表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
40/150

第40話 秘められた力

 アクトソードとマテリアルを奪われたシャオは地面を何度も殴った。その時公園に立ち寄った千夏が止めなければ、一生続いていた…かもしれない。


「すまん…嫌なもん見せちまったな」

「いえ…」


 こうしてシャオと話すことはあまりない。千夏はどういう話をしようかと悩んでいた。


「…それともう一つすまん!アクトソードとマテリアルをガーディアンの野郎に奪われちまった!」

「そうですか…だったら取り返しますよ。私たちの方が数は多いし、力の差もそこまでないですから」


「いや、無理だ…敵が一人増えた。アクトナイトに変身出来るかもしれない女が向こうにいる…マジ何なんだよあいつ…」


 さらっと恐ろしいことを言ったが千夏はそれに触れることなく話を続けた。


「それじゃあ…多分無理ですね」

「だよな~…どうすっかなー…」

「とりあえずやれること探しましょうよ。大月君を起こす方法って見つかったんですか?」


 それを聞いた途端、シャオは誇らしげな笑顔を作った。


「あぁ!考えてみれば簡単なことだ!信太郎は今、心の闇に囚われている。つまり救い出すのなら、あいつの心に入ればいいってことだ!俺たちのアクトソードで!」

「え、そんなこと出来るんですかこれって?」

「やろうとすればできる!それがアクトナイトの力だ!」


 根拠はないようだ。だが、これまで幾度となくピンチを切り開いてきた剣の力を考えると、シャオの言葉にも信憑性が沸いてくる。


「それじゃあ早速明日!全員で病院に行くぞ!」

「あ、確か明日は奏芽たちデートで千葉行っちゃうんで無理です」

「デートか…いや延期しろよ」

「あー無理ですね。遊園地のチケット、キャンセル出来ないんで」

「マジかよ…じゃあ仕方ねえ。千夏、お前だけでやるぞ」


 そう言われると千夏は視線を逃がして眉間にシワを寄せた。


「えー…」

「えーって…友だち助けるのにそりゃないだろ」

「いや、確かに大月君は大切な友だちなんですけど、その…」


 言いづらいことだった。千夏は少し悩んでから、正直に言おうと口を開けた。


「アクトナイトに変身してる時、剣を持って心が繋がってる時なんですかね?なんか大月君の心ってドロッとしてるって言うか…奏芽と火野はスッキリしてて、啓太は凄く優しくて心地よかったんですけど…」


 それはシャオが一番よく分かっていることだ。これまで心を繋げた5人の中で、信太郎には少し異質な部分があった。

 信太郎は心の闇に囚われていると述べたが、それ以前から彼には人一倍の闇があることをシャオは気が付いていた。


「っまりぃ…怖いんです。彼の地雷踏んじゃいそうで」

「そうか…じゃあ仕方ねえ。俺がやるか」


 シャオは信太郎が使っていた物とは別に、残っている1本の剣を召喚した。


「え、変身出来たんですか?」

「いや、俺は出来ない。それに自分のエナジーじゃ自分にバフを掛けることも出来ない。ただ回復するだけだ」


 そうして剣を振り回すシャオは、少年たちよりも身体が大きいのにも関わらず苦労している様子だった。


「まあいつかはぶち当たる課題だったしな~、これを機に腹を割って話してみるのも悪くねえ」


 こうして明日、信太郎の救出作戦が決行されることとなった。予定がない千夏は、万が一に備えて同行することに決めた。




 その頃、北アルプスでは昇士が汗を流して今にも倒れそうになりながら登山をしていた。


 学校が終わってすぐ、昇士は那岐によって麓まで連れて来られた。奥穂高岳を目指して歩く昇士の頭上には滞空する那岐の姿があった。


「死にそう…はぁぁあ…つれえええ!」

「ネガティブワード禁止!死にそうになったらアクトナイトのところまで連れてくから、それまでは全力で登りなさい!」


 これも特訓だと自分に言い聞かせると、昇士は黙って山を登った。


「はぁ…はぁ…やべ~クラクラしてきた…コウザンビョーってやつか?」


 何度も転びそうになるが杖代わりに波絶の鞘で姿勢を保つ。昇士は止まることなく山を登った。


 ロクな装備もせず素人である昇士は、当然山頂に辿り着けるわけもなく、半分も行かないところでバタリと倒れてしまった。


「む、無理ぃ」

「情けないわね…」


 那岐は静かに着陸すると刀を鞘に収めた。そして昇士を背負い遠くに見える山小屋へ向かって走り始めた。


「はぁ…なんか頭痛い…気分も悪いし…うっ吐きそう」


 昇士はたまらず嘔吐した。それも那岐の頭上でたっぷりと、昼食を巻き戻してしまった。


「軟弱ね」

「チガウ…灯刀が元気過ぎるだけ…」


 組織で訓練された少女というだけあってか、那岐は山を登っても平然としていた。

 普段は空を飛んで戦ったりするので、この程度のことは造作もないのだろう。


 一方で昇士は最近まで普通の少年だ。アクトナイトの少年たちとは違いロクに戦ってすらいない。それでも学校終わりに山を歩けるのは、若さゆえかそれとも最近の特訓の成果なのか。



 山小屋に到着すると昇士はすぐにベッドへ運ばれた。それから那岐から渡された錠剤を飲むと、先ほどよりかは楽な状態に落ち着いた。


「灯刀…頭ごめん…」


 それを言われて自分がゲロまみれなのを思い出した那岐は、昇士の背負っていたリュックを漁った。

 重り代わりに満杯まで水が入ったペットボトルをいくつか抜き取ると、山小屋の外に出て洗髪をした。


「どう?初めて死にそうになった感想は?」

「う~ん、あんまりいい気分じゃないね」


 体調が落ち着いた昇士はゆっくりと身体を起こした。激しい運動をした後なので腹が減っていた。


「お腹減った…何かないの?」

「…何もない…のよね」


 那岐の言い方に昇士は不安を覚える。


「ここに来るまで誰もいなかった。それにこの山小屋も明かりは点いてるのに誰もいない」

「え…つまりどういうこと?」


 彼が尋ねた途端、ガタガタと物音がした。キッチンの方からだ。


「もしかして怪人?」

「分からない。見てくるから、ここで待ってて」


 昇士を隠すように布団を掛けなおしてから、那岐は刀を抜いて静かにキッチンへ向かった。




 それから1分も経たない内に、壁を突き破って那岐が戻って来た。


「いったぁ…」


 壁に開いた穴の向こうには、図体の大きな怪人がいた。口のような部分があり、その周りは濁った赤色に染まっていた。


「あの怪人人を食ってた!」

「ってことは…山にいた人たちはあいつに食べられたのか!」


 那岐が壁を切り開き小屋から脱出。二人を追って怪人も、小屋を崩してその全容を露にした。


 およそ3メートルほどの怪人。ここまで大きな怪人を見るのは二人とも初めてだった。



 しかし対処出来ない相手ではない。那岐は刀にイーグルをセット。翼を広げて怪人を軸に飛び回った。


「そこ!」


 そして隙を見つけた瞬間に急接近し、右足、左足と次々に肢体を切り落としていった。


「流石…やっぱ灯刀は強いなぁ」


 その光景に昇士は、いつものように戦いが終わるのだろうと、あぐらをかいて見守っていた。



 次に右腕、最後に残った左腕を落とし、決着を着けようと那岐はグルっと空中でループを描いた。


 だが攻撃を仕掛けると、先程までは簡単に斬れた身体が一転し、波絶を弾くほど頑丈になっていた。


 怪人は那岐の足を掴んで地上に殴り付け、そのまま握り潰した。


「あああああ!」

「灯刀!」


 昇士は思わず走り出して、渾身の飛び蹴りを繰り出した。当然、そんな物が通用するはずもなく、昇士が足を挫いただけで怪人は見向きもしなかった。


「こいつ……!あああああ!」


 怪人が丸太のような太い指で那岐の胸を押した。心臓マッサージとは訳が違う。軽く骨が折れ、那岐は血を吐き出した。


「調子に乗ってんじゃねえ!」


 波絶を拾い上げた昇士は那岐を助けようと手を狙って刀を振るう。しかし素人の彼に、刃を入れることなど出来るわけもなく、刀は呆気なく弾かれた。


「昇士…逃げなさい…」


 自分が動けなくなった今、この怪人はどうにも出来ない。せめて昇士だけでもと那岐は声を掛けたが、友だちを置いて逃げられるような人間ではなかった。


「出来るかよそんなこと!」


 昇士は刀を握りしめ、何度も怪人を殴った。だがやはり、傷一つ付けることも出来ない。



 それから那岐を持ち上げて口を開いた。


「何するつもりだ!おい!やめろ!」


 このままでは那岐が喰われて死ぬ。


 あっさり過ぎる。これまで何体もの怪人を倒してきた少女がこんな終わり方をしていいのか?

 人知れずこの星を守るために戦ってきた彼女が、こんな早くに死んでいいものなのか?


 いつもそばで見守っていた那岐が痛め付けられた。そして今、目の前で無惨にも怪人の餌になろうとしていた。


「やめろ…」


 遂に昇士が怒り、そして再び戦いに望んだ。


「やめろおおおおおおお!」






 痛みのショックで気を失っていた那岐が目を覚ました。気が付くと見たことのある場所。アクトナイト記念公園だった。


「よかったぁ!目を覚ました!」


 そばには泣き過ぎての腫れた昇士が。服はボロボロで何があったのかと、那岐は混乱していた。

 なぜ、自分たちはあの怪人から生きてここまで逃げて来られたのか。それが一番最初に浮かんだ疑問だった。


 潰された足は元通りになっている。那岐は立ち上がり、軽く足踏みをした。


「心配ない。那岐、お前の足は完全に回復した」

「昇士…一体どうなってるの?あの怪人は?」


 それを聞かれると、昇士は少し困った顔をした。


「アクトナイト、言っていいのか?…いや、言うべきだよな、うん」


 アクトナイトに委ねることなく、昇士は山での出来事を話すことに決めた。



「あの怪人は俺が倒した」

「倒した?…あ、あんたが?」

「うん。倒せたんだ。なんでか分からないけど…」

 

 何をやったかは説明出来たが、どうなったのかを説明するのは、まだ昇士には難しかった。

 代わって、アクトナイトが話を始めた。


「まず、遠くから微かに邪悪なエナジーを感じたんだ。おそらく、お前たちが遭遇した怪人のエナジーだろう。誰か向かわせようとしたが、運悪く誰にも繋がることなくどうにも出来なかった。そんな時、突如発生した物凄いエナジーが怪人のエナジーと衝突したんだ」

「その物凄いエナジーは…」


「俺のだ」


 那岐は昇士をジッと観察した。特に変わったところはなく、こんな軟弱者が怪人に勝つ姿を想像出来なかった。

 それでも、彼の服がボロボロなのが戦った証であることに変わりはない。


「……………まあ、自分でも何やってたのか覚えてないんだけど!アッハッハッハッ!」

「笑い事じゃないわよ!勝てたから良かったけど、どうして逃げなかったのよ!?」

「そりゃ大切な人を置いて逃げられるわけ…?」


 モヤっとした感情が昇士の中に現れる。大切な人というのは、友だちという意味で言ったつもりだった。


(あれ…なんだろこの感じ…)


 そうじゃない。友だちだから逃げなかったんじゃない。もっと大切な何かだったから…


 だが思考はアクトナイトの声に遮られた。


「昇士、お前には秘められた力がある。それが今回、怒りによって引き出された」

「秘められた力…俺も灯刀と一緒に戦えるのか」


 自分にも怪人と戦える力があると知った昇士は、那岐と肩を並べて戦う光景が目に浮かんだ。

 もう見ているだけじゃない。彼女と一緒に戦えると思うと嬉しかった。


「記憶が残らない程のその力は危険だ。昇士、その力は封印しておくべきだ」

「え…でも…」


「それを決めるのはあんたじゃないわよアクトナイト」




「ごめんアクトナイト。その忠告は聞けない。俺は灯刀と一緒に戦いたいんだ」


 これまでに見せたことのない真剣な表情をしていた。強い決意を示されて、何を言っても無駄だろうとアクトナイトは諦めた。


「分かった」

「約束するわ。昇士がしっかりと戦えるように私が鍛えるから」


 本来の目的である那岐の治療は済んだ。二人はさっさと公園から出ていってしまった。




 帰り道、那岐は昇士に礼を述べた。


「ありがとう昇士。あんたがいなかったら怪人はもっと多くの人を殺してた。それに私も間違いなく殺されてた………ってにやけんな!」

「へへへー、ありがとうなんて言われるとは思わなくてさ~」

「はぁ…いい?明日からの特訓は最も厳しくしてくか。あんたの中にある力がどれほどの物か知らないけど、それを完璧にコントロール出来るようにしなきゃいけない」


 突然、那岐がパンチを繰り出した。昇士には避けられるわけもなく、拳は見事顔面にめり込んだ。


「!!!?!!!」

「反射的にこれぐらい避けられるようにならないと、次こそ死ぬわよ、あんた」


 那岐は手を差し出して昇士を立ち上がらせた。厳しくされたり優しくされたりして、内心グチャグチャの昇士である。


「あぁ鼻血…」


 血を流す鼻に優しく、甘い香りのハンカチが当てられる。


「あんたは、この私が絶対に強くするから。アクトナイト達の誰よりも。この私みたいに」

「あい…ありがとうございます」


 暗い夜道、気の強い少女とどこか頼りない少年の話し声だけが聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ