第31話 オリジナルのアクトソード
「よう。今回はお前たちの勝ちってことにしてやるよ」
そこは宇宙のどこか。シャオは千夏たちが倒したはずのバッドに出会った。
「…驚かないんだな。倒されたはずの俺がこうして目の前にいるのに」
「バッド、お前は異常なエナジー…いや、存在そのものが異常だ」
「おいおい、そんなこと言われると傷つくぜ」
「お前は何者だ!メルバドの王子直属の三銃士。そんな小さな存在じゃないはずだ!」
シャオはバッドを異常そのものと認識していた。
「目的は何だ!なんでこの宇宙に来た!」
「俺の目的は…お前たちを倒すこと。それだけだ。まあ復活までには時間が掛かるから、それまでになるべく強くなって、俺を楽しませてくれよな」
完全消滅したはずのバッドは、それでも復活するつもりだった。
そんなバッドの手には戦いで使っていたカイジンマテリアルが握られていた。
「これからの戦いが面白くなるように俺からのプレゼントだ!」
バッドは拳に力を入れてマテリアルを握り潰した。形を失ったことで現れた怪人の力は、宇宙を漂い地球へ。
地球の世須賀市に降り注いだ。
「何をした!」
「…また会おうぜ」
「待て!」
シャオはベッドの上にいた。夢のような気がしたが、会話も世須賀へのプレゼントとやらも確かな出来事だ。
(俺の夢に干渉してきたのか…)
汗を拭って時計を確認する。既に朝の8時。日常を生きる少年たちは今頃学校だろう。
「バッド…奴は何者だったんだ?」
倒した敵のことを考えても仕方ないのだが、シャオは嫌な予感がしてならなかった。
現時点で邪悪なエナジーは感じられない。信太郎が以前連れ去られたメルバド星人の宇宙船とやらは、おそらく何らかの細工がしてあるのか、これまでに一度も感知出来たことはない。
「はぁ…飯にすっか」
船内の冷蔵庫を確認したが空だった。シャオは最近開発した擬態装置の実験も兼ねて、外食をすることにした。
「これをこーしてあーして…」
ブレスレット型の装置を左手首に装置。ポチポチとボタンを押すと、シャオの姿が地球人と呼べるものになった。
「…なんか似合わないな」
可愛い顔をした美青年になったが気に入らない。シャオはブレスレットで、様々なタイプの地球人へと姿を調整した。
最終的には元の姿と同じくらいの高身長で、ワイルドなタイプの姿となった。
「よっしゃ、これだ」
シャオはプライベートの時には本来の自分らしく。それ以外では、本物のアクトナイトを真似した雰囲気を作っている。
今のシャオは本来の彼だ。口調が少し不良っぽくなるが、人格などが変わっているわけではない。
「おぉ~あっちいなー」
以前は変装をして宇宙船の外に出たが、これからは擬態装置のおかげで自由に外を歩けるのだ。
公園から離れた場所。何度か人とすれ違うが、街の人にはシャオが普通の人間に見えていた。
(これがこの星の人間の日常か…)
旅行気分で街を散策した後、シャオはハンバーガーのファストフード店に入った。
シャオの財布には日本の貨幣が。過去に少年たちが宇宙船に遊びに来た時に、念のためにと渡された物だ。
(…へ、子どもが一丁前に大人の心配しやがって…ありがとよ)
様々な星を渡って来たシャオの適応力は高い。何事もなく注文した品を受け取って、空いていた席に座った。
その頃、学校にいる信太郎たちは授業を受けていた。スローペースで進んでいく中で、あくびをしたり机に突っ伏している者もいる。
信太郎はボーっと窓の外を眺めていた。
(なんか…変だな)
今の状況に違和感を持っていた。街が怪獣に破壊され、夏休みが切り上げられたのがそんなに嫌だったかと自分に問う。
行方不明者扱いの啓太の席はまだ片付けられていない。様々な事情で登校できなくなった生徒もいるので、空席だらけだ。
(違う…何だろうこの嫌な胸騒ぎ…)
しばらく考え、休み時間に飲んだエナジードリンクで気分をおかしくしてるという結論を出した。それからは考えるのをやめて、授業に集中した。
放課後、成り行きで信太郎は校外学習のグループメンバーと一緒に下校していた。
(なんとかして会話しないと…)
相手の方は気にしていない様子だが、信太郎が陽川芽愛と会話するのは久しぶりだった。
「…陽川さんの方は大丈夫なの?怪獣、出たけど」
「あー、電車停まっちゃって…今も一時間くらい歩いて登校してるんだ」
「い、一時間!?脚痛くならないの?」
「もう慣れちゃった。それに…今も頑張ってる人たちがいると思うと、電車に乗れないなんて大した問題じゃないって思えるんだよね」
その頑張ってる人たちの中には自分たちアクトナイトもいる。そう思うと、少し誇らしかった。
「朝日君のお家大丈夫?近かったよね?怪獣」
「お、俺?あぁ…大丈夫だったけど」
怪獣が出たのも二週間ほど前になる。家がやられていたら学校に通っている場合ではない。
この街で起こった悪夢は全てメルバド星人によるものだ。
そのメルバド星人のシーノという正体を隠す愛澤真華は、謝りそうになる自分を抑えて話を聞いていた。決して、怪獣にやられた人たちに対して失礼な事を思うことはなかった。
怪獣に作られた地獄からそう遠くない場所。彼らは普通に生きようとしていた。
信太郎は何気なくトロワマテリアルに触れてアクトナイトとの連絡を取った。
「もしもしアクトナイト?」
「信太郎か!やっと繋がった!」
アクトナイトは何やら慌てている様子だ。那岐と昇士の元にも、街をパトロールしているアニマテリアルのイーグルが異常を知らせ来ていた。
「色々ヤバイんだ!急いで来てくれ!」
「分かった!」
「ごめん、俺先帰るね!」
芽愛ともう少し話していたかったが緊急事態だ。信太郎は諦めて、その場から走り出した。
「昇士、行くわよ」
「あぁ。俺たちも帰るよ!」
那岐と昇士もアクトナイトの元へ向かう信太郎の後を追った。
「朝日君…」
「陽川さん、私も行かないと…」
友人が次々と走って行ってしまった。その場に残ったのは芽愛ただ一人だけだ。
「…みんな、何か隠してる?」
何か事情があるのだろう。しかしそれらは個人個人のプライベート。詮索するべきではないと言い聞かせ、芽愛は寂しく家に帰っていった。
信太郎たちはアクトナイトのいる市街地へ。そこには怪人が1体。そして、全身タイツのような姿をした謎の怪人たちが街で暴れていた。
「なんだこいつら!?とにかく…アクトベイト!」
「昇士、離れてなさい」
信太郎はアクトナイトセルナへ。那岐は鞘から波絶を抜いた。そしていつもの仮面とローブを装備して、怪人たちに挑んだ。
しかし早速邪魔が入る。怪人に攻撃を仕掛けた時、メルバナイトシャインが建物の上から飛び降りるという派手な登場をした。
攻撃を防がれたセルナだが怯まず、標的を怪人たちからシャインに絞った。
「あの時のやつか!」
「君じゃ私に勝てないんだから帰ってよ!」
シャインはセルナを蹴り飛ばし、怪人たちに捕縛を指示した。
「くっ!なんだこいつ!分身能力を持つ怪人なのか!」
「違うよ。それはメルバドアル。怪人の出現に連鎖して現れる兵士怪人…って言ってた」
幸いそのアルの力は大して強くない。セルナは全力で雑兵を振り払い持ち直した。
那岐もアルたちをすれ違い様に斬り倒して無双しながら、1体だけ姿形の違う怪人に接近した。
「いつも出てくる怪人におまけが付いたってわけ!」
波を絶すると書いて波絶という名の刀を持っている那岐だが、疾風怒濤の勢いで戦況をひっくり返していった。
そして今回の怪人ゼンバー、能力はないが動きが素早く、イーグルの力で高速移動する那岐からも逃げ回っていた。
投げたスーパーボールが床や壁をバウンドするように、ゼンバーは街の至る物を蹴って動き回っていた。
「すばしっこいわね!」
滞空している那岐の震える手には苛立ちが現れていた。
「はぁ…仕方ないわね。昇士、鞘をちょうだい!」
「え!無理だよそんな高くまで投げられないよ!」
「いいから!」
もしも鞘に傷付ければ、戦闘後には那岐の怒号が待っている。
絶対に届かせてやると、覚悟を決めた昇士は持っていた鞘を空中へ、やり投げのフォームで投じた。
「やっぱ無理か!」
届かないと思った昇士。だがどういう原理なのか、鞘は刀へと吸い寄せられていき、その身に刃を収めた。
「ってどういう仕組みなの!?」
那岐は深呼吸をしてから、腰に鞘を持っていき目を閉じた。
翼は閉じているが落ちて来ることはない。まるでそこに立っているかのように、那岐は居合の構えを形作っていた。
(灯刀さん侍みたいだ…)
次の一撃で勝負を決める。そう確信した昇士は静かに彼女を見守った。
「居合術…八咫烏落とし!」
気配だけで敵の軌道を計算。次に那岐は鞘に刺さったままの刀を敵が来る場所に向けた。
そしてゼンバーがちょうど横断歩道の中心に着地する直前、波絶を収めていたはずの鞘が勢いよく飛び出した。
「グエッ!」
発射された鞘は見事怪人に命中した。そして必殺の居合術を喰らった怪人は爆発を起こした。
「どういう鞘だよ!」
「あら、言ってなかったかしら。この刀、波絶は前にも言った通り地球で唯一対宇宙人用に造られた兵器だけど…この鞘はダディとマミィが造った物よ」
「う、宇宙の技術が詰まった鞘…どんな機能があるの?」
「これまではただ持ちやすいだけだったけど、さっきみたいに飛び道具として使えるようになった」
「そうなんだ…」
その頃、セルナはシャイン相手に苦戦を強いられていた。
「ハァ…ハァ…」
「息上がってるけど大丈夫?もうやめにしない?」
「俺が退いたら…街襲うのやめてくれる?」
「分かんない…私の意思は関与しないし」
「だったらまだだ!俺はお前と戦う!」
強気ではあるが身体はフラフラとして体力の限界に近付いていた。
「よく言ったわ!」
刀を構え、手裏剣の様に回転して来た那岐がシャインを襲った。
シャインは那岐と接触し、一回転目の攻撃で剣を地面に弾かれた。
「しまっ!あああああ!」
那岐はさらに回転を加速させ、胸部装甲を叩き割った。悲鳴をあげるシャインだが、那岐が侵略者相手に容赦することはない。
「これで終わらせる!」
とどめの一突きを首に目掛けて放った時だった。突如現れた謎の陰が、その攻撃を受け止めた。
「ここまでにしよウ。怪人は倒されアルたちも全滅しタ。今回はこれで充分だヨ」
シャインを守ったのはメルバド星の王子、メノル・シルブブブゼラ。彼の大きな剣が那岐の突きを防いだ。
「あの剣…アクトソードと似てる…まさか!」
「ちくしょおおお!何でお前がそれを持ってやがる!」
鉄パイプを持った柄の悪い男が物陰から飛び出してメノルに飛びかかった。
「もしかして…アクトナイト?何その格好!」
信太郎は驚いてるがそれどころではない。メノルは剣で切りはしなかったものの、弾かれた男は近くの車体に叩きつけられた。
「くそ…!」
「アクトナイト…の子分2号シャオだったよネ。昔ニュースで観たよ」
「ざけんな…子分じゃねえ、友だちだ!」
メノルはパフォーマンスをするように剣をブンブンと振り回して見せつけた。それに対してシャオはすぐに走り出したが、無茶だとセルナに押さえられた。
「ストップシャオ!冷静に!」
「返せ!返せよ!それはお前なんかが持っていい剣じゃない!その汚い手を放しやがれ!」
アクトナイトの時とシャオの時とで性格が変わってるなと、信太郎も薄々気付いていた。
だが今の彼はどちらでもなく、怒り狂って我を忘れていた。
「あの剣がどうしたんだ!アクトソードに似てるみたいだけど、やっぱりそうなのか!」
「そうだ!あれはあの人が最期まで使ってたオリジナルのアクトソード!アクトソード、いや俺たちの元となったあの人の、大切な剣なんだよおおおおお!」
「アクトナイト最期の相手はどこの星の人間でもない。突然この宇宙に現れた怪人だっタ。その怪人はバッド、君たちが倒した僕の仲間だヨ」
「あいつが前のアクトナイトを…そうなのか、シャオ?」
先日倒した三銃士の一人バッド。彼こそがアクトナイトを倒した怪人だったのだ。
「いや、パニックだったから覚えてねえ…あの人が敗北を悟って俺たちを逃がそうとしたんだからな」
「あの戦いの後、彼が戦利品として持って来てくれたんダ」
「くっ…!今までの怪人が持ってたマテリアルも!お前たちのマテリアルも全部アレが原因か…!」
シャオは落ち着きを取り戻しセルナの腕をどかした。
少し睨み合ったが、先にメノルたちが手を引いた。
「さあ帰ろウ。今日はもうお開きダ」
「だな…帰るぞお前ら」
もう互いに戦う意思はない。メノルたちは透明な宇宙船へと吸い込まれ、シャオはこの場にはいない他のメンバーたちも召集をかけて記念公園へと向かった。