第38話 那岐対アクトガーディアン
闇怪人メイの攻撃により信太郎が目を覚まさなくなり数日。
毎日仲間の誰かがお見舞いに病室を訪れていたが、今日は意外な人物がやって来た。
「言っておくが俺はあんたの説得で嫌々ここに来ただけだからな」
「それでも嬉しいです。信太郎君もきっと喜びますよ。自分の父親がお見舞いに来てくれたことに」
信太郎の父親の雄大と元担任の理恵子だ。
「それにしてもシャオさんって言ったかしらね。あの人にはいつかお礼を言わないとね」
信太郎の入院後、アクトナイトは信太郎のスマホから理恵子に入院したことを伝えた。様子を見に行こうとした理恵子は良い機会だと、雄大と一緒にここに来たのである。
「チッ…帰りてぇ」
「まあまあそんなこと言わないで。さあ早くその花を花瓶に」
理恵子に言われた通り、雄大は持ってきた綺麗な花を花瓶にさした。
「心の病気でぶっ倒れる奴なんかこのまま死ねばいい」
「心の病を甘く見ない方がいいですよ。中々気付けず、症状が出た時にはもう手遅れなんてことがありますから。それにあなたみたいに、理解しようとしない人も多いですからね」
散々な言われようだが信太郎には聞こえるはずもない。
その頃、信太郎は闇の中で立ち竦んでいた。
「ど、どこだよここ…陽川さんの攻撃を受けてから俺は…どこにいるんだ?」
自分の心がここまで黒く濁っているのだと自覚しなければ、ここが心の中だと気付くことも出来ない。覚醒に向けて進むこともままならないのだ。
「誰かー!…アクトナイト!将矢!清水!金石!」
ここには自分以外誰もいない。暗い暗い闇の中で、信太郎は仲間の名前を呼んだ。
街では今日も怪人が現れて人間を襲っていた。今日の戦士はアーキュリーとビヴィナスだ。少し離れた場所にはいざという時に備えて将矢と那岐が戦いに備えていた。
アクトナイトの二人は苦戦しているが、将矢たちの必要はなくなった。
マンホールから飛び出たアクトガーディアンが、メルバドアルを一掃し、今回の怪人をあっさりと撃破してしまった。
そしてガーディアンはアーキュリー達に狙いを切り替えた。
「お前たちがその姿である以上、俺は容赦しない。アクトナイトは排除するのが俺の使命だ」
武器を分離させると、ガーディアンは躊躇せず二人へ突進して攻撃を仕掛けた。
一方で二人は同じ地球人と戦う準備が出来ておらず、勢いよく迫るガーディアンの気迫に動揺していた。
「こ、これって戦っていいの?」
「分かんないけど…」
やるしかないと決めた時には遅かった。ガーディアンは目の前まで到達。ライフルとバヨネットで同時に二人を攻撃した。
だがギリギリのところで銃弾をフレイスが燃やし尽くし、バヨネットを那岐が受け止めた。
「アクトナイトの味方をするお前も排除対象だ。その前に参考に聞いておきたい。なぜそんなやつらの仲間になったんだ、那岐」
「こいつらと仲間になったつもりはない!ただ敵が同じだけ!」
「それにしては随分と連携が出来ているじゃないか」
那岐とフレイスの猛攻にガーディアンは反撃することなく回避に徹していた。
「何故俺よりも強かったはずのお前に装備一式が与えられなかったかよく理解出来た。お前のような不安定な人間にこの装備は勿体ないからだ」
「口ばっか動かしてないで反撃したみたらどうなのよ!?おい!」
頭に来た那岐が怒鳴り声をあげた。そして次の瞬間、ガーディアンはライフルの連射モードでフレイスの頭部に何発も弾丸を撃ち込んだ。そしてバヨネットは那岐の胸に浅くではあるが刺さっていた。
「それに今のお前は俺よりも弱い。だからこそ、組織は不安定なお前を追放して俺にこれを任せたのだろうな」
アクトガーディアンにはアクトナイトとそれに協力する那岐を倒すという義務がある。しかし変身者である剛はそんなことよりも、那岐の心を折ろうとしていた。
那岐にもプライドがある。内心、組織から追放されたことはかなりショックを受けていた。
「動きが鈍っているぞ!」
ガーディアンはフレイスの攻撃を完璧に防御したが反撃出来ない。実質的に那岐とガーディアンによる一対一の戦いになっていた。
「火野!邪魔だから離れてなさい!」
視界に入ったり出たりするフレイスに気を取られた那岐。その隙を逃さず、ガーディアンはバヨネットを胸へと突き出した。
刃は見事に那岐の左胸へ。それも深く、しっかりと刺さっていた。
「何故だ。どうしてお前はそんなにも弱くなってしまったんだ」
「さっきから…なんなの?…なにが言いいたいの?」
「那岐、俺たちのところに戻って来い。一緒に謝ってあげるから、みんなのところに帰るんだ」
「キモッ…」
那岐は刀の柄を前へ打ち込み衝撃波を放った。その勢いで身体を後ろへ逃がすと、バヨネットの刃も自然と胸から抜けた。
「嫌と言ってもお前は俺と来るしかなくなった。その胸の傷、現代社会の医療技術では間違いなく治せない。だが組織の技術なら傷痕も残らず完璧な治療が出来るぞ」
「ん…必要ないから…アクトナイトが治して…」
急に口が止まり那岐がフラフラと身体を揺らした。
「麻酔が効いてきたな」
白目を向いて倒れそうになる。そこをガーディアンが抱えて撤退する…という算段だった。
「ひなたあああああ!」
しかし倒れる那岐をキャッチしたのはガーディアンではなく、ボートモードのトロワマテリアルに乗って駆けつけた昇士だった。
「酷い傷だ…」
血の溢れる那岐の胸からガーディアンへと視線を移す。昇士の顔は憎しみで溢れていた。
しかし文句の一声も投げつけることなく、昇士は記念公園へと飛んでいってしまった。
「あいつ…!」
那岐を奪われたことに憤りを見せたガーディアンも、もう用はないと速やかに去っていった。
(なんか毎回誰か治してもらってるような…戦ってるから当然か)
公園に戻り、那岐の傷が治っていくところ見ながら将矢はそんなことを思っていた。
「これで大丈夫だ。投与された麻酔も除去したが、まだ少しの間は眠ったままだろう」
「起きるまで俺がそばにいるよ」
「じゃあお邪魔者たちは撤退しますかね~」
「だな。帰るか」
「眠り姫は王子様のキスで目を覚ます…」
「お、俺と灯刀はそんな関係じゃないから!」
昇士は恥ずかしくなって顔を赤くした。腕を振り回し他の三人を公園から追い払うと、再び那岐のそばに座った。
「…アクトナイト。俺はソードを握れなかったけど…努力したりすれば、俺もみんなみたいに変身出来たりするのか?」
「分からない。だが例え変身出来たとしても、憎しみではガーディアンのような強敵には勝てないぞ」
アクトナイトに変身して、那岐が受けた痛みをガーディアンにも与えてやろうと考えていることはお見通しだった。
「俺って運動も勉強それなりに出来るし、灯刀のそばでそれなりにサポートもやって、勇気のある人間なんだって思えてきたんだ…言っちゃあ悪いけど…信太郎よりもヒーローらしいと思う」
「そうだな。しかし、それだけではソードはお前を認めない」
するとまた例の如く、音も立てずにアクトソードが地面に突き刺さっていた。
「これからはそこに刺しておく。剣を手に出来るように努力して欲しい」
「努力して欲しいって…」
苛立つ昇士に那岐の手が触れた。目を覚ました彼女は途中からだが話を聞いていた。
「あんたが戦う必要ないから」
起き上がった那岐は身体を軽く…と言っても3メートルほど高く跳んだりして、身体が完治したのを確認した。
「いつも思うけど便利な能力よね」
「俺にはこれぐらいしかしてやれない。怪人との戦いは頼む」
治療が済めばもう用はない。早足で公園から出ていく那岐を昇士は追って歩いた。
今日の敗北を那岐はかなり悔しがっていた。
「あいつ…次は絶対に負けない…」
「…ねえ灯刀。あいつ何なの?」
「あいつ、二地剛は対地球外生命体組織の一員で私と仲間だった。私よりも後から戦士の教育を受け始めて、当然私の方が強かった」
その二地剛は現在アクトガーディアンで、那岐よりも強くなっていた。
また戦っても結果は変わらない。このままでは駄目だと認めて、那岐は足を止めた。
「昇士、私とあんたであいつを倒すわよ」
「はぁ…は?え、いや無理でしょ。俺戦えないし灯刀だってやられちゃったじゃん」
「それでもあいつに負けたままじゃ終われない。それに…私のためにあいつのこと憎んでくれたんでしょ」
「あぁ…俺も出来るならあいつを倒したい!灯刀にあんな怪我させて!すっごいムカつく!」
「じゃあやるわよ。あいつに勝てるようになるまでこれから特訓するから」
こうして二人はアクトガーディアンへのリベンジを心に決めた。
そして次の日から二人は記念公園に姿を見せなくなり、将矢たちは学校で話すことが少なくなった。