第6話 アクトナイトとは
アクトナイトはアクトナイトではない。
メルバド星人の王子メノルからそのことを聞いた信太郎はモヤモヤとした思いを抱えて登校していた。
あの日とは打って変わって、今日の天気は雲一つない快晴だった。
「どうしよう…相談していいことなのかな」
仲間たちに相談すれば混乱を招くかもしれない。だがアクトナイトとして戦っていく以上いつかは心が繋がっている時にこのことを知られてしまうだろう。
「…本人に直接聞くしかない」
決心した信太郎は通学路から道を外れてアクトナイト記念公園へと向かった。
「おはよう信太郎…おや、学校はどうしたんだ?」
「おはようアクトナイト」
いつもなら登校しているはずの時間帯に信太郎が来たのを、アクトナイトは不思議に感じていた。
「アクトナイト…質問がある」
「なんだ?トロワマテリアルで分からないことでもあったか?」
「アクトナイト!お前は…お前は誰なんだ!」
「………俺は俺だ」
「俺は戦いに負けた後、メルバド星人の宇宙船に連れて行かれた。そこでメルバド星人の王子から聞いたんだ!アクトナイトが死んだから地球の侵略を始めたって!」
「俺は…お前が思っている通り俺はアクトナイトではない」
アクトナイトと名乗っていたそれは自分がアクトナイトではないことを認めた。
「…信太郎は俺のことをどう思う?」
口では言えない信太郎。嘘は吐きたくなかったのでトロワマテリアルを通して本心を伝えた。得体の知れない存在に対しての警戒心を。
「…怖がらせてすまない。だが信じてくれ。俺は地球を守る為のこの星にやって来たんだ。これは嘘じゃない」
「それ…信じていいんだな?………お前は俺達の本心を覗けるが逆はない。お前が口で言うまで俺はお前がアクトナイトだって信じてた。なのに…」
信太郎の鋭く尖った気持ちがアクトナイトを突き刺した。
「本当だ。俺は地球を守るために」
「お前は俺たちを騙してた!何よりの問題はそこだろ!」
「その通りだ。嘘をついて悪かった。しかし俺にはアクトナイトの名が必要だったんだ」
アクトナイトの謝罪を聞いた信太郎も少し強く言い過ぎたと反省した。
ここまで知った彼には自分の正体を話す必要がある。そう言うとアクトナイトの銅像が大きな音を
立てて移動し、地下へと続く階段を露わにした。
「降りて来てくれ。コーヒーでも飲みながら話そう」
何か罠があるかとは疑わず、信太郎は転ばないようにゆっくり階段を降りた。
真っ暗な階段を降りた先には狭い通路があった。いくつか扉はあったが信太郎はなんとなくまっすぐ歩いた先の扉を開いた。
「ようこそ信太郎。これは宇宙船アクトーザーだ」
信太郎が今いるのは宇宙船のコックピットだった。地面の下にあるためフロントガラスには防護シャッターが下りていた。
「アクトーザーって…おいアクトナイト?どこにいるんだ?」
「給湯室だ。それと俺はアクトナイトじゃない」
狭い宇宙船を少し見て回ってから給湯室に入った。何の変哲もない給湯室には変わった姿をした生物が立っていた。
その生物は以前会ったメノルたちメルバド星人のように人間に近い形をしていた。
「やあ」
その生物は手を振って口を動かしてアクトナイトと同じ声で話し始めた。
「俺は母星を持たない放浪種族。カナト人のシャオだ」
「ほんとに別人じゃん…」
シャオはインスタントコーヒーを入れて信太郎に差し出した。
「まあ座れよ。色々話さないといけないから」
「どうも……うわまっずなんだよこのコーフィ!泥みてえだな!」
「おいおい地球産のインスタントだ……おぉまっずいなこれ!泥みてえだな!」
信太郎は丸椅子に座ってシャオと睨み合った。カナト人と会うのは初めてのことだが、とても真剣そうな表情をしていた。
「…アクトナイトは俺の恩人だ。あの人が死んだ後、メルバド星人が地球侵略をするという情報を聞いた俺はこの星にやって来た。あの人の代わりにこの星を守るために」
「…だとしてもどうしてアクトナイトを名乗っていたんだ?」
「伝説の英雄を名乗れば協力してもらえると思ってたんだ。けどこの星の人間は100年前に関心を持たず、宇宙人への対策が何一つ行われていなかった。人前に姿を出せば悲鳴をあげて逃げられる。誰にも話を聞いてもらえなかったんだ」
シャオは地球を放浪してこの世須賀市に流れ着いた。この街がアクトナイトと深い関わりのある地だと知ると、唯一アクトナイトに関する物として残っている銅像の下に宇宙船を隠して、誰かが来るのを待っていた。
「あの人はヒーローだった。強く優しい…俺の憧れだった。何よりアクトナイトを名乗ったのは…あの人みたいにカッコよくありたかったからだ」
「シャオにとってアクトナイトは大切な人だったんだね。けど俺達にとってのアクトナイトはシャオだよ。シャオが力を貸してくれたから、メルバド星人と戦って街を守る事が出来た」
信太郎は椅子から立ち上がった。これまでの話を聞いた彼は、騙されていたことに対しての怒りは収まっていた。
「良かった。アクトナイトが悪い奴じゃなくて」
聞きたいことは聞けた。信太郎はとりあえず帰ることにした。
「今日話したことはみんなに伝えとく?」
「いや、このことは俺が自分で話す。騙していたことを謝らないといけないからな」
シャオは地上に上がる階段前まで信太郎を送った。見送ってくれたシャオに対して信太郎は小さく手を振っていた。
信太郎は公園から家の前まで歩いて来たところで立ち止まった。今日は父親が仕事を休んで家にいる。この時間に帰ったら何を言われるか分からない。
いつもと同じぐらいの時間に戻って来ようと信太郎は逃げ出した。
数十分後、信太郎はハンバーガーのファストフード店にいた。昼食にしては早い時間だがフィッシュサンドを口に運んで、これからどうするか考えていた。
「うあ…」
スマホのメッセージアプリに物凄い量の通知が来ていた。メッセージを送って来たのは共にアクトナイトとして戦う四人の仲間達だった。
「サボりじゃねえよ」
クスっと笑いながら一言送信するとすぐに返事が返って来た。
「放課後カラオケ行くけど来る?」
「中央の駅前で待つ」
カラオケに行くのは放課後ということは今からかなり後の時間だ。暇を潰す方法は後で考えるとして、信太郎は電車に乗り市街地の方へと向かった。
そしてどういう偶然か、以前戦った戦斧怪人キルスが暴れていた。
「信太郎!邪悪なエナジーだ!この感じは…前のやつと同じだ!」
「もう現場にいる!…よし、やってやる!アクトベイト!」
「「理を超える神秘の力!アクトナイトセルナ!」」
セルナに変身した信太郎は高い位置からキルスの元へと飛び降りてアクトソードを構えた。
「凄い…前よりもパワーが溢れてる!アクトナイト、一体どうなってるんだ?」
「分からないが…もしかしたらお互い、心のモヤモヤがなくなったからかもしれない」
キルスが道路に斧を叩きつけると、近くのマンホールから蓋を高く持ち上げる程の勢いで水が飛び出した。
「その斧は二度と喰らわない!」
「オフェンスシルエット!」
セルナがアクトソードの底を叩くと、いくつもの分身が出現してキルスへと斬りかかった。だがそれらはキルスが振り回した大きな斧によってあっという間に破壊されてしまった。
分身の量は大したものだがその行動パターンは単純で斧を避けようとはせずに一撃で消えていってしまうのだ。
それでも分身達は頑張ってキルスを追い込んだが、突然全て破壊された。信太郎が瞬きをした一瞬の内だった。
「まただ!一体どうなってるんだ!」
「信太郎、お前と分身達が前の戦いの時と同じように停止していた」
「前の戦い…そういうことか!」
セルナはキルスへと攻めることなく一度大きく距離を離した。
「雨だよ雨!水に打たれたせいだ!」
信太郎は周囲を確認した。マンホールから飛び出る水によって、疑似的な雨が発生していた。
「水に打たれている物を固定させる能力…条件付きだが厄介だな」
「水が止まるのを待つわけにもいかないよな…」
キルスはここにさえいればセルナも迂闊に攻撃出来ないと分かっており、そこから一歩も歩くことなく堂々と立っていた。
「…神秘の力でビームとか撃てないの?」
「いや……アクトナイトがやってたの見たことないからな…」
キルスに接近して攻撃は出来ない今、可能性を信じるしかない。
再度セルナは底を叩いて刃先をキルスの方向へ、狙いを定めるかのように構えた。
「やってみよう…名付けて!」
「「フラッシュショット!」」
掛け声と共に放たれた光弾は、無敵だと油断していたキルスへと命中した。
「信太郎…やるじゃないか!」
「形勢を逆転させる!このままあいつを追い出すぞ!」
セルナは新しい必殺技フラッシュショットを連射して、雨の降る場所から怪人を追い出した。
戦いの場を広い空き地へと移したセルナはキルスへと斬りかかった。
条件が揃わない今、相手は固定する能力を発動出来ない。ここで倒すと信太郎は剣を振って深傷を負わせていった。
これまでの戦いと比べて動きがとても良くなっていた。これはアクトナイトから信太郎へと送られてくるパワーが以前よりも多いことが影響していた。
「行け!信太郎!」
「「闇世を照らす輝きの一撃!セルナスラッシュ!」」
「トリャアアア!」
セルナは上段の構えからソードを振り下ろした。怪人キルスが剣を止めようと添えた斧を叩き割り、眩く光る剣は相手を真っ二つにした。
「撃破ァ!」
叫びと同時にセルナの一撃を受けたキルスは大爆発を起こした。信太郎はマテリアルをソードから外して、炎上する地点を眺めていた。
「…あれ何だろ?」
信太郎は火元に落ちていた小さな物体に目を付けた。恐る恐る拾って確かめると、それはマテリアルだった。
「このエナジーは!信太郎お前、マテリアルを拾ったのか?もしかするとあいつの能力は…あ」
手に取ったマテリアルはボロボロと崩れてしまい、使い物にならなくなってしまった。
「今の怪人の異常な能力…もしかしたらそのマテリアルが関係しているかもしれない」
「向こうもマテリアル使うのかよ…」
「けど恐れるな。強くなったアクトナイトならきっと負けない!」
「強くなったアクトナイト…だな!」
今朝のひと悶着を終えて、二人の気持ちは更に強くなった。アクトナイトを名乗っていたシャオはこの戦いから、アクトナイトの強さは心が関係しているのだと学んだ。
「…あぁ~疲れた!腹も減ったし何か食べるかな。まだ時間あるし」
トロワマテリアルをポケットにしまった信太郎は、どこか入れる店はないかと探して歩き出した。
信太郎とシャオ。衝突した二人のアクトナイトは強くなったのだった