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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
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第41話 少年の闇の中へ

 世須賀市の病院。そこには闇に飲み込まれ目を覚まさなくなった信太郎が入院している。


 今日はその信太郎を目覚めさせるため、シャオと千夏が来る予定なのだが………



「寝顔…不細工だなぁ」



 今そこにいるのは、闇怪人メイ。信太郎に闇を与えて彼を眠りに着かせた陽川芽愛だった。当然、ここに来たのは見舞いが目的ではない。


「私の正体を知ってるのは君と愛澤さんだけ。彼女は口外するような人じゃないから放置しておくけど、君は間違いなく朝日君に私のことを話すよね」


 メイは腕に刺さった点滴の針を抜き、首もとに手を伸ばした。


「さようなら大月君。君が死んでも私は泣かない。悲しいとは思わないからね」


 自分のやってることが悪であることは自覚している。だが、無自覚に己の闇に支配されているメイにはブレーキが掛からなくなっていた。


 信太郎をこの場で殺害するということに、一切の迷いはなかった。


「ネシ!」


 だが指に力を加えようとした瞬間、メイはこの病室に近付いて来る二つの気配を感知した。


「ヤイイ。デドンコタマハジウフチク」


「モテシニレソ…ネダンタイガチダモトルクニイマミオ」


 怪人言葉になったメイは窓から外へと飛び出していった。信太郎は、運良く命拾いした。



 それからすぐ、地球人の姿をしたシャオと千夏が病室に入ってきた。


「おいおい窓全開じゃねえか。虫入ってくるぞ虫」


 シャオはアクトソードを信太郎のそばに置いて、柄に力のない右手を移した。


「冷たいな…衰弱してるのか。こりゃ急がないとだな」


 シャオはさらに剣を召喚すると、信太郎が触れているものと刃を接触させた。

 すると、信太郎の胸に心へ続く裂け目が出現した。中からは黒い煙のような闇が溢れていた。


「そんじゃあ行ってくるわ。何かあったらよろしくな」


 そしてシャオは裂け目の中へと吸い込まれていってしまった。




 それから間もなく、ガラガラと病室の扉が開いた。入って来たのは険しい表情の男性と優しい雰囲気の女性だった。


 那岐は布団を掛け直して、信太郎のアクトソードを隠した


「あらあら、先客がいらしたみたいですね。どうも」

「意外だな。こいつの見舞いに来るやつがいるなんて」

「あの…あなた達は?」


「私は佐土原理恵子。信太郎君の元担任よ。それでこの人は雄大さん。信太郎君のお父さんです」

「………」


 信太郎の父親。千夏は初めて会ったがあまりいい印象を抱けなかった。


「それにしてもビックリね。こんな可愛いお友だちがいたなんて。もしかして彼女さん?」

「あぁ、そういうのじゃないですから」


 千夏は動じることもなく否定した。彼女の恋愛関係について信太郎はそれなりに知っているが、今の反応を聞いたら少しは傷付くだろう。




 その信太郎は過去を見ていた。自分でも覚えていないほど前の事だ。


 


 その頃、闇を彷徨い続けていた信太郎は突然、どこかの街に着いた。


「ここは…どこだ?」


 見覚えのあるその街は現実世界には存在しない。


「………パルクルシティだ!そうだここ!」


 パルクルシティ。それは、信太郎が保育園児だった頃に発売したアクションゲーム、()()()()()()()()()に登場する大きな街だ。


 ヒロイックアクターがどういうゲームかを簡単に説明すると、主人公であるアクトマンを操作してギミック豊富なステージを駆け回り、ゴールを目指すというものである。

 アクトは悪の科学者バードンの地球侵略を阻止するため、摩天楼や樹海、洞窟や廃墟の城を走るのだ。


 パルクルシティはアクトマンとその仲間たちの拠点となる街。フィールドの中にあるステージへの入り口を見つけるのも醍醐味の一つだ。



 一番最初のステージへどこから行けるのか、信太郎は知っていた。


 タイヤのない浮いた車が行き交う横断歩道を抜けて信太郎はビーチへ。

 そこにはバードンの造ったメガフロート型のテーマパーク、マリンランドが浮いていた。


「…俺、どうしてゲームの世界にいるんだろう?死んで転生でもしたのかな?…まあいいや!待ってろよバードン!」


 信太郎は走り出した。エントランスを飛び越えて、ヒロイックアクター最初のステージ、マリンランドへと。



 チケットを買わずにゲートを飛び越えて侵入した信太郎に、バトルモードとなったロボットスタッフ達が立ち塞がる。スタッフはポップコーンやチュロスなどの販売品を弾丸代わりに発射した。

 信太郎はそれらを難なく避けると、ロボット達を一蹴りで破壊。ゴールを目指して走り続けた。


「確かこっちがショートカットだったよな!」


 障害物の多いメインストリートを走るよりも建物の屋根を走る方が速い。それを覚えていた信太郎は、花壇に上がって更にそこからパラソルをトランポリン代わりに大ジャンプ。走りやすい平らな屋根へと移動した。


 何度もプレイしたステージしたので信太郎の動きには迷いがない。

 建物から飛び降りると、そのまま足元のスイッチを踏んで大きな扉を開けた。


 扉の先はサーキットだった。信太郎はカートに飛び乗るとアクセル全開でコースを走った。邪魔をしてくるロボット達は、反撃のタックルで次々と破壊していった。


「いっけー!」


 ダッシュパネルを踏むとカートが更に加速した。地面から突き出るポールを上手く回避し、飛んでくる砲丸には一度も触れず、終点まで到着。


 カートはゴム壁へ衝突し、勢い余って信太郎は投げ出された。だがこれでいい。わざわざカートを降りて壁を登るよりも、投げ出された方が速く壁を越えられ、次のエリアへ行けるのだ。



 音速を超えるジェットコースター、雲の上を行くフリーフォール、水中動物たちと並走するサブマリン。様々なアトラクションを体験して、遂に信太郎はゴール地点に到着した。


「ノーミスノーダメージ!これは間違いなくランクパーフェクトだろ!」



 しかしスコアは現れなかった。少しガッカリするが、これからやるべきことは分かっている。


 遊園地にはアクトマンの友人ユーキが先に入って探索をしている。

 アクトマンはロボットスタッフ達に連れていかれるユーキを追って、次のステージであるメカニカルケイブへ突入するのだ。


「確かユーキは向こうでロボット達に捕まるんだよな」


 次のステージへ行こうとする信太郎。だが、ゲームの世界を楽しんでいる彼を邪魔する者が現れた。



「体験版はここまでなんだろ。帰るぞ信太郎」


 アクトソードを握っているシャオが後ろから声をかけてきた。シャオはつらそうな顔をして信太郎を見ていた。


「アクトナイト…」

「そこから先には何もない。お前が一番よく知ってるだろ」

「あるさ!メカニカルケイブの奥地にはガーディアンロボットが待ち構えていて、ユーキと協力してそいつを倒すんだ!」


 信太郎はこの先に次のステージがあることを知っているが、それだけだ。実際にプレイしたことは一度もない。


 ゲーム売場の体験版はここで終わりだ。それ以上先に行きたければ製品版を買ってプレイするしかない。


「でも俺は知ってるんだ!ここからどうなるのかって!海底から空中戦艦エルボーが現れて、バードンが地球侵略を宣言するんだ!」

「知ってるんだろ。ストーリーも…この先どうなるのかってのも。じゃあもういいだろ。帰るぞ」


 シャオが寄ると信太郎は後ろに下がった。帰る気はないらしい。


「そうかよ…なら勝手にしろ。その代わり、俺も一緒に行くからな」


 信太郎をここから連れ出すことを諦め、彼が満足するまでシャオはついて行くことにした。



 少し歩いたところで、ロボットに誘拐されるユーキの姿を発見する。それを追って次のステージが始まる…はずだった。



 だが次に現れたのは、ヒロイックアクターのパッケージを持って見つめている少年の姿だった。


「どうして!?続きは!?」

「だからこれが続きだろ」


 誕生日になってもクリスマスになっても、この製品版を手にすることはないのだろう。

 少年はパッケージを元の位置に戻してから、服を見ている母親の元へと戻っていった。


「ゲームの続きはどうなってんだ!」

「俺たちはゲームの世界にいるんじゃない。信太郎、お前の心の中にいるんだ。闇に蝕まれた心の中に」


 これは信太郎の過去だ。彼が忌まわしく感じている自分の記憶が、目の前でビデオのように再生されていた。


 場面は切り替わり自宅のリビング。両親が口喧嘩をしていた。母親が服に金を使い過ぎていることに、父親が文句を言っていた。


 もうこの頃からだ。両親の仲が悪くなっていたのは。大量購入したお洒落な服は全て浮気相手に見せる物だったのだろうと、今になって信太郎は分かってしまった。


「へ…最低だなこいつ」


 信太郎は改めて母親の酷さを実感して思わず笑いが出た。


「もういいだろ。これ以上ここにいるのは危険だ。帰るぞ」

「いや、興味が沸いてきた。せっかくだからもう少しここにいる」

「お前自身の闇を形作っているのはこの過去だ。過去に囚われてる限り闇に囚われたままだぞ」


「嫌な過去を振り返ろうと頑張ってるんだ。応援の一つしてみたらどうだ?」

「ちげえよ。お前が今からやろうとしてるのは反省なんかじゃねえ。ただの自己嫌悪だ」



 傷付いているだけの自分を見ることに何の意味もない。それを指摘されて初めて気が付いた信太郎だが、これ以外にやることがないのが現状だ。



「いやあるだろ。帰んだよ、いるべき場所に」



 シャオが歩きだそうとする信太郎の腕を掴んだ。ここが信太郎の心である以上、何を考えているのか彼にも伝わってしまう。


「アクトナイトになって地球守るんだよ。それにみんなだってお前を待ってる。だからな…」




「…俺が…」


「俺が好きであんなことやってると思ってんのか!」


 他のやつらがどうだか知らない。だが信太郎は、ここで遂にハッキリした。自分はアクトナイトとして戦うのが嫌だったと。


「…それ、本気で言ってるのか」

「大マジだよ。礼すら言えないやつらを助けてなんになる!戦って報われてるか俺?小遣い増えたか?彼女出来たか?なあ教えてくれよ!俺が戦って地球を守ること!それをやって俺に何のメリットがある!」


「この大嘘吐き野郎が!」


 ペラペラと喋る信太郎の顔面にシャオの一撃が入る。それもパンチではなく、持っていたアクトソードでのフルスイングだ。



 吹っ飛ばされた信太郎は街に来た。怪人との戦いで被害を被った街だ。


「どうだ?ここに来てまず最初!お前の心は痛がった!もう少し上手く戦えてたらって自分を憎んで、困ってる人達を見て」

「可哀想なものを見れば誰だって心くらい痛むだろ」

「誰もがそうなら今頃こんな光景出来上がっちゃいねえよ!…いるんだよ、心が痛まねえやつもな」


 それこそ、彼らの敵であるメルバド星人だ。侵略という行為に心を痛めない、最悪の侵略者なのである。


「だから戦うんだ!これ以上悲しむ人を出さないために!」

「………」



 その瞬間、二人の立つ場所が大きく揺れた。


「な、何…!?」

「この振動は…おい千夏!何があった!」



 シャオは現実にいる千夏と繋がった。



「アクトナイトさん!大月君まだ起きないんですか!?」


「起きなくていい。その方が早く仕事が片付いてこちらとしても好都合だ」


 なんと病室の壁が破られ、そこには二地剛もいた。その目的はただ一つ。


「組織からの命令により、そいつを排除する」


 それは信太郎を殺すことだった。自分たちと同じ子どもがそんなことをするのかと、千夏は彼の人格を疑った。

 だが彼ならやるだろう。かつての那岐と似ている感じがしたからだ。


「アクトベイト!」


 ならやることは一つしかない。千夏はアクトナイトビヴィナスに変身すると、剛を掴んで壁の穴から病院の外へと飛び出した。


「お前…俺と戦うつもりか?確かにスペックはこちらが下回るが、それを補える技量が俺にはあるぞ」

「早く変身してよ!頭打って死ぬよ!?」


 剛もアクトガーディアンに変身して、ビヴィナスの腕を振りほどいて着地した。



「もう少し時間が掛かりそうだ!すまん千夏!頑張ってくれ!」

「頑張りますよ!アクトナイト!プロミスビヴィナス!」


 ビヴィナスはパワーアップを遂げた。敵との技量の差を考えると、これで互角と言える状態だろう。


 ビヴィナスはアクトバスターを振り回して、ガーディアンに攻撃を仕掛けた。


「速い!?」

「別に速くはない。お前の太刀筋が素人だから簡単に見抜けるだけだ」


 ビヴィナスが攻撃を外す度に、ガーディアンはライフルを接射。まるで挑発しているようだった。


 手数で押そうとソードとブレイドに分離して、ビヴィナスは攻撃の手を加速させた。


「どこを斬っている?」


 それから当たらない攻撃を何度も繰り返したビヴィナスが後ろへジャンプした。ガーディアンからかなりの距離を取ってしまった。


 ガーディアンの周囲には様々な物体が浮いていた。ここまでビヴィナスはガーディアンではなく、自分で操る事の出来る物質を狙って斬っていたのだ。


「これなら避けられないでしょ!」


 それらの切り口の鋭いパイプ、大きな瓦礫、生身の人間が受ければ間違いなく死ぬ包囲網が完成した。

 ビヴィナスが攻撃の意思を現すと、包囲網が収束を開始。ガーディアンを追い詰める。


「…!」


 しかしガーディアンは走り出した。ビヴィナスへ向かって全速力で。

 攻撃する物体は、それまで自分がいたところに収束をしている。ガーディアンは身体に触れる物体を全て叩き落とし、それ以外は全て無視した。


「嘘でしょ!?」

「アクトナイトである以上、俺はお前も殺す」


 守るものは何もない。アクトガーディアンの一撃が、ビヴィナスへと迫った。

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