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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
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第53話 宇宙人たちの事情

 信太郎が学校に戻って来た。ちょうど人が散らばる昼休みが始まった頃で、イズムの姿を見られてはいけないために窓から飛び込んだ。


「イズム君、ここで待っててね」


 信太郎はイズムを空き教室に待たせて、那岐を探しに行った。




 信太郎は図書室で読書の最中だった那岐を見つけると、廊下に引っ張り出した。


「灯刀さん!お父さんとお母さんに連絡取れないかな?今スッゴく困ってるんだ!」

「無理よ、組織を抜けてから着信拒否されてるしメールも既読すら付かない…けどダディとマミィに何の用?てか面識あったの?」


 イズムの事を伝えようとした瞬間、信太郎の口が止まる。もしも彼女に怪人の事を話したら、真っ先に斬りに行くのではないのだろうかと。


「………やっぱりいいや!ごめん、読書してるのに邪魔しちゃって!」


 不自然に話を切り上げて去っていく信太郎を、那岐は静かに追跡した。



 信太郎はイズムの元へ。途中、購買で買い漁ったパンや弁当を抱えていた。


「イズム君、お腹空いてない?」

「ぱん!イズム、ぱんだいすき!」


 イズムは信太郎の買ってきたパンの袋を破いて次々と口の中に放り込んでいった。


「ままがいっつもぱんをつくってくれるんだ。もちもちでおいしんだよ!」

「へえ~…」

「こんどたべさせてあげるね!」


 彼は地球に悪さをする怪人ではなく宇宙人なんだと、信太郎の中で印象が変わった。イズムはメノル達メルバド星人とも違い地球侵略に来たのではなく、本当に地球の重量に引っ張られてしまったのだろう。



「どうするかな…」


 理恵子のいるアパートに連れて帰ることは出来ない。自宅にいる父親もイズムに何をするか想像付かない。


 やはりアクトナイトしかいないかと信太郎は行き着くが、少し揉めた後に彼と話すのまだ抵抗があった。



「そういうことだったのね」



 様子を見ていた那岐が物陰から姿を見せた。


「灯刀さん!?ちょっと待ってこいつは!」

「心配しなくてもその子どもは斬らないわよ。それに法律が新しくなる今、下手に手を出して騒ぎを起こしたくないし」

「あれ?だれ?こんにちは!」

「…こんにちは」


 意外にもイズムの挨拶に優しく返事をした那岐の姿に信太郎は目を疑っていた。


「この子、アクトナイトに相談してみたらいいじゃない」


 それは嫌だと、信太郎は口にはしなかったが黙って示した。


「…あんた大丈夫?他の連中ともつるんでないみたいだし…孤立してるの気付いてる?」

「そりゃあ…知らなかった」


 言われなくとも信太郎は孤立している自覚がある。だが今はどうしようもないのだ。


「…ねえ信太郎。ダディ達に会ったのよね?私のこと何か言ってた?」


 その時、信太郎はアーツから頼まれた伝言を思い出した。


(…まあいっか)

「いや、会ってない」


 伝える義理はない。心の底では意地悪な意思で、信太郎は否定した。


「そっか…まあ、この子はあんたが責任持って面倒見なさいよね」

「はいはい、分かった」


 教室に戻っていく那岐を見送る頃には、イズムは買ってきたパンを全て食べ終えていた。



「んん…!」


 それからイズムが突然、力み始めた。


「い、イズム君?」

「おなかいっぱいたべたから…でる!」

「は?」


 次の瞬間、イズムの背中の穴から金色の粉粒が大量に溢れ出した。


「うわあああ!なにやってんの!」

「ふぅ…」


 信太郎は慌ててハンカチで口を押さえる。だが、最初出会った時とは明らかに違う物を噴出していた。


 イズムが出したのは地球上では金と呼ばれる物だったが、見る目のない信太郎にはそれが金色の排泄物としか捉えられなかった。


「…次はトイレで…どうやってトイレ使うんだ」

「うんち!でた!」


 屋上には金が散乱しているが、汚れているようにしか見えない信太郎たちは、大量の金を置いてさっさと屋上から去っていった。




 信太郎は再度学校を抜け出して、イズムをどうするか歩きながら考えた。


「信太郎、つぎはどこにいくの?」

「ちょっと考え中…」


 警察に引き渡すか?話す前に銃を向けられてしまうだろう。


「…遅れてる星だなぁほんと!」


 迷子の宇宙人一人面倒も見れない自分の星が、なんだか情けなく思えてきた。



 その時だった。信太郎は再度、邪悪なエナジーを感知した。もう、どうしてエナジーを感知出来るようになっているのかは気にしていなかった。


「行かないと…」

「信太郎!どこにいくの!」


 走り出す信太郎をイズムは追いかけた。




「俺様は宇宙人だぞ!おい地球人!もっと歓迎したらどうだ!」


「また宇宙人か…!」


 商店街に現れた宇宙人は食品店を荒らし回り食欲を満たしていた。


「アクトベイト!」


 アクトナイトセルナに変身、背後から奇襲を仕掛ける信太郎。身体が大きく鈍い宇宙人ではあるが、その防御力は凄まじく、刃が弾かれた。


「なんだお前…おいおいアクトナイトかよ!本当にいるとぁ驚きだ!」

「はああ!」


 セルナは諦めずに攻撃を入れた。だが宇宙人のその身体には傷一つ付かなかった。


「アクトナイト!俺はゴバン星の代表だぞ!地球の視察に来てる俺を殺したら犯罪者だぞ!…まあ殺そうとしても無理だろうけどな!」

「街の人に迷惑かけて何が視察だ!」


 セルナの分身が一点に狙いを定めて刃を突いた。だがゴバン星人の恐ろしいところはそれでも耐える防御力ではない。


「おかえしだ!」


 これまで受けてきたダメージをパワーへと変換。小さな衛星なら簡単に砕けるほどのパンチをセルナにお見舞いした。



 鎧があっても関係ないパワーによって、信太郎の骨が何本か折れた。


「かっ…!」

「宇宙を守るヒーローだか知らないがな、忠告しておくぞアクトナイト。お前は迷惑なんだよ」

「俺が…迷惑?」

「そうだ。この地球だってお前の存在さえなければもっと上手く外交が進んでたんだ。なのによぉ!お前ってば人の迷惑にしかならないよな!」


 ゴバン星人は木のように太い足をセルナの上に乗せた。踏み潰すつもりだがその前に、なるべく苦しんで欲しいようだ。


「ぐあああ!」

「地球人は殺したら犯罪だがアクトナイトを殺せば法に問われるどころか表彰されちまうかもな!はっはっはっ!」




 イズムはその様子を物陰に隠れて震えながら見ていた。


「どうしよう…信太郎が…」


 プシュッと背中から音が鳴る。僅かだが毒霧が突起から漏れだしていた。


「うぅ…うおおおお!」


 そしてイズムは飛び出した。クルっと身体を回して背中をゴバン星人に密着させると、遠慮なく毒霧を発生させた。


「信太郎、だいじょうぶ!?」

「イズム君!助かった!」


「キンカク星人の子ども!?」


 ゴバン星人はハンカチを口に当てて慌てて霧から離れた。


 イズムの事をキンカク星人などと呼んだ敵は何か知っている様子だった。セルナは剣を拾い立ち上がり、刃を向けて尋ねた。


「この子のことを知っているのか!」


 それ聞いたゴバン星人はニヤリと笑い話し始めた。


「…そいつキンカク星人の幼体だ。キンカク星人ってのはそりゃまあ面倒な生き物でな、弱いし食えないし、何より飲んだり食ったり、ちょっとでもストレスを感じたりすれば背中からそりゃ恐ろしい毒の霧をクジラみたいに噴き出すんだよ」


 それだけ聞けば、本当にイズムは迷惑な存在かもしれない。だが、そんなキンカク星人には変わった特徴があった。


「でも面白いんだぜそいつら。気分がいい時にはよぉ、霧じゃなくて金を噴き出すんだよ。それも貴重なエネルギーが含まれたスーパーゴールドと来た!」

「そうか…だからパンを食べた後に…」


 信太郎は一度、イズムが金を出す光景を目撃していた。パンを食べていた彼は、確かに嬉しそうだった。




「ようは興奮してればいいからよ…シャブ漬けにするんだ!首輪を付けて針を刺しとけば、死ぬまでそいつらはスーパーゴールドを生んでくれるんだぜ!…そうだ、もうこれ以上街で暴れるのはやめてやるよ。その代わりそのガキ、俺に寄越せ」




 人はここまで怒れるものなのか。ここまで勘に障る存在がこの世界にいたのかと…信太郎は怒りのあまり混乱していた。


「怒ったか?まあ待てよ。俺を殺したらどうなるか…分かってるだろ?この地球、大変な事になるぜ」

「くっ…!」

「キンカク星人がシャブ漬けになるのはこの宇宙の摂理なんだ。あいつらは家畜なんだよ」

「あああ!黙れ!殺してやる!」


 暴れそうになったセルナを、駆けつけた仮面の少女が掴まえた。


「落ち着きなさい!」

「バカかよ!こんなに言われて落ち着いていられるかよ!こんな屑!早く殺さなきゃだろ!離せ!」


 那岐の手でソードからマテリアルを外されて、信太郎を守る鎧が消滅した。そして金的に、強烈な膝蹴りを入れた。


「うっ!…あっ…おっふ…」

「…ごめんなさい」


「あ~あ痛そう…まあいいや。それじゃあ俺は地球視察を続けなきゃだから…そいつはもらってくぜ」


 ゴバン星人がイズムに手を伸ばした。那岐はそれを止めようとせず、別の方向に目を向けていた。




「呑気だねゴバン星人。地球は今、僕たちメルバド星と絶賛戦争中だっていうのニ」


 その少年の姿を目にした途端、ご機嫌だったゴバン星人は一転。恐怖が顔の形を歪ませ、冷や汗を流した。


 メルバド星人の王子メルル・シルブブブゼラである。メルバド星は今回の地球外交には参加していない。それ以前に他の惑星から危険な星人としてメルバド星人は認知されているのだ。


「この星で僕とアクトナイトとで戦争してるんだヨ。それなのにいいノ?ふらふら出歩いテ」

「お前たちの戦争は宇宙戦争法に則ったものじゃない!よってメルバド星人は一方的な侵略行為を行ってるに過ぎない!俺たちはそんな地球を守るために外交に来たんだ!」


 言っていることとやっていたことが滅茶苦茶で、メノルは首を傾げて困った顔をしていた。


「理…法…摂理…難しい言葉を並べてるけど結局は君たちに都合のいいルールだよネ。君たち悪人にとってサ」

「まさか…やめろ!頼む!」

「僕も悪人なんダ。僕の都合に合わせて死んでくれよゴバン星人」


 メノルはオリジナルのソードで迷いなくゴバン星人を切り裂いた。


「うああああ!いてえよおおお!」

「もうちょっと痛め付けてからの方がいいかナ…せっかくだから宇宙船に正体してあげるヨ」




 ゴバン星人は透明なメルバド星人の宇宙船へと吸い込まれていく。そしてメノルも帰ろうとした時、デスタームが現れた。


「目的の為ならアクトナイトを庇うような真似をするとは…」

「ゴバン星人なんて民度の低いやつらがどうして外交に参加してるのかと思ってたけド、やっぱり罠だったんだネ」


 デスタームの作戦は失敗した。地球人である信太郎がゴバン星人に手を出せば、地球への報復をする口実が出来上がり、この星を物に出来るはずだった。


 しかしメルバド星人によるものなら、ゴバン星人は悪質な惑星人による戦争、犯罪に巻き込まれて命を落としたということになってしまうのだ。


「…王子として立場を弁えたらどうだ?こんなことを続けるのなら君の星がどうなるか私にも分からない。これは忠告だ」

「潰せるならとっくにメルバド星…いや僕たちを潰してるでしョ」


 どれだけの星が手を組んでも、メルバド星は落とせない。それほど強いということだ。


「戦争したいなら地球とじゃなくて僕たちとやろうヨ」

「失礼するよ」


 逃げるように消えるデスタームを、メノルは呆れた様子で見ていた。



「それじゃあネ」


 ニコッと信太郎に微笑むと、メノルも消えてしまった。


「信太郎…」


 感情が荒ぶり身体を痛め付けられ、疲労で今にも倒れそうな信太郎。


 だが、そんな彼を待っているのは更なる試練だった。

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