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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
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第44話 闇に光を

 シャオは再度、信太郎の心の中へ。


 先程と風景は違いどこかの学校だ。そこは信太郎の通っていた小学校である。



 小学6年生の信太郎は体育の授業を受けている。周りの生徒たちが軽々と跳び箱を跳んでいるが、信太郎はつまらなそうな顔で挑んでは、箱の上に引っ掛かっていた。


「あいつ…運動出来ねえわけねえだろ」


 記憶の中の人間にはシャオの姿は認識出来ない。彼は信太郎に近寄り、彼が跳ぶ様子を近くで見守った。


 信太郎は特別スポーツが出来る少年かどうか知らないが、これぐらいなら簡単に出来る。身体の成長具合を見ても6段の跳び箱ぐらいは楽勝なはずだと、シャオは思った。



「成功したら褒めてくれる?」

「うわあああああ!?」


 いつの間にかシャオの背後に、現在の信太郎が立っていた。


「そりゃ…まあ凄いんじゃねえの?」


「………違うんだよ。俺が跳び箱を頑張ったら、父さんと母さんは褒めてくれるのかって聞いたんだよ」

「いやそんなこと俺に聞くなよ」

「二人ともね…褒めてくれなかったよ。それどころじゃないって、父さんは仕事、母さんは浮気で大忙し」

「信太郎、愚痴なら後でいくらでも聞いてやる。だからここから出るぞ」


 体育館が崩れ去り、次の記憶に切り替わる。物の片付いている綺麗な部屋へと来た。


 そこでは小学生の信太郎が熱心に勉強しているようだった。


「お、真面目にやってんじゃねえか」

「…まあ耳を澄ましてみてよ」


 部屋は静かだった。二人が黙ると、外にいる歩行者の話し声がした。


 それだけでなく、ドアや壁を抜けてリビングからの声も届いていた。


「………ねえ、うふふふ」

「あはははは…」



「なんだよ、お前の両親上手くやってんじゃねえか」

「母さんと…リョースケサンって人の声だよ。酷い時はセックスしてたりもした…本当、最悪だった」


 しかしここではない。信太郎の目指している記憶は出来事ではなく真実なのだ。


「信太郎やめろ」

「俺は前から一つ疑問があったんだ。あんな母親だと知ってから」


 本当にこれ以上は歯止めが効かなくなる。シャオは信太郎の襟を掴んでこれまで見せたことのない怖い顔をしていた。


「やめろって言ってるだろ」


 彼が手に持っているのはサートゥーンとは別のマテリアルだった。


「お前をここから引き摺り出してやる…光の力で全ての闇を消してやる!」

「そりゃないだろ、せっかくここまで来たんだぞ…後少しで知れるはずなんだ!どうしてこうなったかを!」

「どうせゼロにしたところですぐに湧くんだろうが…」

「やめてくれシャオ!」


 強い光がソーンマテリアルから放たれる。信太郎の心に蔓延った闇が光の中へと消えていく。


「帰るぞ信太郎!俺たちの現実(世界)に!」

「どうして父さんと母さんは…そんなに仲が悪くなったんだ?俺のせいなんだろ?なぁ?………」


 信太郎が最後に見たのは物心つく前の記憶。楽しそうに自分の面倒を見てくれている二人の姿だった。




 闇を消された信太郎が目を覚ました。


「そんなマテリアルあるなら最初から使っとけば良かったじゃないですか?」

「んだぁダメだダメ。結局消したところで人間、すぐに闇を持っちまうもんだし…それに自分で向き合ってが理解しようと努力するのが普通だと思うしな」


「余計なことしてくれて…」


 不機嫌そうな信太郎がシャオを睨んでいる。既に彼の中には新たな闇が芽生えていた。



 信太郎の退院が明日に決定した。安静にしろという病院側からの指示を受けたが、彼はシャオと言い争いを始めていた。


「人の心の中に入って来るんじゃねえよ!」

「こっちはお前を助けようとしてたんだよ!下手したらお前二度と起きなかったんだぞ!」

「助けなんてなくても自分で元の世界に戻れたよ!」

「辛い過去ばっかり記憶してネチネチしてる奴が自分で目覚められるわけねえだろ!自惚れんな!」

「んだと!お前がいなければ俺はな!」


「やめなよ二人とも!」


 千夏が止めには入らなければ殴り合いにまで発展していただろう。



 それからは口も交わさず、ソードとセルナの入ったトロワマテリアルをテーブルに置いてシャオは出て行った。


「大月君…今のは良くないんじゃないかな」




「いいよなぁ啓太のやつ…最後に命懸けで街を守ってさ…綺麗すぎる死に方したんだから」

「え…何いきなり」

「俺もカッコつけて死にてえよ!」


「いや…待ってよ。今関係なくない?それに啓太は死にたくて死んだんじゃなくて、街を守るために命を懸けて戦って」

「結局死ねてんじゃん…ところで今のって何の漫画のセリフ?」


 日常の中、信太郎という男に面倒くさい部分を少しは感じていた千夏。だが、ここまで彼が本性を露にした姿を見るのは初めてだった。


 しかしそんなことはどうでもいい。それよりも彼は啓太を侮辱した。それが何より、千夏にとって許せない事だった。


「あのさ、何があったか知らないけど人に当たらないでくれない?それにさっきはアクトナイトさんに失礼だったし今度は啓太に失礼なんだけど」

「なんだ、謝った方がいいのか?悪かったよじゃあ明日学校で謝るよ…って悪ぃ~!啓太死んでたんだったな。じゃあ墓にでもって思ったけどあいつ墓もねえんだったな」


「!!!…酷い…そういうところだよ!」


 千夏が病室の扉を乱暴に開けて出て行った。直後に信太郎の中で罪悪感に近い物が込み上げてくる。


「本当…なんで俺じゃなくてあいつが死んでんだろうな」


 違う。信太郎は物事を直視していない。彼がまず考えるべきなのは、どうして今あんなに酷い言葉が出てしまったのかということだ。


 今を見えていない彼が過去を見たところでどうにもならない。それが分かっていたから、シャオは信太郎に記憶を辿るのをやめるように言っていたのだ。




 病院を出ようとする千夏の目には涙が溜まっていた。俯いて歩いているものなので、当然すれ違う人とぶつかって尻餅をついた。


「いってって…すいません…」

「こちらこそ…あれ?金石さん?」


 どういう巡り合わせか、千夏はクラスメイトの芽愛とぶつかっていた。


「もしかして大月君のお見舞い?」

「…そんなところかな…大丈夫金石さん、元気なさそうだけど」

「少し言い合いになっちゃって…ごめんね、あんまり気にしないで?」


 会話はそこまで。急ぐように立ち去っていく千夏の後ろ姿を見て、芽愛はポツリと呟く。


「最低だな、あいつ…」


 信太郎は殺しておくべきかもしれない。そこら辺も視野に入れて、芽愛は信太郎の病室に入った。



「…陽川さん」


 名前を呼んだ直後、鋭利に尖った怪人の触手が信太郎を取り押さえた。


「一応聞いておくけど、私のことは話してないよね?」

「話すわけないじゃないか。それより陽川さん、もう怪人の力を使うのはやめるんだ。前よりもパワーアップしてるじゃないか」


「説得されて折れる程私、単純じゃないから。ところで金石さん、お見舞いに来てたんだよね?なんで泣いてたの?」

「え?」

「だから…なんで泣いてたの?」


 信太郎の素肌に鋭い針が触れる。メイが少しでも力を入れれば、全身に血を排出する穴が開くほどだ。


「それよりもさ」

「いや置いといていい話じゃないでしょ。誰かと衝突するのは仕方ないとしてさ、金石さんの泣き顔。言い負かされて悔しいとかじゃなかったよ。もっと別…凄く悲しそうだった。人を悲しませるって君、一体何したの?」

「…陽川さんには関係ないだろ」


 自分にもこんな口を聞くようじゃもうどうしようもない。メイは触手を引いて人の姿に戻った。


「私の事、誰にも言わないでね?…まあ言わないだろうけど」

「言わないよ」


 自分に惚れている信太郎は口外しないと、芽愛は分かっている。


 口外せずに話し合えば解決出来て、そのまま芽愛との距離が縮まるかもしれないという勘違いを信太郎はしている。



 二人の思い込みが偶然にも噛み合い、闇怪人の正体を知られてしまう可能性はほぼなかった。


「………一つ言わせてもらうけどその性格、変えた方が良いよ?…後々絶対面倒な事になるだろうから」


「どういうこと?…そうだ陽川さん。言わないといけないことがあるんだ…実は俺がアクトナイトなんだ!陽川さんを助けたのは」

「何言ってるの?私を助けてくれたのは朝日君だよ」


 芽愛は強く信じている。自分を助けてくれたアクトナイトの正体が、昇士であると。


「君の心は闇が育ちやすい…これからどうなることやら」


 口外しないのが確実なら信太郎を殺す必要はない。用が済んだので芽愛は病室を出た。あまりにも短いお見舞いだった。


「昇士…お前…!」


 シャオの努力は虚しく、芽愛の忠告は届かない。信太郎の心では既に、新たな闇が成長を始めていた。

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