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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
灯刀那岐編
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第29話 約束を果たすために

 信太郎はバッドと交戦した。セルナとなった信太郎はボロボロになりながらもファルコンアニマテリアルの力で倒したはずだった。

 しかしバッドは生きており、駆けつけた那岐に戦いを任せることに。


 その後、那岐に一刀両断されたバッドは僅かな時間で再生し、彼女を襲った。

 そんな彼女を守ろうとした昇士がバッドに背中を切り裂かれてしまう。



 将矢と奏芽が駆けつけたのはその直後。千夏に至ってはまだこの場所に来てすらいなかった。



「あ、朝日!」


 将矢は変身すると炎の放つ剣を振り回して、二人のそばからバッドを追い払った。



「大丈夫か!?」

「ちょっと昇士!何やってんのよ!」


「あれ…痛くない」


 攻撃されたはずの昇士の背中。しかしそこに傷はなく、服が破れているだけだった。血が噴き出したはずだったが、気のせいだった。




「すまない信太郎。お前の身体を経由してセルナの力を発動させた。ダメージを肩代わりさせてしまってすまない。だがそのおかげで昇士は無事だ」

「やったじゃん…あー、ボーっとしてきた…もう力が切れて痛いはずなのに…母さん…」




 将矢の元へ行こうとしていた奏芽が、血を流して倒れている信太郎を発見した。


「大月君!う、腕…どうしちゃったの…!」


「信太郎は今、危険な状態にある。誰でも良いから俺の元まで運んで来てくれ!」

「って言われてもよ!」


 フレイスは炎を踊らせ壁を広げてバッドが近付けないようにした。

 昇士の無事を確認した那岐は気持ちを切り替えると、波絶を抜いてバッドの方を向いた。


「あいつそんなに強いのか!」

「確かに殺したはずよ。なのに生成して今も立ってる」


「将矢!このままじゃ大月君が死んじゃう!」


 奏芽が言わなくても分かっている。しかし敵は信太郎をここまで追い詰め、那岐ですら倒せなかったのだ。

 このタイミングで誰かが戦場から抜ければ、一気に崩される恐れがあった。


「………朝日、信太郎を公園まで連れていけ!」

「お、お、俺が!?」


 フレイスは腰のホルダーに取り付けられたトロワマテリアルを昇士に渡した。


「灯刀が苦戦してるなら、俺も奏芽もここでいなくなる訳にはいかない!お前にあいつを任せる!」


 トロワマテリアルがボードモードになるが、昇士は動かし方を知らない。それに加えて信太郎を運ばなければならないのだ。


「む、無理だろ!」

「無理でもやれ!このままじゃ信太郎が死ぬかもしれねえんだ!」


 その一言を聞いて、信太郎の姿を思い出した。身体は傷だらけで左腕はなくなり、大量の血が流れ出ている。


 どうやっても信太郎は助からない。諦めた昇士は動こうとしなかった。


「行きなさい昇士。私からもお願いするわ」


 その時、那岐はこれまでにない程の優しい口調で頼んだ。プライドの高い彼女が、人に何かを頼むというのはとても珍しいことだった。


「灯刀さん」

「あんたは私の助手なんだから頼み事は絶対よ。早くあいつを連れて行って」


 将矢に頼まれた時とは違う。これまで怪人と戦い勇姿を見せてきた那岐。

 そんな彼女からの頼まれ事に、いつも戦いを見守っていた昇士はやらなければならないと奮起した。


 怪人と戦う彼女のため、少しでも力になるためにと。



「絶対勝ってよ!」

「誰に言ってるのよ」


 昇士はエアボードを飛ばして信太郎を回収すると、戦線を離脱した。



 アクトナイトフレイス、アーキュリー、そして灯刀那岐。三人の戦士が今ここに集結した。


「来なさいワシ丸!もう一回よ!」


 那岐が空に伸ばした手の中に、アニマテリアルのイーグルが変形して収まった。


「鷲之型!壱之段!クリムゾンフェザー!」


 叫び声と共に那岐の背中に赤い翼が現れた。那岐は波絶を握り直すと、バッドを睨み付けた。


「準備は整ったみたいだなー、いつでも来いよ?」



「まだ準備は終わってないぜ!アクトブレイドで…あ!」

「朝日君に持ってかれちゃってる!」


 アクトブレイドで更なる変身をしようとした将矢。だがしかし、そのアクトブレイドは昇士の乗って行ったトロワマテリアルの中にある。


「もうバカ!何やってんの!」

「強化なしか…キッツいぞこれ」


 アクトブレイド、そしてホープマテリアルを使い変身した姿、アクトナイトホープフレイスにはメルバナイトを倒せる程のパワーがある。

 この状況でそれに変身出来ないのはかなり厳しい。


「とりあえず…やるしかねえか!俺から行く!」


 フレイスは走り出す。その後ろに那岐が付き、アーキュリーは辺りの海水をコントロールするために意識を集中させた。


「海が荒れてて水が掴めない!」

「波絶!」


 那岐は立ち止まると空を切った。すると荒れていた海が一転して、波一つない穏やかな姿を見せた。


「これなら!」

「波絶はあらゆる波を絶つ。それが自然の物であったとしても」


 アーキュリーに操られる海から水の矢が無数に出現し、バッドに狙いを定めた。



 矢に気付いたバッドは跳び上がり空中へと避難した。だが発射された矢もバッドを追尾して空へと上がった。


「こいつ厄介だな!」


 はじめは避けることの出来た矢だが、次第にその数が増したことで両手で防御せざるを得なくなった。

 水の矢は脆く、バッドに殴られるとパシャンと弾けてしまった。


「案外大したことねえな!」


 だがその背後、炎を推力にしてロケットのように上昇して来たフレイスが剣を構えていた。


「加速していく紅蓮の連撃!フレイススラッシュ!」


 フレイスは隙だらけの背中を何度も剣で斬りつけた。アーキュリーの作ったチャンスを無駄にはしないと、倒す勢いで必殺を繰り出したのだ。


 水で湿ったはずのバッドを火傷させる炎の剣は、怪人をバラバラに切り裂いた。

 だが別れた身体から糸のような物が射出され、縫い合わすようにバッドは再生した。


「こいつは完全消滅させないと倒れないのか!」

「だったら俺と奏芽じゃどうしようもねえぞ!千夏はまだか!」


 バッドは右腕から生える刃でフレイスに攻撃する。フレイスは炎を噴出して後退するが、敵は当然のように空を蹴って追って来た。


「やりたい放題過ぎるだろ!どうすればいいアクトナイト!」

「なんとか持ちこたえるんだ!」


 素早く振られる右腕に合わせ、フレイスは剣を構えて防御する。

 しかし防御している間は何も推力がなく、地上に引っ張られて行くのだった。


「しまった!」


 身を守ることに夢中だったフレイスはいつの間にか地上へ。背中をかなり強く叩きつけた。

 フレイスにトドメをさせそうと、バッドは彼の元へと降下していく。だが突然、海から発生した水の紐が彼の肢体に巻き付いた。


「させないから…」

「おっ、さっきと違って今度は硬いな…」


 今なら防御が出来ない。那岐はバッドに切りかかった。


「おいおい、お前なんかの攻撃じゃ俺は倒せねえよ!」

「一片も残らず細切れにする!」


 そう告げると那岐はバッドの前に立った。そして物凄い速さで刀を振るい、宣言した通り自分よりも大きな敵を細切れにした。


「それ貸しなさい!」


 那岐はフレイスから受け取ったマテリアルを目視せずにキャッチ。それから自分の刀の鍔にセットした。


「炎之型!弐之段!ヘルインフェルノ!」


 那岐は刀を立ててジッと動かなくなった。だが次の瞬間、刃から炎が発生してバッドを飲み込んだ。


 那岐のヘルインフェルノはその技名に恥じず、怪人を業火で焼き尽くす必殺技だった。


「…その刀って何でも出来るのな」

「これは昔の戦いから今まで、100年の間で唯一地球上で開発された対宇宙人用兵器、対地球外生命体刀波絶。100年前のアクトナイトのデータを元に造られた地球上で最強の剣よ。あとこれ、役に立ったわ」


 那岐はフレイスマテリアルを返却して、再びイーグルの翼を広げた。

 再生能力を思い切らされた後なので、那岐は気を抜かず炎を注視していた。



 炎が消えていく。中には既に再生を終えたバッドが立っていた。


「そんな!?どうして倒せないの!」

「だから~言ってるだろ。お前じゃ俺を倒せないって!」


 瞬きの間に、バッドは那岐の目の前まで迫っていた。左手が振り下ろされる直前、加速したフレイスが那岐を掴んで地上へと逃げた。


「どーするアクトナイト!灯刀でも無理だったぞ!」

「彼は間違いなく倒せているはずだ。実際、この戦いで奴のエナジーの消失を何度も確認している。だがその直後、突然バッドのエナジーが現れるんだ。再生しているのではなく、元からそこにいたかのように」

「言ってることがよくわからん!」


 地面スレスレをフレイスは飛行している。その背後ではバッドが走って距離を詰めていた。


(あいつ足速えええ!)


 那岐をアーキュリーに向かって投げると、立ち止まって敵の方へ振り返った。


「うおお!」


 フレイスは構えて、走って来るバッドの胸を剣で貫いた。


「ここからどうする?お前じゃ俺は倒せないって分かってんだろ?」

「こうすんだよ!」


 バッドを刺した状態で、フレイスは剣を空に向けた。


 それから全てのエナジーを刃に収束させ、雲に届く程に火炎の塔を造り上げた。



 フレイスの火柱は数分もの間自分と一緒にバッドを焼いた。だが、バッドを倒すことは叶わなかった。


 エナジーを消耗したフレイスは剣を手放してバタッと倒れた。すると変身が解除され、白目を向いた顔のまま気を失った。


「あぁ~なっさけねえ…」


 バッドは胸の剣を抜いてその辺に投げ捨てると、那岐たちの方を向いた。



 将矢が倒れ残り二人。アーキュリーが使う水の力は強力だが炎ほどのパワーはない。そして那岐ではバッドを倒せないと、その再生能力で何度も思い切らされた。


「撤退するんだ!このままでは負ける!」

「アクトナイト…」


「ここで逃げられるわけないでしょ!」


 それでも那岐はまだ諦めない。刀を向ける姿を見た奏芽も、言葉にはしなかったが逃げないという意思を示して隣に立った。




「約束を果たす時が来たぁ!」


 突然、大きな声を出した千夏が現れた。右手にはソード。そして左手にはブレイドを持っていた。


 アクトブレイドがないと聞いていた千夏は、公園に向かう昇士とすれ違うさいに受け取っていた。



「一つ目の約束!灯刀さんがピンチになった時に助けるって朝日君との約束!」


「あいつ…余計なこと言ったわね」



「二つ目の約束!この街を守るために戦う!これは私自身との約束!」


「へえ…おもしれえなあいつ」



「そして三日目の約束!これは死んだ啓太に勝手に約束したこと!啓太の分も私が戦う!」


「千夏…」


 千夏はアクトバスターを完成させて、ビヴィナスマテリアルをセットした。

 そしてもう一つ、謎のマテリアルをブレイド側にセットした。


「千夏に新しいマテリアルが!?」


「これは私とみんなが一緒に戦うっていう約束の証!アクトベイト!」



 二つの刃から放たれる二色の光が千夏へと寄せられて、新たな力を示す鎧を形成した。


「破れぬ固き約束の戦士!アクトナイトプロミスビヴィナス!」


 約束を果たす。その思いが千夏に新たな力を目覚めさせた。

 ここに誕生、アクトナイトプロミスビヴィナス。誓う約束はまさに、岩の如く固し。



 バッドが両手を構えてビヴィナスの方に駆け出した。頭部のドリルが回転し、左手をチョキチョキと鳴らしていた。


 ビヴィナスは軽々とバスターを振り回し、力の入ったバッドの攻撃を難なく防御した。

 プロミスビヴィナスのスペックは、これまで戦ったアクトナイト三人を上回っているのだ。


「やるな…ならこれはどうだ!」


 武器を押さえたバッドが頭部のドリルを近付けた。

 ビヴィナスは武器を手放してそのドリルを掴むと、軽々と頭上へと放り投げた。



 周囲の岩が次々と浮かび上がる。ビヴィナスによって操られる周囲の物体は、宙に浮いているバッドに向かって次々と発射された。


 バッドを潰そうと岩が一点に集中する。やがて空中には巨大な塊が出来上がった。



 こんな攻撃では敵は倒せない。だが、作戦を立てる時間は得られた。


「私の技ならあいつを倒せるかも」

「そうか、ビヴィナススラッシュは一撃で敵を破壊出来る」


 ビヴィナスの必殺技は強力だが、対策するのは簡単だ。そうなると、一撃で仕留めるためにバッドの動きを止める必要が出てくる。


「だったら私が何とかしてみるよ」


「私もやるわ。それしかないんでしょ」


「灯刀さん…」


 作戦が決まるとアーキュリーの元にファルコンアニマテリアルがやって来た。


「頼んだよ千夏」

「失敗は許されないから…私たちで全力で止めるわよ」



「こんなんで潰れるかよ!」


 塊は綺麗に両端されて、中で潰れたはずのバッドはピンピンとした姿を見せた。


 翼を生やした二人の戦士が彼に切りかかった。那岐とアーキュリー、二人による高速の攻撃をバッドは防御出来なかった。


「なんだこいつ!」


 那岐はバッドの周囲を高速で飛び回り、すれ違いざまに脚、腕、手足の間接部を次々と斬りつけ、動きを封じた。

 立てなくなったバッドはグタリと地面に倒れた


「似合ってるじゃない。その這いつくばる姿」

「この野郎…」



 動けなくなった今しかないと、ビヴィナスはマテリアルを叩いて走り出した。


 嫌な予感がしたバッドはドリルを展開し光線を発射した。だがその光線は、アーキュリーが作った巨大な水の塊に突入し、その中で威力を殺された。


仲間(とも)との約束を果たす狭撃!プロミスビヴィナススラッシュ!」


 ビヴィナスはアクトバスターをソードとブレイドへ分離。そして膨大なエナジーによって生成された巨大な刃で、倒れているバッドを挟み込んだ。


「ぐああああ!」


「これはただの力じゃない!約束を果たそうとする、私の思いの力だ!」



 ビヴィナスが力を入れて剣を動かした。そしてバッドが、左右からの巨大な刃によって押し潰された。


 エナジーで出来た巨大な刃が消えた時、そこにバッドの姿はなかった。



「もう奴のエナジーをどこにも感じない。おそらく、完全消滅した」


「それじゃあ…終わったんだ~!」


 アクトナイトから送られるエナジーが止まり、二人の変身は解除された。


「いやー手強かった!…私特に何もしてないけど」


 そう奏芽は言うが、実際はアーキュリーの援護が光る戦いでもあった。



「たった今、信太郎の治療が無事終了した」


 その後、アクトナイトから連絡を受けた二人はホッと胸を撫で下ろした。


「灯刀さん!大月君助かったって!朝日君のおかげだよ!ありがとう!」

「そう…あたしの昇士、役に立つでしょ?」


 誰も気にしておらず、特に気にすることでもないが、那岐と彼らの間にあった壁が薄くなっていた。


「それじゃあ帰ろうか、みんなのところに」

「あー奏芽、私のやつ飛べないから後ろ乗せて」


「ねえ、フレイスのやつ忘れてるけど」



 この戦い、アクトナイトか那岐たちのどちらかが欠けていたら勝てない戦いだった。


「あ…ごめん千夏、歩いて帰って。三人は乗らないから」

「えぇ~…灯刀さん、送ってくれない?」

「は?嫌よ」


 いや、全員がいたからこの勝利を手にすることが出来たのだ。

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