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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
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第48話 芽愛を助けるアクトナイト

 飛翔した昇士は最初、アクトナイト達を襲う怪物を一掃した。それも何の武器もなく、エナジーが集中した手刀で。


「おい昇士!なんで飛んでるんだ!?」

「変身してるみたいだけど…私たちとベクトル違くない?」


「これで終わりか!今度はこっちから行くぞ!」


 昇士が手刀を突き出した。アクトナイト達からはそういう風に見えていた。

 だが実際は違う。昇士は一瞬にして何度も手刀を前後させて、鋭く小さな風を発射していたのだ。


「うああああ!」


 芽愛の形をした闇の巨像が細切れになっていく。だが本体をどうにかしなければ街は闇に飲み込まれたままだ。


「出てこい!隠れてコソコソしないと戦えないのか!この臆病者め!」




「臆病者って言われてるけど?」

「違う!違うんだよ朝日君!」


 闇の中にいる芽愛は焦り始めていた。絶対的だと慢心していたこの力に勝る者が現れたことに。しかもそれがアクトナイトでないと証明されたばかりの昇士だということが余計に恐ろしかった。


「私はね!朝日君にね…………」

「どうする?自分の気持ちすら伝えられない臆病者さん」

「うるさい黙ってろ!」


 芽愛の口調が荒くなる。これは本性かそれとも怒りが作り上げた新たな芽愛か。




 しかしそれすらも上回る昇士の怒りを彼女は恐れた。


「出てきやがれえええ!」


 昇士はエナジーで作り出した爆弾をひたすら街へ向かって放っていた。


「おいやめろ!街に被害が出たらどうする!」

「どうもしない!それよりも陽川を倒すのが優先だ!」


 このパワーアップは諸刃の剣だった。昇士は誰よりも強くなれるが、怒りがトリガーということもって変身中はまともに自制心が働いていなかった。




「あの馬鹿…弱点だらけじゃない。調子に乗ってるわね」


 那岐の言うその弱点が何なのかは芽愛にはさっぱり分からなかった。

 それよりも昇士を止めなければならない。自分の闇を上回る攻撃が、いつ街に被害が出るか分からなかった。


「どうしよう…どうしよう…」




「やめて朝日君!」


 遂に芽愛の声が聞こえた。昇士は一旦攻撃の手を止めて言葉に耳を傾けた。


「その…私ね………」

「その前にまず街と人々を解放しろ!話はそれからだ!」


「………そうだよね!話しなんて聞いてくれる訳ないよね。だって君はいつも灯刀さんと一緒だったんだから…私の言葉なんて届くわけないじゃん!」



 高速の攻撃に対応出来たのは昇士とシャオだけだ。アクトナイト達はボードを破壊され、地上へと落ちていってしまった。


「みんな!」


 しかし、機転を利かせたフレイスが剣から炎を噴射。他二人を抱えて何とか滞空してみせた。


「俺たちはいい!それよりも行け!陽川はお前にしかもう止められない!」

「分かった!もう少しだけ頑張ってくれ!」


 昇士は集中砲火を浴びせられた。これまでにない激しい攻撃と、慣れない初飛行ということもあり、防御は完璧でなくかすり傷が出来た。


「アクトナイトじゃないし話は聞いてくれないし!そんな朝日君嫌い!死んじゃえ!死んじゃえ!死んじゃえええええ!」

「殺せるもんならやってみやがれえええ!」


 戦いの中で成長していく昇士は少しずつ防御の動作から無駄がなくなっていた。そして最終的には当たる攻撃以外は何もしないというレベルにまで到達していた。


(…この威力、触れたらヤバいな…この闇をどうにかしないとスタミナ負けしそうだ)



「昇之型…」


 昇士は防御しながら高度を徐々に上げていった。


「壱之段…」


 防御する手も左手だけに。必殺技を繰り出す右手にはエナジーが溜まっていた。


(更に俺のパワーを解放する…今制御出来る1割…リミッターレベル9だ!)

「…すぅー………ライジングスラッシュ!」


 そして昇士は地上へ向けて、渾身のライジングスラッシュを放った。街に直撃しようなら被害が甚大にならない威力のものだ。




「何考えてんのよあの馬鹿正気!?そんなのこいつに防げるわけないじゃない!」


 周りへの被害を考えないやり方に那岐は立腹した。間違いなくこの一撃は、芽愛の闇を切り払い街へ到達する。


「そんな…朝日君…どうして…どうして私の気持ち、分かってくれないの?こんなに君のことが好きなのに…」


「………昇士は全力よ。あんな身体に負担の掛かること、普通はやりたがらないもの」

「いいよ、朝日君知ってる自慢なんか聞きたくない」

「そうじゃなくて!…昇士が全力で戦ってくれてるのに、あんたは何もしないでこのまま黙ってやられるわけ?」

「それは…」




 闇から這い上がるように、再度巨像が出現した。巨像は両手でライジングスラッシュを受け止めるつもりだった。


「私も…私も全力で!」


 白羽取りをする様に、巨像はライジングスラッシュを両手で挟んだ。


 そして辺り一帯は目が眩むほどの光に飲み込まれた。








 気が付けば街は元通りになっていた。すぐそばには那岐を治療するシャオがいた。


「終わったのか…」

「まだだ昇士、終わってねえぞ」


 シャオに言われて信太郎は気が付いた。怪人の姿をした芽愛が、自分が目覚めるのを待っていたことに。


「本当に陽川さんだったんだ…」


 闇怪人メイはしばらく黙って、那岐の回復を待っていた。意識が暴走状態にあったとは言え、自分が彼女を傷付けてしまったということに今は責任を感じていた。


「こいつは大丈夫だ。だから…やることやってこい!」

「…頼んだ、アクトナイト」


 自分がアクトナイトであると誤解を招いてしまった結果が芽愛の怪人化だ。この戦いを終わらせる責任は自分にあると、昇士は彼女の元へ歩いた。


「お互いにボロボロだね…私もこの姿でいるのが限界だよ」

「陽川さん…どうしてあんなことしたんだ…」


 昇士には分かっていた。芽愛が自分に対してどう思っているのかを。しかしそれは本人の口から聞かなければ何も意味がないのだ。


「私…私………言えないよ………言ったら私…きっと………」


 まだ芽愛は僅かな闇に支配されて、勇気が封じ込められている。彼女を救うにはその心に光を差すしかなかった。


「俺…なるよ」

「え?」

「陽川さんのために…アクトナイトに!」


「受けとれえ!昇士ぃ!」


 シャオはソーンマテリアル、そしてアクトソードを昇士へ投げた。

 昇士はマテリアルをキャッチして、次に自分を拒む剣を自身の力で無理矢理握り締めた。


「くっ…!俺なんかに資格がないのは分かってる…けど今は変身させてくれ!陽川さんのヒーローになるために!アクトベイト!」


「星影と光れ煌めく力!アクトナイトソーン!」



 光が集まり鎧が形成されていく。ここに立つのは本来、アクトソードですら想定していなかった変身者の朝日昇士。

 内に宿るその力で剣を固く握り、闇に囚われあ少女を救うために変身したその姿は、光の力で戦うアクトナイトソーンであった。


「朝日君がアクトナイトに…」

「そうだ陽川さん!俺が君を助ける、アクトナイトだ!」


 光を放つソーンが怪人に向かって走り出した。それを見てメイも武器を造り前進した。


 どちらが勝っても芽愛の敗北という未来に変わりはない。だからこそ、彼女はこの瞬間に全てを込めた。昇士も全力で倒そうと剣を振った。


「私…戦えてる!朝日君と…!」

「君を助ける!そのためにも…ここで君を倒す!」


 メイと剣を交えて昇士は思い出した。今いるこの場所は初めて芽愛と話した場所だと。


「そっか…ごめん、あの時のことすっかり忘れてた」

「仕方ないよ。朝日君は優しい人だから、色んな人のためにいつも頑張ってるもんね」


 

 あの時からもっと積極的になれていたらと芽愛は後悔していた。

 だからこそ今、言わなければならない。どうなってもいいから、勇気を振り絞って自分の想いを伝えるんだと決めた。


「初めて出会った時から好きでした!朝日君!付き合ってください!」


 昂る芽愛の感情を表すかのように、怪人の身体に変化が起こる。翼を広げ腕が大きくなり、パワーアップするつもりだった。


 既に変身者である芽愛に戦う力は残っていない。暴走した闇が本体を殺してまでの成長を目論んでいるのだ。


「シャオ!必殺技だ!」

「導き示す灯火の光撃(こうげき)!ソーンスラッシュ!」


 ソーンの剣が放つ光は太陽よりも明るかった。だがその光は眩しさを感じさせない、人を包み込むような優しい光だった。


「朝日君………こんな私に優しくしてくれてありがとう」

「当たり前だよ…けど、ごめん」


 芽愛の心に光を差し込み、覆っていた闇が晴れていく。怪人化していた身体は元の姿へ戻っていき、胸から空っぽのマテリアルが吐き出された。




「俺にも好きな人がいるんだ。この想いを伝えたい人が」

「そっか、悔しいな………うん!その想い、届くといいね!」


 芽愛の顔に久しぶりの笑顔が。それは狂った笑みなどではなく、誰かの幸せを願える優しい彼女の本来の笑顔だった。

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