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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
52/150

第52話 宇宙人の子ども

 信太郎が理恵子の家で暮らし始めてからしばらく経った。




 ある日、信太郎がアパートに戻って来ると彼の父親、大月雄大の姿がそこにはあった。


「………」

「………」


 玄関先で二人は目を合わせてしばらくの間、沈黙が続いた。



 そして先に行動を起こしたのは雄大で、彼は信太郎に頭を下げた。


「酷い事をしてきた!謝罪をしても慰謝料を払っても償えない罪なのは分かっている!けど許してくれ!信太郎!」


 それを見た信太郎はまず驚いていた。あんな最低な人間が自分から謝罪をするとは考えられなかったのだ。


「………」


 次に悩んだ。許すか許さないかではなく、自分はこの人をどう思っているかだ。


 嫌いだ。二度と顔も見たくなかった。しかし父親は今、こうして謝りに来てくれているのだ。



 リビングから二人を理恵子は静かに見守っていた。



「あの…なんで謝ろうと思ったの?今になって急に」

「それは…謝らないといけないと思ったからだ!俺はお前に酷い事を言って暴力を振るってしまった!あいつのことを言い訳にするつもりはない、自暴自棄になってお前に当たってしまってたんだ!本当にすまない!」


 どうやら雄大には本当に謝罪の意志があるようだ。


(許さなければこのまま…けど許したところでどうなる?もう母さんは帰って来ないし、滅茶苦茶にされた今は変えられない)


 殴られたこと、罵倒されたことが頭の中で再生し始めて、信太郎の心は許すという選択を遠ざけていく。


 今この男を殴っても誰も怒らないだろう。不幸にされた自分にはそれくらいの権利があるはずだと信太郎は考えていた。


「すぅ~…」


 殴るか、それとも死ねと言うか、それとも何も言わずにこのまま自室へ戻るべきか…


 信太郎は悩んだ。悩む事に10分も時間を使い、選択したのは…




「いいよ…謝ってくれてありがとう」


 信太郎は口では許した。だが心の底でも許しているのかは定かではない。


 彼が選んだのは楽な道である。許しを求めている相手に許しを与えただけで憎しみはそのままだ。

 これ以上この気分の悪い時間が長く続いて欲しくないからこそ、彼は許したのだ。


「信太郎…」

「でもまだ家には帰りたくないや。もう少しだけ時間ちょうだい…頭の中、整理したいから」


 それっぽい言葉で父親を安心させ、理恵子にも不快な思いをさせないようにするのは少し大変だった。




 雄大は帰っていった。その後、理恵子から父親は本当に息子への虐待を反省していることを伝えられた。


 彼の知らない間に彼女は努力していのだ。元の生活に戻れなくても、また仲良く二人が暮らせるようにと。


「…俺、父さんを許せるように頑張ってみます」

「そうしてちょうだい。私もあの人には色々言ったけど…彼自身、これからのことを考えてると思うから」



 しかし、理恵子の努力は無駄だった。




 ソファに座ってしばらく放心状態の信太郎。そんな彼に美保は頭を叩かれた。


「………」

「あれ?痛覚ないの?」

「…痛いよ。何?」


「ねえ、さっきの男の人って信太郎のお父さん?」

「そうだけど…なに?」


「先輩ほどじゃないけど…めっちゃカッコいいじゃん。あんたみたいなのを冴えない男って言うなら…アレは冴えてる男って言うのよね!」


 めんどくさそうに話相手になっている信太郎だが、次の言葉を聞いた途端、立ち上がって腕を上げた。


「ふざけんな!あんなやつ!最低最悪の糞野郎だ!」

「うわ、何急に…てかさっき許してたじゃん。もしかして口だけ?」


 信太郎は冷静になって暴力はダメだと自制した。それから美保は怒った信太郎が余程面白かったのか、父親の話を続けた。


「毛ボサボサだったけどあれは整えたら間違いなくイケおじだよね…でも信太郎はお母さんに似ちゃったんだ。だって全然似てないんだもん」


「身体も大きかったし、あんたって本当、両親の悪いところだけ遺伝して出来たんじゃないの?」


「てかシカト?言い返すボキャブラリーないわけ?」


 これが中学生の言葉なのか。信太郎は怒るよりも疑った。あの佐土原先生の娘がこんな人を傷付ける言葉を平気で言える人間なのかと。


(厳しい親元で育ってる反動なのかなぁ…いや違うな)




「………お父さん、残念だったな」

「何よ急に…」


「寂しいんでしょ?だから俺に当たることで気持ちを誤魔化してる。どうなんだ?こういうこと、他の人にもやってるのか?」


「そんなわけないでしょ?大体何急に。今お父さん関係ないでしょ」


「ないけど…俺は母さんがいなくなって君はお父さんがいなくなって、片親いなくなってるところが少し似てるなって」


 似ている。それは美保にとってとても屈辱的な言葉だった。


 この信太郎という廃れたような男と、自分は似ているわけがない。似ていてしまっては社会的に困るのだ。


「全然似てないし!あんたと似てるとか嫌すぎるんだけど。死ねよ!この豚!」

「…ごめん」


 何かに対して信太郎は謝罪をすると、逃げるように自分の部屋へと入っていった。


 情けない姿。やっぱり似ているわけがないと、美保は安心した。

 

「チッ…あぁ、先輩に会いたいなぁ…」


 関係ない話だが、美保は剛がデスタームに連れて行かれて以降、一度も連絡が取れていなかった。




 信太郎の部屋にはほとんど物が置かれていなかった。借りている部屋ということもあって、彼はなるべく最低限の物で暮らそうとしているのである。


「…帰りたくねえなぁ」


 表面上では父親と和解したことになっているのだ。いつかは住んでいた家に帰らなければならない。

 だが過去を思い出すと信太郎の身体は震えた。


「帰りたくねえな」


 帰りたくない、帰りたくない、帰りたくない。そう呟き続けて、ひたすら現実逃避をした。




「信太郎君、少しいい?…入るわよ」

「どうぞ」


 信太郎の部屋に理恵子が入って来た。


「さっき雄大さんから電話で伝えられたけど、あなたちゃんと学校に行ってるの?」

「…すいません」


 ここ最近の無断欠席がバレた。学校側から雄大に連絡が入り、つい先ほどそれが理恵子に知らされたのだ。


「どうして学校に行かないの?何か嫌な事があった?ほれとも勉強についていけない?」



 思えばどうしてだろうか。千夏と喧嘩しているからか?それとも芽愛の失恋を引き摺ってるからか?


 信太郎は理由もなく学校をサボっていた。なぜかは分からないが、行きたくなかったのだ。


「ちょっとズル休みしたくなっちゃって…ごめんなさい!明日からちゃんと行きます!」

「そうなの?…なら、明日からちゃんと学校に行くのよ。それと、何かあったら勇気を出して私に相談すること。良いわね?」


 理恵子の優しい手が信太郎の髪を撫でた。


「母さん…」


 もう信太郎の母親はいなくなった女ではなく、佐土原理恵子になっていた。




 次の日、信太郎はちゃんと登校した。教室に入った時に、連日休んでいたことを誰からも心配されることがなかったのは少し寂しく感じた。


「そういえば怪獣出たのずいぶん前だな」


 クラスメイトの声を聞いて信太郎は怪獣のことを思い出した。前まで学校にいた避難者たちは既に別の場所へと移っている。教室にも人がそれなりに戻っていた。



 離れたところで将矢たちが話している。自分も会話に混ざろうかと思うが、千夏の顔を見ると気が引けた。


(俺の学生生活…終わったなぁ…)


 今頃裏では陰口の嵐だろうと絶望する。



 だが勉強を怠る理由にはならない。それに良い成績を出せれば理恵子にも褒めてもらえる。


 この時、信太郎は初めて休み時間の間に予習をした。




(怪人が出た!)


 邪悪なエナジーを感知した信太郎は授業が始まる直前に学校を飛び出した。


(…え?なんで?)


 そこである異変に気が付いた。なぜ自分は怪人の出現に気が付けたのかと。



 アクトソードには触れていない。それどころか剣を握っても、剣に触れてない他の仲間たちはともかく、シャオの心と繋がらなかった。


「ど、どうなってるんだ…?」


 困惑して立ち止まる信太郎。エナジーを感じる方から逃げて来る人々の姿があった。



 立ち止まってる場合じゃない。マテリアルをセットして変身した信太郎は、怪人の元へと駆けて行った。




 怪人のいる街の中は紫色の霧が充満していた。倒れている人の姿を見れば、それがただ色の付いた霧でないのが分かる。


 セルナは霧の中へ突入し怪人を探した。


(毒だよなこの霧…吸ったりしてないよな?大丈夫だよなこの鎧?)


 もし毒を吸ったとしてもセルナの力でなら治すことが出来るが、それでも苦しいのは嫌なのだ。信太郎はこれまでにないほど慎重に、霧の中を進んだ。



「ウゥ…ウゥ…」



 正面から弱々しい、泣いているような声がした。誰かいるのかとセルナは恐る恐る接近していく。


「こいつは…!」


 そこにいたのは怪人だった。うずくまった怪人の背中には火山のような突起物があり、そこに開いている穴から紫色のガスを噴出していた。


(こっちに気付いてないのか?)


 厄介な能力だが本体は大したことのない怪人だと信太郎は評価して、必殺を放つためにマテリアルを叩いた。


(口上省略ぅ…くらえ!)



「ウゥ…ウゥ…」


 構えたソードをセルナは振り下ろさなかった。怪人が泣いているような気がして、同情してしまった。


(…相手は怪人だろ…)




「大丈夫…?」


 信太郎は思わず声をかけてしまった。


「ウゥ…ここどこ…おうちにかえりたい…」

「お、おうち?君はどこから来たの?」

「ぼくのおうち、とおくのほし」


 会話が出来る怪人からは、邪悪なエナジーは感じられなかった。


「…とりあえず背中のソレ、なんとか出来ない?」


 信太郎は背中の穴から噴き出す毒を止めてもらうように頼んだが、怪人は首を横に振った。止めないのではなく、止められないのだ。


「こどもだから、とめかたわかんない。どうしよう」

「…俺が何とかしてみせるよ」


 セルナは突起へと剣をかざす。そしてセルナマテリアルの神秘の力で、突起物の機能停止を試みた。


「…あれ?とまった?」

「成功した…!やれば上手くいくもんだな」


 見事に毒の噴出は収まった。さらにセルナの力を引き出して、街を覆う程の霧を一瞬の内に消し去ることに成功した。


 それから怪人を連れ、セルナは急いで街を離れた。




 遠くの星からやって来た怪人の名はイズム。星から星へと群れで移動していたところ、この星の重力に引っ張られて来てしまったらしい。


 信太郎はイズムに雑な変装をさせて、人のいない道を選んで歩いた。


「イズム君は…えっと…」

「いずむはね、かっこいいぱぱとままがいるんだよ!つよくてやさしいんだよ!」

「そ、そっかー!凄いね~!…どうしよう」


 アクトナイトに相談…しようと思ったが、病院での口論の後、まともに会話をしていないので気まずい。


 他に誰かいないかと信太郎は考えたが、デスタームや剛などロクな人間がいなかった。


(…灯刀さんの両親!)


 先日出会った那岐の育ての親であるアーツとターウは宇宙警察である。イズムは迷子と言えなくないので、何とかしてもらえるかもしれないと、信太郎はイズムを連れて学校へと歩いて行った。

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