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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
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第37話 信太郎、不戦敗

 対地球外生命体兵器アクトガーディアンの完成により地球上にアクトナイトは不要となった。



 剛はアクトナイト記念公園に現れると、アクトナイトに地球からの撤収を求めた。


 当然、アクトナイト達は受け入れられなかった。


「断る!俺にはな、あの人に代わってこの星を守るっていう使命がある!誰かに頼まれて辞められるもんじゃねえんだ!」


 大きな音と共に銅像が動き、階段を上がってシャオが本来の姿を見せた。


「ならば宇宙警察がお前を捕まえに来るぞ。いや、その前に俺がここで始末するべきか。そしてその剣とマテリアルを解析すれば更に地球の防衛力は増強出来る」


「てめえな…5対1で勝てると思うなよ」


 生意気な態度の剛に苛立った将矢がウォーミングアップを始めた。


「やってみるか…かかって来い!」




 将矢と剛の二人が変身せず素手で決闘を行ったが他は観戦しているだけだった。喧嘩が強い程度の将矢が、戦士として鍛えられた剛に敵うわけもなく数分後には四肢の関節を外された将矢が地面に倒れていた。


「あ~あ!もう!アクトナイトさん、将矢お願い!」

「まあ無理よね。私なら勝てたかもだけど」


「那岐、お前でも俺には勝てない」


 その一言にムッとした那岐が昇士の持つ波絶を取ろうとした。だが昇士は刀を手離そうとせず、しっかり握っていた。


「昇士、何のつもり?」

「…すみません、二地さんでしたよね。迷惑なので帰ってくれませんか?」


「お前は…どのアクトナイトだ」

「俺は朝日昇士。アクトナイトじゃないただの一般人です」


 剛はそれを聞くと顎を上げて大声で笑った。


「うわ…癖のある笑い方。アニメとかの敵キャラみたい」

「実際敵だろ…顔良いだけに勿体ねえな」


「力がなくとも深く関わっている時点でお前は既に一般人ではない。自分の存在価値を自覚することだな」

「そんな事よりも灯刀が嫌な思いしてるんで、帰ってくれませんか?」


 今度は那岐が刀を抑えていた。もしも手を離せば、昇士が剛に切りかかってしまいそうで危なかった。もっとも、昇士が返り討ちにされるのがオチだが。


「帰れって言ってるんですよ日本語分かります?あ~そっか、地球を守るためずっと戦いの勉強してたから言葉苦手なのかな?だとしても灯刀とはまともに会話出来るし戦いの勉強は言い訳にはなんないか~?」

「朝日君ストップストップ!」


 千夏になだめられ、昇士は口を閉じたがそれでも剛のことを睨んでいた。


「これ以上低レベルな人間に付き合うつもりはない」

「その低レベルに一度でも威張った時点でお前も俺と大して変わらない低レベルだけどな」

「いい加減にしろ昇士!」


 このままだとヒートアップし続けてしまうので、今度はシャオが昇士を地中に眠る宇宙船アクトーザーへと引っ張って行った。


「どうしてもアクトナイトとして戦いを続けるのなら…俺は組織の命令に従い、今後はお前たちアクトナイトを排除対象と見なす」


 最後にそう言うと、剛は武器の入ったケースを持って公園から去って行った。




 黒い怪人の正体である芽愛は人の姿に戻り街を彷徨っていた。


(朝日君…どこなの…)


 ただ街を歩いても昇士に会えるわけがない。それでも芽愛は、彼に会いたいという想いだけで行動していた。

 手には怪人に変身する時に使用するダークネスマテリアルが握られていた。


(怪人が出てきてくれたら…朝日君はきっと来てくれる。怪人…怪人はまだなの?)


 フラフラと今にも転びそうな足取りの芽愛。体調の悪そうな彼女を、街の人たちは避けるように歩いていた。


 そんな彼女に一人の少年が声をかけた。



「陽川さん、大丈夫?」


(お前かよ…)



 その少年とは地味な私服姿の信太郎だった。昇士ではない事は残念だったが、利用価値はありそうだった。


「ごめん、ちょっと気分悪くて…」


 信太郎は芽愛を近くのベンチに座らせて、自販機で水を買った。


「ありがとう」

「いやいや、これくらい当然だよ」


 信太郎は好感度を上げるチャンスだと思っていようだが、何をされても芽愛の想いは変わらない。

 それどころか、信太郎は利用されそうになっていた。



「ねえ…私見ちゃったんだ。灯刀さんが怪人と戦ってるところ?」

「え?」


 芽愛の発言に信太郎はギョッとした。まさか自分たちの正体がバレたのかと。

 それでも信太郎は冷静を装い、会話を続けた。


「…本当?人違いとかじゃなくて?」

「私見たの。灯刀さんったら変な仮面を付けて大きな刀を振り回して…凄い怖かった」


 初めて怪人となった時、芽愛は那岐とアクトナイトセルナの2人と戦った。芽愛の言葉に嘘はなく、ただ客観的に話しているだけなのだ。


 だが芽愛はそのセルナが信太郎ではなく昇士だと勘違いしており、また信太郎も一度戦った黒い怪人の正体が彼女だとは思ってもみなかった。


(アクトナイトの正体には気づいてない…てかそうだ。陽川さん、俺のことを昇士だって勘違いしてるんだ)


 信太郎はそのことを思い出し、何を思ったのかここで正体を明かすべきか考え始めた。


(なんでよりによってあいつだって誤解されてんだ…ここで俺がセルナです!って言えば信じてもらえるかな。まあ証拠を要求されたら変身すればいいって剣もマテリアルも持ってねえよおおお!…ならいっそ全部話せばいいか。てか俺が街を守ってるヒーローだって知ったらどう思うんだろう。俺のことカッコいいとか思ってくれるかな…)


 結局、仲間たちに迷惑が掛かるのを避けるために信太郎は何も言わなかった。


「朝日君が心配だよ…いつも灯刀さんと一緒にいるんだよ?もしも巻き込まれたりでもしたら…ねえ大月君!灯刀さんのこと、何とか出来ないかな?」

「な、何とか?…具体的には…」

「そうだね…二人を引き離すとか」


 具体的過ぎだ。信太郎は薄々、芽愛は昇士に好意を持っていることに気が付いていた。

 関係良好な昇士と那岐を引き離すという行為にどういう意味があるのか。それが分からないほど信太郎は鈍感ではなかった。


 確かに、戦えない昇士が那岐と一緒に行動させるのは危険で、下手をすれば弱点になるかもしれない。



 しかしここで昇士と那岐の関係が終わってしまうのはこちらとしても都合が悪い。


 顎に拳を当て、信太郎は悩んだフリをして数秒待ってから返答した。


「ちょっとそれはまずいんじゃないかな~」

「だよねー」


 好きな女子との会話に緊張しながらも、信太郎は芽愛の顔を見ながら会話を頑張っていた。



 だからこそ周りへの意識が疎かになっていた。


 信太郎は彼女の影がだんだんと変化していき、怪人の形になっていることに気が付けなかった。

 だが、芽愛の作ったような笑顔と凍ってしまいそうな冷めた目線は嫌でも分かってしまった。


「…もういいや。何か大月君って印象通りの役立たずだね」


 それを聞いた信太郎は耳を疑った。そんな人を傷付けるような言葉を彼女が言うはずない。



 怪人化した芽愛に腕を掴まれていても、信太郎はまだ彼女の優しさを信じられるほど愚かだった。


「ひ、陽川さん…?な、何するの…」


「あのさ、はっきり言うね?君、ウザいから。ちょっと優しくしてあげただけで勘違いしないでよ」


「え?…それに陽川さんその姿は」

「気持ち悪いよね。でも絶対に朝日君はそんなこと言わないよ。初めて話した時もそう、朝日君は優しかった」


 アクトソードとセルナマテリアルはアクトナイトの元にある。


 変身さえ出来れば身を守れる、昇士ではなく自分がアクトナイトだと証明出来る。


 だがない物はない、どうすることも出来ないのだ。


「お願い陽川さん、こんなことやめて!」

「大丈夫、殺さないよ。そんなことで朝日君に嫌な思いさせたら死にたくなっちゃうからね。大月君には少し眠ってもらうだけだから」


 芽愛の影から何本ものニードルが生える。それらは勢いよく飛び出して、次々と信太郎の胸を貫いた。

 だが、信太郎の身体には傷一つなかった。


「え………うああああああ!」


「私は灯刀さんよりも強い。強いから自身の闇の力だってコントロール出来るんだ…大月君は…どうだろうね?」


 芽愛は信太郎を直接手にかけるつもりはない。だがたった今送り込んだ闇による、信太郎の自我の崩壊を彼女は望んでいた。


「助けえええええ!」


 既に周りに人はいない。怪人の出現に連鎖して現れたメルバドアル達が暴れまわり人払いを済ませ、街を破壊している最中だった。




 フレイスとビヴィナスが駆けた時には全て終わっていた。

 無惨に引き裂かれたアル達が街中に倒れ、その中心には信太郎を抱える黒い怪人の姿があった。


「一体何があったの…」

「おいお前!信太郎をどうするつもりだ!」


「ズタタクヤナンコヨイナシモウドネ。ダンイナイハウョキハンクヒサアモリヨレソ」


 二人は歩いて近付いて来る敵に警戒したが、怪人は信太郎を優しく地面に降ろしてその場から去って行った。


「どうして…行っちゃった?」

「そんなことよりも、信太郎をアクトナイトに治してもらうぞ!」



 後になって、アルが怪人によって始末されるところを捉えた街のカメラの映像が公開された。



 アクトナイトにより信太郎は治療を受けた。だが彼の肉体に大した傷はなく、むしろ手の付けようがない心に問題があった。


「おい!信太郎はどうして目を覚まさないんだ!」

「おそらく信太郎は心への攻撃を受けた。今、彼の心は過剰に溢れる闇に蝕まれ崩壊を選ぼうとしている」

「そんな…崩壊したらどうなっちゃうんですか!?」


「心は未知の領域だ。どうなるかは想像もつかない」


 こうなってしまった場合、心を宿す人間自身が何とかするしかない。



 救急車に運ばれて信太郎は病院へ。一緒に人間の姿となったシャオが同行し、面倒な手続きを済まして信太郎は入院することになった。




「俺が余計な世話を焼いたばっかりに…」


 信太郎の眠る病室でシャオは深く反省していた。戦う必要がないからと言って、アイテムを取り上げたのは失敗だった。



 今は闇に蝕まれている信太郎の心。それがここ最近どういう状態だったのかは、シャオが一番よく分かっていた。


 だからこそ、疲労の溜まっていた彼を戦わせないようにしたのだが、それが裏目に出てしまった。


「黒い怪人…対策を立てないとだな。お前が無事に目覚められる方法がないかも調べておくからな」



 そしてシャオは謝罪の意を込めて深く頭を下げると、病室から出ていった。




 様々な問題を前にこれからを思いやるシャオ。病院から出た彼をメノルが待っていた。


「テメェ…何の用だ」

「信太郎君のお見舞いに来たんだヨ」


 それを聞いたシャオはメノルの前で腕を組んで道を塞いだ。


「行かせるわけねえだろ」

「ここまで拒まれたなら流石に行かないヨ」


 シャオよりも強いメノルなら無理矢理信太郎の元へ行くことも出来たが、彼の考えを尊重してお見舞いは諦めた。


「信太郎君はどうだっタ?」

「お前らの怪人のせいでああなったんだろうが!ふざけんなよ!」

「彼女は人間だヨ。自分から怪人になったんダ。愛するもののためにネ。愛する者のために戦うってまるで君たちみたいじゃなイ?」

「まさか…この星の人間まで怪人にしたのか!?」


 話をしていてカッとなったシャオはパンチを繰り出していた。


「ただの実験だヨ。この星の人たちを怪人にするつもりはなイ。一人残らず平等に殺ス」


「…絶対にお前らの好きにはさせねぇ…」

「君はエナジーしか遅れイ。仲間が欠けた今、どうするのか楽しみだヨ」


 お見舞い出来ない腹いせにシャオを煽り満足したメノルはその場を去っていく。



 怒りに震えていたシャオも、こんなことしている場合じゃないと冷静になると宇宙船へ戻って行った。

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