた。




