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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
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第43話 怒り狂う昇士

 昇士は地面を割るほどの力で走り始めた。狙うのは正面のサートゥーンだ。


「な、何よ何よ何よ!」


 自分で割った地面からマグマが跳ねて昇士にかかる。だが、エナジーで作ったバリアを纏う彼に、そんなものは全く熱く感じない。



 昇士は近くのガスボンベを持ち上げ、サートゥーンに向けてミサイルのように発射した。


「伏せろ!」


 そこに割り込んできたガーディアンがボンベを弾いて上空へと軌道を変えた。それから空中で爆炎が発生した。


「お前は…一体何なのだ!」

「グワアア!アアア!」


 同じ地球人なのかと目を疑う。組織で鍛えられて並外れた能力を持った剛であるが、目の前のそれはレベルがダンチであった。


「この…怪人が!」


 アクトライフルを連射する。発射されるエネルギー弾を喰らえば生身の人間はただでは済まないが、昇士は弾を受けても平然としていた。


「組織へ、こちらアクトガーディアンの二地剛。緊急事態が発生した。自分には対処しきれない怪人が出現、直ちにアンチボディマテリアルを要請する」


 誰かと話しているようだが関係ない。昇士は口を大きく開いて光線を発射した。その威力は未知数。だが避けたガーディアンの背後に建っていたビルが崩れるほどだった。


「お前は危険過ぎる…メルバド星人やアクトナイトよりも始末を優先するべき敵だ!」


 スペック敗けをしても技量で何とかする。そう強気になったのも束の間、次にターゲットとなったガーディアンに向かって昇士が飛びかかった。


 その跳躍力と速さは普段の那岐以上だ。


 風を切る音を立てて昇士はガーディアンの頭部を掴む。そして地面に強く叩きつけた。


「ウオオオオオオ!」


 持ち上げては叩きつけてを繰り返し、地面にヒビが走る。



「やめてよおおお!」


 サートゥーンが背後から奇襲を仕掛けた。刃を受けた頭部から血が流れるがそんなのどうでもいい。


 敵を排除する。それが今の自分がやるべきことだと昇士は認識していた。


「お前の相手は俺だろ」


 ガーディアンはまだ負けていない。昇士の首を掴むと気合いを込めた頭突きをお見舞いし、彼から離れた。


「…アンチボディマテリアルを確認。直ちに装着する。お前はこの地球の害である病気(怪人)だ。俺はこの地球を守る抗体(アンチボディ)として、お前を排除する」


 突然、ガーディアンは高く飛び跳ねた。いつの間にか空中には大きなマテリアルのような物が浮かんでおり、ガーディアンはそこへ入っていった。



 それこそがアンチボディマテリアル。アクトガーディアンの最終兵器である。


 マテリアルは形を変えてアクトガーディアンと合体し、フルアーマーアクトガーディアンが誕生した。


「システムオールグリーン。敵の解析を開始」


 アクトガーディアンは降りて来ない。昇士は両手から光弾を何度も放つがそれらは全て回避された。


 今のあいつには手出しが出来ない。ガーディアンを諦めると、再びサートゥーンに狙いを定めて走り出した。


「おいやめろ!チッ!」


 追加装備のスモークが発射され、ガーディアンの足元は煙に包まれた。



 美保は煙の意図を理解し、静かにその場から離れようとしていた。


 たが煙幕など何の意味も成さない。昇士は正拳突きで煙を吹き飛ばし、サートゥーンを捉えた。


「嫌だ…!助けて先輩!」


 昇士の背中に無数の釘が突き刺さった。多機能ワイヤー付有線ネイルの着弾を確認すると、ワイヤーを通して昇士に電気が送られる。

 更に昇士のエナジーをアンチボディマテリアルのバッテリーとして吸収していた。


「吸収しきれないということはないか…何!?」


 昇士のエナジーは想像を遥かに超えていた。アンチボディマテリアルのバッテリーボックスは今にも破裂寸前。

 ガーディアンはエネルギーを放出しようと全砲門を展開し、地上の昇士に向けて一斉に発射した。


 サートゥーンは巻き込まないように昇士のいる位置に火力を集中させた。立ってはいられないはずだと、アンチボディのコンピュータも推測している。



 だが昇士は立っていた。傷だらけになりながらも目を光らせて、上空の敵を睨んでいる。


「なるほどな」


 昇士がアンチボディへとジャンプ。しがみつくと同時に、自爆プログラムを作動させたガーディアンが飛び出した。


「おそらくこれに搭載された火薬程度では死なんのだろうな」


 剛の予想通り、爆発を間近で受けても昇士は止まらない。


「なら…もう打つ手はない。逃げろ美保!」


 今の自分に出来るのは大切な人が逃げる時間稼ぎだけだと、ガーディアンはライフルとバヨネットを合体。威力のパワーアップした弾丸を昇士に撃ち込んだ。


「先輩!」

「すまなかったな美保!俺の事情にお前まで巻き込んでしまって、本当にすまない!」


 昇士はガーディアンの腕を掴んで地面へと投げた。そこでやっと昇士は自分が空を飛べることに気が付いた。


「もういいでしょ!?もう散々やって気が済んだでしょ!?やめてよ!」


 美保の願いなど聞き入れず、昇士はガーディアンのそばに降り立った。

 そしてゆっくりと上に乗ると、その場で何度も地面を踏みつけた。


 殺すことに迷いはない。昇士は胴体の潰れたガーディアンの頭部装甲を剥ぎ取った。

 剛は戦士の顔をしていた。恋人である美保の前ではせめて綺麗に散ろうという彼なりの配慮である。



 一番残虐な殺し方は何かと昇士は今の状態で初めて思考をした。


 頭を潰すか、首を跳ねるか、それともまた床に置いて全身をぺしゃんこにするか…



 那岐はそこのアクトナイトに似た怪人に恐怖を与えられた。ならばその怪人もそれ同等、いやそれよりも大きな恐怖を教えなければならない。でないとアンフェアだ。


 狂った考え方に突入しているという自覚はしていなかった。


「ごめんなさいお願いやめて!お願いだから先輩を殺さないであげて!」


 次に考えたのは、もしも那岐が彼女に痛め付けられている時に自分が同じことを頼んだら止めていただろうかということだ。


 止めないだろう。この腐ったような女が人の願いを聞き入れるとは思えない。


 昇士は決めた。少しずつこの男の身体を壊し、苦しんでいる様を見せつけてやろうと。


「いやあああああ!」


 初めに剛の左手を握り潰した。次に右手。二人は恋仲のようだが、これでもう手は繋げなくなった。


 次は…




「いい加減にしなさい…昇士」


「…ガウ?」 


 那岐が立っていた。悲しそうな顔をして刀を構えている。

 どうして灯刀が自分を斬ろうとするんだ?昇士は疑問を抱いている。


「自分がどれだけ酷いことしてるのか分かってる?まるで…怪人みたい」


 それは君の隣に立っている女にも言えることだ。いや、無邪気な分俺よりも悪質だ。


「ガウガウガウ…」

「ごめん…何言ってるか分からない」


 メルバド星人の怪人ですら喋っていたのに昇士は鳴き声のようなものを発していた。


「昇士…お願いだからそいつを許してあげて。そんなやつでも生きていいのがこの星だから…」

「ガウ…」


 昇士は剛を手放した。本当は脚を折ってやりたい気持ちでいっぱいだったが、那岐の顔を見てそれが出来なかった。


 波絶を向けられているのがとても嫌だった。どれだけ厳しい言葉、スパルタチックな暴力を受けても何とも思わなかったが、敵と見られるのはとても嫌だった。



 那岐には俺を好きでいて欲しい。そう思うと、昇士の怒りも次第に収まりエナジーも身体の外へと放出されていった。


「…どうだったかな灯刀…俺、強くなれたかな」


「まだまだね。いくら力があってもコントロール出来ないんじゃ戦士とは言えない。だからこれからも…私が鍛えてあげる」


 疲れた昇士は気を失って倒れる。那岐は胸で受け止め、その場で膝を枕代わりに貸した。









「中々面白い物を見させていただきました。流石はコステーロンリティアン。いえ、地球人と言うべきでしょうか」


 突然誰かの声がする。その場にいた全員が空を見上げると、スーツを着た男が立っていた。


「組織長!」

「なぜここにおられるのですか!?」


 那岐と剛はその男と面識があるようだった。


 そう、この男こそがこの地球に存在する対地球外生命体組織のリーダーであるデスタームなのだ。



 千夏の治療を終えたシャオも彼を見上げた。他二人とは違い嫌そうな顔をしている。


「あなた確かアクトナイトの仲間の一人、カナト人のシャオですね。活躍は耳にしていましたがまさかこんなところで会えるとは思いませんでした」

「チッ…なんで地球の人間じゃない奴が地球で防衛組織のリーダーなんかやってんだ!」


 空を浮いているデスタームは当然ながら地球人ではない。タクス星人という別銀河の惑星の種族なのだ。


「考えれば分かりますよね。地球を守りたいという意思があるから私はリーダーをやらせていただいているんです。あなたこそ、もうアクトナイトは死んでいるのにどうして人助けを?」

「あの人が俺たちに託してくれたからだ!」


 地上へ降りてきたデスタームはボロボロになっている剛のそばに寄った。


「酷い傷だ…シャオ、あなたには医者も羨む程の医療魔術が使えると聞いています。早く彼を治しなさい」

「なんで俺なんだよ。組織ってのにはどうせ、肉体修復装置とか再生の実があるんだろ」

「あります。しかし彼をここまでやったのはあなたの仲間です。あなたには彼を治す責任がある、そうは思いませんか?」


 仕方なくシャオは剛を治した。回復した剛はシャオに襲い掛かることはせず、静かに立ち上がってデスタームに敬礼した。


「感謝してくださいよ。私が街の人を逃がしておいたんですから」


 ここら一帯には人がいなかったので分からなかったが、街では避難警報が出されて人々は街の外へと避難していた。


 なのでこの激しい戦いを目撃した者や巻き込まれた者は誰もいない。


 今からこの街で何があっても、宇宙人の仕業で済ますことが可能である。


「私はこの街に向けて空中擬態機能搭載エンドミサイルを発射しました。あと5分程でここに到達する予定です」

「エンドミサイルをですか!?一体なぜ!」

「…この街に危険な要素が多すぎるからです。帰りますよ剛、私たちも巻き込まれたくないですからね…そうだ那岐。組織からの追放、多数決による決定ですが誠に残念です。元の生活に戻れるように、こちらから一兆円を送らせて支援させていただきます…生きていればの話ですが」


 どういう原理かは不明だが、デスタームは剛と一緒にその場からパッといなくなってしまった。テレポート類の技なのだろうが、今はそれどころではない。


「那岐、一体なんだエンドミサイルって!」

「着弾地点を中心に10000000ヘクタールを消滅させるミサイルよ。まさか地上に向けて発射するなんて…」



 青空に擬態していたエンドミサイルが姿を見せた。逃げ場はない。


「終わりね…」



「俺が何とかする」


 眠っていた昇士が目を覚ました。ゆっくりと立ち上がると、エンドミサイルを見上げた。


「灯刀。俺はまだ一割未満の出力でしか自分の力をコントロール出来ない。けどそれが出来るようになったのも、ちょっとだけど君と一緒に特訓したからなんだ」

「昇士…」


「だから見ていてくれ。俺たちの特訓の成果…今の俺に出来ることを!」


 昇士は自らの意思でエナジーを解放する。オーラを纏い、その姿が変化していく。

 まるでアクトナイトへと変身する信太郎たちのように。


「一割未満で…このエナジーなのか?なんて奴だ…」


 彼の放つエナジー量にシャオは驚いていた。地球人の中でも彼だけは、桁違いのエナジーを備えている。


 現に今、彼はアクトナイト達を超越している。


昇之型(のぼりのかた)…壱ノ段…」


 昇士は右手で刃を作りエナジーを集中させた。


「ライジング!スラァァァァァッシュ!」


 そして大地から大空へと腕を振り上げた。膨大なエナジーが刃の形となって完成したライジングスラッシュは、地上へ落ちてくるエンドミサイルへと命中した。


「消えやがれえええ!」


 スラッシュとは名ばかり。実際にはミサイルよりも大きな一撃が、それを飲み込んで完全に消滅させていた。



 昇士は元の姿に戻ると微笑みながら那岐に近寄った。


「いえーい!」

「…ふん、調子に乗らないの。さあ特訓に戻るわよ」


 二人を見送ったシャオは棒立ちしていた美保から剣を取り上げた。


「あっ」

「もうこれに懲りたら首突っ込むんじゃねえぞ。ほら起きろ千夏、傷治ったぞ」


 剣を手にして自分は強いと浮かれていた美保は昇士に現実を思い知らされた

 剛も奇妙な男に連れていかれ、状況の飲み込めない彼女はしばらくその場から動けずにいた。



 シャオは病院へ戻り、再び信太郎の中へ。随分時間を取ってしまったが、まだ本来の目的は達成されていない。


 急げシャオ。信太郎の心が壊れる前に、彼を救え!

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