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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
情動の力編
33/150

第33話 勘付く芽愛

 昨日の放課後、一緒に帰っていた友人の一人が突然走ってどこかに行ってしまった。


 それを追って、昇士と他の二人も行ってしまった。



 その時、一人置いていかれた少女、芽愛は…




(やっぱり何か関係してるよね…)


 手に持っているスマホにはアクトナイトと仮面の少女が街を守ったという記事が映っている。


 昇士たちがいなくなって間もなく、この戦いは起こった。

 彼らが校外学習の時も不自然な動きをしていたことも思い返せば、アクトナイトと何か関係があるのではないかとますます疑えた。



 そこで芽愛は思い切って行動に出た。その日の放課後、昇士を誘って二人きりで下校していた。




「…」

(わ、話題がない…!なんか話さないと…)


 二人とも黙っていた。特に芽愛はアクトナイト関連について尋ねたかったが、その話題に軽く触れて昇士から嫌われたくないという思いもあった。


「き、今日はいい天気だったね!」

「だったね…そうだな。今凄い曇ってるし…着くまで雨降らないといいなぁ」


「…今日は怪人出なくて良かったよね」

「だな。平和が一番だよ」


 とりあえず聞いてみよう。そう決めた芽愛はストレートに尋ねた。


「…朝日君、もしかしてアクトナイトとかの事、何か知ってるの?昨日走って行っちゃったから…」

「………クスッ!何それ!陽川さんって面白いこと言うね」


 昇士は笑ったが、内心ではバレたらマズいと焦っていた。

 

「俺は習い事で灯刀はスーパーの夕方セールに。信太郎も家の用事だったみたいだよ」

「そう…」


 昇士は適当な嘘で誤魔化していたが、芽愛は惑わされることなく嘘だと決めつけていた。


 そんな事はあり得ない。怪人が現れたタイミングで三人が走り出したという事を芽愛は知っている。信太郎の走った姿を見て昇士たちが走り出したのも忘れていない。


(絶対に何か隠してる…)




 束の間の沈黙も遠くから聞こえた大きな衝撃音によって破られた。それからすぐ、昇士の電話が鳴った。


「もしもし灯刀!?…怪人だね、俺も行く」



 まただ。つい先日まで那岐の事をさん付けしていた昇士が呼び捨てにしている。芽愛の拳にギュッと力が入った。



「ごめん、俺行かないと!」


「そっか…」



 また昨日と同じように、昇士は焦った様子で走り出した。

 しかし芽愛は違った。昇士を見失わないように距離を維持して、走る彼を追った。




 今回の怪人が出現した場所も街の中だった。怪人の出現に連鎖して現れたメルバドアルは逃げ回る人々に次々と襲い掛かるが、仮面を付けた少女がそれを阻止していた。


「これじゃ怪人を斬りに行けない…!」


 その怪人は全身が鎖で構成されていて、周囲の金属を鎖へ変化させ取り込み、少しずつだがパワーアップしていた。

 気持ち悪い見た目でジャラジャラと不気味な音を立てている怪人は強くなろうと、ノロノロと歩きすぐ近くの自動車に近付いていた。


「また吸収するつもり!?」

「させるかよ!」


 炎の車輪と呼べるほどの縦回転斬りで雑魚を一掃していたフレイスが怪人へと突撃していく。怪人の金属で出来た身体は炎の剣を受けるとドロドロと溶け始めた。


「相性は有利みたいだな!このまま倒させてもらうぜ!」


 しかし金属は高温の炎で溶けると言っても一瞬ではない。怪人は力を振り絞り、鎖を発射してフレイスを捕らえた。


「ぐっ!」


 鎖によって手首足首を封じられたフレイスはその場に倒れる。

 怪人は頭上に鎖を収束させて巨大な拳を作り出した。


「危ない!」


 背後で支援をしているアーキュリーが能力を発動する。近くのマンホールから拳に向かって勢いよく水を発射して威力を相殺した。




 死にはしなかったが大ダメージを受けたフレイスは戦える状態ではない。

 アーキュリーはフレイスを連れて離脱。バトンタッチでセルナ、ビヴィナスの二人が建物の上から現れた。


「シンプルな能力だけど厄介だな…」

「鎖が集まって出来たあの身体…私のスラッシュでも一部分しか削れないと思う」


 二人の着地と同時に周囲にいたメルバドアルが一斉に 襲いかかる。

 雑魚はビヴィナスに任せて、神秘の力の可能性に賭けてセルナは怪人へ攻撃した。


 怪人は迎撃しようと何本も鎖を発射した。セルナはそれらのコントロールを自身の能力で奪い取ると、周りの邪魔なアル達へと攻撃を流した。


「信太郎、形が変わるタイプの怪人は」

「分かってる!どこかにコアがあるんだろ!」


 既に怪人の右肩部分にコアがある事は確認している。セルナは早く戦いを終わらせようと肩を狙って剣を振るが、露骨に弱点を狙ってくるので怪人は鎖を集中させて防御に徹した。


「チッ!鎖が邪魔!」


 カウンターを貰う前にセルナは一旦距離を置くが、今度はメルバドアル達が襲いかかる。


「ああもう!今度はこいつらかよ!………ってあれ!」


 周囲にいた人たちは全員逃げたはずだった。しかし、一人の少女がメルバドアル達に囲まれているのを見て、セルナは全力で助けに入った。


「離れ…ろ!」


 少女の前に立ちセルナがフルパワーの剣を振ると、アル達は上下に両断されて爆発した。


「ここは危ない!早く逃げるんだ!」



「やっぱり朝日君なんだよね!」

「その声…陽川さん!?」


 少女の姿を確認している暇はなかった。まだ大量に残っているアルがセルナへと迫る。


 セルナは一歩前に出ると、自身の能力で四方に壁を展開。小規模ではあるが街へのダメージをゼロにする特殊なバトルフィールドを生成した。



 鎖の怪人は戦う相手がいなくなり、自分を更に強化しようと金属を探してどこかへと逃げていった。




 戦士たちの努力によりメルバドアルは一掃された。だが怪人を逃したのは痛手だ。それもパワーアップが出来るということは、次戦う時は今回以上の強敵となるだろう。


「怪人のエナジーを完全に見失った。すまないみんな」


「仕方ないよ。一旦そっちに戻るから」


 アクトナイト達と仮面の少女が何やら話している。セルナが昇士だと思っている芽愛は、彼と話している仮面の少女が那岐だと偶然だが当てていた。


 いつも昇士と那岐が親しそうにしているのを見ている彼女だからこそ出来た考察だった。



「待ってよ朝日君!灯刀さん!そうなんでしょ!?」


「な、なんであいつがここにいるの!?」


 那岐は自分の姿を仲間に見せて変装は出来ていると確認する。

 だとしたら何故バレているのか?


「昇士ぃ…」


 騒ぎを避けるためにも自分とアクトナイトの事は秘密にしておくというのが那岐と昇士の間にあるルールなのだが、彼がそれを破ったと疑う以外にない。


 今頃、記念公園でボケーっとしているであろう昇士の顔面を一発殴りに、那岐はピョンピョンと跳ねてその場から移動した。


「俺たちも…」


「待ってよ!…朝日君なんでしょ?いつも街を守ってくれたのって…」


 芽愛は誤解している。アクトナイトの一人、セルナの正体が想いを寄せている同級生、朝日昇士であると。


「………」


 しばらくその場に立っていたセルナだったが、戦いが終わったことで人が集まって来ると何も言わずに姿を消した。




「いや~お疲れ~」

「お疲れじゃないよ。無茶し過ぎ」


 公園にはアクトナイトによる治療を終えてピンピンとしている将矢たちがいた。


 少し離れたところで、那岐から説教を受けている昇士の姿もあった。


「無関係な人にこんな事話すわけないでしょ…」

「口答えしない!話してなくてもボロが出たから私だって見抜かれたんじゃない!」

「…すいません」


 謝っているがその表情には反省の色が見られなかった。




 逃がしてしまったものは仕方がない。アクトナイトはアニマテリアル達に怪人の捜索を任せて、少年たちは対策会議を開いた。


「どうするよあれ。めっちゃ厄介だぞ。俺の剣でも溶かすのに時間が掛かるし」

「今頃もっと強くなってるよね。車とか自販機とか…金属類を食べてるみたいだった」

「波絶でもあそこまで複雑に絡まった肉体じゃ刃が通らないと思う」


(しれっと会議に参加してる…)


 昇士がニヤニヤしている横で、那岐は真剣に怪人の対策を考えていた。


「コアは確認したけど…誰か斬れる自身のある人」


 信太郎は尋ねたが、誰一人として返事をせず挙手もしなかった。


「打つ手なし…あぁ~!俺たちあんなのより絶対強い奴倒したじゃん!」

「今回単純に相性悪いよね…」


 将矢と千夏はそれぞれ、ホープ、プロミスの強化形態を持っている。だがホープは希望、プロミスは約束を力に変えるマテリアルなので、ただ変身するだけでは意味がない。


 今回の怪人は厄介だが強敵というわけではない。それが2つのマテリアルの力の発揮を妨げているのだ。



「金属だから…海に沈めるとかは?」


 戦闘員ではない昇士からの提案だったが、周りの反応は悪くなかった。


「少なくとも相手は嫌がるよな…いいアイデアだ!」

「錆びたり動きが鈍くなったり…それに波さえ何とかしてくれたら私の力が発揮できる!いいかも!」


 誉められている昇士の隣で、那岐が誇らしげにしていた。

 「これまで自分の戦いを見ていたから、洞察力が上がって敵への対処法が思い付いた。流石は私の助手」と心の中で誇っていた。


 ただ昇士は単純に金属は海水に弱いと思ったから、このアイデアを出したのだが。



 話を聞いていたアクトナイトはそれぞれの能力を考えて、一つの作戦を組み立てた。


「それならこういう作戦はどうだろうか?」




 その日の夜中、街に怪人が再び出現した。


「もう…休みじゃなかったらサボってたから!」

「ふああぁ…休みじゃなくてもサボっちゃ駄目だろ」


 駆けつけたのはフレイスとビヴィナス、二人のアクトナイトだ。

 怪人は昼間の2倍ほどは大きくなっており、怪人を見上げたフレイス達は…


「マジかよ…何食ったらここまで大きくなるんだ」

「ほらやるよ。せーの!」


 フレイスは炎を発射、ビヴィナスは近くの瓦礫を怪人にぶつけた。


 自分に対抗してくるのは誰かと怪人は二人の方へと振り向き、歩きだした。


「…う~ん、金属だけどやっぱコントロール出来ないや」


 敵の身体は金属で出来た鎖なので、ビヴィナスはコントロールを試みたが何も出来なかった。



 もう出来る事は一つしかない。ビヴィナスは気を引き締めると、フレイスと共に怪人を遠くの海岸まで誘導した。




 その頃、戦いの音が届く静かな海岸では、残りの戦士3人と昇士が敵を叩く準備をしていた。


「波絶で波を消したわ。これであんたの能力を最大限に発揮できるでしょ?」

「うん、やれそう。ありがとうね」


 信太郎は準備運動をしながら、スマホで情報を集めている昇士の方を見ていた。



 昼間の戦いで自分が守った芽愛が、アクトナイトセルナのことを昇士だと勘違いしていたのが引っ掛かっていた。


「…どうかしたか信太郎?」

「いや、何でもない」


 アクトソードを握れば仲間たちと心が繋がり、自分の内にあるモヤモヤとした感情を知られてしまう。

 信太郎は少し時間をおいて、落ち着いてから剣を持って作戦に集中した。



 しばらくすると将矢を背負ったビヴィナスが走ってやって来た。その後ろには怪人とメルバドアル達も一緒だ。


「おまけ付きかよ!」

「火野もやられてるじゃない!こうなったら私が雑魚を斬るわ。あんた達は鎖の奴を海に誘い込みなさい!」


 翼を広げた那岐はアルの群れへと飛び込んでいく。それに続いてセルナ達は怪人へと走り出した。



 メルバドアルの数は多いが力は大してない。那岐は次々とアルを切り刻み、その数を減らしていった。


 怪人は厄介だと判断した那岐に身体から鎖を発射するが、それはセルナの剣によって止められた。


「凄いパワーだ!てか前よりデカくね!?」

「大月君、これ!」


 アーキュリーから投げ渡されたアクトブレイドとソードを連結、そしてパワーアップ。

 アクトナイトセルナバスターとなり、鎖を掴むと怪人を海の方へと引っ張った。


「ぐぬぬぬぬ!」


 そこに将矢を安全なところへ避難させたビヴィナスが加勢。セルナと一緒に鎖を引っ張り、海へと向かう。


「よいしょ…!よいしょ…!」

「アクトナイト!力をもっとくれえええ!」


「たった今、そちらに増員が到着した!」


 突然メルバドアルの1体が怪人にぶつけられた。


「ウホホホホホ!」


 アルが跳んだ場所には小さなゴリラがいた。パワーが自慢のゴリラアニマテリアルが、近くのアルを怪人へとぶつけていたのだ。


「信太郎、ゴリラのパワーでそいつを海へと投げるんだ!」

「分かった!来い!」


 するとゴリラはセルナに向かって走って行き、ジャンプしてマテリアルに変形すると、見事アクトブレイドの窪みに収まった。


「力が溢れる…うおおおお!」


 怪力を得たセルナは、怪人の足元へと潜り込んで力任せに持ち上げた。


「このまま海まで…いっけえええ!」


 そして持ち上げた怪人を海に向かって投げ飛ばした。道連れにしようといくつか鎖が伸びて身体に巻き付いた。セルナはそれを簡単に引きちぎると、後は任せたとでも言うかのように変身を解いてアクトブレイドを海中へと投げ入れた。



 怪人は海の中へ。そこにはアーキュリーが待っていた。


 ドボン!という音と共に、今度はセルナが投げたアクトブレイドが迫って来る。

 アーキュリーはそれと剣を合体して、アクトナイトアーキュリーバスターへとパワーアップした。


 身を守ろうと怪人は鎖を発射するが、海中である以上その動きは鈍く、水を得意とするアーキュリーは素早く動いていた。


「ふん…!」


 水を操る事の出来るアーキュリーは、怪人の周囲の水圧を深海レベルまで上げていく。鎖は砕けてその身体も縮み始めていた。


「潰れろおおお!」


 更に水圧が増していき、遂に怪人のコアが一ヶ所に集まる鎖によって押し潰され、そして砕けた。


 怪人の身体を構成していた鎖はバラバラになっていくのを確認すると、アーキュリーは陸へと上がった。




「将矢は私に任せて」


 治療の為、奏芽は将矢を連れて急いで記念公園へ。千夏も眠いのでゆっくり寝ようとエアボードで家へ飛んでいった。



「…月は見えないな」


 帰り道、信太郎は空を見上げて理由もなく月を探した。



 昇士と那岐は海岸に残って星空を眺めていた。


「…陽川さんのことどうしよう」

「自分で出したボロなんだから自分で何とかしなさいよ」



 正直に話すべきか頑張ってしらばっくれるか。自宅まで那岐に背負われている間、昇士はずっと考えることになった。

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