第54話 真華の助け船
世須賀市に現れる戦士たち。アクトナイトと仮面の少女。その内の一人が高校生であることが判明した。
「やっちまったなあいつ…」
信太郎と那岐を除いた戦士たちはアクトナイト記念公園へと集合、ネットに出回った情報を再度確認していた。
「灯刀さんが変身を解除したらしいけど、何があったのかさっぱり分かんないね」
「うわぁクラスまで割り出されてる…最低」
信太郎は有名人になってしまった。最近では宇宙人との外交が始まったばかりだというのに、日本には更なる衝撃が走った。
「…どうする?」
「もう誰もが信太郎のことを知っちまった。まだ様子見だが…今後どうなるかはあいつ次第だな………俺たちは以前変わらず!この街を守るぞ!」
近頃、シャオはテレパシーではなく宇宙船を出てみんなと顔を合わせながら話すようになっていた。
信太郎は逃げ続けた。他の何からでもなく現実から、逃げられるわけもないのに走り続けた。
「もうやだ…どうしてこうなるんだよ…!」
泣いているとまたパシャリ。今度は泣き顔がネットに拡散される。もう人らしい扱いを受けていなかった。
宇宙人との外交により、一番影響を受けたのはこの世須賀市だ。アクトナイトがいるということもあり、代表の宇宙人たちは世須賀での活動が許可されていた。
だが、それにより世須賀は無法地帯に近い状態になった。ロクに日本のルールを守らない宇宙人が店の物を金を払わず持っていったり、車で跳ねても気にすることなく走り去っていった。
地球の法律では自分たちが裁かれることはない。法がない限り自由だと、そこに宇宙人たちは好き勝手やっている。そんな時にアクトナイトは役に立たず、その内の一人が高校生であると判明して、不満の募る市民は信太郎を叩いているのだ。
一応、宇宙人たちも安全というわけではない。気紛れにやって来るメノルが、信太郎の代わりというわけではないが宇宙人たちを殺していた。
地球では今、混乱が渦巻いていた。
理恵子からの電話に出る勇気はない。震える信太郎のそばには、一緒についてきたイズムがいた。
「信太郎、だいじょうぶ?」
「大丈夫………はぁ」
他のアクトナイト達は街を守るという意思に変わりはない。メノルの目的は定かではないが、デスタームには地球を商品化するという目的がある。
こんなことはどうでもいいことかもしれないが、信太郎は何をするべきかを分からず、数ある陣営の中で一番の遅れを取っていた。
「ごめん…イズムがこのほしにきちゃったから」
「イズム君は悪くないよ…悪いのは………」
これまで、悪はメルバド星人だった。しかし大きな野望を持つデスタームが現れ、街の人々は自分を珍獣のような扱いでカメラ向けてくる。
「悪いのは…俺だよ…俺なんか生きてるから…」
「信太郎、ねがてぃぶはからだにどくだよ!もっとげんきに!」
「こんなことになって元気でいられるとか正気じゃねえよ!もっと考えて物言え!」
「…ごめん」
ハッとして自分の発言を振り返る。自分で招いた事態なのに八つ当たりとは…本当に自分らしい、醜い行動だと嫌になった。
電話がいつまでも震え続けた。いっそ電源を切ってしまおうかとも思ったが、画面に表示されている名前を見てから、恐る恐る通話を開いた。
「…もしもし?」
「信太郎君!よかった繋がった!」
スピーカーから愛澤真華の声がした。無関係な彼女からの電話は意外だったが、知り合いの声を聴けて信太郎は安心した。
「最近学校に来ないと思ったらテレビとかで凄いことになってて…」
「うん。俺、アクトナイトだったんだ」
「知ってるよ。それより今どこにいるの?」
信太郎は辺りを見渡した。何も考えずに走っていたので、見知らぬ路地に立っていたことにすら今気付いた。
「ちょっと待って調べる……………三上浜高校の近く」
「ちょっと待って分かんない…………うわ、学校から凄い離れてる…」
「愛澤さん、わざわざ電話ありがとう。それじゃ」
「切っちゃダメ!指ストップ!」
これまで聞いたことのない大きな声に、信太郎は思わずスピーカーを遠ざけた。
「…信太郎君困ってるでしょ?だから学校来なかったり今だって逃げてるし…力になりたいんだよ、私。実を言うとね…もうずっと前から信太郎が街を守ってたヒーローだって知ってたんだ。君がみんなを助けてたから、今度は私が助けてあげたいんだよ!」
「愛澤さん…」
いつぶりだろうか。心が温まって涙を流すなど久しぶりのことだった。
「…三上浜の駅で合流しよう」
「!…うん、分かった。すぐ行くよ」
電話が切れた。拭っても拭っても溢れる涙。信太郎は泣かずにはいられなかった。
「信太郎、どうしてないてるの?」
「………行こうイズム君。友だちと会いに」
信太郎はイズムの変装が崩れていないか確かめると、駅の方へ向かい歩きだした。
信太郎はなるべく人のいない道を選んだ。カメラの代わりに指を向けられることもあったが、とにかく駅の方へ歩いた。
「みんな信太郎のことをみてるよ」
「あんまりキョロキョロしない。宇宙人ってバレるよ」
「ばれたらだめなの?」
「ダメだ。宇宙人だって知ったら何をされるか分からない。解剖されたり…いじめられたりするかも」
「でも信太郎はぱんをくれた。やさしくしてくれたよ」
自分を助けてくれる人間がいる。早く真華に会いたくてたまらなくて、信太郎は足早になっていた。
それを逃げようと勘違いしたのか、妙な連中が信太郎たちに絡んできた。
「あのー、いつも街を守ってくれてる人ですよね?サイン欲しいんですけど…」
「一緒に写真、いいですか?」
「えっ…え?」
ファン…ではなさそうだった。二人の女性はからかうつもりで信太郎に声をかけた様子だ。
戸惑う信太郎。綺麗な女性に声をかけられたのは悪い気分はしなかった。しかし彼には今は人と会う約束がある。
「ごめんなさい、ちょっと…」
自分で遊ばれているとは露知らず、信太郎は申し訳ない様子でその場を去っていった。
「つまんね…」
その言葉が彼に聞こえていたかは定かではない。パシャリと撮られた後ろ姿はネットに上げられ、すぐに拡散した。
日が暮れ始めた頃、信太郎は集合場所の駅に到着。先に着いていた真華がコーヒーを飲んでいた。
「信太郎!…と隣はキンカク星人か…」
「ごめん、遅くなった!」
「ううん。それよりもその隣の人は?」
真華はイズムに注目した。夏が終わったとはいえ着込んでいるその姿が、とても特徴的だったのだろう。
信太郎は耳打ちでイズムについて話すと、真華はくすぐったそうに「はいはい」と納得した。
「とりあえず移動しようか」
真華は二人と一緒に電車に乗って少し離れた場所にある彼女の家へ向かった。
真華はアパートの一室で一人暮らしだ。実家が金持ちの彼女は高校生になる際に自立を決意したらしい。
「イズム君は私の家で面倒見るよ」
「出来ればそれがいいかも。イズム君、今日からここで生活出来る?」
「いや!イズム、信太郎といっしょがいい!」
提案が気に入らないイズムはそっぽを向いた。確かに、会ったばかりの人間の家には暮らしたくないだろう。
「…ごめんねイズム君。でもこれは君の為なんだ。今の地球はすっっっごく危険だから」
それから30分近くかけてイズムを説得した。
せっかく家に来たのだからと、真華は三人分の昼食を作り始めた。
「お弁当っていつも手作りだったんだ」
「うん。まあアレは冷凍を詰めただけの簡単なやつだけどね」
「おなかへったあああ」
子どものように駄々をこねるイズム。慣れた様子で料理を作っていく真華。二人の姿がそれぞれ、子と母のようだった。
そして自分は父親かと、思った信太郎は一人で顔を赤らめた。
(なに変なこと想像してんだ俺…)
「ねえ信太郎君。にんじん切ってくれない?」
キッチンから声をかけられると、信太郎は席を立って真華の隣に立った。
エプロン姿を近くで見て、よく似合っているなと心の中で思う信太郎。包丁を握る手が震えていた。
「薄切りお願いね」
「う、薄切り?………こう?」
「それ、輪切りだよ。一枚一枚は確かに薄いけど…」
失敗を笑われながら、信太郎も不器用ながら料理を手伝った。