第32話 今を生きる少年たち
アクトナイト記念公園に6人の少年少女が集まった。
一方シャオは宇宙船の中へ戻っていた。そしてアクトナイトとして落ち着いた雰囲気で、先程の戦いのことを話した。
「俺たちがいない時にそんなことが…」
「ごめんなさい、確認怠ってました!」
「メルバドアル…聞いた感じだとザコキャラって扱いで良いんですよね」
そう言って千夏はゲームに出てくるモブキャラたちを想像していた。
戦いが変化した。その原因にアクトナイトは心当たりがあった。
「夢でお前たちが倒したバッドに出会った」
「夢って…」
「やつは俺の夢に現れた。そして俺の目の前でカイジンマテリアルを破壊した。粉々になったマテリアルは地球に向かって行って、そして今日初めてメルバドアルが現れるようになった」
「怪人の力が街へと散らばった。これにより怪人の出現に応えるようにアルが出現するようになった。敵が戦術を変えたのではなく街そのものを変化させられた、そういう感じかしら…それでこれまで敵が使っていたマテリアルは、オリジナルの剣から生成していた」
那岐はこれまでのことを整理して、結論を出そうとアクトナイトに質問した。
「本物のアクトナイトはマテリアル作ってたの?」
「話でしか聞いていないが、あの人は100年前の戦いで7つのマテリアルを誕生させた」
「それがこいつらの持ってる4つとあんたの宇宙船にある2つ…」
「…啓大があと1つ持ってた」
「マテリアルはそう簡単に作り出せる代物じゃない。なのにメルバド星人の怪人たちはその力で俺たちと戦っていた」
「…訳わかんねえ~!」
頭がパンクした将矢は悲鳴をあげた。
オリジナルのアクトソードが敵の手にある。それが敵の使うマテリアルと関係しているのだろう。
「ところで…」
ふと気になって千夏は二人の方を向いた。那岐と昇士が当然のようにミーティングに混ざっていたのが意外だった。
「何よ?昇士が提案したから来ただけよ」
「情報共有出来たらなって感じで…まあそういうことらしいけど、これからもよろしくね」
まだ打ち解けるのには時間が掛かりそうだが、那岐の態度に不快感を持つ者はいなかった。
「………もう終わり?解散?」
「え、まだ10分しか話してないけど」
「もう話すことないし…じゃあ誰か話題出してよ」
少年たちは愚痴るがアクトナイトからは何の反応もなかった。
(剣のこと、ショックだったんだろうな…)
静かなアクトナイトの心情を信太郎は察していた。
「とりあえず行こうか」
アクトナイトのためにも、信太郎は仲間たちと共に公園から早く出発した。
街にはいつもと変わらず人が歩いている。犬と散歩している老人、学校帰りの学生たち、疲れた顔をしたサラリーマン。
こんな普通そうな街に、いつも怪人が現れるのだ。
「あっ…」
そんなことを考えていた信太郎はふと遠くの景色を見た。
怪獣によって破壊された地域だ。そこにはいつも誰もいない。
人々のいつもが奪われた傷痕なのだが、100年前のアクトナイトと同じように、早くも忘れ去られようとしていた。
「ねえ大月君、ちょっと付き合ってよ」
「…分かった」
寂しげな顔をした千夏に誘われ、信太郎は荒廃した地へと足を運んだ。
破壊された地域は危険区域として扱われるようになり、フェンスが張られている。だが周りには警備員もカメラもないので簡単に侵入が出来る。
フェンスを越えた二人は話すこともなく適当に歩いていた。
復旧作業は未だに始まらず、この前と景色がほとんど変わっていなかった。
「啓太のことか?」
啓太がいなくなって間もない頃、信太郎と千夏は剣を通して話をした。
千夏はその時の最後の質問に対する答えをずっと聞きたかったのだ。
「うん。今は剣を持ってないから、大月君がこれから言うことが嘘か本当か分からないけど…正直に答えて欲しいんだ」
「啓太のこと、好きだった?」
恋愛的な意味ではなく、一人の人間が好きだったという質問。
それに対して信太郎は首を横に振った。
「嫌いだったな」
「やっぱり…どうして?」
千夏は別に、啓太を嫌いっている信太郎を怒っているわけではない。これからの戦いに支障が出ないように真実を知りたかったのと、啓太のことが好きな彼女だからこそ嫌う理由が気になったからだ。
あまりにもくだらない理由だ。信太郎は一呼吸おいて、恥ずかしそうに話し始めた。
「俺と啓太って最初は同じ陰キャだったじゃん。実際、みんなで遊んだりするようになったのもあいつがいたからだし」
「そうかな?啓太、よく話してる方だと思うけど…」
「そりゃ二人とも趣味とか一致して相性良かったからだろ」
「それで………」
「それで?」
「将矢と清水が付き合ってるのは元からだったしなんとなく認められてたんだけど、あいつもお前と接近し始めてから…何か嫌になった」
「え…それだけ?」
「あぁこれだけだよ!何か仲良し5人組って感じのグループだったのに俺だけ孤立してくみたいで…」
「クスッ!あははは!」
千夏はあまりにもくだらない理由に思わず笑ってしまった。
「ごめんごめん…!ふふ!…でも良かった。何か喧嘩してたとかじゃなくて」
「喧嘩なんかしてないし…それにギクシャクしてたのはそっちの」
そこまで言った信太郎はハッとして口を閉じた。
「別に気にしなくてもいいよ。私が勝手に暴走してただけだし」
「…ムカつくとか言っとけば良かった」
「それな。はぁ…」
二人は先に進んだ。その先に信太郎には見覚えのある海岸があった。
夏休み中に芽愛たちと遊びに来た場所だった。ここに現れた怪人を、那岐と奏芽が倒した後に怪獣が現れた。
「ありがとう啓太…」
「え?」
「啓太が戦ってくれたから、私たちの住んでる方は無事だった。家族も学校のみんな、今生きてる人たちを守ってくれたんだし、お礼しないとね」
「そうだったな…ありがとな………ゆっくり休めよ」
その言葉が天国にいるであろう啓太に届いていると、二人は信じていた。
信太郎たちと別れた後、残りの四人はどういうわけか駅前のラーメン屋に入っていた。
「センスな…」
「いいじゃない。身体を動かしたんだもの、摂取出来るエネルギーの高い物を食べるべきだわ」
将矢のチョイスに対してあんまり~な顔をしている昇士に対して、意外にも那岐は喜んでいた。
食券を渡してから、昇士、将矢、那岐、奏芽の順でカウンター席に着く。
「…なんでカウンター席?みんなで座れる席あるけど」
「まあまあまあまあ…」
昇士の疑問を将矢が適当に退ける。その隣には奏芽にずっと見つめられて困っている那岐がいた。
「な、何よ?」
「………恋バナしようよ」
「恋も何も…それにあんた達付き合ってるんでしょ?惚気たいなら昇士にして欲しいわ」
「その昇士…朝日君とは一体どういう関係なんですか?」
割り箸をマイク代わりに、奏芽は記者のような尋ねかたをした。
一方那岐は顔を真っ赤にして、握っていた箸を折ってしまっていた。
「しょしょしょしょ…昇士?」
「ん?どうしたの灯刀さん?」
「うるっさいな!ちょっと静かにしてなさい!」
うるさいのは怒鳴っている那岐の方である。昇士は困惑したが、すぐに将矢との会話に戻っていた。
恥ずかしそうにする那岐は何度か昇士の方を睨み付けると、爪楊枝で奏芽を突いた。
「痛い痛い…」
「…次そういうこと言ったら本当に斬るから」
「本当のところ、どういう風に見てるわけ」
会話が昇士に聞こえないようなボリュームで会話は続く。
「あいつは私の…」
昇士は那岐の助手である。そういう風に言えばいいのだが、なぜか言葉が詰まった。
「…私の?」
「………」
ちょうど何か言いかけたところで店員がそれぞれの前に頼んだ料理を並べていった。
「あ、来た。いただきまーす」
「…」
奏芽の興味が自分のことからラーメンへと移ってしまったことに、勇気を振り絞っている途中だった那岐はイラッとしていた。
「ズズズ…」
「ズーッ…」
「それで朝日君のことどう思ってるの?」
黙っていた奏芽が突然話を掘り返した。ビクッとした那岐は麺を啜っている最中で、質問の直後にむせていた。
「けほっ!けほっ!……あんたね……」
「ごめんごめん」
奏芽は笑いながら謝罪し、紙ナプキンを取って渡した。
「このラブハラ女…人の事が知りたいならまず自分の事から話しなさいよ」
「いいの?長くなるよ?」
それから奏芽は将矢との出会いからこれまでを、ベラベラと語り始めた。もう話すのに夢中になり過ぎて、那岐の恋愛関係のことなどすっかり忘れている様子だ。那岐はその隣で、黙って麺を啜った。
「それでね~将矢がね~」
奏芽は30分近く惚気ていた。ラーメンを完食した那岐はうんうんと適当に頷いて話をしていた。
男子二人の方はすっかり打ち解けて、何かの話題で盛り上がっていた。
那岐は昇士の方をチラ見してから、小さな声で奏芽に尋ねた。
「………恋をするってどういう感じなの?」
「いきなり難しい質問してくるね。え~…好きな人を見てると胸がドキドキして来る…とか?」
「………じゃあ違うわね。だって私、昇士を見てもドキドキしないもの。これは恋じゃないわ」
「うわキッパリ言いきった!………まあ、恋なんで無自覚だからね。苦労したまえよ」
一方その本人は、将矢とソシャゲーの画面を見せ合っていた。
四人は店を出て駅まで向かった。途中、どこかに寄ることもなく、夜の街を歩いて駅に着いた。
「それじゃあまた明日」
「ばいばい」
「奏芽、暗いから送ってく」
「ありがと。途中コンビニ寄っていい?」
「またアイスか?いい加減に腹壊すぞ…」
那岐たちとは反対側のホームへ行く将矢と奏芽が手を繋いだ。
表情も話していることも分からないが、とても幸せそうだと那岐は思った。
「…昇士、送っていくわ」
「え、別にいいよ。それに灯刀さんの方が先降りちゃうし」
呆気なく断られ、那岐は強硬手段に出た。
「え、え、ちょっと!」
昇士を抱えると那岐は高くジャンプ。すぐそばの建物の屋上へと移って行った。
「どうしたの急に!」
「送っていくって言ってるの!もしも私がいない時に敵が出たらどうするの?」
暗くて昇士は気付かなかったが、那岐は顔を赤くしており奏芽との会話を思い出していた。
(恋じゃないと思うけど…何なのこの感じ…)
ピョンピョンと摩天楼を渡って昇士の自宅を目指す。その最中、何度か二人は目が合った。
「………綺麗」
初めての美しい景色に昇士は見とれていた。人に抱えられながら夜の街の上を移動することなど、普通じゃ経験出来ないことだ。
「ねえ昇士、友だちにならない?」
「と、友だちに?」
「これからさらに敵が強くなる。それに勝つためには今以上の信頼関係が必要だと思うの。だから一緒にご飯食べたりどこかに出掛けたり…」
「いつもみんなでご飯食べてるし出掛けてると思うけど…それにもう友だちだと思ってるけど」
那岐が言いたいのは二人で出掛けたいということだった。
(ってこれじゃ私が昇士とデートに行きたがってるみたいじゃない!)
「と、とにかく!私と友だちになりなさい!いい?私のこのモヤモヤを解消させるにはそれが必要な気がするの」
「なりなさいって…怪人と戦ったりして、俺たちとっくに仲間でしょ?」
気が付けば昇士の家の前だった。自宅の住所を教えたことも案内した記憶もないが、どうして場所を知っているのかは尋ねなかった。
「明日から迎えに来るから」
「えぇ!?…まあいいや。送ってくれてありがとう、灯刀」
「!…当然の事をしたまでよ。それじゃ」
さん付けされなくなった。それだけで少し距離が近付いたような気がしていた。
灯刀那岐。彼女が昇士に恋をしていると認めるのは、もう少し後のお話。