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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
42/150

第42話 狂気の少女に目覚める力

 アクトウェポンのブレードがビヴィナスの胸に迫る。

 バヨネット部分にはエナジーが充填されており、もしも触れればそれだけで大ダメージになる。


 アクトナイトの鎧など簡単に砕けて、千夏の身体に刃が突き刺さることになるだろう。



 だが突如現れた乱入者により攻撃は中断した。ガーディアンは腕を掴まれそのまま地面に投げつけられた。


「特訓中にワシ丸が呼びに来たから何かと思ったら…何やってんのよ」

「那岐…良い攻撃だな。まるで昔を思い出す」


 イーグルマテリアルが合体した波絶を腰に付け、那岐が推参した。ここまで頼もしい助太刀が来るとは、千夏も予想していなかった。


「昔ってほど前でもないでしょ」


 那岐は一振りでガーディアンを病院の敷地外へ追い出した。


「やるなら場所を考えなさいよね」

「甘い部分は昔から変わらないな。非情なようで優しさを持っている。俺はそういうお前が好きだ」


 ビヴィナスのソードからマテリアルを取り、那岐は波絶のイーグルと取り換えた。


「借りるから。あんたはここで見てなさい」

「分かった。よろしくね」


 今までの那岐とは違う。彼女は前よりもパワーアップしていると、千夏と剛は気付いていた。


「鋼之型!壱之段!アイアンスイング!」

「お前がそう来るのなら俺もこれを使う」


 地面を蹴って接近して来る那岐。自由落下の最中に、ガーディアンもアサルトからサートゥーンへマテリアルを変更した。


「気を付けて灯刀さん!ショットガンみたいな攻撃してくるよ!」

「散弾ね…」


 防ぎようがない。ならば身を削ってでもガーディアンに大ダメージを与えるしかない。


 那岐は痛みを覚悟の上で技を構えた。硬化した波絶で、このままガーディアンを地面に叩きつけるつもりだ。


「教官よく指摘されていたな。那岐は無茶な戦い方を控えろって」


 ライフルから散弾が発射された。那岐は身体を反らしてなるべく安く済ませようとしたが、それでも左胸にいくつか穴が開いた。


 だが計算外だったのは、今の散弾の反動を利用してガーディアンが身体が自分から大きく離れたことだった。接近戦を得意とする那岐の対策がしっかりと出来ているようだ。


(しまった!)


 硬化した刀は敵に触れることなく、那岐は体勢を崩す。受け身の取れない状態だったが、足元に滑り込んだビヴィナスにキャッチされた。


「大丈夫!?」

「見れば分かるでしょ…痛ッ…」


 身体に開いた無数の穴から血がドクドクと溢れている。だが幸い、近くにはシャオがいる。


「アクトナイトさん!もう大月君のことなんていいですから!一度戻って来てください!灯刀さんが!」




「那岐が大怪我を!?マズいな…」


 信太郎の心の中で話を聞いたシャオ。説得のためここまで来たが、一度戻らなければならなくなった。しかしここで信太郎を放置すれば、もう目覚めなくなる可能性もあった。


「信太郎帰るぞ!那岐がヤバイみたいだ!」

「…アクトナイト…」

「これ以上ここにいたらお前おかしくなっちまうぞ!良いか?ここは闇の中だ!ここにはどうにもならない物が封印してあるんだ!そんな場所に長居してみろ、封印が解けてお前は完全に闇に飲み込まれるぞ!」

「俺は…」


「いいか!絶対にそれ以上進むんじゃねえぞ!」


 闇から出ようとしない信太郎に釘を刺すと、シャオは現実へと戻っていった。


「…気になってることがあるんだ。何がきっかけで両親が喧嘩を始めたのか…」


 信太郎は両親が不仲になった理由を覚えてはいない。闇にいる今こそ、封印してある過去を辿ってその理由を思い出したかった。




 現実に戻ったシャオはエナジーを感じて千夏たちの元へ。そこではビヴィナスが防戦を繰り広げていた。


「アクトナイトさん!灯刀さんお願いします!」


 すぐにシャオは治療を始める。浅い傷でも深い傷でも、時間さえあれば治せてしまうのがシャオの能力だ。


「急いで…あいつだけじゃ勝てないから」


 傷は治っていくが怪我を受けて発生した脳内物質はどうにもならない。


「落ち着け。まだ穴が残ってる」


 興奮している彼女とその強気な性格も合わさって、勝敗を決めるまで戦いをやめることはないだろう。

 シャオはとことんまで付き合うことを決めると、肩を叩いて治り具合を尋ねた。


「どうだ大丈夫か?」

「…ええ、完璧ね」


 那岐は戦線復帰。ビヴィナスに気を取られているガーディアンを、背後から斬りつけた。


「俺は彼女と戦いたいんだ。お前には退場してもらおう」


 確かに傷は負ったはず。だがガーディアンは怯まず、ビヴィナスの身体に銃口を当てて何発も散弾を発射した。



 ダメージに耐えきれず変身が解除されてしまう。それを確認しても、ガーディアンは念入りにと射撃を止めなかった。


「やめなさいよ!」


 那岐の攻撃は全てバヨネットで止められていた。



 先程の那岐よりも傷を負った千夏。シャオは物陰まで彼女を避難させると、すぐに治療を開始した。


「生身の人間にここまでやれるか普通…」


 アクトガーディアンである剛は、すれ違ってはいるが地球の平和のために戦ってる…はずだとシャオ達は認識していた。


 だが自分たちとは徹底的にやる人間が剛なのだと、シャオの中で印象が変わった。


「那岐!負けたくなきゃそいつ殺す気でやれ!」

「そのつもりよ!」

「俺を殺すつもりか!?実力の差を考えれば無理な話だがショックだぞ!那岐!」


 アクトウェポンへと再度合体し、ガーディアンは見事な武術で那岐に反撃を開始した。


 敵のサートゥーンマテリアルの影響か、周囲には砂埃が舞い足元が不安定になり始めていた。


「那岐、組織に帰ろう。一緒に謝ってやるから。俺が謝ればあいつらも困ってお前を許してくれるはずだ」

「キモい!」


 動揺した那岐の動きが狂う。不安定な足場に対応出来ていない彼女は足を滑らせて姿勢を崩した。


「ドジなところも可愛いぞ!」

(あんたのそのニチャッとした所、昔から嫌いなのよ!)


 いや違う。那岐は転びそうになったのではない。姿勢を崩したフリをして、ガーディアンの胸を貫ける位置に身体を持っていったのだ。


 そして特に何も思うことはなく、波絶の刃先をガーディアンの心臓を目掛けて押し込んだ。




 しかし刀は止められた。胸部のアーマーより前に、1本の剣が波絶を受け止めた。


「やめてくださいよ。先輩の何なんですかあんた?」


 その少女もアクトソードを持っていた。これまでに出会ったアクトナイトのメンバーの誰でもない、那岐の見知らぬ少女だ。


「はぁ…先輩、もしかしてこの女が好きなんですか?やめといた方が良いですよこういう女。多分仲良くなるほど面倒になるやつですよ」

「美保…どうしてここに来た」

「それよりも先輩って私の彼氏ですよね?ダメじゃないですか他の子に目移りしちゃ」


 せっかくのチャンスを邪魔された。もう同じ手は通用しないと、那岐は悔しがる。


 しかし現れた少女は何者なのかと疑っていた。選ばれた者しか持てないアクトソードを握っており、気軽に剛と話せている。ただ者ではないのは確かだ。


 その少女は最近まで普通の人間だった佐土原美保。アクトソードが何故か選んだ邪気を持つ少女だ。



 治療を続けながら、シャオはその光景を目にしていた。


「おい!剣返せこのヤロウ!」

「あ!昨日の宇宙人!嫌でーす!これは私が拾った私の剣なので私のでーす!それに誰のって名前書いてないじゃん!」


 いちいち堪に障る女だとシャオの怒りがますますヒートアップする。しかし、敵の手にはアクトソードとマテリアル。

 同時に嫌な予感もしていた。


「先輩、これから私があいつを倒します」

「無理だ。那岐は俺と同じくらい強い」

「大丈夫ですって、私変身できるんですから」


 美保はサートゥーンマテリアルをガーディアンから取り上げると、那岐に剣を向けて話し始めた。


「ねえ!友だちいなそうなあんた!私に負けたらもう先輩の前に姿見せないでよね!」

「まさかあいつ…!」


 シャオは美保にエナジーを送っていない。しかし、彼女は心の闇を力にして剣の力を引き出している。


 今の彼女には変身出来る要因が揃っている。


「私が勝ったら…先輩!いつもみたいにギューって抱いて、いっっっぱいキスしてくださいね!」

「…」


 そうして美保はアクトソードにマテリアルをセット。サートゥーンの鎧の生成が開始された。


「させるか!」


 那岐が止めに入ろうとするも、ガーディアンにより牽制される。美保のアクトナイトへの初変身は口上もなく、アッサリと完了した。


「……これ名前なんです?」

「アクトナイトサートゥーン。大地の力を使う姿だ。鉱物を扱うビヴィナスと違うのは攻防ではなく速さが取り柄だということだ」

「ふーん…分かりました!」


 那岐の立っていた地面が突然崩れ始めた。そして地中から勢いよくマグマが噴き出した。


「あんた何やってんの!?周りには人もいるのよ!?」

「いや知らねえしwそれよりも、先輩には私がいるから。あんた邪魔なんだよ」


 力に溺れているようには見えない。美保という少女は剛のためになら周りに迷惑をかけることも厭わない恐ろしい意思の持ち主だった。


 地上に溢れた溶岩は龍を形作り、次々と那岐に襲い掛かる。異質な敵と戦術に、那岐は対抗できず攻撃をもらっていた。



 さらにマグマが溢れ出る。飛び散ったそれは那岐の腕に付着した。


「うあああああ!あああ!」


 地上に溢れたものが不自然な形に固まっていき、やがて那岐を捕らえる岩の十字架が完成した。


「くっ…悪趣味ね…」

「大丈夫?これから死ぬんじゃないかって不安じゃない?私が安心できるとっておきの魔法を掛けてあげる」


 そう言った次の瞬間、那岐の腹部にサートゥーンの鉄拳が命中した。


「先輩にこうしてもらうと…凄く安心するんだ~」

「歪んでる…ぐあっ!」

「心がね…っ!暖まるみたいなの…っ!私は生きてるって…っ!生きてる私の…っ!命に触れてくれる人がいるって…!」


 サートゥーンはひたすら那岐の腹を殴った。美保にはもう那岐への憎しみはない。自分が安心できることを他人にやっているだけの、化け物になっている。


 普通ではない彼女の姿だか、剛はこれまで何度も見てきた。


「あんたの後輩どうなってんのよ……待ちなさい!何よそのペンチ!…やだ…」


「彼女は俺たちと同じだ。周りに例が少ないだけの変わった人間だ」


「いやああああああ!」



 那岐の悲鳴が街に響いた。少し離れた場所にいた昇士にも、その声は届いていた。


「灯刀…!」


 特訓の最中、那岐がワシ丸に呼び出されて数分、すぐに戻ってくると言っていたのに彼女はまだ戻って来ていない。

 心配していた昇士を、その悲鳴が更に焦らせた。


 昇士は悲鳴がした方向へと走り出した。




 そこには傷だらけになった那岐が十字架に張り付けられていた。


「はい爪3本目~!」

「………」


 那岐は静かに泣いていた。これまで見せたことのない怯えた表情をしている。


「あれ?誰あんた?もしかしてこの女の彼氏?…う~ん、お似合いだね」


 敵が昇士に気が付いた。だがしかし、今の彼には那岐を襲っているのが怪人にしか見えていなかった。


 これまで昇士は、街を破壊して人を悲しませる怪人を許せないというアクトナイト達と近い考え方をしていた。


 しかしここまで怪人を憎んだのは初めてだった。


 自分の身を案じる、那岐の心配をする、怪人を憎む…どれを優先すればいいのか分からなくなる程には、昇士は冷静さを失っていた。



「グワアアアアア!」


 昇士のエナジーが急上昇する。内に秘められた力が無制限に解放される。


「な、なんなのよあんた!」


 那岐を圧倒して調子に乗っていた美保が一転、明らかに様子のおかしい男を前にして恐怖を感じた。



 シャオは今の昇士がどれだけ危険なのか既に悟っている。しかし今の状況を切り抜けるには、彼に頑張ってもらうしかない。


(頼むぞ…)



「グワアアアア!!!」


 アクトナイトに変身出来ず、那岐のように強い人間でもない。

 秘めたる力で怪人になることを選んだ彼が、動き出す。

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