第3話 ギクシャク
先日、将矢と啓太が喧嘩をして関係が悪くなった。それとは関係なく信太郎は酷く落ち込んでおり、奏芽と千夏は困惑していた。
「混沌極まってんじゃん」
「まさか二人が喧嘩するとはね~」
教室を見渡して突っ伏して寝ている信太郎、啓太以外のクラスメイトと話す将矢、読書している啓太を見た二人は溜め息をついた。
「これで怪人出たらどうするの?」
「戦うしかないよ…私達で」
「え、私まだ一回も変身したことないんだけど」
千夏の手元にもソードとマテリアルがあるがまだ一度もその力を使っていなかった。
「練習しよう。今日って放課後空いてる?」
「まあ空いてるけど…めんどくさー」
ダルそうにはしているがこれはやらなければならないことだと千夏は受け入れていた。
そして放課後、雰囲気の悪い5人組がやってきてアクトナイトも困惑した。
「なんか空気悪くないか?」
「あー男子達ちょっと変なんです」
「気にしないでいいですよ。大月君はどうせそのうち直るんで」
そのうち直るのは信太郎の機嫌だけだ。このままでは 将矢と啓太は顔を合わせることすらしないだろう。
そんな彼らは放っておいて奏芽と千夏はアクトナイトと共に訓練を開始した。
「奏芽は水の力を持つアーキュリーマテリアル。千夏が持っているそれはビヴィナスマテリアルか。それは石や土、鉱物などを操る鉄壁の力を持っているぞ」
アクトナイトからレクチャーを受けながら、千夏は黄色の戦士アクトナイトビヴィナスへと変身、アクトベイトを完了した。
「これでいいの?…いつの間にかなんか着てるんだけど」
「そうそう…よいしょ」
奏芽もアーキュリーに変身すると跳んだり走ったりして、変身することで運動能力が格段にパワーアップすると動きで教えた。
「あの…私素手で喧嘩すらしたことないんですけど戦えるんですか?」
「問題ない。お前たちがアクトナイトに変身している間は俺が力を送っている。それと俺の戦い方を無意識のうちに習得しているんだ。だから初めて会った夜、信太郎は戦うことが出来たんだ」
「そうなんですね」
千夏は理解しているようで理解していなかった。それから奏芽を真似て運動しているとアクトナイトが叫んだ。
「メルバド星人のエナジーを感じた!そう遠くない場所だぞ!」
5人はアクトナイトに案内されて怪人が出現した場所に駆け付けた。そこでは先日の怪人ベグモが暴れていた。以前とは打って変わって攻撃的になっていた。
そしてアクトナイトがまた叫んだ。本人はこの場にいないが、剣を通してその声は聞こえていた。
「皆!俺の力で変身させられるのは3人までだ!」
「奏芽と千夏とあと一人…僕にやらせてくれ!」
なんと一度も戦っていない啓太が立候補した。真っ先に反対したのは将矢だった。
「駄目だ!俺がやる!」
「信太郎が怪我したのは僕のせいだ!みんなもう戦ってる!今度は僕の番なんだよ!」
将矢の静止を振り切り、啓太は怪人に向かって走り出した。変身のやり方は四人の姿を見て既に分かっていた。
「アクトベイト!」
「任せるぞ啓太!命を司る緑の力!アクトナイトジュピテル!」
啓太は緑色の戦士アクトナイトジュピテルへと変身した。
「ジュピテルは植物を操る力を持っている!二人を援護しろ!」
そう言われても力の使い方が分からない啓太は真っ直ぐとベグモに走っていき剣を振った。
だがその頑丈なベグモの身体は刃を弾いてしまった。
流石に鈍足なパンチを避けられないことはなかったが、自分の攻撃では歯が立たないと教えられてしまった。
「啓太!剣の底だって!こう!こうだよ!」
ビヴィナスはそう言いながらグリップの底を何度も叩いていた。その度に周りの瓦礫が彼女を中心に衛星のように回り始めた。
続けて攻撃を仕掛けていたアーキュリーの水の鞭も、強靭なベグモの身体には傷一つ付けられなかった。
「緑の力…そうか!」
何か思い付いたジュピテルは道端の雑草を引っこ抜いて再びベグモに接近した。
「それでどうするつもりだ啓太?」
「こうするんですよ!」
グリップの底を膝に押し付けてからベグモの身体に雑草を押し当てた。そして職人が木材に釘を打ち付けるように、ジュピテルは雑草を剣で叩いた。
「そうか!これらの植物は成長する際にコンクリートを突き破る程の力を発生させる!」
「そうですよアクトナイトさん!緑の力によって雑草は通常以上のパワーで成長する!鋼を…こいつの身体を破壊する程のパワーで!」
ジュピテルの雑草が成長した。根っ子は大木の様に太く大きくなり、やがてベグモの左腕が根に引っ張られて千切られた。
「植物の力舐めんな!」
「今でしょ奏芽!」
「うん!」
ベグモは植物によって柔らかい部位が丸出しとなり身動きが取れなくなっている。二人はチャンスだと思いマテリアルを叩いた。
「龍の如く貫きの一閃!アーキュリースラッシュ!万物砕く刃金の一振り!ビヴィナススラッシュ!」
アーキュリーの刃が脆くなったベグモを切り身にして撥ね飛ばした。
ビヴィナスは宙に浮いた切り身の中にあるベグモの頭部へと近付いて、地面と挟むようにソードの側面で叩きつけた。
潰されたベグモはビヴィナスマテリアルの力によって原子にまで分解されて消滅した。
「やるじゃないか!千夏と啓太も初めてなのによくやった!」
アクトナイトが喜んでいた。三人は怪人から自分達の街を守れたことが嬉しかった。
「やりがい…結構あんじゃん」
「よし。今日は道路をあんまり切ってない…」
三人は人の目に付かない場所で変身を解除し、信太郎たちと合流した。
そして突然、啓太が土下座した。
「すまなかった信太郎!」
「え?え?何急に?」
「実際に戦ってみた感想だが滅茶苦茶怖かった!君はあんなのと二度も戦って大怪我して…それなのに僕は他人事みたいでいて…本当にすまなかった!」
「あぁ別に気にしてないよ。怪我をしたのは自分の責任だからさ」
許してもらっても頭が上げられなかった啓太の背中に千夏が座った。
「だってさ。誰でも間違いの一つや二つあるんだから、そんな重く感じなくてもいいと思うよ?本人も許してくれてるんだし」
「お……重い…」
その一言を聞いてイラっとした千夏は勢いをつけて立ち上がった。
その瞬間、信太郎は啓太を睨み付ける将矢の怖い顔を見逃さなかった。
(…そうだよな。解決にはならないよな)
奏芽と千夏に相談していいのか分からなかった。このグループで誰かが悩んだ時は適当に相談して解決するのがいつもの流れだが、喧嘩は初めてだった。
将矢と啓太の間にはまだ溝があると気付いているのは自分だけなのだろうか。信太郎は四人を見てまた一人で考え始めた。
しかしそれにまさかの人物が首を突っ込んだ。
「将矢と啓太に針のように鋭い感情がまだ残っている。二人とも、まだ喧嘩しているのか?」
「ちょっとアクトナイト!」
信太郎は怒鳴った。そう、信太郎は忘れていたのだが、五人はまだアクトソードを手に持っていたので心が繋がっていた。
アクトナイトが言う以前に、将矢と啓太はお互いに突き刺さるような感情を感じ取っていた。信太郎が二人を心配していた事にも気が付いていた。
「ハッキリ言わせてもらう。そうやって簡単に意見を変えるところ。俺は嫌いだ、直せ」
「そのハッキリもの言うことで誰かを傷付けるって考えたことない?」
慌てふためく信太郎は反射的にソードを手放して二人の心を感じないようにした。
「今日はここで解散!はいかいさ~ん!ほら将矢行くよ!」
「啓太、それ警察に見られたらマズいんだからカバンに入れて」
奏芽が将矢を無理矢理その場から連れていくと、それに合わせて千夏も啓太とその場から離れた。
今は距離を置こう。それが二人の少女の考えだった。
「…帰るか」
信太郎も剣をカバンに入れて家に帰っていった。喧嘩に混ざりたいというわけではないが、自分だけ蚊帳の外にいるような、そんな寂しさを信太郎は覚えていた。