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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
55/150

第55話 デスタームとの話

 真華の家で昼食を取った信太郎はイズムを任せてアパートへと戻った。



 リビングでは理恵子がどういった対応をすればいいのかと悩みながら待っていた。


「あ、あ…お帰りなさい信太郎君」


 ニュースで取り上げられて近所でも噂になった信太郎のことを理恵子が知らないはずもなく、いざ対面するとどう接すればいいのか分からず困っていた。


「今日も学校サボっちゃいました…ごめんなさい」

「そ、そうなの。でも仕方ないわよ。こんなことになっちゃってるし………本当に信太郎君がアクトナイトなの?」


 仲間たちの事を話すわけにはいかない。信太郎は自分の事だけを、包み隠さず理恵子に告白した。



 あの夜アクトナイトに変身して戦ってから今まで。それを思ったのか理恵子は涙を流した。


「大変だったわね…お母さんもいなくなって…まだ子どもなのに…」

「いえ…お、俺の今の母さんは先生ですから!」

「まあ…そうだったわね…」


 信太郎は自室へと逃げ込んだ。悪い気にはさせたくないと、つい思い切ったことを言って恥ずかしくなってしまった。


「ふぅ…なに言ってんだろ」






「…どうして」



 扉の向こう側から理恵子の声が届いてくる。まだ泣いているようだが…




「ぐす…どうしてなの…信太郎君…どうしてあの人を守ってくれなかったの…」



 あの人とは言うまでもない。怪人に命を奪われた理恵子の夫だ。



 理恵子の夫が亡くなったことを忘れていたわけではない。仏壇に手を合わせる彼女を見る度に、信太郎も心を痛めていた。


 忘れていたのは、自分が戦えていれば彼女の夫は救えたということだ。


 人を救えなかった時にどうなるかを信太郎は知らなかった。だからこそ、今こうして思い知らせている。あの時の非力を憎まれていると。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


 どれだけ謝ったところで、今まで助けられなかった命が帰って来ることは決してないのだ。




 それからしばらくしてチャイムの音が鳴った。理恵子はまた記者かと居留守を使おうとした。


 だが、ガチャリと鍵の回す音がした。美保が帰って来るにしては早すぎる。



「お邪魔します。連絡も入れずに来てしまいすいません。二地です」

「あら…剛君!」


 まさかの二地剛。その姿を見た信太郎は息を殺して布団の中へと逃げ込んだ。


(なんで鍵持ってんだよあいつ…面倒だな…まさか俺を殺しに来たとか…)


「いらっしゃい。学校早く終わったの?ちょっと待ってね、お茶用意するから」

「いえ、今日は長居しませんから。おい信太郎、いるんだろう。出てこい」


 なぜ剛がこの家の鍵を持っているのか、どうして同居していることを知っているのか。いろいろ疑問はあったが…



 まず、自分では剛の変身するアクトガーディアンには勝てないということはちゃんと認めていた。


 だから逃げなければいけない。信太郎は布団の中で変身し、機会を待った。


「入るぞ。おい、その布団から出てこい」


「………」


 顔は見えないが睨まれている。突き刺さるような視線は神秘の力でグサリと伝わって来た。


「組織長の命令によりお前を連れに来た。出てこい」


 剛が布団を引っ張り上げた次の瞬間だった。まるで釣られた魚のように、布団がジタバタと暴れだした。


「っ!」


 布団は剛に巻き付くと、ギュッと結び付けて逃がそうとしなかった。


「逃げるな!手荒くなるぞ!」




 剛の警告など聞こえているわけがない。既にアパートから飛び出した信太郎は、エアボードに乗って空へと逃げていた。


「あいつ空は飛べなかったよな…」


 ホッと安心している場合ではなかった。信太郎は飛んでくるアクトガーディアンを二度見した。


 アンチボディマテリアルと合体してセルナへと急接近するガーディアン。それよりも先に、発射されたミサイルが迫って来ていた。


「待って!まてまてまてまて!」


 エアボードを加速させて回避に専念するセルナ。だが想像以上の追尾をしてくるミサイルを振り切れず、爆発に飲み込まれた。




 その後、変身が解けた信太郎はガーディアンの大きな手で捕まえられた。


「離せ!」

「俺が離したら落ちて死ぬことになるぞ」

「デスタームが俺に何の用がある!」

「俺も知りたい。なぜ組織長がお前にそこまで注目しているのか」


 まともな会話になっていなかった。


「…美保はどうしている」

「美保って…なんであいつが出てくるんだよ」

「俺が美保の彼氏だからだ」

「ふ~ん…え?」


「以前お前を殺そうとしたのも、美保がお前のことを疎ましく思ったからだ。命が惜しければあいつに不快感を与えず静かに生きることだな」


 意外な人間関係に驚いているが、信太郎はこれからさらに驚くことになるのだった。




 二人は厚い雲の上へ。そこにはSF映画で見るような巨大な戦艦が浮かんでいた。


「あれは…!」

「地球防衛戦艦ガイアス。もう何日も前からこの街の空で停滞している」


 一度信太郎はメルバド星人の宇宙船に連れて行かれたことがあった。だがガイアスはその時見た宇宙船よりも遥かに大きな物であった。




 ガイアスに降ろされた信太郎は手錠を付けられた。艦内にいるのは自分と歳の離れていない若い人間ばかりだった。


 睨まれて実に気分の悪い信太郎は早足で剛の隣を歩いていった。




 案内されたのは艦長室。デスタームが椅子に座って信太郎を待っていた。


「組織長、お連れしました」

「ご苦労。久しぶり…でもないか、アクトナイトセルナ」


 デスタームは地球人の姿をしているが、実際にはどこかの星の宇宙人である。


 この男のせいで街には各惑星から宇宙人が視察という名目でやって来て、自分勝手に暴れるようになってしまったのだ。


「…何の用ですか」

「睨む必要はない。私たちと君とでウィンウィンになる交渉がしたいだけなんだ」



 信太郎はデスタームから交渉を持ち掛けられた。最初から断るつもりでいる信太郎にデスタームはこう話した。


「私があなたの活動を支援しよう。1光年離れた場所へすぐに到着出来る宇宙船、今より更に強力な装備、何でも提供する。アクトナイトは宇宙の平和を守るヒーローなのだから、地球だけを守るのは良くないだろう」


「…宇宙の平和…」


 考えたこともない。街どころか今は人生の守りに徹している信太郎に、そんなことを考えられないのは当然である。


「俺には無理だ」

「それはないな。アクトナイトはこれまで様々な困難を切り抜けてきた。その内の一人である君なら宇宙の平和のために戦える」


 敵の言葉ではあるが、いい評価をもらえたことには信太郎も気分を良くしていた。


「………君は宇宙へと旅立つ。その代わり地球…いやウルボルス系、君たちの言葉では太陽系だったか、ここの平和を私たちに任せて欲しい」


 それがどういう意味なのかを、理解できないほど信太郎は馬鹿者ではなかった。


「俺がいない間に地球を商品化するつもりだな!」

「…どこでそれを聞いた」


 デスタームの威圧に信太郎だけでなく、近くにいた剛も少しだが恐れていた。


「…っ!結局何だかんだ言って地球を自分たちの物にしたいだけなんだな!この宇宙人!」

「この弱肉強食の宇宙で、商品化は弱い星にとっては救いになることもある。どうだ、悪い話ではないと思うが」


 この交渉に乗っていいわけがない。信太郎は剣を抜こうとしたが、その腕は剛に掴まれた。


「無駄な抵抗はよせ…これも地球のためだ」

「宇宙人に好き勝手させることが地球のためなわけないだろ!お前も地球人なら少しは頭使ったらどうなんだ!」

「今街で行われているのは外交だ」

「いいのかよ!外交で美保に何かあったら!」


 剛の掴む力が強くなる。だが、そんな彼の顔には怒りはなく、驚きが表れていた。


「その顔…考えたこともなかったのか?」

「…」


「交渉が決裂した以上、今は君を殺せる絶好の機会というわけだな」


 気が付けばデスタームは地球人の姿から本来の禍々しい姿へと変わっていた。


「この宇宙のためにも君には消えてもらう」

「ふん!ぬぬぬ!」


 信太郎は火事場の馬鹿力で剛をデスタームに投げ飛ばし、艦長室から飛び出した。



 艦内ではアラートが鳴り響き、銃を持ったクルー達が信太郎を迎え撃つ。

 当然、信太郎はアクトナイトセルナへと変身して対抗。敵を薙ぎ払い脱出を試みる。


「どけ!邪魔だ!」


 的確にクルーの武装だけを無力化し、傷を与えないように気をつけた。随分前の那岐以来となる人間との戦いだ。


「待て!信太郎!」


 アクトガーディアンがその後を追って来る。セルナでは間違いなく勝てないので、相手にするつもりはない。


「世間に正体が知られ、お前に居場所はない!ここで殺された方が楽だとは考えないか!」

「うるせえな!」


 口撃に耐えられない信太郎は音をシャットアウト。外を目指して何枚もの壁を突き破った。


「追い付けない…逃げ足だけは最速のスペックのようだな」


 ガーディアンは脚を止めて狙撃を試みる。アクトウェポンからいくつも弾が発射されたが、それらは全て避けられた。


「チッ…逃がしたな」




 セルナは外壁を突き破り遂に戦艦の外へ。しかし戦艦は海ではなく空に浮いているので、当然セルナは雲へと落下した。


「うおおお!?トロワマテリアル!」


 展開したエアボードに足を付けると全速力で戦艦から離れた。しばらくすると、戦艦はメルバド星人の宇宙のように透明になって姿を消した。

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