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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
45/150

第45話 強くなる昇士、那岐のいる意味

 不仲な信太郎と千夏。メルバド星人の侵略行為。力を得て自らの為に動く芽愛。


 問題は色々あるが、日常は容赦なく進んでいく。教室では今年の文化祭の出し物を何にするかで生徒たちが話し合いをしていた。


「仮装喫茶にしようよ~」

「仮装はいいけど接客嫌だって人もいるからな~」

「じゃあ仮装は決定事項ってことだから何かアイデア!ある人いない?」


 昇士は文化祭についてよく分かっていない那岐に説明しながら、話し合いに時折口出していた。


「まあつまり…学校版ルノー祭ってところかな。自分たちで何やるか決めて、暇な時間には他のクラスの演し物を見て回ったりするんだよ」

「へえ…かき氷は出るの?」

「かき氷か…秋だからなぁ~」


 そんな昇士の元へ、話し合いをまとめていた将矢がニヤニヤしながら近付いた。


「よお兄さん…舞台、用意してやっても良いんだぜ?」

「いきなりどした」


 クラスの中でも静かな話題になっている、昇士と那岐の関係。

 普段は誰にでも冷めていてつまらなそうにしている那岐だが、昇士と話す時だけは表情が豊かになっているのだ。


 明らかにこれは…と恋愛未経験の人間からもそういう風に見られていた。


「あのなぁ…俺と灯刀はそんな関係じゃないって」

「まあそうだとして…本当は?」

「本当も何も…」


「それで…本当は?」

「…す」


 何かを言いかけたところで大きな揺れが起こった。


「な、地震か?」


 慌てて生徒たちが机の下に隠れる中、信太郎はボーッと外を見ていた。

 これは地震ではなく、どこかに現れた怪人の仕業に違いない。

 そう思った信太郎は揺れが続く中立ち上がり、教室を出た。



 自分の出番だと信太郎は胸を昂らせた。


「アクトナイト、怪人だろ?エナジーくれよ」

「あぁ…」


 喧嘩をして数日間、久しぶりの会話にアクトナイトは緊張していた。だがそんなこと知ったこっちゃない。それよりも怪人を倒して街を守らないといけないのだ。


「よし…アクトベイト!」


 一目に付かないところで変身。アクトナイトセルナは窓から外へと飛び降りて、怪人の出現した場所に向かった。




 今回、怪人は2体。連鎖して現れたメルバドアルと合計すると、敵は30体と苦労しそうだった。


「うおおおお!」


 アクトブレイドが手元にない今、信太郎は素のセルナで戦っている。だが雑魚相手には苦戦することなく、次々とアル達を撃破していった。


 アルを全滅させて怪人へ。この流れで行けるかと思いきや、2体とも能力持ちだった。


(あ…あれ?)


 信太郎の感覚が狂い始める。前に進もうとすると後ろへ。右へ行こうとすると左へ。

 転倒してしまい立ち上がろうとしたが、反対に身体が地面に寝そべってしまった。


「どうなってんだ!」


 怪人の放つ電波が神経を狂わせていた。動けなくなったセルナに、もう1体の怪人が迫る。


 その怪人が一歩、また一歩と近付いてくる程、信太郎の意識が遠くなっていた。


「あ…れ…」


 怪人は攻撃の素振りを見せずに信太郎に手を伸ばした。


「距離を取るんだ信太郎!」


 アクトナイトが叫んでいる。信太郎は「うるさいなぁ」と思いながらも動こうとしたが、1体目の能力によって既に動けない状態にある。


(動けない…そんな!)


 怪人の手が信太郎に触れる直前、空から現れたフレイスが腕を切り落とした。


「大丈夫か信太郎!」

「…」


「あれ、本当に大月君いるじゃん」


 遅れて、人命救助を済ませたアーキュリーもやって来た。


「どういう意味だよそれ」


「なんか大月君が先に行ってるってアクトナイトさんが話してたんだけど…」

「剣を持ってるはずの信太郎と心が繋がらなかったんだよな。なんでだろ」


 今はそんなことよりも目の前の怪人だ。既にアクトナイトから怪人の能力を聞いている二人はセルナを連れて離れた場所へ。


「どうしよう。近付いたら危ないんでしょ?」

「ここじゃ炎は飛ばせないし奏芽の操れる水もないしな…」


 するとまともな感覚を取り戻したセルナが立ち上がり怪に剣を向けた。


「俺が何とかするから…」


 攻略方法も考えずにセルナが再び走り出した。


「おい信太郎!」


 再び感覚が狂い意識が遠退く…ことはなかった。セルナの身体から灰色の煙が出ているが、それに気が付いたのは将矢たちの二人だけだった。


「俺がやるんだ…俺が!」

「信太郎、何が起きているんだ!」


 現場にいないアクトナイトも強い闇のエナジーを感じていた。



 怪人の能力はセルナに通用しない。大した戦闘力のない怪人は、走り抜けるセルナから必殺のセルナスラッシュを喰らい爆散した。


「…しゃあ!」


 スポーツ選手が得点を取った時のような喜び方をする信太郎。それを見て将矢たちは困惑していた。


「どうしたんだあいつ…」


 それから急いで学校へ戻るが、その間信太郎は仲間たちと一度も口を交わさず、ただ怪人を倒せたことへの喜びに浸っていた。




 三人の知らないところで、地震を発生させた怪人を那岐が倒していた。


「あいつら何と戦ってんのよ…」

「同時に3体でしかも内1体は別の場所…前はこんなことなかったのにね」


 昇士はSNSで、信太郎たちが別の怪人と戦っていたことを知った。


「メルバド星人のやつらが戦術を変えたってだけでしょ。別に気にすることないわよ」

「そうなのかな…」


 しかし、彼女の戦いはここで終わりではない。昇士は遠くから物凄い速さで飛んでくる何かに気付き、那岐を抱いてその場を離れた。


「なによ急に!」

「攻撃だ!」


 すぐさま、二人の背後で爆発が起きた。飛んできた物はガソリンの詰まったタンクローリーだ。


「くっ!」


 飛び散る破片から那岐を庇って昇士が怪我をした。




「ニノタッラネヲエマオ…ヨエネャジンテシニテタヲンクヒサア」


 例の黒い怪人が理解不能な言葉を怒鳴り散らしながら姿を見せた。


「ちょっと昇士、しっかりしなさいよ!…あんたぁ!」


 怒りに燃える那岐は優しく昇士の体勢を楽にさせて、波絶を握った。

 これまでは逃してしまったが今回は絶対に殺す。


「絶対に殺すから…少し待ってなさい」


 昇士に誓うと、那岐はイーグルの力で翼を広げた。怪人も醜い翼を背中から生やして、二人は空に移った。



 空中で那岐と怪人が衝突する。雲が割れ風が巻き起こり、街の人々が空を見上げていた。


 一撃の度に波絶を持ち直す那岐。こちらが息を切らしているのに対し、相手はどういう状態なのかが全く分からなかった。


「ポーカーフェイス…違うか、顔を隠してるのね。どんな醜い顔なのかしら…」

「ルヤテシロコ!」


 那岐は薄々気が付いている。この怪人は今までの怪人とは違い、自分たちに近い心を持っていることを。

 メルバド星人の元は人間だった怪人と違い、この怪人には誰かが変身していると。


 しかしどんな事情であれ怪人は敵だ。那岐は情けを持たず技を構えた。


「鷲之型…弐ノ段!イーグルストライク!」


 那岐の突進が繰り出された。それを怪人は避けようとせず、全力で受け止めた。


「そんな!」

「ヨダサノラカチガレコ…ネノミキトシタワ」


 波絶が折られ、触手に掴まれた翼は紙のように千切られる。バランスを失った那岐は地面へと不時着し、大怪我を負った。



 背中が物凄く痛かった。いつもなら那岐の戦いを見守っている昇士だが、タンクの破片がいくつも、それも身体に深く突き刺さってしまっているので意識を保つことしか出来ない。


 灯刀はどうなったのかと辺りを見渡す。そして翼を散らした彼女が地面に身体を打ち付ける瞬間を目にした。



 那岐のそばに怪人がやって来た。突き出した腕には既にエナジーが溜まっていた。


「このままじゃ…灯刀が…!」


 自分の秘めた力を解放しようと試みた。だが何も起こらない。


「ヨナイラモテットミハイラクゴイサ」


 機嫌が良さそうに何かを喋る怪人。那岐は身体を動かそうとしているが、打ち所が悪かったのか指一本も操れずに倒れたままだ。


「灯刀…逃げて…逃げて!」

「昇士…」



 諦めた那岐は覚悟を決めて瞳を閉じた。



「ネシ」



 口にしている言葉は理解出来ないが意味は理解出来た。



 らしくない那岐とそれを侮辱するような怪人。二人の姿が昇士に怒りの炎を点けた。


「諦めてんじゃねえ!」


 身体に力は入っていない。気合いだけで身体を地面から浮かした昇士は、そのまま那岐の元へ。

 怪人の攻撃を代わりに受け、見事に彼女を守ってみせた。


「いつも灯刀強かったじゃん!負けてもリベンジする気満々だったり俺のこと逃がそうとしてくれてたじゃん!いきなり何弱気になってんだよ!」

「うっ………」

「おいお前!あっち行け!」


 昇士の気合いは更に力を増して、怪人が風によって吹き飛ばされるように遠くに追いやられた。


「だって…多分昇士、私より強くなりそうだから…もう守ったりしなくてもいいかなって…私いらないかなって」

「いる!だって!」


 空気の読めない怪人がエナジー弾を放った。触れたら大爆発を起こす弾を、昇士は立ち上がり全て空中へと打ち上げた。


「だってさぁ…俺灯刀のことが!」


 今度は悪いタイミングでアクトナイトビヴィナスが救援に駆け付けた。


「こっちで大きなエナジー同士が衝突してるって聞いて来たけど…朝日君?なんか漫画の覚醒したキャラみたいになってるけど」


 オタクらしい例えをした千夏に昇士は苦笑い。それから背中の痛みが蘇るとその場に倒れた。



「デンナデンナデンナデンナ!!!…ニメタノツヤナンソテシウド!」


 荒ぶる怪人が地団駄を踏み街が揺れる。道路が割れて操れるほどの破片にまで砕けたのを見るとすぐ様、ビヴィナスがコントロールを行った。


「どっかに…行っちゃえ!」


 怪人の足元を持ち上げて空へと射出。遠くへ吹き飛ばした。


「おー飛んだ飛んだ」


 それから、ビヴィナスは倒れた二人を連れて記念公園へ。三人は早退ということになってしまったが、最近はよくあることなので特に何も思わなかった。




 力では完全に勝っていた。こちらは無傷で絶対に勝っていたはずだった。

 だがしかし、昇士が那岐を庇った。自分に怖い顔をして睨み付けてきた。


 芽愛は変身が解けているにも関わらず、怒りに任せて近くの物に手当たり次第に当たっていた。当然、身体の方が傷付いた。


「なんでだよ…もう!なんでだよ!」


 どれだけ頑張っても昇士が自分を見てくれない。芽愛の怒りは邪魔者の那岐だけでなく、それを守った分からず屋の昇士にも向いていた。


「一緒にいた時間が長かったからおかしくなっちゃったんだ…私なんかよりも…あいつ…あいつが!」


 もう彼女は止められない。闇が溢れ出し周囲の物を次々と飲み込み始める。

 これまで怪人に唯一残っていた人らしさであった形を失い、芽愛は闇の底へと沈んでいった。

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